魔法少女、誕生 Part.05
先月投稿した『Part.04』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
実季からの質問を受けクロードはふと目線を下げバッグを見るとそこには閉め忘れたチャックの隙間からステッキの先端が顔を出していたのだった。
「こ、これですか・・・?これはその・・・。」
思わずうろたえてしまうクロードを他所にクロードの事をマジシャンだと思っている(もしくは思う様にしている)実季は、
「分かった!それ手品に使うんでしょ?」
と言いながら徐に手を伸ばしながらステッキの先端部分に手を触れようとする。
「あ、実季さん・・・!」
危険を察知したクロードは強い口調で実季に注意をしようとしたが次の瞬間その必要は無いと判断するのだった。
「え、なぁにクロード?」
突然名前を呼ばれた実季はステッキの先端に触れつつも不思議そうにしながらクロードの方に視線を向ける。
「(ステッキに触る事が出来ている・・・?)」
クロードは魔法界から持って来たステッキに触れた実季に対して何も害が無かった事に驚愕するも一旦、その気持ちを抑えながら確信めいた事を頭の中に過らせた。
「(この人、もしかしたら『魔法少女』の素質が有るのかも・・・。)」
そう判断したクロードは実季に対しこんな要望をする事にした。
丁度その頃、真琴はというとゆっくりとした足取りを保ちながらも順調なペースでジョギングを続けていた。
「(我ながら快調なペースね・・・。)」
自画自賛をしながらも流れる汗と時折吹く風に心地良さを覚えつつも目的地である公園へ着くとそのまま敷地内へと入って行く。
「(この先に確かジョギング出来る場所が在ったわよね?)」
左右に1回ずつ視線を向けた真琴はジョギングスペースの在るエリアへと行きそのまま1周してから帰宅する事を思い付く。
しかしいざ目的地へ行ってみると日曜日の午後という事も有ってか多くの人が使用しており、真琴は一旦、その場で足踏みをしながら辺りを観察してみる事にする。
まず、本来行くつもりであったジョギングスペースに目を留める。
此処では普段からジョギングをしている事を窺わせる利用者達が颯爽とコースを走っていた。
真琴は思わず躊躇ってしまうも目線を別のスペースへと移す。
ドッグランスペースでは愛犬との散歩やフリスビーを投げて戯れているブリーダー達の姿が確認出来、ベンチが設置されているスペースでは人間観察をしていたのであろう老人が首を縦に揺らしながら居眠りをし、その傍では大学生と思われる若者が村上春樹の小説を読もうとした物の彼には内容が難しかったらしく本を座面に置いてスマートフォンのゲームに没頭していた。
そして遊具スペースでは遊びに飽きた子供達が井戸端会議に夢中になっている母親らしき保護者達に「早く帰ろう。」と催促しているのだった。
「別の所へ行きましょ・・・。」
このエリアを使用する事を断念した真琴は園内で人があまり居ないであろう場所を目指し再び走り始めた。
視点を2人が居る公園内のエリアへと戻すと重々しい空気を感じさせつつも真剣な表情をするクロードは再び強い口調で実季の名前を呼んだ。
「実季さん!」
「え?どうしたのクロード?」
これまでとは異なるクロードの雰囲気に実季は戸惑いを見せるも先程彼の所持品であったステッキに触れた事に対し癇に障ったのではないかと判断するとその件について前置きをしつつ詫びようと試みる。
「ねぇ、もしかして私がステッキに勝手に触ったから怒っちゃった?」
「いえ、そうではありません。少し試しておきたい事が有りまして・・・。」
「試したい事・・・?」
クロードが自分に対し何を要求しているか分からないでいる実季。
折角無くなっていた彼に向けての警戒心が再び芽生えだすもクロードはそんな事に構う事無く続ける。
「突然で恐縮ですが今から僕の言うとおりに行動してもらって良いですか?」
「ええ?」
「まぁ無理も有りませんよね。こんな事をいきなり言われたら誰だってこうなります。」
実季の心境を悟ってかクロードは気休め程度のフォローの言葉をかけた後、続ける。
「ですが僕も指名を受けてこの人間界に来ているのです。実季さん、ここはどうかこの僕を信じて頂けないでしょうか?」
「う、うん・・・。」
又もクロードの言葉の中に何か引っかかる点が有った物の彼のペースに流される形で実季は相槌を打ってしまう。
「ありがとうございます。」
微笑を浮かべながら礼を言うとクロードはすぐさま表情を変えステッキの持ち手部分を実季の方へ向ける。
「まずはそのステッキをそっと握って下さい。」
「え?このステッキってクロードのじゃ・・・?」
「取り敢えず、今はこのステッキを握って下さい。」
「う、うん。こう・・・?」
一度は躊躇するもクロードに促される形で自分へと差し出されたステッキを握る実季。
「(やはり。ステッキ自体がこの人を『魔法少女』として受け入れている・・・。)」
この事実にクロードの中で思い描いていた予測が徐々に確信へと変わりつつあった。
一方、公園に居ると思われる実季へ釣り銭を届ける為自宅である吉岡パンを後にしたところである智史は道中、2回目の来店としてロージー牛乳を購入しに来た際の実季の不可解な言動に疑問を抱くとその一部始終を脳内にてリピート再生する。
「(それにしても実季の奴、何であんなに慌ててたのかな?)」
頭を悩ませながらも智史は実季が何故、そんな言動に至ったかの推測を始める。
「(ひょっとしたら、誰かを待たせていたのかな?)」
そう仮定した智史は自分が知る限りの実季と関係の有る人物を1人ずつ割り出す事にした。
「(もしかして、実莉ちゃんかな?)」
まず思い当たる人物として目星を付けたのは実季の3歳下の妹である実莉。
しかし、「それは無い。」と前置きした後、
「(妹である実莉ちゃんを公園に置き去りにしてまでわざわざ実季1人で家に来る必要が有るのか?)」
と、この線を否定する見解を導き出す。
因みに実莉は智史の弟である一史、そして真琴の弟である斗真と同級生であり3人もまた上の兄弟達と同じく幼馴染の友人という関係性を築いている。
再び思い当たる人物の特定を始める為、今度は腕組みをしながら頭を悩ます智史。
「(となるとやっぱ、真琴かな?)」
やはりと言うべきか自分と同じく交友関係の深い人物である真琴という線を割り出すもすぐさまこの見解に関して難色を示す結論を出した。
「(いや、それも違うな。仮にも俺達は幼馴染なんだぞ。それなのに何で実季だけが家に来て真琴が公園で待つ格好になるんだ?来るとしたら2人で来る筈だろ。)」
該当する人物を割り出す事が出来ず堂々巡りになりかけていたその時、智史の中である憶測が過る。
「(もしかして、彼氏・・・!?)」
そんな思考に陥ると智史はその刹那、目を見開くと無意識にその場で足を止めた。
「(そうか。アイツ、俺に彼氏が居る事を隠す為にわざと1人で来たんだな・・・。)」
智史はそう結論付けようとするもその直後に自ら出した見解に異議を唱える。
「(いやいや、ちょっと待て俺。何でそんな事を思う必要が有るんだ。別に実季とはガキの頃からの友達というだけの関係の筈だぞ?それにアイツだって好きな男が居たって・・・。)」
僅かに揺らいでいる心境と共にそんな考察に至った自分に対し智史は違和感を覚えると不意に不安の入り交じった疑義が過る。
「(でも、仮に彼氏と一緒だったとしてそんな所に俺が来てしまったら・・・。)」
不毛な水掛け論を繰り広げている自分に嫌気が差した智史は重く圧し掛かる妄想の類を鬱陶しそうに振り払うかの如く大きな声を上げる。
「あ~、もうめんどくせぇ!」
突如、耳に入る奇声に反応するや否や数名の通行人が発信源である智史の方を向く。
その殆どが穏やかな休日の午後に道端にて唐突、大きな声を上げる男子中学生に驚くと共に気味悪そうに冷ややかな視線を送るのであった。
「(実季にそんな彼氏なんかが出来る訳ねぇよな!きっとクラスの女友達だよ!)」
しかし当の智史はというとこの状況を全く気にする事無く自分にとって都合の良い断案を導き出そうとしていた。
「(それに男と一緒だとしてもそいつが彼氏かどうかも分からない訳だし。てか、そもそも公園に居るかどうかも分かんねぇ訳だし!)」
完全に居直った智史は再び公園へと歩き出す事にするのだった。
智史が公園へと向かっている事等知る由も無い実季はクロードに従う形でステッキを握ると彼の顔色を窺うようにして尋ねる。
「ねぇ、クロード。握ったよ?」
不安な心境を滲ませているであろうと察しながらもクロードは実季へ淡々とした口調で次の指示を言う。
「はい。では次に握ったままの状態で『チェンジングフォーム』と叫んで頂けませんか?」
「ええ?やだよぉ。私、仮にも中学生だよ?こんな所でそんな恥ずかしい事、出来ないよ。」
意図せぬ要望に恥ずかしそうにしながらも抵抗する実季であったがそれに怯む事無くクロードは食い下がる。
「お願いします実季さん。あなたのその勇気が皆の心の平和にも繋がるかも知れないのです!」
「分かった・・・。でもその代わり1回だけだからね?」
自分に対して何を求めているのか理解出来ないでいる物の何処からか感じるクロードの熱意に根負けした実季は渋々ながらも彼の要望に応える事にした。
「ありがとうございます!」
承諾を得る事が出来たクロードはほんの一瞬だけぱっと明るい表情を浮かべた後、今度は力強い口調で礼を述べた。
実季はそれを横目に
「じゃあ行くよ?」
という合図を送るとステッキを握り直し大きな声で叫ぶ。
「『チェンジングフォーム』!」
その掛け声をきっかけに突如としてステッキが反応すると先端から眩しい程の光が発せられる。
「いやぁ、何これ!?」
驚きのあまり悲鳴に似た声を上げる実季はらせん状になった光の中に飲み込まれると次の瞬間、異世界の様な空間へと誘われたのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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