魔法少女、誕生 Part.07
先月投稿した『Part.06』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
「話は分かった。」
真琴同様につい数分前にこのエリアへとやって来た智史へ向け実季は自身が魔法少女へと変身した経緯等を説明した。
それを受け智史は腕を組みつつ理解した様子を窺わせるも先に述べた言葉に付け加える様にして続ける。
「クロードだっけ?魔法界だか何だか知らないけど、本当にそんな所から来たって言う証拠は有るのか?」
半ば信じられないでいる智史はクロードへ向け疑う様な視線を向け問い掛ける。
するとその心境を察知したクロードは不服そうにしながらも智史へ向け口を開く。
「むっ!聞き捨てなりませんね。智史さんでしたっけ?良いでしょう、今から僕の魔法を披露してあげましょう。」
そう言うとクロードはズボンのポケットに仕舞っていたマッチ棒ほどの形状をした『何か』を取り出すと徐に手の平に乗せる。
「何それ?」
クロードの手の平に乗った『何か』に右人差し指を差しながら尋ねる実季。
「これですか?これは僕専用の魔法のステッキです。」
「ま、マジ?」
「魔法のステッキってこんなに小さいのもなの?」
『何か』の正体が魔法のステッキであると聞かされ実季が今、手にしている物よりも遥かに小さな形状をしていた事に驚く智史と真琴。
「いいえ。持ち運びしやすいようにわざと小さくしているのです。」
そう言うとクロードはステッキを本来の形状に戻し右手で持ち手部分を握ると先端を智史へ向けた。
「良いですか智史さん。今からあなたを宙に浮かべてみせますので覚悟して下さいね?」
自信満々に宣言するクロードに少し慄くも智史はそれを悟られまいと意識して険しい表情を浮かべながら念を押す様にして問い掛ける。
「あ、ああ。でも本当に出来るんだろうな?」
「勿論。」
そう断言したクロードは智史へとステッキを向けると呪文の様な物を唱え始めた。
只ならぬオーラを感じつつ3人はその迫力に思わず息を呑むとステッキを下から上へと傾けたのをきっかけに智史の身体を徐々に宙に浮かせたのだった。
「うわぁ!」
突如として自分の身に起こった異変に思わず声を上げ抵抗する素振りを見せる智史ではあったが程無くして彼の身体は地上から遠退いて行き気が付くとつま先立ちで手を伸ばしても届く事の無い高さまで持ち上がった。
「凄い。」
「本当に宙に浮いてる。」
この光景を目の当たりにし、呆気に取られている真琴と実季を他所に得意気にしているクロードは宙に浮いている智史へ声を掛ける。
「如何ですかぁ、智史さん!?」
「分かった、認めるよ。だから早く降ろしてくれぇ!」
クロードの魔法を体験し、その実力が確かな物である事を体感した智史は観念したかのように上空から叫ぶ。
その反応にクロードは得意気にしながらステッキを下げると智史はゆっくりと足を付けながら地上へと帰還した。
「あぁ、ビビったぁ。」
安堵する様に一言呟いた智史は溜め息交じりに胸を撫で下ろすとそこへ心配そうにしながら実季と真琴が駆け寄る。
「智史、大丈夫?」
「ああ。何とか。」
「でも実際いきなり宙に浮いたらビックリするわよね?」
3人の反応から手応えを感じたクロードは求められていないのにも拘らず次なる魔法を繰り出す事にした。
「皆さん、これくらいで驚いていては困りますよ?今度は透視能力をお見せしましょう。」
「『透視能力』?」
「俺は勘弁してくれ!それにもうクロードの魔法を体験したし。」
不思議そうに尋ねる実季の横で年相応の思考や妄想を見られては拙いと言わんばかりに抵抗する智史。
滑稽に映る智史の姿に真琴は思わず微笑を浮かべるも次のクロードの言葉でその表情から異なる物へと変貌した。
「いえ、透視するのは智史さんではなく真琴さん。貴女です!」
「え、私の?」
自分は指名されないだろうと高を括っていた真琴だったがクロードはそんな彼女に構う事無くステッキの先端を視界に入る位置で構えると徐に目を閉じ何やら集中している装いを見せる。
「おい、まさか?」
「ウソ。クロードってば本当に?」
「ちょっとクロードくん?」
驚愕する智史と実季に対し真琴は気が気でない様子でいる中、暫くしてクロードはかざしていたステッキをゆっくりと下ろし目を開いた。
「見えました。」
そう前置きするとクロードは真琴に関する事柄を流暢に語り始める。
「高島真琴さん。実季さんと智史さんの幼馴染で同じ公立以東中学校に通う14歳。父の京介さんは公務員を、母の恵子さんは薬剤師をされていますね。あと、斗真くんという3歳下の弟さんが居ますね。それと体重を気にしてか今日からジョギングをする事にしたそうですね?」
「止めてぇ、それ以上は言わないでぇ!」
幼馴染の前で秘密を暴露され取り乱してしまう真琴を見ながら居た堪れない気持ちを覚える実季と智史は苦笑交じりにこの場をやり過ごすのだった。
一同が落ち着きを取り戻した頃、3人をベンチへ座らせるとクロードは既に魔法少女としての変身を遂げている実季に向けこんな懇願を告げた。
「単刀直入に申し上げます。赤松実季さん、貴女に魔法少女としてダークエナジーからこの世界の平和を守る活動をして欲しいのです。」
クロードからの要望にどのような反応を示して良いのか判断出来ず困惑する実季。
その様子を横目に何か言いたげにする智史と真琴であったが一先ずその想いを自分の中で留める事にするとクロードはこの世界にやって来た経緯についての説明を始めた。
「僕の住む魔法界ではこんな伝説が語り継がれています。
魔法界から送り込まれた勇士を従え、人間界の少女数名が魔法少女として蔓延るダークエナジーを全て浄化したと。
そして今、再びダークエナジーが人間界に蔓延し始め魔法界でも悪い影響をもたらしています。
そこで苦肉の策では有りますが、王はその伝説に従い、僕を含む数名の勇士が人間界の少女を魔法少女としパートナーとしてこの世に蔓延るダークエナジーを浄化する様、命じたのです。」
一通り話を聞き終えたところで時機を窺いながらも智史はクロードに問い掛ける。
「じゃぁ、実季がこの姿になったのも・・・。」
「はい、魔法少女としての素質が有ったからに他なりません。現に今、実季さんが手にしているステッキがそれを物語っています。」
クロードは智史の問いに答えると続ける様にして補足事項を述べた。
「それじゃぁ、素質の無い人が持ったら・・・。」
そう言いながらも真琴は自分と実季を隔ててベンチの上に置かれているステッキへ徐に手を触れようとするとそれに気付いたクロードは声を張り上げる。
「真琴さん、触らないで!」
しかしその呼び掛けも虚しく真琴の右手の指先がステッキに触れた瞬間、『バチッ!』と音を立てながら電流の様な物が流れた。
「きゃあっ!」
突然の出来事に驚くあまり悲鳴を上げながらも左手で包む様にして右手の指先を労わる真琴。
「真琴!」
「大丈夫か?」
「うん、なんとか。」
心配そうな面持ちで幼馴染の様態を窺う実季と智史に真琴は心配させまいと苦笑交じりに応えた。
「ステッキにも意思が宿っているらしく、持ち主と認めた人物、即ち魔法少女の素質が無い何者かが触れようとするとこうして抵抗するのです。」
淡々とした口調でそう述べたクロードは一呼吸置くと真っ直ぐな視線を向けながら自分の想いを実季へと告げる。
「実季さん、現に貴女はこうして変身を遂げているのですから魔法少女としての素質は十分に備わっています。」
「魔法、少女。私が・・・?」
「こうして僕達が出会ったのも何か運命の糸が導いての事でしょう。赤松実季さん、僕をパートナーとして従え魔法少女としての活動をして頂けませんか?」
考え込むあまり無言になり実季の様子を受け智史と真琴はクロードに疑問をぶつける。
「なぁ、クロード。お前の言いたい事は分かるけど、それ本当に実季がやらなきゃいけないのか?」
「実季は私達と同じ中学2年生なのよ?それに3年生になったら高校受験だって控えてるし。」
予想していたとはいえこれらの言葉を受け表情を曇らせるクロード。
「仮にこれから魔法少女として活動する事になったら万が一って事も有るだろ?」
「そうよ。現に魔法少女としての姿に変身しているから、素質は有るにしても実季じゃないといけないの?」
彼等に対し返す言葉が見付からないクロードはその場に立ち竦むと一同を重たい空気が包み込む。
そんな中、沈黙を破る様に自分の事を気にかける幼馴染2人に向け実季が口を開く。
「真琴、智史。もう良いよ、大丈夫・・・。」
「実季・・・?」
「ちょっと、実季?」
只ならぬ気配を感じさせる実季に躊躇する智史と真琴を他所にベンチから徐に立ち上がるとクロードへ尋ねる。
「ねぇ、クロード。確認なんだけど私って魔法少女としての素質が有るんだよね?」
「は、はい。」
実季が何を考えているのか分からないでいるもクロードはその言葉に徐に相槌を打つと今度は別の質問を投げ掛ける。
「それ私じゃないと出来ない事なんだよね?」
「ええ、取り敢えずは。」
これに関してクロードは『他に魔法少女としての素質が有る人物が現れない限り』という意味合いを込め答えると実季は先程受けた懇願に対しての返事を告げる。
「分かった、引き受けるわ!」
「本当ですか!?」
「実季、それ本気で言ってるの!?」
「そうだよ。何も今、決断を出さなくても。」
困惑しながらも実季へと詰め寄る真琴と智史だったが、程無くして目を泳がせながら引きつった表情をしている事を確認した2人はあまりの状況の変化に着いて行けずキャパオーバーとなり半ば開き直っているのだろうと察知したのだった。
「此処まで来たらもう何でも来いよ。魔法少女としての私の活躍を見せてあげるわ!」
「その意気です実季さん!」
ステッキを掲げ高らかに宣言する実季にクロードは拍手を送るとその姿を称えた。
「もう、やけくそだな。」
「実季、あんたって子は・・・。」
一方、智史と真琴はそんな実季の姿を見届けると溜め息交じり一言呟くのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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