魔法少女、誕生 Part.01
今回から定期連載として原則月1ペースでお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
「実季さん、変身です!」
「オッケー、クロード!」
ある日曜日の午後、ダークエナジーの反応を受け河川敷へとやって来た実季達4人。
辺りに人気が無い事を確認するとクロードは実季にメルシールーへの変身を指示する。
その呼び掛けに応じる実季は友人である真琴と智史に見守られる形で眩い光に包まれながらメルシールーへと変身を遂げた。
「『魔法少女メルシールー』。只今、参上!」
何時もの様にポーズ付きの決め台詞を叫ぶ実季。
そして、巨大な怪物と化したダークエナジーを目の前にし、戦闘態勢へと切り替える。
「メルシールー、何時も言っていますがくれぐれも気を付けて。あと、構造物等への被害は極力最小限に・・・。」
「分かってるってぇ・・・。」
クロードの忠告と小言を受け、頷く代わりにステッキの先端で頭に被っているとんがり帽子のツバをクイッと上げる実季。
「さぁ、真琴さんと智史さんも今の内に何処か安全な場所へ・・・。」
「えぇ。実季、気を付けてね。あと、クロードくんも・・・。」
「くれぐれも無茶はするなよ・・・。」
クロードに促されながら真琴と智史は魔法少女である前に自分達の友人でもある実季を気遣う言葉を残しその場を離れる。
「ありがとう。真琴、智史・・・。」
2人の言葉を背中越しに聞いた実季は囁く様に礼を言うとステッキをかざし、ダークエナジーを浄化する為、勇敢に立ち向かうのだった。
実季がメルシールーとなって早数ヶ月。
そんな彼女がどの様にクロードと出会い、何故魔法少女へとなったのか等の経緯をこの場を借りて綴ってみるとしよう。
遡る事、数ヶ月前。
奇しくも、日曜日の昼下がり。
パーカーにショートパンツ、コンバースのハイカットスニーカーというラフな出で立ちで何処かへ出かけて行く実季。
その格好から察するに行先は自宅からそう遠くない場所であるだろう。
「吉岡パンの『限定メロンパン』。今日も買えると良いなぁ・・・。」
どうやら幼馴染の友人宅でもあるベーカリーショップ『吉岡パン』へと向かっているらしい。
日曜日限定の商品『しっとりふんわり食感 果汁入りメロンクリームパン』を購入する為、心を弾ませつつそんな独り言を呟いている内に目的地へと到着する。
ガラスの小窓がはめ込まれる木製のドアのノブを引くと焼きたてのパンの匂いが食欲を刺激する。
その匂いに思わず心地良い余韻に浸ってしまうと程無くして聞こえた声に実季の意識は現実に引き戻させる。
「いらっしゃいませぇ。ってあれ、実季?」
声のする方に視線を向けるとその幼馴染の友人である智史が休日と言う事で家の手伝いに駆り出されているらしくレジカウンターの前に立ち店番をしていた。
「あ、智史。家のお手伝い?」
「あぁ、まぁな。それより『限定メロンパン』が目当てなんだろ?」
「うん、勿論。おじさんの作るパンはどれも美味しいけど、やっぱりあのメロンパンは一度食べたら忘れられなくなっちゃうよぉ。」
「はは。それ聞いたら親父も喜ぶよ。」
そんな会話をしていると調理場から智史の父である直哉が顔を覗かせた。
「おお、実季ちゃん。いらっしゃい。」
「おじさん、こんにちは。」
「早苗先生には家内がお世話になっているね。」
「いえ、そんな事無いですよ。家の母、横着するところが有るから弥生さんに何時も迷惑かけてばかりで・・・。」
智史の母で直哉の妻に当たる弥生は実季の母である早苗が経営する『あかまつ小児内科』で看護師として勤務している。
その事も有り実季が来店した事に気付いた彼は調理場からやって来た様だ。
そして、実季との軽い雑談を済ませた直哉は出来たばかりの限定メロンパンを運ぶ為、調理場まで来る様、智史に指示を出すと実季を残し一旦調理場へと移動。
焼きたてのパンが並んだトレーを持ち店内へ戻った智史はメロンパンをショーケースへレイアウトし、その中で一番美味しそうな物を実季の分として残しておく。
「わぁ、良いの?智史。」
「ああ、良いよ。多分、実季が来たから親父が特別にサービスしたと思うから。」
それらしい理由を付け分けておいたメロンパンを袋詰めしようとする。
すると、調理場から智史の祖父母である泰造と静子がこちらにやって来た。
「実季ちゃん、こんにちは。」
「あ、おじいさんとおばあさん。こんにちは。」
「はいこれ、私達からのサービス。」
泰造と静子は実季にサービスとして既に袋詰めされているあんパンを渡した。
「えぇ、良いんですか?ありがとうございます!」
実季はその厚意に感激しながらも丁寧にお礼を言いながらあんパンを受け取ると手の平から伝わる温かさから焼き上がってまだそう時間が経過していない事を察した。
丁度その頃、『限定メロンパン』が焼けた頃を見計らってか店内が込み始めて来た事に気付いた実季は会計をしてもらい店を後にする事にした。
「智史、じゃぁ私行くね。」
「あぁ。じゃぁ、また明日学校でな。」
「うん、また明日。」
智史に別れの挨拶をし、店内から見える調理場で作業をしている直哉達に会釈をすると実季は吉岡パンを後にした。
「両方とも美味しそう。早く食べたいなぁ・・・。」
にこやかな表情を浮かべると菓子パンの入った手提げのビニール袋を時折、嗅ぎながら心を躍らせる実季。
その道中、ふと公園の前を通りがかるとその場に立ち止まると何か考え始める。
「(たまには、ボッチ飯も悪くないかな・・・。)」
どうやらこの公園の敷地内でパンを食べようとしているらしく導かれる様にして足を進める。
園内でも一番人が集う場所までやって来ると老若男女問わず様々な人達が利用しているのが窺える。
ジョギングやウォーキング、犬の散歩等で身体を動かす者も居れば、ベンチに腰を掛け園内の観察や村上春樹の文庫本を読み落ち着いたひと時を過ごす者も居る。
遊具スペースでは子供達が無邪気に遊び、その近くには保護者と思われる母親達が立ち話をしており皆がそれぞれ違う目的で公園を利用しているのが確認出来る。
「(流石に此処は人が多いな・・・。)」
そう判断し、実季は園内で落ち着いてパンを食べられる場所を探す為、再び歩き出すとふと斜め右に白い外壁をした大きな建物が園内に植えられた樹木越しに見えた。
実季の父親である千秋が内科医として勤務する某大学の附属病院だ。
今日は日曜日なのだが、担当する入院患者の様子を診る為、何時もと変わらない時間に家を後にしたのだった。
「(お父さん。今日はちゃんとお昼ご飯食べたのかな・・・?)」
千秋を気遣いつつ広大な敷地を誇る附属病院を見上げながら歩く実季。
次第に自分も将来、両親と同じ医師としての道を歩むべきか考え始めるも何時もの如く答えを出せずに悶々とした気持ちを抱え始める。
すると、スニーカーのつま先部分に何かが当たった感触を覚え目線を下に向けると、そこにはカプセルトイの空ケースが『カラカラカラ・・・』と音を立てながら進行方向へと転がっていた。
「誰よ、こんな所にゴミを捨てたのは?」
何故、園内にゴミを捨てる等といったマナー違反をするのだろう。
そんな疑問を感じた実季は些か腹立たしく思いながらも回転が弱まった事で動きが止まったカプセルトイの空ケースをゴミ箱に入れる為、手を伸ばそうとしたその時。
「うんしょ。」
カプセルトイの空ケースの中から突然、少年が飛び出した。
10代前半ぐらいの見た目の少年は、上は長袖のTシャツ、下はハーフパンツとスニーカーという格好をし、荷物としてショルダーバックを左肩に抱えていた。
実季は目の前で起こった出来事に驚きのあまり言葉を失いその場で立ち尽くすもその事に全く気付いていない少年は何やら独り言をブツブツと言い始める。
「さて、人間界に来てからしばらく経つな・・・。そろそろ、『魔法少女』を見付けないとまずいな。それに食料も無くなっちゃったし・・・。よし、今日こそは見付けるぞ。えい、えい、オー!」
勢いを付ける為、掛け声と共に右手に握り拳を作り空に向かって突き上げた少年。
しかし、何者かの視線を感じ振り向くとそこには驚いたまま直立不動でこちらを見る実季の姿が有った。
「へ?あ、あの、も、もしかして、見ました・・・?」
「え?あ、う、うん。」
大量の冷や汗をかきながら恐る恐る質問する少年に対し実季は戸惑いながらも頷いた。
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