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魔法少女、誕生 Part.04

先月投稿した『Part.03』の続きをお届けします。

それではごゆっくりご覧下さい。

実季(みのる)が再び公園へと向かおうとしている頃、1人取り残された少年はベンチの上に乗っているレジ袋の中に入っている菓子パンに手を付ける事無くその横に座ったまま深刻そうな表情を浮かべていた。


「やっぱり、逃げられちゃったかなぁ・・・。」


数分前、実季が『ロージー牛乳』を購入するという名目でその場を後にした場面を頭の中で回想した少年は溜め息交じりそんな独り言を呟いた。


「そりゃそうだよな、『ワンルームカプセル』から出て来るところを見られちゃったんだから・・・。」


それに続ける様にして魔法界からの支給品である『ワンルームカプセル』から姿を現すところをハプニングとはいえ目撃させてしまった現実に頭を抱える。


「それに幾ら何でも『マジシャン』っていうのも無理が有るよなぁ・・・。」


動揺していたとはいえその場しのぎにも程が有る言い訳をしてしまった自分に対し少年の中で後悔の念が押し寄せる。


丁度その頃、公園に到着した実季はロージー牛乳を手に持ち、少年を残し後にしてしまった例の場所へと歩みを進めていた。


「と、取り敢えずロージー牛乳は買って来た訳だし、ウソは付いてないわよね。現に公園にこうして戻って来ている訳だし、あの男の子が居なかったら居なかったでしょうがないで済む話よね?うんうん、私は間違ってない。私は大丈夫!」


自分に言い聞かせる様にして目的地へと向かう現在の実季の心境はまさに『上の空』といった言葉が相応しい物であった。


「(流石にもう居ないよね・・・?」


そう思いつつ、自分の姿を隠す様にして植木越しに先程の場所を見渡すとベンチに座っている少年が何か悶えながらも頭を抱えていたのを発見した。


「(ウソっ?あの子、まだ居たの!?)」

その姿を確認するや否や目を見開きながらも思わず声が出そうになった実季はその気持ちを一旦堪えつつ、少しの間その場に立ち竦む。

すると少年の中で押し寄せていた後悔の念が限界値を超えたらしくベンチから立ち上がると頭を抱えた状態で大声を発した。


「あ~、どうしよう!今後の活動に支障が出ちゃうよお!」

「ひゃぁ!」


意図せぬ少年の言動に仰天してしまう実季は悲鳴を上げながら無意識に右足をその場から一歩後退させてしまうと足元に落ちていた枝木を踵部分で踏ん付けてしまった。

少年はそれに気付くと反射的に肩に掛けていたショルダーバッグを庇う様にして抱えると表情を変え鋭い目付きで辺りを見渡した。


「誰!?」


すぐ近くに居る筈であろう何者かにむけ威圧する様にして尋ねる少年。

その声に実季は無意識に肩をビクッと震わせ委縮すると息を潜めてこの場をやり過ごそうと試みる。

しかし数秒程、沈黙が続くと気持ちの面で耐え兼ねなくなった実季はこのままの状態を維持するのは不可能だと判断し苦笑交じりに植木の後ろから登場する事にした。


「あ、えへへ。お、お待たせ・・・。」


牛乳を買って来るという口実の下、自分の下から姿を消したと思っていた実季が本当にこの場所へ戻って来た事に対し驚く少年。


「(ウソ?まさかこの人、本当に戻って来た?)」


心の中でそう呟きながらも視線を実季の手元に向けると確かに2本の牛乳を持っており、約束通り購入して此処へ戻って来た事を裏付けていた。


「ええと。あ、ほら、買って来たよ。『ロージー牛乳』。」


少年の視線に気付いたのか実季は手に持っていた2本のロージー牛乳の内、1本を彼に向け差し出した。


「あ、はい。頂きます。」


色々思うところは有る物の空腹と喉の渇きに侵されていた少年は差し出されたロージー牛乳を有難く受け取る事にした。


その頃、吉岡パンでは・・・。

数分前に店を後にした常連客である西村に散々振り回された智史(さとし)はややくたびれた表情を浮かべながらレジカウンターに置かれたコイントレーに視線を向ける。

そこには実季が2度目の来店でロージー牛乳を購入した際、受け取らずに去った為にそのままになっている釣り銭が有るのだった。


「(しょうがない、明日学校で渡すか・・・。)」


智史は本日中に渡す事を断念すると明日学校で会った時に渡す事に決めズボンのポケットに仕舞う為、硬貨を右の手の平に収める。

すると、混雑する時間帯を超え一段落した父の直哉が作業スペースからレジカウンターまでやって来ると疲労している様子を窺わせる智史の後ろ姿に向け話しかけて来るのだった。


「何だ智史、『限定メロンパン』目当てで来たお客さんを相手に疲れたのか?」

「いや、そうじゃなくて西村のお婆さんが・・・。」


直哉に呼び掛けられた智史は先程まで行っていた西村とのやり取りを話し始める。

それを受け直哉は「あの人らしいない・・・。」と呟きつつ息子の話を聞き大笑いするのであった。

そして改まったところで直哉は智史が手にしている数枚の硬貨に目が留まる。


「智史、その小銭どうした?まさかお前・・・。」


尋ねながらも徐々に顔を強張らせこちらを凝視する直哉に智史は父が自分に対して店の売上金を盗んだのではないかという疑いをかけていると察知すると慌てて釈明する。


「ち、違うよ親父。これは実季が・・・。」

「え。実季ちゃん・・・?」


取り敢えず店の売上金に手を出していない事だけは理解した直哉に向け智史は先程のやり取りで動揺してしまった気持ちを落ち着かせつつ事の経緯(いきさつ)を説明する。


「それなら、お前今日はもう手伝いは良いから実季ちゃんが忘れたお釣りを届けに行ってやれよ。『公園に行く』って言ってるんだったら公園に居るんだろ。」

「え?」


手伝いを切り上げて良い代わりに実季の下へ釣り銭を届ける様に指示する直哉。

それに対し智史は少しためらった様子を見せるも直哉は構う事無く続ける。


「お前が届けてやったら実季ちゃんきっと喜ぶぞぉ。」

「い、いやそんな事は・・・。それに明日届けようと思ってたし・・・。」

「何言ってんだ。そんなボヤボヤした事言ってたら他に奴に実季ちゃんを取られちまうぞ!」

「べ、別に実季はそんなんじゃ・・・!」


父からの冷やかしに激しく赤面した智史は吉岡パンのエプロンを取ると実季が受け取り忘れた釣り銭を届ける為、硬貨をズボンのポケットに入れると公園へと向かうのであった。


「嗚呼、おいしい。」

「そりゃぁ、そうよ。ロージー牛乳とパンの相性は最高なんだから!」


あんパンを一気に頬張るとそれをロージー牛乳で胃の中へ流し込む少年。

その光景を微笑ましく思いながも実季は少年に対し余程腹を空かしていたのだろうと察すると自分が口にするつもりだった限定メロンパンとロージー牛乳を差し出しながら尋ねる。


「ねぇ君。もし良かったら私の分もあげようか?」

「え、良いんですか?けどそれだとあなたの分が・・・?」

「私はまた今度買うから良いよ。それにロージー牛乳に至っては家の冷蔵庫に常に入っているから何時でも飲めるし・・・。」

「はい、すみません。ありがとうございます!」


正式名称を『しっとりふんわり食感 果汁入りメロンクリームパン』というこのパンはその名の通りクッキー生地の上にグラニュー糖が(まぶ)してある通年販売のメロンパンとは違いしっとりとしながらもモチモチとした生地の中に果汁入りのメロンクリームが注入されており限定でありながらも吉岡パンの売上上位にランキングされる人気商品となっている。


恐縮しながらも実季からロージー牛乳と共に受け取った限定メロンパンの封を開けるとそのままガブリと噛り付く。

その瞬間、生地の食感を堪能する間も口の中に無く広がるメロンクリームの爽やかな甘さと芳醇な香りに恍惚とした表情を浮かべるのだった。


「はぁ、美味しい・・・。人間界にはこんな素敵な食べ物が有るのか・・・。」


限定メロンパンの味に感動を覚える少年はその余韻に浸りつつ素直な心の内を吐露する。

それを受け実季は少年の言葉に一部引っかかる点が有った物の限定メロンパンに舌鼓を打つ彼を優しく見守る事にするのだった。


2人の間に有った緊張感が徐々に緩和され和やかな雰囲気を覚え始めた頃。

実季はまだ少年の名前を知らないままでいた事に気付くと限定メロンパンを完食したばかりの彼に向け何気無く尋ねてみる事にした。


「そう言えば名前聞いてなかったね。君、名前は?」

「僕ですか?僕はクロード・アンバー・フォールドと言います。」


付属のストローを差しロージー牛乳を3口程飲んだ彼は一瞬迷った表情を見せた後、実季へ向け自らの名前を名乗った。

どうやら彼はクロードという名前らしい。


「えぇと・・・?クロード・アンバー・・・。」


その風貌から外国籍である事は間違いないだろうと睨んでいた実季であったがミドルネームも含めた彼のフルネームを聞くなり一度で覚える事が出来ず戸惑いを見せた。


「あぁ、少々長い名前なので気軽にクロードと呼んで下さい。」

「そう?じゃぁクロードって呼ばせてもらうね。」

「よろしくお願いします。」


クロードはファーストネームで呼ぶ様に求めると気を取り直した実季はそれに応じる。

そして今度はクロード自身も実季の名前を知らないままでいる事に気付くと彼女へ向け名前を尋ねた。


「私?私の名前は、赤松実季。『実りの季節』と書いて『みのる』って読むの。」

「実季さん。素敵な名前ですね。」

「ありがとう。気軽に『実季』って呼んでね。」


そう言うと実季は加えて「よく『みき』って読み間違えられちゃうんだよね・・・。」と自虐を交えた冗談を言うとその意図を理解したクロードは彼女に同情する様な苦笑を浮かべつつこのやり取りに相応しい相槌を打つのであった。


自己紹介を終え改めて「よろしく。」と言葉を交わし合う2人。

そんな中、ふと目線を下げた実季はクロードが肩から掛けているバックからステッキらしき物の先端がチャックの隙間から顔を覗かせている事に気が付くと何気無く彼へ尋ねた。


「ねぇ、クロード。そのバッグの中から少し出かかっているそれ何・・・?」

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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