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3-14.潜入・救出組


 俺とクィーセとメル、そしてガリュンテイさんは『早駆け』で砦の近くまで向かった。魔法が察知される範囲になったら普通の移動に切り替える。


 ガリュンテイさんは沈痛な面持ちで言う。


「ハーレンケンセお嬢様は繊細ではありますが、不屈の心を持っております。


 賊を前にしても取り乱さずにいるでしょう。彼我の実力差を見れば無謀なことはなさらない。つまりは『面倒ではない人質』と見られている可能性が高い。


 きっとご無事でおられることと思います」


 それは俺に向けての言葉であったが、ガリュンテイさん自身、自分にそう言い聞かせているようにも聞こえた。……ちゃんと心配してくれる人なんだな。


 だが、メルは冷めた目で言う。


「忠誠心があるように見せる、というのは技術です。


 この男の忠誠は、基本的にウチの親父殿です。それか自分自身」


「御無体なことを仰らないでください。メルスク様。……あ、ほら。コバタ様からの目線が微妙な感じに。その目線イタイです。心が抉られます。不信の目コワイ。


 メルスク様。これから作戦行動なのですよ。部隊の結束を乱してどうします。


 ……コバタ様、ご心配ありません。仕事をキッチリやるのが私の誇りですので。そこだけはどうぞ信じて下さいませ」


 ……まぁそうか。ガリュンテイさんはメルの実家から派遣されている人だしな。派遣先に忠誠心持ってかれるというのも、良くないことなのかもしれない。


「えと、頼りにさせて貰います。よろしくお願いします」


 ガリュンテイさんにそう言った俺にクィーセが口を挟む。


「じゃあまず、ボクを頼りにしてるとも言ってよー。コバタさん。


 メルスクさんとガリュンテイさんが組んで、ボクとコバタさんが組むんだから」


 クィーセは冗談めかした口調だが、俺はそこにちょっと重い感情が込められているのを感じた。……最近クィーセとコミュ不足だったし、寂しがっていたのか。


 俺はクィーセへ想いが伝わるよう、心を込めて返答した。


「俺はクィーセによく頼らせて貰ってます。今回もヨロシクです」


「うん。任されたよー」




 今回、潜入救出組は2組に分かれる。二方向から『監禁部屋』にアプローチすることで、救出の可能性を高めようということだ。


 屋内からが俺たち、屋外の壁からがメル組となる。この分け方となったのは『新月』の力は外部には見せない方針があるからと、タッグの連携力からだ。


 今回の作戦で初めて組むガリュンテイさんと、俺やクィーセが上手く連携できるかと言うと、かなり微妙な感じがある。


 砦近場に来た時、俺以外の3人が反応した。


「警戒されてますね」「厄介な、慎重ですなぁ」「ご主人様、注意を」


 ……えっ何が、と問う前に自分でも現状を理解しようと目と思考を凝らす。以前、クィーセ先生に言われた。思考レベルが低いと連携取りにくいって。


 (歩哨がいる → それは当然)


 (歩哨が俺にも見えている → つまり質が低い)


 (質が低い歩哨を見て、皆が警戒反応 → 内側が固められている)


「内部に入ってからがツラそうですかね」


「うん。相手は昨日感じた気配にしっかり対応して配置替えしたんだね。


 気のせいと片付けない。……でも相手は想定間違えた可能性があるね。『人質の潜入救出のみ』と思ったのかも知れない。


 この布陣なら……ララトゥリ姉貴たちが外から囲って削れば敵はジリ貧のはず。


 この……ボクの都合良い想像が当たるなら、いいんだけど」




 ある程度のクオリティはあれど、この精鋭メンバーにとって外部はザル。方向を分けての『監禁部屋』へのアプローチが始まる。


 昨日俺が聞いた『2階にある監禁部屋』という言葉は、基本的に過信してはならない。警戒をしたなら部屋を変えればいいだけの話だ。


 ではどうやって特定するかと言うと、声だ。ハーレン様本人の声がすれば最上。そうでなくとも内部会話で特定する。


 事前に図面でもって監禁に適しそうな部屋の位置は抑えてある。図面の写しはハーレン様の私室からお借りした。訓練時の作戦立案に使っていたらしい。


 図面がソーセス邸内にあって助かった。もし原本を取りに行こうとしたら、相手の慎重さによってはマークされていたかも知れない。


 俺とクィーセは入り口前で少し距離を開け、潜入を開始する。クィーセが前で、『新月』で透明化した俺が後ろだ。


 これはワイヤートラップを警戒した布陣だ。潜入経験の多いクィーセに先導して貰うことで無用の心配を避ける。


 もしクィーセが発見された場合、『合図が無ければ俺は関わらずに別行動』『合図が有ったら、俺が協力して敵を処理する』ことになる。




 そして、発見された。相手は昨日、俺の気配を察知した変態だった。


 ボサボサ髪の変態中年は廊下に置かれた木箱に座って、2階の部屋の前にいた。……おそらくはあそこがハーレンが監禁されている部屋だ。


「ここまで見つからないとか、優秀ぅ。でも無謀だね、『おふたりさん』。


 とはいえさぁ。……そもそも、こういう時に入って来ちゃダメでしょ。


 配備変わって警戒されてるんだぜ? ロマン追い求め過ぎだよ」


 相手はやはり、透明化したままの俺を察知している。


 囲まれるか、と思ったがそれがない。……なんで? 中にもっと人いるのに。


 クィーセからの合図。相手に対して共闘。


「アイツ、実力でボクたち潰す気だ。外から来るのもバレてる。多分そっちに人員回してる。他メンバーに影響が及ぶと見て『光の大爪』使う気もない」


「俺ら、ナメられましたね。潰しましょう」


 戦闘開始。


 透明化したまま俺が『太陽の矢』を放つ。相手の全身は燃えたが、対処された。


 突然、炎に包まれるという事態に陥ったのに『水壁』を早期展開して飛び込んだ。……多分、並の相手なら炎上したことに動揺して魔法発動も出来ない。


 クィーセは敵と距離を詰めながら、俺に向けて言う。


「削ってる。効いてるよ」


 ……そうだ、相手が強くて対処されたとはいえ、焼かれたし効いてる。


 クィーセは『散る霧』を使用してから『灯虫』で相手を狙いにかかる。……目くらましと敵の相殺対策してからの『動きを操れる魔法』による攻撃。


 敵は両方を『風の拳』で相殺しようとしたがクィーセの『灯虫』は持ちこたえた。それをクィーセは敵眼前で思いっきり光らせる。ついでにぶつける。


 敵への目潰しだ。それに合わせて俺はもう一度『太陽の矢』を放つ。……動揺しろ、混乱してくれ。だが再度、相手に『水壁』を展開され、飛び込まれる。


 相手の魔法による突風に逆らい、クィーセは突進しながら近付くと、既にびしょ濡れの相手目掛けてこちらからの『水壁』を展開した。


 『水壁』は防御的に使われることが多い魔法だが、突然の水中状態により相手を動揺させたり、動き辛くさせたり、溺れさせたりすることもできる。


 ……とにかく、簡単に倒せる相手ではない以上、畳みかけて『魔法使用のための精神集中』ができないよう動揺させるのは戦術のひとつだ。


 だが、相手は精神的にとてもタフだった。廊下の壁が近くにあるのを蹴って、クィーセの『水壁』からすぐに脱出した。


「ぷはッ……! しゃあッ! まだまだ衰えてねぇな。


 こっちからも行くぞオラァ! 気を付けな!」


 敵との間合いを詰めていたクィーセが危険を察知しバックステップする。俺はクィーセの後退支援のため、敵に『太陽の矢』を使用しながら前に出る。


 敵はクィーセが魔法解除し崩れゆく『水壁』を利用して火を消している。思考が柔軟だ。そして相手はなにか魔法を使って、おそらく精神集中も切れていない。


 クィーセが俺に警戒を叫ぶ。


「危険ッ、『炸破』を展開してる。首や頭周辺、注意!」


 『炸破』は小さくて見え辛い魔法だ。『灯虫』と同様に『自在に動かせる』し、『任意のタイミングで炸裂』できる。


 多分、相手の熟練度から見て致命傷を与えてくる。……でも、気を付けなければならないとはいえ、魔法だ。


 俺は『風の拳』を相手目掛けて撃つ。今のところ、これが一番威力が出せる。これで相手の『炸破』を相殺して……斬る。


 透明化したまま『地鞘の剣』を握る。走って相手に突っ込む。


 俺の身体に魔法の炸裂。脚への強い衝撃。


 ……残っていたのか、新たに出したか。


 だが体制は崩れ居ていない。止まらず前へ。


 俺は透明化を解除、魔法反射に切り替える。最初からこっちにすべきだった。


 斬撃している余裕はない、刺突。


 相手が身をひねる。動きに追従しようとするが及ばない。剣は敵の肩を貫く。


 攻撃を受けたのに……敵の目には怯みがない。


 敵の魔法が来るかもしれない、衝撃を感じなかった方の脚で飛び退く。


 もっと退かないと危ない、俺はここで死ねない。


 さらに何度か、片足で飛び退く。


 そして気付く……あ、魔法反射を展開してた。興奮で失念していた。


 ……クソ、使い慣れていないからこうなる。追撃のチャンスを逃した。


 それにクィーセも俺が『満月』の魔法反射をを使ったかどうかは分からない。……さきほど俺に『炸破』が当たっている。使っていないと思われたようだ。


 俺の前にクィーセがカバーに入って分厚い『水壁』を防御展開する。自分の脚を見る。……良かった、ついてる。それに、痛いけど動く。


「相手逃げた。ボクが警戒する。脚、治療して」


 俺は『癒しの帯』を展開して巻く。……不思議と傷の治りがいい。


「敵、本当に逃げた? 物陰とか大丈夫なら人質確保、救助を優先して」


「あ、見に行く」


 クィーセは強敵との戦闘で、ちょっと目的を忘れていたっぽい。


 ……こちらの被害はさほどではないが、相手は明らかに強かった。2対1で善戦して撤退まで出来ている。しかもこちらはチートな能力使っているってのに。


 敵が座っていた木箱の脇にある扉。クィーセは周囲や罠を警戒しながらそれを開けた。……そして返ってきた言葉。


「いない。騙された」

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