3-30.最新情報と戦略会議
ククノとの長い語らいの翌日。
俺、フィエ、アーシェ、ククノ、メルが集まっての会議が始まった。
ララさんとクィーセは前日から引き続きの作戦行動が終わってから合流する。レルリラさんはサーカスでの出番に穴を開けてしまっていたので、そちらの補填だ。
トゥイは起き出してきて一緒に朝食を取った。朝食の席で抜け目なくアルメ奥様とコネクションを作っていた。今はお茶しながら歓談している。
まず、情報をメルが出す。
「ここ数日で『連絡が頻繁ではなく、孤立気味の部隊』の多くを排除しました。
ご主人様が排除されたような『騎士団などにおける思想洗脳者・扇動者』もかなり対処出来ているものと思います。
……しかし、敵の本丸と言える部分はこれからになります。
先だって行動を起こした『ネズミ甲3・クロマル』のような部隊がまだ存在し、一部は異変に気付き始めています。
不利を悟り鎮静化すれば何よりですが、相手からすれば『追い詰められて動けなくなる前に一花咲かせてやる』と強引な行動に出る危険性もあります。
そしてトゥエルト方面からも予兆。ペリウスの船団が通行許可を求めた上で脅迫を行ないました。『早期の返答なくば実力にて』とのこと。
トゥエルト国王は穏健派です。国民とイネが大切なお方なので、一定の面目を保ちつつも、これを許可する方向です。
こっそりウイアーンに対しても『早駆け』使用者による警告の通信を出しています。両者を衝突させ、消耗を狙う考えでしょう。
ヌァント王国も反応し、ヨチカ傭兵団・ゼルピオ民衆国への警告を発しています。あちらもあちらでなかなかにキナ臭くなっている。
シャールト王国は『対岸』との戦線から距離が遠く、やや危機感が薄めですが、ヌァント・ウイアーン双方に協力を申し出ています。
そしてメルトヴィロウス王国もペリウスに連動。東イェルト中央・ラートハイト付近への進軍を開始しています。
最後にフォルクト王国。こちらから規模のある進軍情報。ひとつは正規軍。もうひとつは宗教勢力によってまとめられた軍隊ですね。
一気に動き出しました。……そして、ラパルペルア・ロドン。
ここだけがまだ、姿を見せない」
メルの報告が終わると、ククノが発言する。
「此度の遠征において派遣された将軍、ホノペセタリクは壮年であり熟練している。……強き将軍ではある。生き残り、磨かれた手腕を持っておる。
しかし、彼の用兵は一世代前のものなのじゃ。『将軍本人も、彼に心酔し付き従う兵たちも』現状では本国において使い道がない兵力じゃ。
かといって、雑に捨て駒・特攻兵とするわけにもいかぬ。それは『時代遅れの兵はお荷物であり、負担でしかない』と言っているようなものだからのぅ。
それは『現状抱えている最新の精鋭』の士気にも関わるのじゃ。自分たちの将来を予期させるものであるからの。
よって、此度の遠征は『異国への足掛かりを作る』という名目の『名誉の戦死』という任じゃ。ホノペセタリクならそれは充分察しておろう。
……じゃが、奴らは『それでもうまくやる』ことへ熱意を燃やす。ラパルペルア・ロドンの兵どもは、犬死であっても戦果を求める。
よって、取られる戦法も見えてくる。捨て鉢になられた方が分かり辛い。
……ここじゃろうな」
ククノは卓上に広げられた地図の一点を指差す。ウイアーン帝国の南西の端、海沿いの街ヘルカトナジオ。
ククノは続けて言う。
「ここには『大規模な塩田』が存在すると聞いた。塩は重要な生活必需品であり、その不足は大きな社会への混乱をもたらすのじゃ。
この都市への大規模襲撃、及び破壊。……以降は海上の交易路を抑えての通商破壊を行なうであろう。当然のこと、海上からの沿岸への襲撃は継続する。
つまり兵糧攻めの一種。塩と輸入品を大幅に潰す戦略じゃろうな。
……ウイアーンへ与える被害や混乱は大きいじゃろう。とはいえ……あの程度の軍隊で長く続けられるものでもないのじゃ。
代替的な手段、陸路での輸入によって物資不足の混乱は多少緩和するであろうし、本格的にウイアーン軍を向けられたら敵うはずもない」
ククノの話からすると、ラパルペルア・ロドンから派遣された戦力は『死ぬことを目的の一部とした軍隊』だ。
用兵にしても……なんともイカれた冷酷さだ。『狡兎狩られて……』とはまた違った状況だが、役に立たなくなったら処分されるという意味に変わりはない。
ククノの説明を受けて、アーシェが少し悲し気に話す。
「……私はこの件、何としてでも『派遣軍との交渉による停戦・およびラパルペルア・ロドン兵士の受け入れ』を模索できないかと思います。
好機を見計らっての海上からの襲撃。防衛だけでも大被害でしょう。
ウイアーン帝国は勿論のこと、交易先であるシャールト王国・ヌァント王国が受ける被害は甚大なものとなります。経済的混乱が発生します。
……ククノーロ、あなたや私の手腕で交渉は行なえませんか……?」
「……機会あらば努力しよう。優しきアーシェ。
じゃが『できたらいいな』という楽観は捨てよ。……残念じゃが提案された『停戦や和解』は計画に組み込んではならない性質のもの。
アーシェ、そう悲し気な顔をするでない。機会があったら、取り組めばいい。
……何より、上手く懐柔してペリウス軍にぶつけられればこの上ない」
こういった話をまとめる形で、フィエが発言する。
「アーシェ様、まずは近場の安全。
悲しい命令を受けてしまった『砂漠向こうの兵隊さんたち』は飽くまで外部から攻めてくる敵でしかない。
世界が荒れゆくとなったら、まず近場の人たちの安全。
もし大きな被害を出してしまったら、今はまだ可能性がある『砂漠向こうの兵隊の受け入れ』なんて絶対に無理。住民感情がそれを許さない。
余計な混乱は、戦後の復興にも大きく影響すると思います。
……我々は今まで混乱を広げないように『例の組織』への対処を行なっています。分割され潜伏した部隊への各個撃破。
ただ、本格的な開戦の時はもう迫っています。……きっとここから先は『軍事行動としての対処』になります」
フィエの発言に、俺は要素を追加する。
「メルによって先日、引き合わされた商人……分配屋のトゥイは『信用や報酬で人間を動員できる』立場にある。
戦争へちょっかいをかけるという危険度が高い仕事だから、報酬も高くなるかもしれないし、雇われの身でどこまでついて来てくれるかは未知数だ。
……とはいえ、それを見越していたんだよな。メル?」
メルは静かに頷き、話し始める。
「……現状、ウイアーンにおいて皇帝陛下の動員力はやや低い。
それに兵というものは基本的に『謁見も出来ぬ相手である皇帝陛下より、自らが信頼を置く部隊長』についてくるものです。
トゥイーズセッケルなら、割とマシな人間……表の人間を連れてこれる。
そして我が実家より『餞別』もあります。……立場的に『嫁入り道具』とはなりませんでしたが。……こちらの紙を御覧ください。
さて、どういたしましょう?」
俺たちは、メルが取り出してテーブルに置いた紙を覗き込んだ。
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