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2-50.そろそろ3ヶ月。太陽に関する認識相違

 メルとの話を終え、ソーセス邸の庭に出るとフィエが待ち受けていた。


 もう日も昇って、秋の風情を出す美しい庭を照らしている。今は風がないからそれほどではないが、寒さを感じる季節になっている。


「コバタ! じゃなくて旦那様。


 旦那様って意外と風景見てボケーっとするの好きだよね。奥方様として旦那様の趣味に理解を示すのは大事なので、今日はわたしも付き合うよ」


「一番の趣味はフィエだよ。フィエはボケーっとするのあまり好きでもないだろ。


 ……じゃあ、折衷案として風景見ながらさ、のんびりお喋りでもしようよ」


「いいね。そういうのいいね」


 フィエとの時間は楽しい。メリンソル村の村長宅で、二人で糸を紡ぎながらしたお喋り。あれは過ぎ去るのが惜しい時間だった。特別な時間。宝物。


 俺にとっての『幸せそのもの』なんだよな。フィエは。


「……そー言えばさ。コバタとわたしが会ってからもうすぐ3ヶ月なんだよ。


 会って1ヶ月の頃にメリンソルボグズに行ってさ、2ヶ月目には海の上だったんだから。不思議なものだよね。


 人生が急激に劇的になったよ。今、8人の大所帯になっている。昔のわたしに言っても信じないよ。絶対」


 確かにそれはそう。俺だってこんなにギッチリと出来事が詰まった人生は、今までに経験がない。


「思えばさ、あの橋の上、朝日が昇る中でフィエと出会わなければ、こうはならなかったのかも知れないな」


「……ん? あぁー。コバタしっかり憶えてないじゃない。もー。


 まぁ、こちらに来たばかりで動揺してたから仕方ないけどさ。


 わたしとコバタが会ったのはまだ薄暗い彼誰時かわたれどきだよ。そこそこ近くに行くまで良く顔が見えなくて不安だったんだよ」


 フィエが、俺と出会った時の状況を語る。……え? なんか違くない。


 彼誰時かわたれどきって、誰そ彼時(たそがれどき)の逆、朝バージョンだよな。言葉の意味としてはフィエの情景描写は間違っていない。薄暗がりの時間。


 でも、俺はあの大木から離れて道に着いた辺りで『背後から太陽の光を感じて振り返った』ような気がする。『林の中を進んで、朝日にきらめく河を見た』記憶がある。……なにより、俺はそれに導かれて行動をしている。


 それに加えて、フィエだ。……遠くに姿を見付け、駆け寄ってくるまでに『俺はフィエをしっかり視認している』のは間違いない。そこはハッキリとイメージとして思い出せる。フィエの姿は陽光を受けて『着ている服の色合いが分かる』程度には見えている。


 ……フィエとは、過去にも『出会いの情景』は話したことはあるが『その見え方』までは詳細に話していなかったように思う。


 …………フィエとは見えている世界が違う? ……いや、そんな大きな差異があるならこれまでの生活の中で気付いたはずだ。


 俺の記憶違い、じゃないはず。ということは怪奇現象でも起きてるのか……。こわいなーこわいなー。


 黙り込んだ俺をフィエが不思議そうな目で見つめている。


「どしたの旦那様?


 ……あ、わたし責めてないからね! ちょっとした記憶違いなんてよくあることだよ。そんなに深刻に考えなくて大丈夫だから!


 もう、コバタは。すぐに悩みだしちゃダメだよ。これからはウチの旦那様として一家を支えていく立場なんだから」


 ……まぁ、フィエの言う通りか。この疑問は今この時に考え込むことではない。


「ごめんごめん。


 確かに出会いの思い出は大切なことだけど、こうやって思い悩むことではないよな。あの時、出会えたことが大切なんだから」


「そうだよ。そしてもっと大切なのはこれから。


 ……もし、忙しくなっちゃったら出来ないかもだけど。


 『出会って3ヶ月記念』をふたりでお祝いしてみない?」


「そうだね。今まで、なんだかんだ忙しかったよ。やってないことが多い。


 そう言えばフィエから『石打ち』もまだ教えて貰ってない。山に行ったときに約束したやつ」


「あー、あったあった。わたしもちゃんと憶えてるよ。


 でも、魔法を覚えた後だと、そんなに必要なことでもなくないかな?」


「フィエから教わりたい。そういう時間が欲しいなってだけだ」


 俺の言葉にフィエは微笑んだ。これは確かに『財』だな。失いたくない。


「じゃー、キッチリ教えるからね。……さすがにここの庭でやるのはマズいけど」




 戦争と言うのはいつ始まるか分からない。メルの情報網によって予測は立てられているものの、その通りに動くとは限らない。


 人生もどうなるか分からない。異世界に来るなんて思ってもみなかった。こんな大切な人が出来るなんて思いもよらなかった。


 ……そして、大切な人が出来たとして。かけがえのない幸運を得たとして。


 守り通して、幸せな未来を築くことが出来なければ台無しなのだ。そのためにこれからも強くならなくてはいけないし、戦わなくてはならない。




「フィエ、あのさ」


「ん、なに?」


「手を握っていて欲しい。安心するから」

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