3-10.報告、そして対策会議
俺たちは夕刻、ソーセス邸に戻った。
会議の場には俺、フィエ、ララさん、アーシェ、クィーセ、メル。ククノとレルリラさんも今回は参加している。
俺は見てきた一部始終を正確に報告した。……護衛さんの死も。
しかし、どうしても報告の割合は『異常者で変態紳士の実力者』についてが多くなってしまった。……事実なんです。フザケてるわけではないんです。
アーシェは考え込んだ表情で口を開いた。
「……変態、ですか。
そして一番の実力者で、透明化したコバタのことを唯一察知した」
微妙な反応。俺はこんな報告をしてしまったことが、とても不安だった。
「そうです。しかも、人質の監視業務に当たるようなんです。
……異常な奴だと思いますが、救出作戦における難関となりそうなんです」
そこにララさんが意見を述べてくる。
「そいつは『食事の世話から排便時の監視までする』と言っていたんだな。
つまり生活リズムというか、行動可能時間が特定しやすい。そいつは『夜は寝て、朝に起きる』という形で動くはずだ。多分だけど。
……んー。こっちは憶測でしかないけど『人質に性的な手出しをさせたくない』っていうそいつの主張から見るに、夜も監禁部屋の近くで寝るだろうな。
『おはようからおやすみまで』だけならまだしも、寝ている間もずっとそいつが近くに張り付くのか。参ったな」
ララさんは少ない情報から敵の行動パターンを読み取ってくれた。そしてそれにメルが情報を提供する。
「ご主人様の情報から、該当する人物は特定できました。
『通称:ネズミ甲3・クロマル』の中には、背景を特定できなかった者が3名います。『2番・赤ヒゲ』『9番・鼻デカ』『14番・墓掘り』と呼称されます。
『14番・墓掘り』がそれに該当します。潜伏先において、普段はクールで無口な人間です。真面目に潜伏しています。仲間内では、はっちゃけるのでしょう。
『実力者集団の中でも明白なほど抜きん出ている。ボスより強い』
『つまり、リーダーシップを取れない。あるいは取りたがらない』
……ご主人様、先ほど『ニオイがする』と相手が反応したことを聞きました。それは間違いなく最初ですか?」
「間違いない。『ニオイ、視線、肌感』という順番で言っていた」
「特定できました。該当者1名」
…………?! メルちゃんコンピューターの検索エンジン凄すぎない?
「え、何で分かるの? たったあれだけで?!」
フィエが驚愕して、それにメルは答える。
「まずは『抜きん出た実力者』ということ。これでかなり絞れます。多くない。
そこに容姿・体格、声の感じといったところのデータでフルイにかける。
『ニオイ』を優先して言語表現するのはフォルクト出身に多く見られる傾向。
女性の死に激怒している。そして『料理上手』を他者に対して自慢するクセ。
最後にその『性癖』です。これは個人情報として様々な利用が出来る。我々としても優先して情報収集しています。
そして使用頻度の高い『ロマン』という言葉。
フォルクトの奇人、鍵の手、北のクソ犬、『"千滅"のキーアベルツ』でしょう」
メルの言葉に、クィーセが強く反応した。珍しくすごく慌てている。
「ちょとその、待って下さいよソレ! おかしいですよ!
その『ふたつ名』とその人の名前……ボク知ってます。キーアベルツ……!
本来隠密が原則なのに、活躍しすぎて語り草になるほど有名になっちゃった『選抜執行者』じゃないですか。
13年前に死んだって聞いていたんですけど」
メルはそれに冷静に答える。
「死体は確認されていません。『死んだとされる後』にも極少数ながら目撃情報。ウチの実家ではこういうのは『生きている』と見なしています。
そう……困ったことに生きていて、クーデター組織、そして監禁占拠事件に参加しているというだけのことです」
メルは深刻な顔だ。あの変態は、かなりヤバいようだ。アーシェが口を開く。
「フォルクト出身者……クーデター組織への参加理由が分かりますね。
13年前に起こった大規模な奇襲殲滅、『泥のケルクキカ』によるフォルクト軍への大打撃。あれの復讐……。
キーアベルツがこれまで動かなかったのは、機を見ていたという事ですか。
……加えて、マズいですね。彼は『私と同じことが出来る』と聞きます。
つまりは『非常に高度に運用した"光の大爪"』による魔法消滅と、それを利用した『武器による魔法使いの殲滅』。
おそらく魔法の運用は私より熟達しているでしょう。
……私は『管理・裁決』の人間です。執行者ではありません。火急的に処理する必要のある危険人物以外は『捕縛して裁判にかける』行動を取っています。
私は精力的に業務を行なってきたと自負します。ですが、捕縛を含めても『千を超える数を滅するには遠く及ばない』のです」
アーシェはウチの優秀なメンバー内でもトップクラスに戦闘が強い。……会議場の雰囲気が重い。それだけヤバイ相手ということだ。
静まった部屋に、ククノの声が響いた。
「のぅ、コバタ様よ。
そういう相手にこそ、お主の力が有効に働くのではないか。
アーシェよ、コバタ様の『太陽の矢』『地鞘の剣』『月の力』は当然、実験済みなんじゃろう?」
「……あれは特異なものではありますが、一応は魔法的要素を持つのです。
『太陽の矢の発動を意識した時に"光の大爪"の範囲内だと、発動しない』
『地鞘の剣は"光の大爪"内部だと消滅する』のです。
『新月・弓張月・下弓張月の力』はどういう理屈なのか発動しました」
「なーんじゃ、最近バタバタしとったから検証不足なだけではないか。自分の言葉を思い返してみぃ。明白に要素が抜けとるじゃろ。
『満月』の魔法反射については試したか?」
「……あっ?!」
「アーシェ……取り繕ってはおるが心労が大きいのじゃろ。冷静ではない。
実験が終わったら、早めに休むように。今宵のうちの救出対応は無理じゃ。コバタ様は疲労しておるし、アーシェを復調させねば危なすぎる。
ララ、今夜はアーシェに付き添ってやれ」
「わかった。実験終わったらククも一緒に3人で寝るか?」
「……付き合おう。よく眠れるよう子守唄でも歌ってやろう」
アーシェとの実験の結果。『満月』の魔法反射は『光の大爪』の魔法消滅効果に打ち勝った。つまり満月バリアの中でなら『太陽の矢』も『地鞘の剣』も使える。
ちなみに、『光の大爪』vs『光の大爪』を行なった場合は『相手を早く発動圏内に入れた方が優勢』となる。当然だが、走るなどして効果範囲から出れば魔法は再び発動できるようになる。
明日、俺が主体になってハーレン様の救出は行なわれる。
さて、いよいよ寝るかという段になってレルリラさんに引っ張られた。
「……よ、よこで」
添い寝して欲しい……ということか。……うぅ、でもこんな状況のときに? レルリラさんも今、良くない事態が起こってるの、よく分かっていそうなのに。
彼女は喋るのが苦手なだけで、別に物分かりが悪いわけでもないのはちゃんとわかっている。空気読むのは微妙に下手っぽいけど。……そういや俺もそうだ。
そして、確かに放置気味だ。一週間近く微妙な扱いになってしまっている。
「はい、言ってくれて嬉しいです。
……でもその、ムカデのアザの件があるので、その……」
「……うん。……そ、そばにいてほしいの」
……単に寂しがらせてしまっただけのようだ。その日は一週間前と同じようにフィエと俺で、レルリラさんを挟むように寝た。
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