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1-49.【ククノーロ】砂漠の向こう

 列兵、戦旗、居並ぶ象兵。ラッパ、軍楽、銅鑼の音。号令、雄叫び、そして進軍の地響き。


 これらは日常風景。我々が争うのが大好きなのは仕方ない。物がなくても奪えばまた戦える。人が足りなければ産み増やすなり戦場で奴隷を狩ればよい。もっともっと、強くなることが何よりもの生きがい。


 我らが父祖は、あの大きな砂漠を作ってまで戦ったのだという。素晴らしいこと。あれは大地に残された勲章。戦いの果てまで戦いきった証なのだから。


 世のすべては争いであり、それを経て生命は存在する。軍量が多ければ勝てる。兵科の扱いに優れれば勝てる。領地を、食料を増やせば勝てる。相手をだませれば勝てる。我軍の特性を理解し、それを相手より活かせれば勝てる。


 不利となったなら和睦したり、逃げる事すら罪ではない。いずれ奴らを自分の足元に這いつくばらせるため、機を伺いつつ嫌がらせをすることも、やがて勝つのには必要なことなのだから。


 この身もその一部で在れることが何よりもの愉悦だ。『戦う、つまりは生きること』はなんとも楽しいこと。




「ククノーロ」


 大爺様からお声がかかる。しまった、戦風景に見とれすぎたか。後ろからの視線に疎かなのを怒られてしまうだろうか。


「はい、大爺様」


「砂漠の北に攻め入る話は聞いておるな?」


「勿論でございます! もしやこの身も大爺様の戦にご同行できるのですか」


「儂は行かん。ホノペセタリクに任せる。お前も行け」


「歴戦の将軍ですわね。この身は妻となっての同行ということでしょうか?」


「違う。あれはお前をやれるほどの存在ではない。


 お前は戦端を作りに行くのだ。


 既に送った密偵からは、彼奴等は富を溜め込んで軍備を疎かにしていると聞く。この報告の通り、お前から見ても彼奴らの戦意が足りないようであれば、弱きことは罪だ。ホノペセタリクの刃にて攻め滅ぼそう。


 もし難敵と見たなら妃として後宮に入り、王を篭絡し橋頭保にせよ。


 橋頭保とならぬなら、その王がホノペセタリクの妻を奪ったと宣戦する。


 お前を帰すも蔑ろにするも、こちらに無礼を働いたことになる。宣戦だ。


 お前を捕らえ、虐げ、犯し、殺すならばそれも同じこと。宣戦だ。


 何にせよお前の役目は『戦争の第一歩を作ること』だ。嬉しかろう?」


 この身がやっとお役に立てる。しかも面白い位置。一番の特等席。うまく生き残れば、始めから最後までその争いの息吹を感じることが出来る。


「この身が裂けそうなほど嬉しゅうございます。


 いつ出立すれば良いのでしょう? ああ、待ちきれません。お早く、お早く」


「まぁ待て。やがてホノペセタリクが配置に付く。その準備に合わせて彼奴らが王都にお前が行くのだ。


 船に武兵は少なくしか乗せぬ、お前は裸同然で敵地に乗り込むこととなる」


「……素敵。この身に生き残って見せろと? この身に余るほど贅沢なこと!」


「生き残りて勝つなら重畳。時としてお前が死ぬことも、戦を赤く彩る華となる。我らが一族、ラパルペルア・ロドンに生まれたその身の使い処だ。心して臨め」


「はい! 全て捧げて見せましょう!


 我らが戦斧が彼奴らの脳天を叩き割るために!


 十重に二十重にの斬打撃で、彼奴らの都を叩き割るために!」




 この姫が乗った船が出港したのは、秋も中頃だった。若き姫君は戦に狂った国から旅立ち、次の戦の火を育てに向かった。

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