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2-49.体内からの物体X

 俺がメルに仕込んだ物体については、意外な視点からの議論になった。……俺はてっきり、性的なオモチャに関する話題となると思っていたのだが。


 アーシェは真面目な顔、そして怪訝な表情を残したまま言った。


「これは、異常現象ですね。


 どう思います、ララトゥ?」


 ララさんはローターをつまみ上げて、考え深げな表情で言った。


「コバタくんの体液を、卵の殻に詰めて密閉すると振動を始める……。


 …………えっちアイテムではあるが、確かに異常現象だな。おそらく何らかの魔法の影響下にあるものと推察できる。


 ……っていうか、震えるから魔力感知に集中し辛いなコレ」


 そしてフィエも真面目な顔で議論に参加してくる。『わたしより先にメルちゃんに使うなんて』とかの嫉妬より先に、この不可解現象に興味を引かれたようだ。


「あのねララさん。推測だけどさ『不妊の呪い』に何か関係あるのでは?


 多分だけど、普通の人のを詰めてもこんな現象起こらないよね?」


「奥方様、それに関しては調査済みです。


 色町の娼婦数人に命じて、客の体液を詰めて密閉してみるよう指示しました。ですがこのような反応が起きることはありませんでした。


 ご主人様特有の現象です」


「コバタさん特有の現象……。


 一応聞いておくけど、コバタさん。向こうの世界でこういう現象って起きるの?」


 クィーセが真面目な顔で聞いてくる。


「いや……こういうことを向こうの世界でしたことはないが、それで卵の殻が震えだすなんてこと、普通に考えて有り得ない」


「……じゃあ、なんでコバタさんはこんな異常現象を看過したの?」


 確かにそうだ。なんで俺、こんな異常なことを……? メルが代わりに答えた。


「おそらく、私の使った薬草の症状が残っていたのではないでしょうか。あの日のご主人様は『不思議なほど感情の処理が早く』、気を取り直されるのが早い状態でした」


 そう言えばそうだ。……メィムミィ副騎士団長が死んだ事件の詳細な経緯や、それをメルが看過したという事に俺は少なからずショックを受けていた。


 なのに、あまり苦悩しなかった。……え、ホントになんでだ? 今まで何の疑問も持たなかったけど、なんかヘンではある。


「んん……? そう言えば、なんでだろ……。


 確かにあの日は……あれ? 確かにそうだな、何か俺らしくないな」


「……メルスクさん。アーシェルティ殿や、フィエちゃんが怒ったように。


 ボクからも強く、あなたにお願いさせて貰うね。ボクも怒ってる。『ボクの生徒さんにヘンな薬草使うな』。いいね?」


「はい、分かりました。……強く深く反省しております。もう二度とご主人様には使いません。この約束は必ず、仁義にかけてお守りします」


 クィーセ先生やメルは使った薬草の危険性が原因と見たようだが、俺はなんか違う気がしていた。


 結局、震える物体Xについては結論が出ないままだった。




「えー、それでは今回の会議を終わります。


 今後は定期的にこういう会合を開いて、各人の間に溝が出来ないようにしていきたいと思っています。チームワーク大事です。


 わたし達は『家族』です。これから起こる可能性のある『クーデター』や『砂漠向こう・対岸からの侵攻』と『災厄』の全てに対処します。


 そしてその上で、わたしの旦那様が言ったように『老後になるまで皆で幸せに暮らして同じ墓に入る』ことを最終目標とします。


 過度な独断専行、不必要な危険行動は慎むように。……ただ、これより起こり来る脅威は『危険で予測がつきにくい』ものです。


 ……わたし、奥方様からのお願い。……わたし達は危険に近付かざるを得ないし、幸せな未来を得るためにそれに対処するけど、死なないように。


 誰かが死んだら、幸せを大きく損ないます。わたしは身をもって、それを感じた経験があります。……ホンッット迷惑。悲しいだけじゃなく迷惑です。


 重ね重ね言います。『自分が死んでも、他のみんなが幸せなら』なんて考えをしやがったら許しません。いいですね」


 フィエの言葉には、自分を残して死んだ両親への恨み言が含まれていた。……フィエがやたらと張り切って『コバタ家』を作ろうと意気込んでいるのには、そういった過去への清算の意味があるのだろう。


 誰も異論を申し立てなかった。クィーセやメル、ククノ辺りは、人の生き死にに対してややシビアな立ち位置にある。だがそれでも、異論を出そうとはしなかった。


 ウチの奥方様は、家族のメンバーに対してちゃんと影響力があるようだ。頼りになる。そして、そんなフィエは可愛い。




 会議が終わるとメルが俺に耳打ちしてきた。


「レルリラの件ですが……どういたしますか。


 今回の会議では『ムカデのアザ』の危険性が示唆されていましたが」


「……しばらくは慎重な方向で。


 でもさ俺、レルリラさんともっと話すことはしたい。分かり合うのが不十分なままって言うのも良くないだろうし、メルも同席して話し合いの機会を持てるか?」


「問題ございません。……それとひとつ、お願いがあります。


 ……前にご主人様は『私とレルリラは友達』と評されましたが、私からの認識はやはり違うのです。あの娘は私の『妹分』です。年齢はあちらが2つ上ですが。


 私はあの娘の面倒見を最後までする覚悟でいます。ですが……一点だけそう簡単ではない懸念がございました。


 『子供と家庭』です。私は『仕事と社会との繋がり』まではあの娘を仕立て上げました。ですが……あの通り、心に傷を抱え、引き摺ってしまった娘です。


 ご主人様の『不妊の呪い』が解けたあかつきには……どうか、レルリラにもお情けを下さいますよう、お願い申し上げます」


 メルの『お願い』は切実な気持ちが込められていた。……やはり、長年いっしょにいた相手に対する想いって言うのは並々ならないものがあるらしい。


「……メルがフィエに助言して、ここをコバタ家にしたのはそういう意図もあるのか。メルとレルリラさんが一緒にいつつ、子供を作れる環境、ってことで」


 メルは少し微笑んで、言った。


「単にご主人様が私の好みだったからです。


 あの子は妹分ですから、私に付き従う義務があるのです」


 うーん。これ、どっちなんだろう。照れ隠しなのかマジなのか。……まぁどっちでもいいか。ふたりがいてくれるなら、細かいこと気にしないでいいや。


「あと、あの娘は性的な欲求が割と強い方です。……いえ、相当強いです。


 以前から私の方である程度処理していますが、ご主人様にも強く興味を示しています。『ムカデのアザ』の件もありますし、その点はお気をつけて」


 え、『以前から私の方である程度処理』って……。やっぱ、メルとレルリラさんってそうなの。そーゆー感じなの?


「えっと、そのさ。


 女の子同士の純な感情の間に、俺が挟まって大丈夫なわけ?」


「純な感情?


 ……いえ、そんな繊細なものではなく、肉欲としか言いようがないですね。


 最初は、自分を慰める方法を教えて処理させようとしたのですが、あの娘は自分でするとなかなか上手くいかず、私の助けを得る必要があったのです。


 レルリラは人見知りするし打ち解けるのヘタですから、身体を触らせたり、裸を見せたりするほど親しい相手が私しかいなかっただけで」


 ……なんだろ、こっちは照れ隠しとかじゃなく、ガチで言ってる感じがする。

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