表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/154

3-22.彼果てて、枯れ果て、枯れ葉散る


 ………………。


 サバト翌日、昼。


 俺は目覚めた。


 なんで俺は生きているんだろう。それとも一度死んで、生まれ変わったのか。俺は分からない、知りたい。……昨夜、俺は何を得て、何を失ったんだろう。


 これが……俺の望んだこと? 俺が望んで得られたことなのだろうか?


 今、隣で眠っているのはハーレンだ。そう、ハーレンだけ。他のみんなは気を利かせたのだろう。……優しい心遣いするなら、サバトも考え直せよ……。


 ハーレンを抱き寄せようとするが、それは叶わない。


 メルが持ってきた拘束用具で、四肢を固定されたままだから。……キツくないからいいけど、ちゃんと外してよ。外して行ってくれよ……。


 ソーセス邸の一室、現在の俺の寝室。


 ハーレンは、清純な寝顔で寝息を立てている。……目覚めた後も清純でいて欲しいと願うのは、俺のエゴなのだろうか。


 ハーレンに目覚めの声掛けをしようとするが、叶わない。……猿ぐつわされたままじゃねーか。さすがにフガフガ声でハーレンを起こしたくないな。


 やがて、ハーレンは目覚めた。俺と視線を合わせる。




「……おはよう、コバタ殿。


 こんな風に、目覚められるなんて。


 ……すてき。


 …………なんて、ステキなんだろ。


 ……えへへ。


 ふふ、かわいい。


 …………うふふ。ふふっ。……ふふふ。


 ……こうやって、縛り付けられているあなたって、素敵ね。


 優しそうで、怖くなさそうな人だって思っていたけど……。


 旗取戦での勇ましい姿を見て、少し……怖く感じてしまったの。


 だから分からなくなってしまっていたの。……ほんとうに、すきなのか。


 こわく思ってしまっていたから、それが分からなくなっていたのね。


 …………ふふ。えへへ。


 ……ね。寄り添うこと、それって幾つも解があるのよ。


 あの砦で助けられて、抱き上げられていたとき、実は不安だったの。


 つよい魔法使いから、我を取り返してしまうあなたって、こわかったの。


 こわいから。だから必死でしがみ付いて、あなたの唇を求めた。


 あのときはきっと『あなたが怖いから寄り添おうとしてしまった』のね。


 でも内心、本当に『スキ』なのか、不安になってしまったの。


 ……。……ん。…………。


 …………でも、こうしていれば、すごく安心できる。安心なの。


 こんな状態のあなた、こんな状態のあなたを見て、愛しく思えるの。


 こういう形で『寄り添うこと』が、あなたへの愛を気付かせてくれる。


 コワくないのに、好き。……だからきっと、本当に好きなの。


 ふふっ。……えへへ。


 ふふふふ。


 ……ね。もうちょっと、このまま我慢してね。


 ね。お願い…………。


 え……ダメ? ……えぇぇ、そんなのこそ、ダメよ。


 だって、ね。ほら。……足りないんだもの。


 ………………。


 …………ん~? 何言ってるか、わかんないなぁ。困ったなぁ……。


 ……ふふふっ。だぁめ。


 ……いい? これは命令よ、上官命令なの」




 アカン、ハーレンがアカン状態だわこれ。アカンですよこれ。


 ……なぜ? 軍を率いるわけでもないのに、なぜ上官としての立ち位置に?


 魔女の集会で、乙女でなくなったハーレンは、ソフトSに目覚めていた。




(略)(略)(略)(略)(略)




 ……俺は気を失っていた。ハーレンはいない。……やっと、終わったか。


 ハーレンは痛みは与えてこなかった。ただひたすら、淫らなソフトSだった。


 ……彼女はきっと、歪んでしまった。


 まず、俺に蔑ろにされ傷心した。護衛さんが殺された。変態に監禁を受けた。劇的に救出された。そして昨夜、母親同伴でサバトに参加した。


 普通の人生で、数日の間に、こんなよく分からない状況になることなんてない。


 ハーレンは矯正不可能なほど歪んだのか、一時的な錯乱なのかは分からない。


 とはいえ。


 ……あのさぁ、なんでまだ拘束が解かれていないの?


 俺は首を横に向ける。


 ハーレンはいた。ベッドから降りて、段差に隠れるよう顔を覗かせていた。


「寝顔、かわいかった。……ずっと見てた」


 俺は返答なのか、恐怖の叫びなのか、猿ぐつわされたまま声をあげた。


「ね、まだ足りないの。


 まだ足りないの、まだ足りないの。


 あなたが他の人たちに、今までしてあげた分と同じくらい、したいの。


 まだ、足りないの」


 ハーレンの声は甘い。……オマエ、昨日までの純情はどこに捨てた?!




(略)(略)( )




 ドクターストップ。ドクターストップが掛かった。


 フィエが様子を見に来てくれたのだ。


 フィエとアーシェが今、俺を看病してくれている。ハーレンはメルとララさんに緩やかな拘束を受けて退場させられた。


「……あの、枯れ葉が落ちたとき、俺……」


「枯れ葉? ……旦那様。あれ、絵だから葉は落ちないよ」


「コバタ、気をしっかり持ちなさい。


 ……まさか、ハレンがここまで無理をさせるタイプとは思いませんでした」


「……アーシェ。


 言いたくないけど、自分の血筋、考えろ」


 アーシェはひどく赤面した。……そりゃ、身に覚えも、見覚えもあるもんね。


「まぁまぁ、旦那様。


 ……だからさ、変に焦らし過ぎるの危険だと思ったんだよ。


 あ、言ってなかったっけ。……わたしが『なんかヤバイい雰囲気』感じたの。


 ……なんかさ、営んでいるときに誰かに聞かれている気がしたんだよね。


 皆に確認してみたら、何人もそれに気付いていた。


 ……ずっと、夜通し聞き耳立てちゃう女の子って、少し危険に思えてね。


 まぁ、ウチで引き取ったし、もう安全だよね」


「安全じゃないのが今、証明されたばかりなんですけど」


 フィエは、ニコリと笑った。


「あはは。多分、収まるよ。大丈夫。


 それでね、話は変わるけど。


 わたし、昨日の講習会の内容おさらいしたいな、って思って様子を見に来たの」


 ……あ、あ、あ、あ。……フィエの目は色欲に濁っている。


 危機感。先ほども感じた命の危険が再び。……俺は


「フィエ……ッ、俺はフィエが大好きだ! 愛してる……ッ!


 ……でもさ、でもさ、俺、その、もう、限界で……」


「大丈夫、大丈夫。ムリさせないから安全だよ」


 俺は思う。前に俺は『フィエはちょっとエッチなところがある』と思っていたけど、遠慮させちゃっていた部分あったのかな。


「安全じゃないのが今、証明されている最中なんですけど。


 ……アーシェ?! 気を利かせて席外さなくていいから!


 助けて。ムリなの! もう……あ」


 もう、手足を拘束する枷はない。とっくに外されている。


 でも俺は、フィエから逃げられない。心も身体も逃げてくれない。

【ブックマーク・評価・感想など頂けると助かります】


筆者のやる気につながります。是非ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ