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2-08.文化爆弾、そしてクィーセ先生との勉強会

 奏で終わったお姫様は一躍アイドル状態となった。そりゃーそうだ。才能があって美しい姫君だもんな。要は遺伝子レベルで選抜済み、レッスン担当は一流がやってくれるトップアイドルだしなぁ。


 言葉も通じないのに、皆が笑顔を向けその進む道を譲る。しかも本人はそれを当然のことのように受け入れている。


【しかし、奏でることが出来るのがこの身のみとは。


 お主の連れは芸に優れんな。嘆かわしい】


 ふぅ、とため息まで吐きながら、船窓から海を眺める姿は確かに絵になる。


「そうは言いますが、俺の大事な人たちです。


 あなたのように奏でられなくとも、十分な価値はある」


 さすがに、先ほどのお姫様の言葉は良くない。若いにしてもこういうこと言い続けているとクセになるだろう。これでは将来、愚痴と舌打ちばかりの大人になってしまう。


 またしても、ふふんと余裕ぶった態度でお姫様は答えた。


【……口答えか。まぁよい。


 それくらいでなければいかん。無礼は許そう】


 無礼というよりまぁ、単にムカついただけなんだが。


 俺のムカつきと反比例して、お姫様はフィエ、アーシェ、ララさんからは好かれた。芸事が上手いから、航海の暇を利用して教わりたいとのことだった。


 フィエは音楽好きだし、楽団をやろうとか言ってたもんな。アーシェはプラス評価が早い。ララさんはなんか面白そうだからだろう。


「私の身内が、あなたに楽器や芸事を教わってみたいとのことです。


 もし、教えるほどの腕でしたらお教え願いますか」


【……お主はこの身が気に入らないようじゃな。


 しかしそれでこそ、この娘らに教えがいがある。


 勝利こそ我が喜び。お主に敗者の屈辱をやろう】


 そう言って、お姫様は立ち上がって踊り始めた。音楽はない。波という環境音だけ。船の揺れはさほど大きくないとはいえ、よくここで踊れるものだ。


 ……なんだろ、これ。上手い。そしてエロい。上品なエロダンスだ。例えば王様とかの前で踊って、誘惑を兼ねるようなダンス。


 腰の振り方、胴体のうねらせ方、優雅な仕草、投げかける視線。肉付きの薄い胴から肋骨の影が浮いたり消えたりする。


 乳なし、くびれもほぼなしで、この大人用ダンスを……?


 俺は視線を逸らした。敗者の行動であった。……まだ反応してない。大きくは反応していないからセーフ。……セーフ。


 フィエ達の方を見ると、なんだかお姫様に憧れ目線だ。……え、フィエやララさん、アーシェがあの踊りをしたりするの? やべぇ、姫様に大感謝しなくてはならなくなる。


 視線を戻すと、勝ち誇った笑顔。誘うような視線。このクソガキ……わからせなきゃ……いや、それはエロ漫画の読み過ぎだな。


 踊り終えると、勝者は敗者に向けて言った。


【教えるなら手指南で、と伝えろ。


 お主の言葉などより、そちらの方が良く伝わる】


「動きを指南するので、言葉は不要とのことです。


 俺は甲板に出て来ます」


 俺には、屈辱を受けながら立ち去る選択肢しかなかった。……今回は完全敗北だな。でもエロダンスがある。俺はあとでエロダンスを回収できるから勝ち。




 俺が甲板に向かうとクィーセさんが木箱に腰かけ、遠くを見つめているのが目に入った。さっきからあんな感じだ。声をかけに行く。


「クィーセさん、どうしたんですか。


 ジエルテ神に会ったということですけど、何かあったんですか?」


「……んー、コバタさん。


 ボクの勝手な判断で話せない内容が多いから、アーシェルティ殿と一度話してからね。……みんなはどうしたの?」


「今、お姫様にダンスや楽器習ってます。


 ……まぁ、異文化コミュニュケーションとか、親善は大切ですよね」


「……なるほど。


 コバタさんは仲間外れにされちゃったんだね?


 ふふふ。……じゃあ、ボクの生徒さん。先生と遊ぶ?」


 クィーセ先生は優しいなぁ。なんかすごく癒されるんですけど。


「どんな遊びです?」


「ちょっとえっちな奴かな。うれしい?」


「すごく嬉しいです。そういうのを待っていました」


 俺はスケベニンゲンとして生きることを決めた。こう生きた方が、きっと楽しい。……もちろん、フィエが第一、十分に満足させてからという前提はあるが。


「……ここじゃ人目があるね。


 ボクの生徒さんは周りに迷惑かけそうなのはイヤなんだよね?


 空いてる個室に行こうか」


 ……え、これ。ちょっとエッチでは済まないのでは?




 空いた個室に入る。遠くから、誰かが奏でるまだ拙い楽器の音がする。


 クィーセ先生が扉の前に荷箱を引きずって、開かないようにする。……これ、エッチなやつだ……。


「ボクの生徒さん。今日も楽しくお勉強、しようね。


 コバタくん。この呼び方でいいよね?


 ララトゥリ姉貴のお株を奪っちゃう、ボクは悪い子だなぁ。


 でも先生役で呼びかけるなら、こんな感じだよね?」


 木箱の上に腰かけ、クィーセ先生はその足を組む。イカン、エロマンガ女教師特有の大きく胸元を開けた白シャツ、黒いミニスカを幻視してしまった。


「そうですね。その呼び方でお願いします。


 あ……ちょっと、一歩引いて話していいですか?


 これって逃げられない罠?」


「コバタくんはこの前のこと、ちゃんと思い出したんだね?


 んー、罠ですね。ちょっと遅かった。でも気付くの早かったね、学習してる。


 それではさて、ここからどうやったら脱出できるでしょう?


 もう正解教えちゃおう、ここは質問に答えるまで出られない部屋。


 あの時はレッスン1で、今日はレッスン2となります。


 卒業まで、もうちょっとだけかかっちゃうんだ。


 ……勿体ぶってるようで、本当にごめんね」


 つまり、今日も色々あるけどお預けってことか。クィーセ先生は好きだからむしろご褒美と捉えよう。フィエとの仲を進展させてくれた恩人でもある。


「わかりました。先生の言うことを聞くようにします。


 先生が望む成績を、頑張って達成して見せます」


「……ふふ。いい子。


 じゃあ隣に来て。今日は『秘密の囁きゲーム』で楽しく学ぼう」


 それってすごいエッチなゲームでは? ……一歩引いて考えると『秘密』というワードが引っ掛かった。なんか、初期のアーシェを連想させる。


「聞かせて下さい。


 内緒話でフィエに怒られた経験があるのでちょっと怖いですけど」


 先生は俺の座る位置を先生の前に指定した。そして先生に背を向けて床に座る。つまり先生は後ろから囁きかけてくることになる。


 ふっと気配が動き、俺の右耳の後ろ辺りで、先生が囁く。


「……君は勘がいいね。


 ちょっとだけ、耳を近付けて。……そう。これでいいよ。


 答えは『はい』か『いいえ』ね。


 沈黙は不正解扱いするから、気を付けてね」




「第一問。好きな人がいます。あなたはその人をずっと愛する?」


「はい」


「即答。早いね。まぁコバタくんはフィエちゃん大好きだもんね。


 第二問。あなたを好きな人がいます。その人を愛せますか?」


 ……ちょい判断に困るな。一問目と比べて。


「…………いいえ。なぜなら俺も好きな必要があります」


「ふむ。……まぁ、そうですよね。


 引っ掛け問題に気付いたね。冷静ですね。いいことですよ。


 第三問。好きな人が、あなたに向かって愛していると伝えてくれません。


 あなたはそれでも、その人を愛せますか?」


「いいえ。……正直に言います。


 俺は、他人の心を本当に分かっているか自信が持てないことが多いです。


 俺は……例えば言葉であったり……その、相手の身体の反応であったりが、分かりやすく、納得しやすいんです。


 察してくれ、とは言いますけど俺は臆病だから、何か感じ取れたとして余程あからさまでなくては勇気をもって動けない。


 言葉は、最終的にはどうしても欲しいです。もし話せない人であったなら他の何らかの形で」


「うん。いい答えです。ボクの生徒さんのことがよく分かります。


 素直になった。良くなりました。自分を伝えられるようになってます。


 ……じゃあ、第四問。


 第一問の『ずっと』って部分はちゃんと確認したよね?


 全文は『好きな人がいます。あなたはその人をずっと愛する?』ですね。


 キミはこれに『はい』と答えている。


 ここから問題文ね。


 ……もしも『はい』と答えた人が相手を最後まで愛しきれなかったら。


 そして、他の人を愛してしまったら、それは悪いことですか?」


 なんだろう、長文問題だ。……俺が最後まで愛しきれなかったら。俺がフィエを最後まで愛さず、他の人を愛したとしたら、それは……。


「……はい。悪い事に思えます。


 でも、俺はこれから、フィエのことをずっと愛し続けますから」


「……わかった。ありがとうね」


 なにか、クィーセ先生の言葉の温度というか、それが変わった気がした。


「……もしかして不正解ですか?


 確かにその、ララさんやアーシェもいるのにこんなこと言うのは良くないですよね……」


「ん。不正解じゃないよ。


 そうできるならそうする方がいいと思う。


 じゃあ次……イジワル問題だよ。


 ごめんね、どうしても聞きたいんだ。次のイジワルな質問」


 クィーセ先生の様子が、明らかに変わった。少し不安になるが、質問を聞かなければ次へ進まない。


「クィーセ先生。大丈夫です、イジワルでも……」


「……第五問。


 これは『はい/いいえ』の問題ではありません。自由回答でいい。


 もしも、ずっと愛するはずの人が死んだら。


 あなたは他の人を愛せる?」


 ……なんとも、なんともイヤな質問を。でも、先生が真面目に聞いているなら答えよう。飽くまでIFだ。もしも。もしも。


「……一番最初に浮かんだ答えは『わからない』です。


 でも、その解答は少し曖昧過ぎる。


 二つ目に出た答えは『愛さない』です。俺にとってフィエの代わりはいない。


 今思い浮かんだ答えは……先生、変なこと考えていませんよね? です」


「……あぁ。そういう解釈もできるね。『死んだら他の人』か。


 ボクがフィエちゃんを殺すってのはないよ。安心して。


 ……うん。わかった。レッスン2は終了だ。


 よい成績だね。ボクはかなり納得がいったよ。


 答えてくれて、ありがとうね」

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