3-20.【アーシェルティ】箱入り娘の最終解
体罰描写がありますが、世界設定としてご容赦ください。
中世っぽい時代の価値観としての表現です。体罰を肯定するものではありません。
私は今、19歳だ。もう少ししたら20歳になる。
私は子供のころ、こう思った。『この世界は奇妙だ』と。
現在の認識は『私は口が悪い』に変わった。だが子供の頃はそれに気付けなかった。なぜ思ったままを口にしてはいけないのだ、と思っていた。
それは両親によって矯正された。……昔のことだからもう曖昧だけど、おそらくは内心、子供心に納得がいっていなかったのだろう。その気持ちが両親を苦手にさせた。
両親の教育方法は、段階方式だった。
まずは優しく注意する、それでダメならハッキリ注意する、それがダメなら厳しい声で注意する、それでもダメなら軽く叩かれる、それでもダメなら軽く痛むように叩かれ……行くところまで行ってしまった場合は鉄拳制裁だ。
最終的には前時代的な教育方法となるが『注意を受けて改善しなければ、行き着く先はひどいものとなる』という、一応理屈が通ったものではある。
私は大体、『ハッキリ注意される』段階で改善を行なうようになった。
……今にして思えば、両親とて娘に鉄拳制裁などしたくなかったのだろう。両親は基本的に……『ネットリと執拗に、優しく注意』を行なってきた。正直、それはそれで気持ち悪かった。
私が8歳のとき、7歳のハレンと5歳のメーラケンスがウイアーンから遊びに来た。もっと小さな子たちは来なかった。向こうでソーセス様と使用人が面倒を見て、保護者としてはアルメ姉様だけがこちらに来た。
当時のハレンはやや小心な女の子で、メーラケンスはクソガキだった。
両親とアルメ姉様の話が長引いたので、子供たちだけで先に食事をとることになった。メーラケンスはクソガキだった。
私は『子供たちの中での年長者』として、食事マナーが悪いメーラケンスにハッキリと注意を行なった。だが、メーラケンスはクソガキだった。
私は、ハッキリ注意しても聞かないメーラケンスに鉄拳制裁した。……段階を結構飛ばしているが、メーラケンスはクソガキだったので『これくらいしないと聞かない』と思った。
そのときハレンにも言った。
「貴女はお姉さんなのでしょ! 貴女もシツケなきゃダメでしょ!」
ハレンは当時『クソガキな弟に振り回されるタイプの姉』だったので、これを機会にこちらも改善しなければと私は思った。
ハレンは私にビビったのか、おそるおそる弟をポコンと叩いた。……それ以降メーラケンスは『それなりに聞き分けするガキ』になったという。姉弟の力関係やら、その性格とかも変容していったようだ。
その後、事態を把握した両親に私は叱られた。
ただ、アルメ姉様はそうでもなかった。
「アーシェルにも考えがあってやったことなのです。そう、叱らないよう」
この出来事が関係したか分からないが、一年後、私は徒弟に出して貰えることとなった。そっちでシツケ直して貰うつもりだったのだろう。
そしてメリンソルボグズの街へ。
光教団に行ってから気付いた。私は割と上等な方だと。
そこで頑張った私は、教練の場、奉仕活動の場、祈りや儀式の所作、その他諸々がすべて一等賞で追加でオマケが貰えるくらいに優秀だった。
正直、それで人が周囲に集まってくるのには困った。それを追い払うことなど失礼に当たるし、それまであまり子供付合いをしてこなかったので苦手だった。
私はそのころ、静かな環境に飢えていた。前の環境に比べて、人が多くてウンザリしていた。
そんな時だ、ララトゥと運命的な出会いをしたのは。
最初はトティツ様と棒術訓練を行なっていたのだが、デカいオジサンと10歳の少女が訓練していると、周囲から見て『イジメてるみたい』という評価が出た。
トティツ様は私の資質を見抜き、ややハードな訓練をしてくれた優秀な方なのだが、それと同時に外聞を気にする立場でもあった。
トティツ様は『ヨチカ傭兵団の宣伝要員』なのだ。それが『少女を訓練で虐待している』などと風評を立てられたら、たまったものではないだろう。
……ちなみに当時の私は『美少年みたい』と周囲の女の子からチヤホヤされていたが『どういう了見でヒトを男扱いするんだ』と嫌悪していた。
ただ、私に対するそんな風評を少し許せる気持ちになった。……ララトゥは綺麗だった。その容姿も性格も素敵だった。崇拝する気持ちを初めて持った。
そしてララトゥは5歳年上、それが一番近しい姉様を思い出させた。よく憶えていないが、なんか良い印象のある姉様だ。
多分、ララトゥと姉様とは似ていないのだが、慕う気持ちで溢れた。
ララトゥとは訓練だけでなく、色々な話をした。共通の好みもあった。『格闘王レルム』の歌は二人とも好きだった。……カッコイイ格闘王、いいよね。
ララトゥは歌詞から感じられるロマンチック雰囲気に憧れ、私はそのガチなファイトスタイルを尊敬していた。
あるとき、『格闘王レルムがこの街にいる』と聞き及び、ふたりで見に行ってみた。……それは腹の出たオッサン、ケルティエンズ筆頭執行だった。絶対にニセモノだ。詐称だ。あんなヤツがレルムなわけない、と二人で話した。
私は親しく語り合える人が、ちゃんといるんだと学んだ。
さて、時間は飛んで。
完璧で幸福なフィエエルタ様に、私はシツケ直して頂いた。
素晴らしく幸福なフィエエルタ様の恋人、コバタは私にとっても運命を感じさせる人だった。ちょっと冴えないが優しい、私の愛する人だ。
私が感じる息苦しさを消してくれた。あの人と交わった場所ではそれが消えた。だからハシタナイとは分かっていても、家中を、場所を変えては交わった。
そして、卑しいゴミカスで盗人の私は、完璧で幸福なフィエエルタ様に制裁……いえ、シツケ直して頂いた。
完璧で幸福なフィエエルタ様とコバタは、私を従えてくれる。私が内心に不安を抱えると、優しく幸福を注入してくれる。
フィエエルタご主人様は導く者、私は満ち足りている。ご主人様は私を白布の寝台に休ませ、幸多き従属へと導き、心を生きかえらせて下さる。
そして今、フィエエルタご主人様は家族会議にてひとつの提案をした。
私は久しぶりに『この世界は奇妙だ』と感じたが、その感覚を忘れることにした。それは幸福ではない発想だからだ。
フィエエルタ様はこう仰られた。
「皆さん、緊急招集に即応ありがとうございます。
我々は、新たに『家族として解決せねばならぬ問題』を抱えました。
問題点はアレだね。解決は難しくはない。
全ての問題を、一手で解決してみせましょう。わたしは奥方様だから!
ひとつ、おそらくハーレン様は性行為に対して恐怖感を抱かれている。
……いろいろ言ってはいるけど、結局こわくなって逃げたように思える。
ふたつ、アルメピテ奥様は、不倫関係にハマりつつも内心は恐れている。
……だってさ、最近わたしと目を合わせること怖がっているんだよね。
みっつ、それがソーセス様の御家、内部へ不和を及ぼす危険性がある。
……ここのところはウチの責任に当たるよね。解消しよう。
よっつ、我々は熟練者であるアルメピテ奥様に、技術で劣っている。
……まぁその。ウチの皆さん、熟練はしてないのでね。仕方ないね。
いつつ、それが旦那様に、性的な意味で足らない部分を感じさせてしまった。
……つまりは、自分たちで努力するだけではなく、学ばなければならない。
……性教育を。一心不乱の大規模性教育を。
アルメピテ奥様に今宵、技術講習会を行なって頂きましょう」
徐々に奇妙なこと、世にも奇妙なことになっている気がした。
だが、完璧に幸福な提案に、私は逆らおうとは思わなかった。
これがきっと……いえ、絶対に幸福になれる道筋なのだから。
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