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3-39.夜間襲撃・二重の極み


 俺は夜間、部屋に忍び込んでいた双子姉妹に襲われていた。


 あまり本格的な襲撃ではない。制圧の仕方もかなり緩い。どちらかといえばじゃれて来ている感じだった。


 ただ、彼女たちの要求内容はなかなかに過激だった。


「お兄ちゃん、これは強行誘惑ですよー。


 私らに為すべきことがあるのではー?」


「お兄様。はしたなきこととは思いますが、このふつつか者ふたりに、どうかお慈悲を頂きたく。どうぞ、お情けを下さいまし」


 ディドアとティフェは寝間着姿で組みついてくる。……まぁ、確かに誘惑にはなっていると思う。ふたりとも可愛いし。


 でも、さすがに転居初日から……まだふたりと充分にお話も出来ていないのに。


「えーと、あの。……ちょっと待って欲しい。急すぎる。


 ストップストップ、ステイステイ」


 俺が制止を掛けると、ふたりとも素直に拘束を解いた。


 俺は仰向けになって上身を起こし、ベッドのヘッドボードに寄りかかる。俺のその両肩に、双子姉妹は甘えるように頭を預けて来る。


 とっても可愛い。……誘惑としては確かに一級品だ。ものすごく魅力的。


 ……でも、さすがに確認しておかなくてはならない。


「えと、ふたりは本当に俺が好きなの?」


 ティフェ、ディドアのふたりは一度、姉妹で顔を見合わせ、また俺に視線を戻してから言った。


「悪い印象はありませんよ、お兄様」


「きらいじゃないです、お兄ちゃん」


 それって……好きって言えるのか?


「いや、それならコレはナシじゃない?」


「「どうしてです?」」


「いやその……現段階だとさ、なんか俺が『目上の立場を利用してるみたい』に思えちゃうんだけど。


 俺が『色狂い』とか呼ばれているからって、ふたりは気を使ってたりしない?」


 ふたりはまた、顔を見合わせた。


「命令や強制をされてここには来ていません、お兄様」


「気遣いや忖度とかじゃない、自発的だよお兄ちゃん」


 俺は当惑した。……照れ隠しには聞こえない。本気で言ってそうだ。ジェネレーションギャップと言うやつなのか。彼女らの感覚がよく分からない。


「……俺はふたりのこと、どう捉えればいいの」


「どうぞ捕らえて下さっていいですよ、お兄様」


「好きなように捉えていいんだよ、お兄ちゃん」


 分からん。分からん。……まだ、朝食や夕食時にそこそこ話をした程度の間柄でしかないんだぞ。ふたりがオッケーサイン出していようが、俺の方がまだ気持ち的について行けない。


 ……そうか、前提情報が足りない。ふたりは優秀でかわいい義妹系の偵察要員としかよく分かっていない。俺は知らな過ぎたんだ、ふたりを。


「えーと、突然でスマナイけど、ふたりのこれまでを話してくれる?


 メルの実家から守秘義務を負わされてる内容は除いて、話せる範囲で」


 ディドアがティフェに視線を送る。そうしてティフェが話し始める。


「……私たちのこれまで、ですか。


 そうですね、順序良く初めからのご説明にしましょうか。


 私たちは捨て子と言いますか……『産み捨て子』みたいなものですかね。母親が『ふらつき者』でして、そっちからして身寄りがありませんでした。


 ある冬の日、身重の身体で戦衆の寄合所に現れ、助けを求めました。


 私たちはそこで産まれましたが、母親……というかもう他人サンは何処かに消えてしまったんですね。


 あ、『消した』わけじゃないと思いますよ。誤解されそうなので補足します。


 それでそのまま戦衆に育てて頂いて、役割も頂いたのです」


 ふたりにそんな重い過去が……。俺はちょっとビックリしてしまった。俺の表情や反応を見たディドアが補足する。


「ええと、不幸な生まれとは思っていません。お兄ちゃん。


 ちゃんと戦衆の家で育てて頂きましたし、その過去の話も聞いただけです。実感ないです。そして聞いてもふたりとも『ふーん』って感じです。


 むしろ『クソ親だけど、ちゃんと生き残れる場所に産んでいっただけカシコイ』くらいには思っています。


 というか、変なところで産まれたなら、ふたりとも死んでます。


 というか、ソイツに育てられても多分、ふたりとも死んでます。


 ソイツが地教団に助けを求めなかったのは、多分、距離が遠かったからですね。子供の育成のために空気の良いウイアーンの郊外に拠点ありますんで。


 街中にも地教団の施設はあるんですが、嬰児への対応力はそこまで高くなかったりするんですよ。そこで孤児回収して郊外拠点に送る感じでしかない」


 ディドアは……うーん、ダウナーな感じだから微妙に分からないけどウソを言っている感じではない。淡々としているが、心を殺した雰囲気がない。


「それでその後、偵察の仕事を任された感じ?」


 俺が聞くとティフェが答えた。


「そうです。お兄様。


 私たちは才能を見込んで貰えて、ジッサイ合っていました。優秀なんです。


 でもまぁ、仕方ない部分ではあるんですが……今まで忙しくて。


 当然ですけど食い扶持分の役割は求められました。戦衆ってそういうところ。


 それに優秀だから、よく仕事を任される……あ、任せて頂くんですよね……。


 3年前にはもう斥候の基礎は出来ていたので、それから日々仕事と訓練」


「毎日毎日、私らは偵察の日々に追われて、嫌になっちゃうよ……。わかる? お兄ちゃん……」


「場所や対象は違えど、3年前から毎日毎日……同じことの繰り返し。


 お兄様の御家に呼ばれていなければ、きっと10年後も偵察任務……。


 私たち忙殺されて、生きてるって感じがしなかったんです……」


「生きているって、何だろね。毎日襲い来るシゴトという強敵と戦うこと?


 そしていつか、ヨボヨボ年経てしまったら、ぞうきん扱いの雑用役になるの?」


 俺はふたりが愚痴やボヤキをしているときの目に見覚えがあった。……このふたり、若いのに社畜の目をしている……。


 この世界における成人は早いから、社会風潮的に児童労働ってわけでもないのだろうけど……若いのに社畜なのは可哀想。


 うん……ふたりの気持ち分かるよ。俺も着信音聞こえると憂鬱になってた。


「ティフェ……、ディドア……、大丈夫だよ……! 


 ウチはね、これからの繁忙期には頑張って貰うかもだけど、無理させてると感じる前にちゃんと休ませるからね。


 給与と賞与出すし、それを使って遊ぶ時間もちゃんとあるから……!


 仕事に必要な備品は自腹なんてさせません。こちらで支給しますから……!


 残業が発生した場合もちゃんと払うし、有給消化は必ずさせるから……!


 ウチの社風……じゃねぇ、ウチの家風はそういう感じですから……!」


 喋っている内に胸の奥からこみあげてくる気持ちがあった。……俺は泣くわけにはいかない。ふたりを困らせる。だが、心では涙を流していた。


 俺は続けて言った。


「それに、俺がこの家の旦那様だからと言って絶対服従じゃないんだ。


 ……趣味で服従したがるメルとかアーシェはともかくさ、自由裁量でいいから!


 フィエが俺の嫁でトップなこと以外は、なるべく公平にしてるから!」


 俺の言っている内容は伝わった……のか? ふたりはややキョトンとした顔だ。


「ですので私たち、自由裁量でここにいます。お兄様」


「家風からして良いの分かっているので。お兄ちゃん」


「……うん?」


「「私たち、要求したいんです。福利厚生」」


 そう言ってふたりはまた、俺の肩に頭を預けて来る。


 ……福利厚生。これをそう言うのか。むしろ俺が一方的に得していないか?


「……でもまだ、ふたりとも俺が好きって程でもないんだよね?


 なら無理して貰う必要はないんだよ?」


 ふたりは俺の肩に預けた頭をいったん離し、正面に顔を並べて見つめて来る。


「でもお兄様。


 私たちを選び、家に招き入れ、好意的な目で見て頂けていますよね?


 私たちはそうして頂いたことに感じ入っています」


「そして今、ベッドから追い出さずにいてくれているのです。お兄ちゃんは。


 ……そう、それにこの呼び方、喋り方だって許してくれているんだよ」


「そうではあるけど……。それはまだ好意の段階だと思うよ。


 恋という感情にはなっていなくないか?」


「ですから。


 ……私は、今まで出来なかった『恋がしてみたい』のです」


「私は……。


 『お兄ちゃんのこと、もっと大好きにさせて欲しい』かな。


 これからこの御家でお世話になるなら、それは大切なことなのです。


 お兄ちゃんの言葉で、態度で、行動で……。福利厚生を要求したいのです」


 ふたりの言っていることは、内容的に理解できてきた。……つまり『私たちをホレさせてみろ』と言っていて『俺によるスケベ技術の発揮』を期待している。


 ……なんでいきなりエロから? 俺が『色狂いの迷い人』だからか。


「えーと、わかった。


 でもさ。コレはちょっと早くない?」


「私たち、せっかちなんです」


「偵察だからねー。時間にシビア。


 わかる? お兄ちゃん」


 こっちの世界さ、肉食系多くない?! いや俺が『狩られる側』っぽいのは分かるけどさ。俺はまた、このまま流されてしまうのか……?


 ……だが。だがしかし!


 まだ早い。ふたりは恋に興味津々で暴走している。……俺は、ふたりを制御することに決めた。恋をしたいというのなら、手順を踏ませるべきだ。


 行動を開始しようとするふたりを、それぞれ片腕で抱き締めて制止する。


「嗚呼、熱烈な抱擁です。お兄様」


「ん、ちょっと痛い。お兄ちゃん」


「二人ともステイ。……痛くするつもりはなかった、ごめん。


 ……俺はふたりを受け入れているし、好意をしっかり持っている。


 ……でも、これは急ぎ過ぎだ。ベッドから追い出さなかったのは……正直なところ俺もふたりと一緒にいたかったから、追い出せなかっただけで。


 そう……急ぎ過ぎなんだ、コレは。


 俺の意見に、どうか耳を傾けて欲しい。命令じゃない。頼む、お願いする。


 ふたりがこの続きをしたいというなら、その希望は叶える。


 ただ……俺はまず、ひとつ段階を踏むことをふたりに提案したい。


 ……まずはデートだ。ふたりとデートをしてからだ。


 デート、してくれますか。


 ティフェ、ディドア、お願いします。俺とデートしてくれませんか。


 この誘いを受けては貰えませんか……?」


 俺は思う。『拙速』とは、恋愛という戦争においては風情を奪うものだと。


 別に急展開な恋愛が悪いと言っているわけではない。……ただ、急ぐ必要のないときはゆっくりでも良い筈だ。


 ……というか、今まで色々と出来事や関係性が込み入っていたせいで、俺だって『まともなデート』をした回数が少な過ぎる。


 ふたりとは『順序立てて、まともに』関係を築きたい。……今まで彼女たちが仕事漬けだったというのなら、なおさらに。


「わかりました、お兄様。


 まずは逢引……。それがお兄様のお望みなら、まずはそこから」


「うん。私もお兄ちゃんと一緒に出歩いてみたい。


 そっか。デート……そういうのもあるのか。


 福利厚生が充実してるね」


 その夜、俺はティフェとディドアを彼女らの自室に帰した。ふたりを見送った後の部屋には俺だけ。……女の子の残り香。


 ……俺は、もったいないことをしたのかもしれない。


 ……これから戦争が起こり、繁忙期となるかも知れないのだ。悠長な判断だったのかも……やっぱり、少し本能に任せちゃうべきだったんだろうか。

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筆者のやる気につながります。是非ともよろしくお願いします。

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