3-35.シスター・イン・ロウ・アクト
戦争が近いなかで始まった、女の子3人との共同生活。
彼女たちとは出会って日が浅い。しかもまだ手も繋いだこともない相手が3人で、加えてフィエから『ウチの子になるよう、えっちしなさい』と言われている。
……愛する嫁公認で、他の女の子と性的な関係を持つとかどういう状況だ。エロ漫画か……? 少なくともレーティングは一般向けではない気がする状況だ。
朝食の用意は、俺とティフェさんで行なった。キッチンは広くないため、全員での作業は非効率的だ。食料品の買い出し、貯蓄分の仕入れはトゥイが手配した。
その間、ディドアさんは周辺状況の偵察・監視を行なっていた。
意外なことに、このメンバーの中では俺の調理スキルが一番高かった。ティフェさんは外見的に料理上手そうなイメージがあったものの、普通レベル。
普通レベルというのは『食事らしい食べ物を作れる』ということだ。普通の食生活に置いて難渋しないレベル。
ティフェさんの調理に失敗はなく手際も良いのだが『サクッと作れるもの』にレパートリーが限られていた。
ちなみにメンバー全体での料理スキルは
上位:アーシェ>(アルメ奥様)>ククノ>メル>クィーセ>フィエ>ハーレン
普通:ララさん>レルリラさん>俺>ティフェさん=ディドアさん
下位:トゥイ
といった感じだ。トゥイは店で食べる専門で、料理はしないらしい。
ちなみにアーシェはレパートリーが幅広く作れる。本人の性質として凝り性で、栄養と味のバランスまでしっかりしている。……高性能すぎる。
アルメ奥様は主婦として教養や技巧が高い。しかし雇いの料理人に任せる部分も多いので、レパートリーにはやや偏りがある。
クィーセは右手がないというのに何故上手カテゴリなのかと言うと、片手で使える器具・ハサミとかを活用するのに慣れているし、料理知識や調理自体は『使える技術』として孤児院時代からずっとガチガチに学んでいるからだ。
それはともかくとして、おいしい朝食は出来た。皆、満足の表情で食べている。
「良い出来ですね。そこらの屋台より数段上質です」
そうは言うもトゥイは無表情で手早く朝食を食べている。双子姉妹もやや速やかな食べ方だ。斥候として、食事に時間はかけていられないという意識が見えた。
俺は思う。……これは忙しい都会人の食事風景だと。
みな食事マナーはちゃんとしている。決して下品ではない。しかしトゥイは言ってみれば『叩き上げでやり手の社長』みたいなもので、双子姉妹にしても『既に社会に出てバリバリ働いている』立ち位置だ。
フィエやララさん、アーシェやクィーセと一緒に食べた食事と対比して、どこか和気あいあいさに欠けている。
しかし、それをいちいち議題にあげるわけにもいかない。……今日、俺だって2件、クーデターの扇動員を必殺する仕事に出なければならないのだ。
「ご主人様、大変美味しかったです」
ごちそうさまの言葉のタイミング、ディドアさんからの言葉が少し気になった。この点には、さすがに異を唱えておかなければならない。
「ディドアさん。確かに俺はコバタ家の当主だけど……ウチではディドアさんもティフェさんも、使用人扱いと言うわけじゃないからね。
俺の嫁さんのフィエが言う通りウチの子……というか一員だから。
だから、普通にコバタと呼んでくれて構わないよ」
双子姉妹は顔を見合わせた。妹のディドアさんが姉のティフェさんに発言を譲るような仕草をする。
「では……私とディドアのことも『さん』は付けずに呼んで下さい。
それとですね……『コバタ』という呼び方をしてしまうと、この辺りの慣習上、私たちが『だいぶ年下なのに傲慢な娘』と見られてしまうんです。
シャールト王国とは、その辺りの文化がちょっと違う感じなんですね」
あ、そうなのか。……そう言えばソーセス家の長男・メーラケと話したときもそんな感じのことを言われた。郷に入らば郷に従えという。俺はヨソのルールを持ち込んでしまっていたようだ。
「あ、それは気付かなかった。ごめんね。
じゃあ、ふたりからして違和感ないように呼んで貰えれば……。できれば家族の一員として違和感ないように」
俺がそう言うとふたりは一度顔を見合わせた。そしてこちらを向いて、それぞれに言った。
「お兄様!」といつもの余裕面で言ったのは姉のティフェ。
「お兄ちゃん」といつものダウナーな感じで言ったのは妹のディドアだった。
……なん……だと?!
俺は少し動揺した。『血のつながらぬ兄貴分』として双子姉妹からは呼ばれただけのことだろう。だが、なんというか……胸がときめくものを感じた。
義理の……妹属性。……イカン、よこしまな考えを捨てろ。<素敵だね。しかも可愛い双子姉妹から、バリエーションの違う呼び方! いいじゃないか>
俺の邪心は今日も絶好調のようだ。……でもまぁ、俺も『家族として』とか言っちゃったし、この呼び方を拒否するのも変だよな……うん、きっとそうだ。
「わかった。じゃあ、俺も……ティフェ、ディドア。そう呼ぶようにする。
……ちなみに何で俺を義兄と?」
俺は少し、ドキドキする気持ちを紛らわそうとしていた。なんというか、ふたりからの呼び方が、その声の調子から『親しみ』を感じて嬉しかったからだ。
「年齢的に『お父様』というのもちょっと違いますし。
うーん、どう考えてもお兄様の方が合っています」
「お兄ちゃんは若く見えるから、そう呼ぶ方がしっくりくるかなー、って」
何というか、呼び方ひとつで随分と距離感が縮まった気がする。……そして、そんなホンワカした雰囲気を見ていたトゥイが、珍しくボソっとした声で呟いた。
「……コバタ兄さん」
「え」
俺は動揺と歓喜、困惑と興奮の混在したカオスな気持ちを覚えた。<……無表情系で弁が立つシッカリ者の……義理妹だと……!>
トゥイ……ッ! そう呼んでくれるのか……! 今までちょっと得体が知れなく感じていたトゥイが『不愛想系の義妹』に感じられてきてしまう。
俺は、呼び方ひとつで一気に距離が縮まったように感じてしまう自分のチョロさを自覚した。……しかし、良いものは良い。
共同生活初日にして、俺の前には3人もの義妹が現れてしまった。……何が起こっているんだ。世の中ってどうなっているんだ。
……あ。呼び方自体は嬉しいのだけど……俺って、この娘たちとエッチする予定がある。……果たして、この呼び方は大丈夫なんだろうか。
……まぁ、それは今日の任務を済ませてから考えることだ。今は深く考えず、保留しとこう。
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