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2-11.タイムリミットまで

 船長が言うには、ウイアーン帝都へはあと二日だという。


 ククノとの相談を経た俺はクィーセさんへの対応を始めたが、そのタイムリミットは近付いていた。


【あの娘は、周りを海に囲まれている今しか、もう居らぬだろう。今すぐにも駆け出して、いずこへか去らんという心持ちと見える。


 あの娘が抱え込んでいるものを吐き出させよ。それが出来ぬとなれば、ひっ捕らえてでもお主のその身から離すな。失いたくなければな。


 今あの娘は朦朧としている。何か強い想いを掘り起こされて揺れている。


 ジエルテはヒトをそそのかす。フィエからジエルテの話を聞き出せ。そしてあの娘を説くための鍵を見付けよ】


 具体的なアドバイスだ。ククノを信頼してやってみよう。……クィーセさんのレッスン2は、何かヘンな感じがしていた。


 あの時、違う答えが必要だったのだろうか。……俺が不用意なことを言ってしまったとしたら、責任は俺にある。


 ……まぁ、クィーセさんにも文句を言いたいところはある。もうちょっと何か話してよ。悩みがあるなら相談してきてよ。『察して』するにしても限界ってもんがあるんだぞ。特に鈍感なタイプの俺とかの場合!


【ああ、あとはフィエにこの身と親しくなったことも告げておくのだぞ。これから話したいことは、見渡す限りの海ほどにあるのだ。


 強引に割って入るのはもう飽いた】


 ……そうか、それも必要なのか。




 俺は甲板にフィエを見付けて、話しかける。


「あれ、ククちゃんとの話はもういいの?」


 フィエは微妙にジト目だ。……ククノめ。お前の冗談みたいな策略がフィエを嫉妬させているんだ。


「フィエ、真面目な話がある。ここなら海風であまり聞こえないだろ。


 近くに。……もっと」


「くっつきたいだけじゃないの? ……もう」


 フィエは機嫌を少し直した。かわいい。……ひとつずつ訊いていくぞ。最後はまた怒るかもしれないが。


「まず、クィーセさんが変だ。特にジエルテ神と会った後。


 クィーセさんから『機密に関わる』って理由で口止めされてるのは知ってる。でも俺は、それはブラフなんじゃないかと思ってる。


 多分、クィーセさん本人に関わることだ。何か心当たりは?」


 フィエは真面目な顔になった。


「やっぱり、気になるよね。わたしも気付いた。訊いてものらりくらりと躱されちゃうけど。


 コバタもそう感じているなら、話すべきだね。


 ……あのクソ神、ゲフゲフン。ジエルテさまはクィーさんを明らかに煽ってた。特に『災厄』の部分で、クィーさんの反応はおかしかった。


 災厄の名前は『火の口』。詳細が分からなかったからアーシェ様に聞いてみたんだけど、昔……250年前にもあった災厄みたいなの。


 250年前は当時の人たちが早い段階で周囲を封鎖して、『火の口』を飢え死にさせたって話だけど、今回のそれは、死んでいなかったのかそれとも別の何かなのか。


 ただ、最初に強く反応したのが『探しもの』って言葉の時だった。もしかしたら『火の口』を探していた……のかも? 


 クィーさんにも聞きたかったけれど、逃げたりはぐらかしたり」


「……フィエも気になってたのなら、俺に相談して共有してくれてもいいのに」


「まぁ、わたしも思うところがあってね……また、増えるのかと。


 ……うん、いいよ、わたしクィーさん好きだし。頑張って。


 わたしって『都合良い女』なのではないか心配なんだけどね、コバタ」


「……俺はいつだって、その不安を解消する自信はあるぞ」


 俺はフィエにさらに身を寄せる。……フィエのちょっと嫉妬してる姿……お前は美しい。


「ストップ、ステイ、ステイ。留まりたまえ、移ろうなかれ、そのままでいて。


 ……そういう方法じゃない方がいい。海の上では」


 ……俺は抱き締めてキスしようとしただけなんだが、フィエは他の行動がフラッシュバックしたらしい。……俺、なんかトラウマ作っちゃったのか。


「加えて報告する。ククノと親しくなってきたようだ。


 ……だが、俺は誓ってまだやっていません。信じて下さい」


「やっぱり、コバタはおかしいよ。……これで5人?! ちょっとちょっと。ペース上げ過ぎだよ。なんなのなの。


 コバタ……コバタ……コバタはどうしてそうなっちゃったの?」


 俺はフィエの言葉はごもっともだと思う。俺だって思うもん。どうして……こうなっちゃったんだろうね。こうじゃなかったはずなのになぁ。


 俺の望みはフィエと二人で村で穏やかに暮らすことのはずだったんだが、状況やらなにやらがそれを許してくれない。


「……フィエ。俺にも分からん。


 しかし、俺はいつだって、その不安を解消する自信はあるぞ」


「そのセリフで解決しようとするな。


 ……今度、わたしからのお願いをいっぱい聞いて貰うよ? いいね?」


 フィエは優しいなぁ。俺がフィエのお願い聞かないこと、もともとあまりないんだぞ。……逆に気になる。どんなお願いなんだ。




 俺は一度フィエから離れ、考え事をした。


 クィーセさんに問いかけをするには材料が足りない気もする。もしうまく話をする機会に恵まれても、結局何も聞けないのではというぼんやりとした不安がある。


 しかしここは海の上。それはクィーセさんを縛る鎖であるとともに、訊いて回る、調べて回るにも制限をかけてくる。


 カマをかける。つまりはなんか知ってる振りして揺さぶりをかける。でも俺にうまく出来るか? すぐ見破られるのでは。


 ……ククノが言うには、クィーセさんはいま『朦朧としている』らしい。心が揺れているなら、なんとかなったりしないだろうか。


 まぁ、悩んでばかりで立ち止まっていい案が出るわけでもない。説得が無理なら捕らえてでも引き留めろとククノは言っていた。……説得か、捕らえるかの判断が早くできると考えるしかないか。やってしまおう。


 クィーセさんは、甲板上の艫に幾つか積まれ固定された2.5メートルほどの大木箱の上で寝転んでいた。普通に甲板上を探しただけでは見付けにくい、ちょっと隠れるような位置だ。ちょこんとブーツを履いた脚が見えていなければ見つからなかっただろう。


 隠れたいのか、見付けてほしいのか。微妙な感じがした。




「クィーセ先生。授業を受けに来ました。授業して下さい」


 俺は木箱の上のクィーセさんにそういう風に声をかけた。


 今までクィーセ先生はなんだかんだ俺に教えてくれた。『さん』より『先生』が引き留め率は高いはずだ。


「……コバタさんか。今は休講中だよ。


 まぁ、ボクの授業を受けたい、って言うのは嬉しいけどね」


 クィーセさんは身を起こして答えてくれた。


 ふむ、これ以上話を進めると逃げそうな雰囲気がある。ならば捕らえつつ話そう。今、クィーセ先生はちょっと物思い気味だ。素早く木箱の上に飛び乗り、ぱっと左手首を捕まえる。


「……クィーセくん。ではこちらから授業してあげましょう」


 ……最近ララさんに囁きプレイをしたときにひねり出した先生キャラを使う。少し気障キャラの予定だったが、なんか普通な感じになってしまった。


 クィーセさんは、俺に捕らえた左手首を一度見て、それからこちらを無表情に見た。……呆れられたか、何だこれとでも思われたか。


「……何を教えてくれるんです? 先生」


 クィーセさんは、ちょっと複雑な表情で微笑んだ。


 えーっと、なんかあったっけ。どうしよう。思い付いて行き当たりばったり。クィーセさんを引き留める事しか考えてなかったな。


「おや、授業を受ける気になったのですか。それは良かった。


 生憎と、不出来な先生でして。


 実を言うと、クィーセくんより優れているところがあるとは思っていません。


 でも、わからないことや困っていることがあるのなら、きみの先生として聞いてみたいんです。相談してみて下さい」


 クィーセさんは困った顔をする。こちらとしても話が聞きたいとヤケクソで言っただけだ。相談してくれ。それで心が軽くなるのは俺も経験済みだ。


「先生、なんですかそれ。


 教えるところがあるからこそ、先生じゃないんですか?」


「では、先生に望むところはないですか。少し悲しいですね」


 俺はしゅんとした。割とガチだった。俺って教えられるほどのことが何もない。かなしい。


「……可哀想だから、一つ質問してあげます。


 優秀な生徒ですいませんね」


「優秀な生徒は先生の誇りです。まぁまだ教えたことはないですけど」


「……頼りない先生だなぁ。


 じゃあ質問。


 先生は期待に応えられそうにありません。いろんな意味で。


 でも、相談しますね。わざわざ来てくれたんですから。


 ボクの望んでいることを教えて下さい。ボク……もうそれすらわかんなくって」


 ……クィーセ先生の時も分からない質問だらけだったが、生徒になったクィーセくんは更にヤバいくらい訳わからん質問してくるなぁ。


 クィーセくんの望むこと? ……ああ、わかった。前からすっぽかしていた奴だ。レッスン1の最後辺りで言ってたこと。


「先生がきみのために、間違った答えを出すこと。


 ……ですがあの時とは違います。もう、正解になっています」


「……間違った答えかぁ。


 ………………うん。そうだね。『間違った答え』か。


 そうしてくれるんだ……コバタ先生は」


「呼び方変えて来ましたね。


 今ここに先生は一人しかいないから普通に『先生』でいいんだけど」


「…………うん、そうだね。もういない、頼りないコバタ先生しか。


 ……いや、あの人もまぁ、うん。


 …………ふふっ。


 いや、うん。うん。


 こうして見るとボクって、ダメな人を好きになるんだね」


 『ダメな人を好きになる』と言ったクィーセさんの笑顔は間違いなく、恋をしている人のものだった。ライクじゃなくラブだな、これは。


 ……ちょっとだけ、寂しい。そして今までの『俺と親しくしつつも、逃げられるような位置』にいた理由も察した。


「他の先生。……あ、ラートハイトにいた頃の、魔法使いの先生?


 ……クィーセくんの、好きだった人か」


「好きだった……。そう……そうだね。


 魔法使いとしては優秀で頼りがいがあったよ。ボクを育ててくれた。


 でも、それ以外がダメだったよ。いろんな意味でね」

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