3-15.【キーアベルツ】白馬の王子様
敵は想定より強い。自分を過信したか。ロマン求めてしまったのか。
執行官らしき褐色のオネーちゃんは、想定より魔法の威力が高かった。多分、繋がってるタイプの子なんだろう。
オレの『炸破』を警戒してくれて良かった。危なかった。可愛いオネーちゃんに傷を付けちゃうところだったよ。
最後にオレを刺したり、不可解なことを色々やってきたニィちゃんは……あれは容姿的に『迷い人』だな。
……なるほど『色狂いの迷い人』か。帝都に来ていたな。
……えっ、アイツもしかして褐色のオネーちゃんとヤッてんの?!! うらや……ましくないぞクソ。……イヤやっぱり羨ましい。ロマン感じてるね。
オレは砦から飛び降り出た。……さーて、撤退だ撤退。かわいい騎士見習のお嬢ちゃん連れて逃げよう。かわいい女の子と逃避行、ロマンだね。
来る途中にヤバ気なジジイがいたが、潜伏スルー出来ない相手ではなかった。万全ならともかく、この状態では戦いたくはない相手だ。
しかし……そいつと一緒にメイドもいたように見えたんだが、まさかこんな場所にいるはずがないよな。オレはロマンある幻覚でも見てしまったんだろうか。
警戒態勢になったメンバー共は決して弱くない。返り討ちにするにしろ耐えるにしろそれなりに成果は出せる。
……あ、やべぇ。今出てきた砦が『光の大爪』で覆われた。誰がやったんだよ、高度運用できる奴なんてほとんどいないのに。……虐殺タイム始まっちゃう。
まぁいい。時間稼ぎになるのには変わりない。
もうひとつある砦の方へ向かう。
あのお嬢さんはギャーギャー言うタイプじゃないから、仲間にも内緒で隣に移して隠した。そして普通に見付けられないように隠蔽した。
あの娘は大人しく従った。……一応、オレは敵なのに信頼してくれた。
……育ちがいいのか本人の資質的に性格がいいのかは知らないが、何というかああいう感じの子ってさ。
……俺の宝物を思い出しちゃう。
アイツラがあっちの砦に敵を引き付けている間に、持って帰っちゃおう。
お部屋。……良かった敵には見付かってない。敵の執行官、褐色オネーちゃんならすぐ気付きそうだし、早めに撤退だな。
ん、アレ……? 『敵の執行官』か……。オレ、すっかり『悪い魔法使い』の側になっちゃったな。ヤダねぇ。
「お嬢さん、拘束を解きます。オレについて来てくれますか」
騎士子ちゃんはオレを心配する目で見ている。
「……まずは、怪我を直すべきです。……ひどい怪我です。死んでしまいます。
投降すべきです。我が仲介に入ります。……もう、やめなさい」
「……うーん。ムリ。寝ててね」
女の子を気絶させるのって、オレのロマンとは程遠いなぁ……。出来れば、この娘が微笑みながら手を繋いでくれて……そして一緒に逃避行したかった。
抱え上げて、そのタイミングで下に気配。まだ外だが階段で鉢合わせそうだ。一度、屋上に昇ろう。
……外で魔力流動。……何かしたか。罠潰し用か。……相手からすればこの砦にどんなトラップがあるか分かったもんじゃないし、慎重にもなるよね。
屋上到着っと。ここから逆側に飛び降りて魔法の風に乗って着地して、あとは察知されない程度に『早駆け』すればいいだけ。
元エリート執行官の潜伏+移動技術ナメんなよ。森に逃げ込んだら絶対に追いつけんぞ。それを『北のクソ犬』と呼ばれたが、どう考えても今の状況は『白馬の王子様』なんだよなぁ。
……でもそれは、最後の難関を越えてからの話だ。
立ちふさがる男。……屋上先回りとか、やるねぇ。
「ニィちゃん。もうさ、見逃してよ」
「ハーレンを……可愛い女の子を、変態に連れ去られる。
アンタならそれを許すのか?」
……フム、ヘンタイに連れ去りか。そんなの許せないよね。…………アレ? もしかしてオレがヘンタイと思われているってこと?
相手が剣を持って歩み寄ってくる。……あの剣、危険。
相手は『不可解な火』は使えないはず。オレが騎士子ちゃん抱えているから。
先ほどの問いで分かった。この男も俺と同じ。女の子は傷付けたくない奴だ。まぁ『色狂い』って言われるだけはあるか。
……さて、久しぶりのアレでも使うか。仕方ない。
…………次の瞬間。
オレは天国にいた。
突如、周囲に裸の女の子がたくさん現れ、オレの身体を引っ張る。拘束される。
……ナニコレ、死の間際の走馬灯? 俺は負けたのか。死んだのか?
なんだと……可愛い子しかいねぇ! やはり天国? オレは死んじまっただ?
裸の女の子だらけ。おっぱい。……オレは動揺のあまり、魔法が全く使えない。
精神集中! 精神集中しろ! ……しかし術式は思い浮かばない。おっぱい。
いつのまにかオレの手の内から騎士見習のお嬢ちゃんは消えていた。
裸の女の子たちも煙のように消えてしまう。……そんなー。
騎士子ちゃんは『色狂いの迷い人』の腕に抱えあげられて、目覚めていた。
見つめ合う二人、熱烈に重なる唇。……ロマンだね、オレ以外の人の。
……オレはのうみそが破壊され、魔法が全く使えない。
ふたりはオレがいることも忘れたかのように、唇を求めあっている。
……おれは、もう、うごけない。のうみそ……、はか……うま……。
誰かが屋上に上がってきた。ニオイは消しているが、かすかな加齢臭がする。
オレは、さっき見たヤバ気なジジイに締め落とされ、気を失った。
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