表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/154

3-38.【フィエエルタ】馬車の旅・欠け始めた月を眺めて


 かつて栄華を誇ったウイアーン帝国というだけはあった。さすがに発展している。街道は整備されていたし、街と街との行き来がスムーズに行える。


 わたし達3人は、これからのホームとなる屋敷への移動途中だった。


 その屋敷まではもう少し距離がある。今夜を旅籠で明かして、明日の昼過ぎくらいの到着になるだろう。


 主要拠点において情勢を伺うメンバーはわたし、アーシェ様、ククちゃん。……いずれも『早駆け』が使えず、移動力に難のあるメンバーだ。


 コバタ、クィーさん、メルちゃん、レルちゃん、ティフェちゃんにディドアちゃんは『早駆け』を使っての行動が出来る。馬車を超える早さの移動が出来る。


 ララさんやハーレンさん、トゥイさんは『早駆け』を使えないが、使用者に背負って貰うことでその早さを得ることが出来る。……代わりに背負った人の体力勝負にはなってしまうが、長距離はともかく緊急避難には使える。


 現状、ウイアーン帝国で守らなければならない国境線は多く、情報次第で対処する優先順位を決めていかねばならない。


 ピッタリ同時に来られたらキビシイのだが、そんな戦況なら最早すべてなど無理と諦め、わたし達は一箇所に集中して対処すべきだろう。




 わたし達が泊まっている旅籠の一室、ガラスが嵌められた小さな明かり取り用の窓。……ちょうどそこから大きな月が見える。


 ……コバタは、旦那様はちゃんと晩ご飯食べたんだろうか。新しく入った3人と、良い関係を築けているんだろうか。


 ちょっと前のわたしなら、不安や嫉妬をもっと感じていたと思う。……でも、生き残り、幸せを勝ち取る場面でその感情は……抑えるべきだ。


 アーシェ様が話しかけてくる。窓から月を見上げるわたしを、感傷的になっていると心配してくれたようだ。


「フィエエルタ、本当に良かったのですか。……この組み合わせで。


 あなたもコバタと、一緒にいたかったのでは……?」


 やっぱり、アーシェ様は優しいなぁ。


「大丈夫ですよ、アーシェ様。わたし、奥方様ですもん。


 ククちゃんが提言してくれた内容は、とても大切なことだったと感じています。


 『愛だの恋だのより、今は各個人の連携強化』というのはもっともです。


 まずはコバタと新人3人との関係は深めるべきですし、クィーさんとハーレンさんでのコンビは、訓練としても交流としても重要な点です。


 ララさんとレルちゃんは、意外と通じ合う部分があるから、もっと信頼を深めておきたいところですしね」


 それを言ってくれたククちゃんは、もうベッドで寝息を立てている。……賢くて可愛くて、やっぱりククちゃんは最高だね。


「……そうですね。


 確かにこれより荒事となるならば、情を重んじ過ぎて動きが鈍くなることは避けたい。……命あっての物種、生き残った後に存分に愛を確かめ合えば良い。


 ……ちなみに、私に対しての愛情表現はいつでも歓迎ですよ」


 わたしを気遣って、アーシェ様はちょっと茶化したように言う。


「そうですね。……でも旅籠だと、ちょっと迷惑になるので。


 向こうに着いて、お部屋の状態確認とか荷物の運び入れとかやって、ひと段落ついて何も異変が無かったら。


 ふふ。ククちゃんが居るとはいえ、加減はしませんからね」


 そうは言ってみたものの、アーシェ様をシツケている姿というのは……ちょっと教育に悪いんじゃないかとも思う。


「うふふ、フィエエルタ。幸福な時間を楽しみにしておきます。


 ……私は先に寝ます。


 物思いして内省する事も大事ですが……ククノーロも私も、相談相手として労を惜しむつもりなど有りません。


 難問であろうと些末事であろうと、話して貰えることが嬉しいんですから。


 奥方様だからと言って、抱え込んでいたら本末転倒ですよ。フィエエルタ。


 …………。……それじゃ、おやすみなさい」


 軽く微笑んでアーシェ様はそう言い、先に寝床へと向かった。


 わたしはもうちょっと、月を見ていたい気分だった。




 戦争、動乱。それはずっと続いてきたもので、無くなりはしない。


 ……父は、お父さんは戦争に巻き込まれて死んだ。もう6年前……7年近いだろうか。ヌァント王国とメルトヴィロウス王国の過激派との衝突。


 交易相手として一定の関係を持っている二国間は、複雑な外交関係によって、時たまに衝突していた。その頃は時期が悪かった。


 お父さんは行動的過ぎた。おそらくはキィエルタイザラ氏の様子見のため、『荒れ地』方面まで向かった。その際に乗った船がヌァント船籍であると敵海軍に露見して、攻撃を受けた。


 ……自分が死んだら、どうなるかなんてよく考えていなかったんだろうな。楽観的で積極的というのも、ちょっとね。




 ……そして今、娘がこうして戦争が起こる国に飛び込んで行っているのを知ったら、何て言うんだろう。


『危ないからやめておきなさい』


 ってそんな風に言うんだろうか。……多分そう言うだろうな。娘としては、それを昔のお父さんに言ってやりたいんだけどね。


 やはり、恨みに思っても父娘なのかもしれない。今のわたしには『逃げて無難にやり過ごす』なんていう思いは欠片もない。


 生きることは命あること。……命は大事。だけど惜しんだ結果、つまらない人生になってしまったり、愛する人と共に在れなかったら、命ある意味がない。


 わたしは結局、こんな不穏な時であっても『今が楽しい』。


 そうだ。幕が開かないままの舞台を見ている意味などない。そこから先に何があろうと、ここから先は幕引きまできっと楽しい。


 みんなで生き残るためにどうすべきか、考えることがたくさんあるから。


 そして、幸せな結末を迎えたあとのカーテンコールほど痛快なものはない。


 ……戦争も災厄も、難題吹っ掛けていきやがったジエルテ神も、全部ぶっとばせる。やり遂げて、幸せにみんなで老後の語らいをしよう。


 コバタの言葉……人生哲学かな? ……あれは好き。


 『みんなでお爺ちゃんお婆ちゃんになって、同じ墓に入るまで幸せに』


 わたしの想像し、期待する未来もそうなんだから。

【ブックマーク・評価・感想など頂けると助かります】


筆者のやる気につながります。是非ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ