3-34.なんでや、安心関係ないやろ
メルの実家から譲り受ける拠点は、最終的に6箇所になった。ポイント消費的には130くらい消費したが、かなりお得な譲り受けだった。
まずはホーム拠点。聖都セルフィト近郊にあるお屋敷。ウイアーン帝国・国土の中央辺りにあり、人が多くて隠れやすい場所だ。内部設備も一番しっかりしており、防衛性能も高め。隠れられる地下室や、逃げるためのトンネル設備もある。
ふたつ目は帝都ウイアーンの街中にある小宅。……メィムミィを連れ込んだときとかに使った目立たぬ隠れ家だ。設備はそこそこ良い。情報収集の拠点だ。
みっつ目は海沿いの街ヘルカトナジオ近郊にある山荘だ。温泉設備付き。これは街を眺望できる位置にあり、その全景の監視用として役立つ。それに加えて山中へ逃げ込めば、やや距離はあるもののシャールト王国方面へ逃げたりもできる。
よっつ目は温泉街クルキノック近くの山荘。クルキノックはウイアーンとシャールトを陸路で結ぶ山中にある。逃避先拠点だ。
いつつ目は国土の東側にある放棄された砦の拠点。現在は古くなった大型設備の物置として使われていた。これは見張り塔などが放棄時に崩されているため『あまり遠景から目立たないが城塞機能を持っている』石造りの建物だ。堀だってある。主な使用目的は『トゥエルト方面から来るペリウス軍への対策拠点』となる。
むっつ目はウイアーンの北側。フォルクト王国にやや近い位置にある隠し家だ。ほぼ洞穴に近い拠点で、隠蔽され外からは見えないようになっている。
配置は以下の通り。
ホーム拠点には、フィエ・アーシェ・ククノが指揮や取りまとめとして入る。
帝都の小宅には、俺と偵察の双子、トゥイが入る。帝都周辺の動静把握だ。
ヘルカトナジオ近郊の山荘にはクィーセとハーレンが入った。偵察を行ないつつ、ハーレンはクィーセと訓練することとなる。
クルキノック近郊の山荘は現状で配置は無し。
砦拠点にはララさんとレルリラさんが入った。短期間で意外と仲良しになっている。そして……もしかしたら腹違いの姉妹かもしれない二人。王血持ちは砦配属を希望した。ペリウス軍の進軍が早ければ危険になる位置でもある。
フォルクト側の拠点も現状配置無しだ。
……そしてワーカホリックなマゾヒストのメルは特定の拠点への配置はなく、ひたすらに拠点同士の連絡網の役目をする。
俺はしばし離れ離れになるフィエに遠距離恋愛・嫁が赴任する辛さを吐露した。
「フィエ。……俺、フィエがいない生活が久しぶり過ぎて、悲しい、悲しいです。
……俺まさか、ウザかったりベタ付きすぎていたかなぁ……?」
俺が寂しさのあまり不安定になり、ありもしない想像に陥っていると、フィエは慰めるように言った。
「コバタ、旦那様。今回の振り分け、そういう意図はないから安心なさい。
ホラおいで、よしよし。ククちゃんだけじゃなく私にも甘えていいんだからね。
…………ん、落ち着いた? ……大丈夫。わたしはいつだって誰よりも旦那様の一番近くにいる。それは絶対。だってお互いの心の中にいるんだから。
どうしても寂しいときは『下弓張月』でわたしの分身を出して話しなさい。わたしも寂しいときは旦那様を脳内シミュレート妄想して話すから。
あと、あえてこういう配置にしたのにはちゃんと理由がある。『全員をガッチリ生き残らせるために』この構成で組んでいる」
今回の配置に関してはフィエ・アーシェ・ククノ・メルによって合議が行なわれている。割り振りの理由をフィエは説明した。
「まず、わたしの行くホームはしばらく危険が及ばない位置だから安心して。メルちゃんの巡回によって情報はここに集まる。それを政治・軍事視点で判断する。
ここは施設もしっかりしているっていうし、なにより防衛において最強のアーシェ様がいる。まとまった軍が来ない限り鉄壁だよ。
クィーさんとハーレン様を組ませて山荘配置したのは、まだ襲撃があるか不確定な位置だから。警戒・監視しつつもハーレン様に魔法訓練をさせたい。
ハーレン様は『法掌二ツ』の『管理・裁決』タイプだから、これを機会にもっと魔法を覚えて貰いたい。クィーさんが言うには『貴族血統は"癒しの帯"の発現率が高い』みたいだから、上手くいけば癒しが出来る人が増えてくれる。
ララさんとレルリラさんを組ませたのは、このふたり、かなり相性がいいから。お互いに学ぶところもあるっていうし、ともに実行力が高い。
近隣が危険と判断したときはレルリラさんの『早駆け』でララさんを運んで貰えば、緊急避難・他拠点への合流をしやすいのもある。
そしてコバタとティフェちゃんディドアちゃん、トゥイさんを帝都に配置したのは、なんだかんだ帝都は防衛能力高くて安全安心だから。
ウチはなんだかんだ『わたしの旦那様が主軸』なんだよ。コバタがいるからみんなが目的意識を強く持てているの。
いい、旦那様。ちゃんと『ウチの子として定着するよう、3人の面倒を見て満足させるように』しなさい。……まだティフェちゃんディドアちゃん、トゥイさんは『コバタ家』にシッカリとは馴染んではいない。
それは、旦那様が役割をまだ果たしていないから」
……フィエは大真面目で、割とトンデモナイことを言っている。
「……一応聞くけど、俺の役目って?」
「決まってるでしょ。ウチの古参メンバーは『コバタの子供を産みたい』そして『幸せに暮らせる世界を守りたい』という共通目的で動いている。
あの3人はまだ、そこの意識が薄い。身も心も染め上げてやりなさい。ちゃんとウチの子としての自覚を持たせなさい。
それが出来るのは旦那様だけなんだから」
「やっぱり、エッチなこととか……そういう感じになるの?」
「えっちしなければ子供は産まれない。そして旦那様とえっちする関係にならなければ『ウチの一家を構成する』とは言えないでしょ?
……大丈夫、コバタの奥方様はわたし。旦那様が受け入れた女の子なら、わたしもちゃんと面倒見る」
俺は最近、フィエがよく分からない所もある……。最初は独占欲を出しながら嫉妬してくれたのに、今となっては受け入れ態勢が整ってしまっている。
……フィエにとって『奥方様』という呼称はそこまで意識改革が行なわれるものだったのだろうか。
「……わかった。……俺は3人を、ちゃんと女の子として扱うようにする。
ハーレンの時みたいに変に避けたりはしないから」
「…………ウン。……ちゃんと、またあとで、報告してね。
メルちゃんの伝言に任せるんじゃなくて、直接会いに来て報告を入れてね」
……やはり、嫉妬の感情がないわけでもないらしい。ウチの奥方様の女心は、中々に複雑なもののようだ。
その2日後から、俺と偵察双子姉妹とトゥイ、4人の共同生活が始まった。
そしてその初日の夜から俺は思った。フィエは『帝都は安心安全』と言ってはいたものの、女の子って割と安全ではない存在だと、再確認させられた。
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