3-22.彼果てて、枯れ果て、枯れ葉散る
………………。
サバト翌日、昼。
俺は目覚めた。
なんで俺は生きているんだろう。それとも一度死んで、生まれ変わったのか。俺は分からない、知りたい。……昨夜、俺は何を得て、何を失ったんだろう。
これが……俺の望んだこと? 俺が望んで得られたことなのだろうか?
今、隣で眠っているのはハーレンだ。そう、ハーレンだけ。他のみんなは気を利かせたのだろう。……優しい心遣いするなら、サバトも考え直せよ……。
ハーレンを抱き寄せようとするが、それは叶わない。
メルが持ってきた拘束用具で、四肢を固定されたままだから。……キツくないからいいけど、ちゃんと外してよ。外して行ってくれよ……。
ソーセス邸の一室、現在の俺の寝室。
ハーレンは、清純な寝顔で寝息を立てている。……目覚めた後も清純でいて欲しいと願うのは、俺のエゴなのだろうか。
ハーレンに目覚めの声掛けをしようとするが、叶わない。……猿ぐつわされたままじゃねーか。さすがにフガフガ声でハーレンを起こしたくないな。
やがて、ハーレンは目覚めた。俺と視線を合わせる。
「……おはよう、コバタ殿。
こんな風に、目覚められるなんて。
……すてき。
…………なんて、ステキなんだろ。
……えへへ。
ふふ、かわいい。
…………うふふ。ふふっ。……ふふふ。
……こうやって、縛り付けられているあなたって、素敵ね。
優しそうで、怖くなさそうな人だって思っていたけど……。
旗取戦での勇ましい姿を見て、少し……怖く感じてしまったの。
だから分からなくなってしまっていたの。……ほんとうに、すきなのか。
こわく思ってしまっていたから、それが分からなくなっていたのね。
…………ふふ。えへへ。
……ね。寄り添うこと、それって幾つも解があるのよ。
あの砦で助けられて、抱き上げられていたとき、実は不安だったの。
つよい魔法使いから、我を取り返してしまうあなたって、こわかったの。
こわいから。だから必死でしがみ付いて、あなたの唇を求めた。
あのときはきっと『あなたが怖いから寄り添おうとしてしまった』のね。
でも内心、本当に『スキ』なのか、不安になってしまったの。
……。……ん。…………。
…………でも、こうしていれば、すごく安心できる。安心なの。
こんな状態のあなた、こんな状態のあなたを見て、愛しく思えるの。
こういう形で『寄り添うこと』が、あなたへの愛を気付かせてくれる。
コワくないのに、好き。……だからきっと、本当に好きなの。
ふふっ。……えへへ。
ふふふふ。
……ね。もうちょっと、このまま我慢してね。
ね。お願い…………。
え……ダメ? ……えぇぇ、そんなのこそ、ダメよ。
だって、ね。ほら。……足りないんだもの。
………………。
…………ん~? 何言ってるか、わかんないなぁ。困ったなぁ……。
……ふふふっ。だぁめ。
……いい? これは命令よ、上官命令なの」
アカン、ハーレンがアカン状態だわこれ。アカンですよこれ。
……なぜ? 軍を率いるわけでもないのに、なぜ上官としての立ち位置に?
魔女の集会で、乙女でなくなったハーレンは、ソフトSに目覚めていた。
(略)(略)(略)(略)(略)
……俺は気を失っていた。ハーレンはいない。……やっと、終わったか。
ハーレンは痛みは与えてこなかった。ただひたすら、淫らなソフトSだった。
……彼女はきっと、歪んでしまった。
まず、俺に蔑ろにされ傷心した。護衛さんが殺された。変態に監禁を受けた。劇的に救出された。そして昨夜、母親同伴でサバトに参加した。
普通の人生で、数日の間に、こんなよく分からない状況になることなんてない。
ハーレンは矯正不可能なほど歪んだのか、一時的な錯乱なのかは分からない。
とはいえ。
……あのさぁ、なんでまだ拘束が解かれていないの?
俺は首を横に向ける。
ハーレンはいた。ベッドから降りて、段差に隠れるよう顔を覗かせていた。
「寝顔、かわいかった。……ずっと見てた」
俺は返答なのか、恐怖の叫びなのか、猿ぐつわされたまま声をあげた。
「ね、まだ足りないの。
まだ足りないの、まだ足りないの。
あなたが他の人たちに、今までしてあげた分と同じくらい、したいの。
まだ、足りないの」
ハーレンの声は甘い。……オマエ、昨日までの純情はどこに捨てた?!
(略)(略)( )
ドクターストップ。ドクターストップが掛かった。
フィエが様子を見に来てくれたのだ。
フィエとアーシェが今、俺を看病してくれている。ハーレンはメルとララさんに緩やかな拘束を受けて退場させられた。
「……あの、枯れ葉が落ちたとき、俺……」
「枯れ葉? ……旦那様。あれ、絵だから葉は落ちないよ」
「コバタ、気をしっかり持ちなさい。
……まさか、ハレンがここまで無理をさせるタイプとは思いませんでした」
「……アーシェ。
言いたくないけど、自分の血筋、考えろ」
アーシェはひどく赤面した。……そりゃ、身に覚えも、見覚えもあるもんね。
「まぁまぁ、旦那様。
……だからさ、変に焦らし過ぎるの危険だと思ったんだよ。
あ、言ってなかったっけ。……わたしが『なんかヤバイい雰囲気』感じたの。
……なんかさ、営んでいるときに誰かに聞かれている気がしたんだよね。
皆に確認してみたら、何人もそれに気付いていた。
……ずっと、夜通し聞き耳立てちゃう女の子って、少し危険に思えてね。
まぁ、ウチで引き取ったし、もう安全だよね」
「安全じゃないのが今、証明されたばかりなんですけど」
フィエは、ニコリと笑った。
「あはは。多分、収まるよ。大丈夫。
それでね、話は変わるけど。
わたし、昨日の講習会の内容おさらいしたいな、って思って様子を見に来たの」
……あ、あ、あ、あ。……フィエの目は色欲に濁っている。
危機感。先ほども感じた命の危険が再び。……俺は
「フィエ……ッ、俺はフィエが大好きだ! 愛してる……ッ!
……でもさ、でもさ、俺、その、もう、限界で……」
「大丈夫、大丈夫。ムリさせないから安全だよ」
俺は思う。前に俺は『フィエはちょっとエッチなところがある』と思っていたけど、遠慮させちゃっていた部分あったのかな。
「安全じゃないのが今、証明されている最中なんですけど。
……アーシェ?! 気を利かせて席外さなくていいから!
助けて。ムリなの! もう……あ」
もう、手足を拘束する枷はない。とっくに外されている。
でも俺は、フィエから逃げられない。心も身体も逃げてくれない。
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