3-25.度胸アリ・愛嬌ナシ・状況悪シ・死狂ナリ
トゥイとの面会の翌日。
宵の口、メルの実家。本宅の一室。会見用のお部屋。
俺とメル、そしてサポート役のトゥイは会見部屋に入った。
メルの親父さん。ジャルクホウは座ったまま無言、視線だけで出迎えた。
彼らは任侠稼業、礼儀にはうるさい人種のはずだ。つまり『対応=感情or立場』のはずだ。……相手は目上だ。この対応は当然だ。ビビるな。
目が怖い。睨まれたりなどはしていない。でも……普通の人の目ではないのだ。
落ち着き、じっとこちらを見据える目。……そう、これは優位者の目。何も恐れずにこちらを値踏みする目。ある意味では、無遠慮な目。
「お前ェさんか。ウチの秘蔵ッ子に手ェ付けたのは?」
最初が肝心。……俺は、クソ度胸を出す。ビビったように見せないよう、ゆっくり姿勢を正し、頭を下げる。
「コバタと申します」
「名前なんて聞いてねェよ」
相手は穏やかな口調で、バッサリと俺の返答を斬った。『名前なんて聞いてない=覚える必要がないor死』なのか。……いや、まだ死んでない。話せる。
「はい、メルお嬢さんに手を付けました」
実際のところ、俺は単に手を付けるどころではない。俺のこの手でメルの小尻を叩き、いい音を鳴らしてさえいる。
「もう名前、縮めて呼んでンのか。あァ?」
イカン、イカン。これは礼儀に反した行ないだったか。確かに親御さんの前で愛称呼びはイカンかったかも知れない。
メル、そしてトゥイも何も言葉は発さない。……ふたりは度胸がある。ビビるわけない。つまりサポートの言葉はまだ必要のない場面だ。
「はい。親しくなって、今はこのように呼んでいます。
メル、そうだよな」
「はい、ご主人様。そう呼んで頂けて嬉しく思います」
俺は攻めの姿勢を見せた。メルに問いかけることで、合意のアピール。
……だが、本当に良かったのか? 悪手ではないのか?
しかし、相手の表情は動かない。何を考えているか分からない。……この場で怒りを隠す必要がある立場の御方ではない。顔に怒りが浮かばないのならセーフだ。
「でよォ。メーちゃんはさ、なんでここでもメシツカイの服着てンだ?
ここじャア、『メシの用意』も『使いッパシリ』もしねェだろ?
それに……なンでその、……脚見せてンだ?」
ミニスカメイドは儀礼的な服ではないかも知れない。しかし、メルにはあえて着用させた。……今回伝えずに、後からバレる方が心証は悪い。
「ご主人様の趣味です。身を尽くしてお仕えしています。
いつ如何なる時でも、私は主人であるコバタ様に尽くす覚悟を持っています」
ミニスカメイドなんて序の口だ。……今回、俺が一番不安に思っていること。
それは『娘さんの性癖の暴露』だった。ここは伝えるべきか迷ったところだが、これも後からバレると非常にマズイ点なのだ。
世の中、名前を取り違えられるとヤバいものがある。……それが『SM』か『DV』かという点だ。プレイなのか、そうでないかの差は大きい。
メルにもその点は、親御さんの理解を得ないとマズイと伝えてある。
「んン……? メーちゃんさァ……。
『主人』ッてことはもう婚約してンのか? ウチの家に入るンだよな?」
「いえ。婚約はしておりません。コバタ様には正妻となられる方がおられます。
私はこちらの『コバタ家』で、飼っていただく所存です。
夜には、他の側室の方々と同様、可愛がっていただいております」
メルゥッ!!! アカン、アカン、まだ早い。ステイステイストップ!!!
なんでいきなりドバーッと情報出しちゃうの……! ……しかもモジモジして顔赤らめてるんじゃねぇよ、羞恥プレイやってるんじゃないんだぞ……!
……しかし、親父サンは少し顔を顰めただけだった。
「メーちゃん。そういうことァさ、大ッぴらに言わねェの。
昔ッから……まァ、今言うことでもねェか。目出度い席なンだから」
……?! 『メデタイ席』……だと……ッ?! 自分の娘が『クソドM奴隷でミニスカメイドの愛人』にされて、メデタイってことはなくないか?!
……まぁ、そう言ってくれるなら何の問題もないんだが。
「ンで、そッちのネェちゃんは何よ?
側室の一人?」
その疑問には、トゥイが答えた。
「ええ。まだお手付は頂いておりませんが、これから。
まずは付き従うことを学ぶため、今回無理を言って同行させて頂きました」
…………?! え、え、え、え、え?
おま……トゥイ……サポート役として呼んだのに……ナニ言ってんだ。
「……なァ、コバタよォ。
ウチのメーちゃんの他に、何人いるンだよ?
どういう縁だ、話してみ? 女関係」
トゥイは無表情な愛嬌ナシの顔のまま、度胸アリの態度で俺にとっての状況を悪しき方向に導いている。…………なぜ?
イヤ、まず答えねば。
「まず、俺の嫁であるフィエ。その友人のララさん。ふたりの知り合いであるアーシェ。その職場の同輩であるクィーセ。海から拾い上げたククノ。ソーセス様邸で知り合ったメル。その縁で知り合ったレルリラさん。ソーセス家長女のハーレン。……そして、ウチの一家ではありませんが……そちらのアルメ奥様です」
正直過ぎるほど正直に答えたが……俺ってロクでもないなマジで。
「……で、その子は誰ちゃんよ?」
「トゥイは、最近出会った商人で」
「あァ?! 手ェ付けてないとはいえ、何で今、言わなかッた?!
可哀想だろうがッ! 本人の目の前でッ!!」
メルの親父さんが初めて怒りを見せた。俺は表情は崩さずに耐えた。……クッソ怖い。少し漏れた。
「お待ちくださいませ、ジャルクホウ様。
これは温情です。私自ら、ご紹介させて頂く栄誉を頂いたのです。
トゥイーズセッケル、分配屋をしております。
信用を勝ち得ることを何よりの美徳と思っております。
そして今、愛を勝ち得るために生きております」
トゥイの言葉に、メルの親父さんの怒りはすっと引いた。……?? 何が起こったんだ、コレは。
メルの親父さんは、少しジロジロとトゥイと俺を見てから、口を開いた。
「ン……分配屋、分配屋かァ。
チョット商売敵だねェ。……それで連れてきたッてのか、スジ通すために。
そンなら……ま、悪くは見ねェさ。ウチのメーちゃんと仲良くしてやッてな。
アンタの商売、ウチは文句付けねェし、他にもクチは出させねェ。
困ッたこと有ッたら言いな。ウチと縁が有る身になッたンだからよ」
……トゥイ。コイツまさか。
…………ヤクザ屋さんはある意味『人材』を扱う職業だ。『商売敵』とはそういうことだろう。……それが敵対するのを、封じた。
たくましいなコイツ! 俺の足引っ張りやがったけど!
……でも、一歩間違えたら死ぬ場面じゃないのか? その鉄面皮の奥で、何考えてるんだコイツ……?!
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