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魔法少女、誕生 Part.02

先月投稿した『Part.01』の続きをお届けします。

それではごゆっくりご覧下さい。

「・・・・・・。」

「あ、あの、えーと、ぼ、僕はそのクロードと言いまして、決して魔法使いとかそんなんじゃなくて、そのぉ・・・。」


カプセルトイの空ケースから突如として謎の少年が現れた事で実季(みのる)は驚きのあまり何も言えないまま直立不動となっていた。

それを受け少年は一層動揺してしまうも今後の活動に影響が出ない様、まずはこの状況を切り抜けるべく何とか上手い言い訳を捻り出そうとするも冷静さを失った今の心境ではそんな物が浮かぶわけもなく支離滅裂な事を言いつつ慌てふためいてしまうという醜態を晒してしまうのだった。


「(何?何なの?いきなり男の子がガチャガチャの空ケースから飛び出して来た・・・?そんな事有り得ない・・・!)」

「(ど、どうしよう・・・。どうやって誤魔化そう・・・。何とかしないと『魔法少女』を探す活動に支障が出てしまう・・・。)」


混乱状態ではあるが先程から何も言えないまま何か途轍もなく拙い物を見てしまった気持ちになっている実季の様子を察したのか少年はこの状況を打破する為、取り敢えず当たり障りの無い会話をしてみる事にした。


「こ、こんにちは・・・。」

「え?こんにちは・・・。」

「き、今日はとても良い天気ですね・・・。」

「あ、うん。そうだね・・・。」


確かに当たり障り無い会話なのだがこの状況下においてあまりにも不自然である。

一か八かやってみた物の結果としてむしろ逆効果となってしまい少年は思考回路がショート寸前にまで追い込まれた頭を抱えると悶え声を上げつつ只管悔いるのだった。

すると進展しないこの状況を見兼ねてか今度は実季の方から一歩踏み込んだ質問を少年へ向け投げかける。


「ね、ねぇ君、こんな所で何してたの・・・?」

「・・・・・・!」


確信に触れる実季からの問いに驚いた少年は一瞬肩を震わすと同時に目つきを変えた。

それに気付いた実季は少し卑屈になるも引きつった笑顔を見せながら続ける。


「も、もしかして君、マジシャンなのかな?だとしたら今までマジックか何かの練習をしていたのかな・・・?」


その言葉を聞くや否や少年は「しめた」と言わんばかりの表情を浮かべ目を輝かせながら実季へと視線を向ける。

それを受け実季はつい数秒前まで動揺した様子を見せていたかと思えば突然自信有り気な表情を浮かべながら此方を見る少年に対し困惑すると共に僅かながら恐怖を感じるのだった。

そして、『魔法使い』である自分の素性を隠す為、マジシャンとして偽る事にした少年はにこやかな表情と明るい口調で実季に語り掛ける。


「そ、そう、そうなんです!何を隠そう僕は世界を股に掛けるとある有名な腕利きな方を師匠に持つ駆け出しのマジシャンで、さっきあなたが目撃したのは僕のマジックの一部で今、僕は今度開かれるマジックショーで披露するマジックの練習をしているところだったんですよ!」


まるで動揺している心中を隠すかの様に大袈裟な身振り手振りをしながら尤もらしい言い回しで自分は飽くまでもマジシャンであり、只今マジックの練習中であると言ってのける少年。


「す、すご~い!やっぱりマジックだったんだよね?だったら君、凄いマジシャンだよぉ!」


身の危険すら感じた実季は安心したのか少しの間、何も考えられずにいたのだがすぐさまこの状況に相応しい反応をした方が良いだろうと判断したのか、キラキラとした視線を送りつつ、飽くまでも少年に対し良い意味での興味を示す様な素振りをした。

そんな実季の反応を受け少年は戸惑いながらも、彼女が自分の事をマジシャンだと信じていると思うとこの場を切り抜ける為に話を合わせる。


「え?あ、あぁ、そ、そうですね。ま、まぁ僕なんかまだまだですけどね・・・。」

「(拙いなぁ・・・。『ワンルームカプセル』から出て来るところを見られてしまった・・・。あとこの人、僕のウソを完全に信じちゃっているよぉ・・・。)」


自分が蒔いた種とはいえ少年は実季にカプセルトイの空ケースの様な形状をした『ワンルームカプセル』という代物から出て来た事と彼女に対しウソを付いてしまった事への罪悪感を覚えつつも話を合わせる。


「そんな事無いよぉ。君程の人がまだまだな訳無いよぉ!」

「(どうしよう・・・。取り敢えず話を合わせちゃったけど、この子自分がマジシャンであるという事を私が信じてるって思っちゃってるよぉ・・・。)」


一方、実季は少年に対し不信感と後ろめたさが混同した複雑な心境を抱きつつもなるべくそれらを表情に出さない様、注意しながら話を合わせていた。


これからどう出るべきか。

また、相手がどう出て来るか。

宛ら駆け引きをしている様にも思える2人の間にさっきまでとは違う緊張感が漂い始めるもその雰囲気を切り裂くかの如くここ数日まともな食事を取っていない少年の腹の音が盛大に鳴り出した。


『ぐううううう・・・。』


恥ずかしさのあまり少年は両手をヘソの辺りに添えると俯きながら顔を赤くした。

だが、この出来事が幸いしたのか今まで2人の間に漂っていた緊張感が僅かに緩和された様に思えた実季は少年に尋ねる。


「ねぇ、君もしかしてお腹空いてるの?」

「あ、はい・・・。」


その問い掛けに対し気兼ねする様にして答える少年を受け実季は手に持っていた菓子パンの入ったレジ袋を横目で確認すると、彼の視界へ差し出す様にして見せながら再び尋ねた。


「もし良かったら、あんパン食べる・・・?」

「え、良いんですか・・・?わぁ、ありがとうございます!」


実季の善意に甘える事にした少年は感激しながらも丁寧に礼を言った。

そして、互いに対してまだどういった人物か定かでは無い状態の2人は『どうか悪い人物ではない様に』と内心思いつつ、近くに在ったベンチへ並ぶ様にして座った。


「ガチャガチャの空ケースから出て来るなんて、君って本当に凄いマジシャンなんだね・・・。」


少年をマジシャンだと思っている(もしくは思う様にしている)実季は彼の素性を探る事も兼ね何気無い話を振る。

対して少年は自分の事をマジシャンだと信じて疑わないと思っている(もしくは思い込んでいる)実季に胸の内を悟られる様に注意しながらも話を合わせる。


「え?ま、まぁ、そんな大した事じゃないですよ・・・。」

「そんな事無いよ!いったい誰に習ったらこんなマジックが修得出来るの?」

「へ?あのぉ、それは・・・。」


実季の問い掛けに思わず言葉を詰まらせるとどう答えるべきか迷いながらしどろもどろになる少年。

実季はその異変に気付くと腹の中を探るべく目の前で冷や汗をかきつつ慌てふためいている少年の表情をまじまじと見つめ始める。

ピンチとばかりに追い込まれると少年は頭の中が真っ白になると同時に空腹の方も我慢出来なくなったらしく先程よりも大きな音で腹の音を鳴らした。


『ぐううううう・・・。』


「あ、ゴメンゴメン!あんパンだったよね!」

「す、すみません・・・・。」


再び鳴った腹の音により少年は恥ずかしそうにしながらヘソの辺りに両手を添えつつ一先ず危機を乗り越えた事で安堵の表情を浮かべる。

一方、よほど腹を空かせているのだと悟った実季は彼の素性を探るのを一旦()める事にし、少年にあんパンを渡す為レジ袋を膝の上に乗せ広げるや否や血相を変えながら大声を上げる。


「いけな~い。私とした事がロージー牛乳を買い忘れるなんて・・・!」


ロージー牛乳とは地元の乳業メーカー北条乳業が製造販売している牛乳で地元民は勿論、全国にも根強いファンを持つソウルドリンクの事である。

どうやら実季は智史の家である『吉岡パン』に来店した際、『ロージー牛乳』の購入を忘れてしまったらしい。


「ぎ、牛乳ですか?別に牛乳が無くても飲み物であれば何でも良いのでは・・・?」

「そういう訳にはいかないわ。私のポリシーに反する事よ。」

「そ、そうなんですか?」


突如として聞こえた大きな声に驚いた少年は実季を宥めようと試みるも聞く耳を持たない彼女はロージー牛乳を求め、園内に唯一存在する売店へと向かうも生憎の定休日。


「こうなったらしょうがない。ゴメン、私、ちょっとロージー牛乳買って来る!」

「あ、ちょ、ちょっと・・・。」


シャッターの閉まった売店の前で呆気に取られながら佇んでいた実季はロージー牛乳の事しか考えられなくなったのか少年の呼び止める声を振り切る様にしてそのまま走り去ってしまった。


「(これ、待った方が良いのかな・・・?)」


菓子パンと共に置いて行かれる形となってしまった少年は内心そんな事を思いながらもどうして良いか分からず徐々に遠くなっていく実季の後ろ姿を見送りながらその場に立ち竦んでいた。

だが、暫くすると何かに気が付いた少年は顔色を変えながらこう叫んだ。


「あ!もしかして僕、あの人に逃げられたのかも!?」


その直後、少年は頭を抱えると酷く落胆すると暫くの間途方に暮れるのであった。


同じ頃、疾走しながら公園を後にした実季はつい先程の出来事を思い返すと徐々に速度を落とすと頭の中で自分に語り掛け始めた。


「(あれ?あのタイミングでさっきの子を置いて行っちゃったけど、何だか私、逃げたみたいになってない・・・?

ううん。ロージー牛乳を買いに行くって言ったのは本心だったから多分違うよね・・・。

あ、素性の知らない子と何時までも一緒に居るのもなぁ・・・。

でも、もしあの子が凄く良い子で私がロージー牛乳を買って戻って来るって信じてずっとあそこで待ってたら、どうしよう・・・。

ああ、もう分かんなくなっちゃったよ・・・。)」


考え過ぎるあまり深みにはまってしまった実季は悶々とした気持ちを抱えながら歩みを進めると向かって正面の数メートル先に吉岡パンの看板が確認出来る位置までやって来た事に気付く。

結局、今後どうするかの結論を出せないままでいた物の取り敢えずロージー牛乳を買いに行くという口実を現実とする為、本日2回目の来店をする事にした。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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