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2-06.【フィエエルタ】三者面談

 眠ったままの少女の看護は、今はアーシェ様が行なっている。次の順はコバタ。わたしはそれまで時間がある感じだ。


 コバタはある程度、あの子にも興味を示したように見えた。……おっぱいないのに? コバタの趣味はやたらと広いように思える。だからこそ、船の到着先で出会うことになるであろう、アーシェの姉(34)にも注意を払わねばな、と感じた。


 ……この前で分かった。コバタがわたしに対して我慢してきた理由。……なんていうか、あんまり外面の良くないものも含まれていたし。逆に言えば、やっと外面を捨ててわたしに見せてくれた。


 そして実感した。一人じゃ無理だアレ。わたしにだけ特別『ああいう風』なだけなのかもだけど、ちょっと体力的に続けられる気がしない。


 コバタが遠慮なく要求してくれるのは嬉しかったけど。


 コバタを押さえつけて独占するというのは愚策に思えた。暴発したら良くない。あんな性欲を変な場所で暴発させたら良くない。ならわたしから見ても好きな人、ララさんとかとしてくれた方がずっといい。


 そんなことを考えていると、クィーさんが声をかけてきた。この頃は良く話す相手だ。魔法についての話題や、ララさんについてなど、話せることは意外と多い。だから話しやすく、近場では一番年齢が近い相手でもある。


「フィエちゃん、船室に行きませんか? ちょっと船酔い気味で、お喋りで紛らわしたいんです。ボクにとってはお喋りが一番の薬なんです。助けてくださいな」


 わたしは、別に船酔いが原因でもなさそうなのは知っている。お喋りの口実として使ってくるだけ。普通に『話したい』だけでもいいのに。


「いいですよ。議題は何でしょう? 通過儀礼の軽減はしませんよ」


「今日の議題は『コバタさんについて』ですねー」


「……珍しい。コバタの何について話す?」


「それは船室、二人っきりで話したいんです」


 ……何の話だろう。コバタの様子を見るに、クィーさんとはまだのようだし……コバタ攻略法伝授しろとかそんなのか? わたしのものだからわたしに聞くのが早いとかいう理屈だろうか。……度胸あるな、楽しく話せそうだ。




 わたし達で使える船室の一つに入る。今までも何度かクィーさんとここでお喋りした場所だ。机と椅子が幾つか置いてあるので使いやすい。他の部屋で荷の木箱とかに座ってもいいんだけど、たまにささくれたり釘が出ているから危険なのだ。


 ベッド部屋でベッドに座ってもいいのだけど、今は禁止されている。あんまりあの部屋に無暗に入るのは、禁欲生活な船員さんを刺激するのではというコバタの気遣いからだ。まー、女の子二人がキャッキャしながら寝室に入っていったら、人によっては刺激されてフラフラと引き寄せられてしまうだろうし、余計な処刑者を出さないというのは適切な判断だと思う。


「まず一つ、コバタさんの性質についてボクの知見を話して、意見をお伺いしたいですね。フィエちゃんが一番ご存じでしょう?」


「んん? なんか素直な口調。もっと挑戦的な言い方してくるかと思った」


「流石にその辺は弁えてますよ。じゃあ話しますね。


 あ、まずは前提知識としてこの間のこと。


 ……ボク、結構頑張って誘惑してみたんですけど、無理だったんです。


 普段より少し、見え方とか香り方とか、口調とか距離感とか、見つめる時間とかボク自身の考え方とかを変えてみて、挑んでみたんです。


 ……かなり惨敗だったので留飲下げて頂いて結構ですよ。悔しいから、焚きつけてフィエちゃんにぶつけましたけど」


「頻繁にはやるな。いいな? 頻繁にやったら武力行使だ。覚悟しろよ。


 ……で、それが前提、事前知識として、わたしになに話すんです?」


「まずひとつ、コバタさんは事前に同意ないと絶対動きません。


 ……完全に『どうぞ』状態で居眠りしてみたんですけど、コバタさんは止まりましたね。ボクあの時かなり全力出したつもりだったのにな。ショックでした。


 次にひとつ、恥ずかしがり屋が過ぎますね。おそらく言葉や態度でハッキリ同意したところでこちらが押さないと無理です。


 ……一緒の毛布をかぶって隣にいたんですが、唇を噛み切って耐えましたね。本当に耐えきれるのかな~、さっき許可出したから我慢できなくなるんじゃないのかな~と最初は楽観してたのに」


「……それで口の中切れてたんだ……。それでわたしの意見? それに対して?


 まぁ、当たってる。コバタそのもの」


「でもまぁ、その二つは強いストッパーとしてボクの有利に働いているんです。


 コバタさんに対しては同意を取った上でこっちが動かないといけないというのは、『めんどくさいなぁ、ボクを成すがままにしてくれないかなぁ』という希望にはそぐいませんが、そういう利点もあるんです」


「……利点、ね。


 それをどう活かしているんです? クィーさんは」


「ひとつお聞きします。フィエちゃんとコバタさんの子供はまだですか?


 お二人はお若いし頻繁。フィエちゃんもコバタさんの子供欲しそうです。


 天より、あるいは地母神様の思惑によりの授かりものとはいいますが」


「……巡り合わせが偶然悪いだけ、と思っているよ。


 今は少し違和感はある。あれ、何で? って」


「コバタさんはボクのことを好きです。……戦前布告じゃないですよ?


 つまり先ほどの2点を外せば、状況にもよりますが作戦完遂出来ます。


 ……睨まないでね。おねがい、わらって、わらって。


 えーとつまり、ボクがストップをかけたままでいるのはそこなんです。


 なんか、変だなぁって。フィエちゃんとは違う形で、外から見ての感想。


 そこがなんかモヤモヤしたままだと、必要な情報足りてない気がして……。


 情報が足りないままっていうのは、ボク的に少し抵抗があるんですよ。


 それで」


 言葉を区切って、クィーさんは何かに反応した。わたしもすぐに気配を感じた。背の高い老人が、吟遊詩人が、ジエルテ神がそこにいた。


 部屋は狭い。いたら絶対気付く。というか分からない理由がない。目を閉じていたって肌感で分かるくらい異様な雰囲気に変わったのだから。




「お久しゅうございまする。フィエエルタ様。


 そして初めましてお見知りおきを。クィーセリア様」


 相変わらず少しかすれた声だ。吟遊詩人として接したときには感じなかった異様な空気感がある。なるほど、神か。こういう感じなんだな。


「……こんにちは。わたし達にご用ですか? ジエルテさま。


 船室の拙い椅子とはいえ、神は座におわすものと言いますしお座り下さい」


 取り合えず座って貰おう。相手の態度とか、こっちの言葉を聞くかどうかを自分でも把握しとかなくちゃなぁ。


 そうしてジエルテさまはお座りになられました……昔、神様について子供向けにやった劇だと、こんなナレーションついたっけ。座っただけなんだけどね。


「初めまして、ジエルテ神。光教団所属の選抜執行官、クィーセリアと申します。こちらこそお見知りおきを」


 クィーさんが真面目になった。初めて聞く声色ではない。山賊退治の時とかの『真剣』モードだ。珍しい。いかんな、明日は嵐になりそうじゃわい。


「そうだ、近場にこの度の件に関わった全員がいます。


 ……呼んできましょうか?」


「それには及びませぬ。……いえ、違いますな。


 お二方にのみ、お話をしたく参上いたしました」


「そうですか、ボクにはちょうどいい。


 ご用があって訪れて頂いたのに、いきなりで不躾ですが火急の質問です。


 ジエルテ神、『あなたは何らかの形で子供が産まれないようにしている』


 そうではないのですか」


「お答えします。いかにも左様。


 その件はアーシェルティ様、ライラトゥリア様には以前お伺いしたときにお話ししました。フィエエルタ様やコバタ様のお気持ちを考え、秘したのでしょう」


 ……ほー。中々に喧嘩売って来るなぁこの✕✕✕✕が。神に拳は効くのか、のこぎりでも探して来て引いてやろうか。


 いやまだ早いな。情報引き出してからだ。油断させて捕まえて泣きわめいても許さない。神殺しの名が自分に付く日が来るとはな。いや、神を殺す、じゃないな。滅してやる。地上から痕跡全て消してやる。


「なぜそのようなことを?


 理由も以前、ララさん達から聞かれたでしょうがわたしは是非、直接お聞きしたく思っています」


「この度の災厄。これに対処するにあたって子を宿し産むことは危険を増すのでございます」


 その言葉を聞いてクィーさんが反応する。


「……250年前。大禍の檻。つまりは産めど死ぬ。生きれど腐る。やがては内で毒を吐き始める。


 確かに、そんなものに近付けば壊れて、あなたの道具として使えませんね。


 それを防ぐための厚意と考えてよろしいでしょうか?」


 なんぞそれ。変なワードがたくさん出てきたぞい。うーん? アーシェ様とかクィーさんは知ってそうな感じ。教団とかで共有の『秘密』かな?


「よくご存じでございます。


 いかにも。クィーセリア様。


 あなた様の探しものではないのに、よく学ばれましたな」


「…………無駄話する間柄でもない。


 ……あは、やめようじゃないですか、何をしにいらしたんです?」


 ……クィーさんから、初めて聞いた声。不愛想。それが終わってから、いつもわたし達の前でする笑顔に切り替わる。アーシェ様といい、『仮面』被るタイプ多いんか。光教団て。


 しかも最初は『真剣』モードだったのに『おちゃらけ日常』モードに仮面被り間違えてる。なんかすっごい動揺したんだな。こんな状況なのにわたし、ワクワクしてきたぞ。気になります!


「これは失礼をしました。……最初の質問にはもう答えが出ましたな。


 では本題と参りましょう。ラートハイトにて『火の口』が息づき始めました。


 未だ隠れ潜んでいるようですが、力を蓄えそろそろ現れる頃合いかと」


 ジエルテ神は、何やらの災厄の名前を言い、クィーさんが反応する。


 こんなに分かりやすいクィーさん初めてだな。神というだけあって人の心を突っつくのが上手いようだ。ラートハイトと言えばクィーさんの故郷だ。何らかの啓示、求めた答えの指し示し。


 ジエルテ神はこちらの反応を伺うように言葉を止めた。クィーさんは先ほどまでと違い、黙ってしまったのでわたしが口を開く。


「……災厄は幾つか、その見通しは立っていないのですか?


 加えて聞きたいこともあります。


 わたし達はいわゆる『超常的な』災厄の他にも問題を抱えています。


 砂漠向こうからの侵攻と、対岸からの侵攻。そしてクーデターです。


 ジエルテさま。これも『振り払うべき火の粉』の一部に過ぎないのでしょうか」


「災厄は五つまで確認してございます。


 位置が確認されたのは『火の口』が初めてのこと。


 他の災厄については『存在する気配が明確』といった見通しにて。


 加えて、の部分については申しあげておきたいことがございます。


 わたくしめが『災厄』と呼ぶのは『超常的な』ものに限ります。


 フィエエルタ様が仰られた二つは『人の世の動き』に過ぎません。


 わたくしめは、それに大きな意味を感じてございません」


 神様視点か。上からもの見やがって。わかったぞコイツ、人に優しいとか厳しいとか関係ないな。自分の都合でしか見ていない。一見感情とか何かあるように見えるけど、コイツは『ヒトを使う』ためにそう見せてるだけだ。


 ……コバタは威圧して動かすのが良いと思われて、クィーさんには何か関心のありそうなことを餌に誘導している。


 神とかいう何考えてるか分からん存在はクソ。そうはっきり分かった。


「わかりました。そちらはささやかな火の粉ですらないのですね。


 では、ひとつ提案を。


 コバタか、それともわたし達にかかっている不妊の力を、一時的に解くことはできませんか。


 いずれ災厄には必ず対処いたします。それは命にかけましょう。神相手に言うのです。神に誓います。災厄にはわたしの命を懸けてでも対処する。


 しかし、愛する人との間に子を成してこそ、より力強く対処できると思いませんか? ……まだ時間はあるのでしょう?」


「……それは違うよ。フィエちゃん。


 もっとエグイんだよ。『大禍の檻』に近付いた経産婦本人と、その既に産まれた子にまで呪いは発生したと記録されている。逆に子から親へも派生する。範囲は一世代で終わるけどね。


 つまり、近付くなら男女ともに子を成す前じゃないと意味がない。また父母亡き者でなければ被害は伝播する」


「……なにそれこわい。というか体に悪そうでそもそも近付きたくない。その後に影響は出たりしないの。生理的嫌悪感凄いんですけど。


 ……ジエルテさま? 何故私たちに対処させるんです? ヤなんですけど」


「…………。


 わたくしめには、既に示した札がございます。


 その札をもう一度見返しなさいませ。


 悪神と呼ばれようともです、フィエエルタ様。


 あなた様を捕らえたのはわたくしめの策のみではございませぬ。


 コバタ様と、それを愛したあなた様ご自身なのです。


 恋が冷めればその縛も解けましょう、歌も終わり。あなた様は次の歌を」


「ブチ殺すぞ。


 ……ゲフンゲフン。


 人の恋路をそういう風に利用するんですね。コバタに聞いたところ、オマエは人の人生を歌呼ばわりしてどーのこーの言ってたらしいじゃないですか。


 この件が終わったら、オマエが歌う場末酒場の三流安物カストリの詩よりずっといい曲をわたしが作って上書きしてやる。憶えとけ。


 オマエが作った詩なんて流行らせてやらねーからな。焼いてやる。


 あーわたし楽器でも憶えるか。オマエの演奏はなかなかのものだった。またあれでコバタと踊りたいと思っていたが気が変わった。オマエの演奏では踊ってやらない。そうだ、踊るための音楽なんてこっちで用意してやる。


 わたし達で幸せな歌を作って、災厄が消え失せてオマエも消え失せるときに聞かせてやる。悔し涙と嫉妬の覚悟をしとけ。


 過去の善行という名声に縋って背丈と態度だけデカい神め。少しは人の気持ち考えて……ああオマエ気持ち考えて煽りやがったのか」


 一度冷静になろうと思ったが、無理だったな。


 神様なんてもんはさぁ、人の恋路を祝福してりゃあいいんだよ。わたしの中ではその程度の存在だ。利用してくるな、人の恋心を外っ側から。


「……二つお話して帰りましょう。


 一つは、『火の口』は今、現地に居る者で抑えられています。いずれコバタ様の力が必要となるでしょう。


 二つ、『大禍の檻』は未産のものには何ら影響はございません。クィーセリア様、アーシェルティ様にもその知識はございましょう。


 それではご機嫌宜しゅう御二方」


 神は言いたいことを言って消え去った。しかも、そこには一本のリュートが残る。アイツ最後まで煽りやがったな。『弾いてみろ』ってことだろコレ!

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