魔法少女、誕生 Part.08
先月投稿した『Part.07』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
魔法界から指名を受けこの世界へとやって来たクロードをパートナーとして従え魔法少女としての活動を承諾した実季。
そこでクロードは変身を遂げたばかりの実季がどのくらいの実力を備えているかの確認も兼ね魔法の指導をする事にした。
「さぁ実季さん、魔法の練習と参りましょうか?」
「そんな、いきなり!?」
今後、パートナーとして自身が従える魔法使いからの発案に魔法少女は慄きながらも弱気な態度を見せる。
「大丈夫です。僕が今からやる魔法を見てもらってそれを真似てもらえば良いだけですので。」
「そうは言っても・・・。」
「大丈夫ですよ実季さん、難しい事をしてもらうつもりは有りませんから。」
言葉数少ない実季の心中を察してかクロードはその気持ちを和らげる様な言葉をかけるとウインクを1つした。
すると魔法少女としての能力が覚醒したばかりである幼馴染の様子を気にしながらも真琴はクロードに向け質問を投げ掛けた。
「ねぇクロードくん、実季は魔法少女になったばかりなのよ。そんなすぐに魔法なんて出せるの?」
「はい。魔法少女によって異なりますが変身したばかりなのにも拘らず上級者向けの魔法を繰り出したという例も有りますから。」
そう答える魔法使いの少年の言葉に真琴は感心しながら聞いているとその横で智史は驚きを見せながらも続ける様にしてクロードへ尋ねる。
「マジかよ、じゃぁもしかしたら実季もその可能性が有るって事か?」
「この後の結果にもよりますがそれに関しては『無きにしも非ず』です。」
彼等の会話を耳にしながらも実季は複雑な胸の内を表すかの如くステッキの持ち手部分を強く握り締めるとクロードは早速実践へと移るべく魔法少女の幼馴染の1人である智史へ協力を依頼する。
「すみませんが智史さん。ちょっと手伝って頂けませんか?」
「『手伝う』って言われても何をすれば・・・?」
「あ、いえ。僕の言った通りにして頂ければ良いですので・・・。ところで今、コインか何か持っていませんか?」
「ん?実季が忘れて行った『ロージー牛乳』のお釣りなら・・・。」
クロードからの要請に少々戸惑いを見せるも智史はズボンのポケットから自宅である吉岡パンへ実季がロージー牛乳を買う為2度目の来店をした際、お釣りとして渡す筈だった硬貨数枚を取り出した。
「十分です。では、実季さん。今、智史さんが手にしているコインを移動させてみて下さい。」
「いや、ムチャブリ過ぎ。出来る訳無いでしょ!」
智史の右の手の平に乗せられた硬貨を指しクロードは瞬間移動の魔法を使ってみる様に促す。
それを受け変身を遂げたばかりの実季は出来る訳が無いと言わんばかりに慌てた様子を見せるのだった。
「ははは。ご免なさい、ただ言ってみただけです。」
「もう、クロードったら・・・。」
揶揄うつもりではなかった物のうろたえる魔法少女の姿を可笑しそうにするクロードに実季は機嫌を損ねた様な表情を浮かべた。
「では、僕が見本を披露しますので実季さんは見ていてくださいね。」
「う、うん・・・。」
気を取り直し手本として自身の魔法を披露する事にしたクロード。
それを受け実季は何か言いたそうにするもその想いを自分の中に留めた後、相槌を打つのであった。
「それでは智史さん。今、コインを持っている右手を広げる様にして此方に差し出して下さい。」
「ん、こうか?」
「はい、結構です。では同じ様にして左手も差し出してもらって良いですか?」
「あ、ああ。」
クロードの指示により硬貨が乗せらせた右の手の平と何も乗っていない状態の左の手の平を差し出す智史。
何を始めようとしているのだろうと期待を寄せる真琴に引き換え険しい表情を浮かべながらもこれから起こる出来事を見届けようとする実季。
そんな中、クロードは自身のステッキを智史の右の手の平に乗せられた硬貨へとかざすと瞬時に左の手の平へと移動させた。
「すごぉい!」
「まるで手品みたいだ。」
数分前にクロードの魔法を体験したとはいえ目の前で起こった出来事に驚きのあまりそんなやり取りを繰り広げる2人を横目に実季は気が気でない様子を見せるのであった。
「手品ではありません、魔法ですよ。」
真琴と智史に向け手品ではない事を強調したクロードは実季へたった今、自分がやってみせた魔法と同じ事を実践してみる様に促す。
「さぁ実季さん、今度はあなたの番です。実際にやってみましょう。」
「えぇ?やっぱ私には出来ないよ、こんなのムズイって・・・。」
「初めはコイン1枚からで大丈夫です。イメージしながらステッキを振れば出来ますから。」
拒みながらも首を左右に振りながら出来ない事をアピールする実季だがクロードはフォローを入れながらも魔法をやるにあたっての具体的なアドバイスを送る。
そんな実季の姿に居ても立っても居られなくなったのか魔法少女になったばかりの友人を鼓舞する為、智史と真琴は言葉を掛ける。
「大丈夫だよ、実季。」
「そうよ実季、良いからやってみなさいよ。」
幼馴染2人からの言葉を受け観念したのか、実季は渋々ながらも実践する事にした。
「それでは実季さん、智史さんの右の手の平に乗せられたコインを左の手の平に乗せ換えて下さいね?」
「う、うん。分かった・・・。」
その返事の後、実季は硬貨の瞬間移動をさせるべく自信無さげながらもステッキを振る。
すると右の手の平に乗せられた硬貨がゆっくりと宙を浮いたかと思うと智史の顔の前でその動きを止める。
「・・・・・・?」
どういう事なのであろうかと言わんばかりにその光景を見守る一同であったが、次の瞬間動きが止まっていた筈の硬貨数枚が智史の顔面目掛け物凄い勢いで飛んで来ると、直後に『バチン、バチン!』と音を立てながら右の頬に激突した。
「ブーッ!」
あまりの衝撃に智史は奇声を上げながらもその場に倒れ込むと、程無くして彼の頬に激突した為、貼り付いていた硬貨が『チャリン、チャリン』という音をさせながら地面へと落下した。
「あぁ、智史、ゴメン!でも、わざとじゃないんだよ、本当だよ!」
「さ、智史くん大丈夫?」
「智史さん、意識は有りますか?」
初めてとはいえ魔法を上手くコントロール出来なかった為、幼馴染の男友達を痛い目に遭わせてしまい申し訳無さそうにしている実季を筆頭に一同は意図せぬ出来事に動揺を覚えながらも智史の下へと駆け寄る。
「痛ぇよ、重いよ、直撃だったよ・・・。」
仰向けに倒れている自分を心配し駆け寄って来た一同に向け、振り絞る様な声でたった今、自分に降りかかった出来事に対しての感想を述べる智史。
そんな友人の姿を目の当たりにし、実季は徐々に後ろめたい気持ちを覚えるのであった。
「はぁ・・・。」
先程の失敗により実季はステッキを胸の位置で握りしめながらも深い溜め息を付く。
「(魔法少女なんて引き受けなきゃ良かったな・・・。)」
やけくそになっていたとはいえ此処へ来て安請け合いしてしまった自分を悔いる実季。
そんな友人の姿を受け硬貨が直撃した事で鈍い痛みを感じている右の頬を労わる様にして擦っている智史の横で真琴は優しい口調で励ましの言葉を掛けた。
「実季、大丈夫よ。」
「え?」
「そんなに気を落とす事はないわ。次はきっと上手く行くわよ。ね、智史くん?」
そう実季に語り掛けた後、同意を求める様にして智史へと振る真琴。
それを受け智史は
「(もう俺は痛い目に遭うのは嫌だなぁ・・・。)」
と想いながらも話を合わせる為に
「あ、あぁ。」
と真琴の意見に同調する様な相槌を打つのだった。
「真琴・・・。智史・・・。」
智史の本音を知る筈も無い実季は友人2人からの言葉に素直に感銘を受けているとその様子を見ながら穏やかな笑顔を浮かべた後、クロードは実季へ向け続いての魔法をレクチャーする為、説明を行う事にする。
「今度は先程よりも簡単です。真琴さんが被っている帽子を魔法で上へ持ち上げてみて下さい。」
「え、私の・・・?」
「はい。では僕がデモンストレーションを見せます。」
そう言うと、先程同様ステッキを振るといとも簡単に真琴の被っていた帽子が宙に浮いた。
クロードは再びステッキを振ると魔法が解かれたのか宙に打いたままだった帽子が真琴の頭の上に着地した。
「智史さんの身体を浮かせた時と理屈は同じです。では、実季さん、どうぞ・・・。」
「うん。じゃぁ、行くよ?」
宙に浮いていた帽子を被り直したところで真琴に向けステッキをかざす実季。
しかし、またしても魔法を上手く使いこなす事が出来なかった為に真琴のアウターとTシャツが胸の下辺りまで上がり腹部が露わになってしまった。
「キャーッ!実季、何て事するのよ!?」
「実季さん、上げるのは帽子ですよ!服を上げてどうするんですか?」
恥ずかしさのあまり真琴は悲鳴を上げる傍で年頃の少女の腹部を目の当たりにしたクロードは赤面しながらも実季に指摘する。
魔法の効果が切れたと同時にうろたえた様子でアウターを下げるとジトッとした目付きをしながら実季へと視線を向ける。
「ま、真琴ゴメン。でも、わざとじゃないんだよ、本当だよ・・・。」
「わざとじゃなかったとしても酷いじゃない!」
自分に向けられる視線に耐え兼ねず平謝りをする実季であったがそれでも尚、真琴は興奮状態のままであった。
「最近、ちょっと太って来たから気にしてるのに!」
「だ、大丈夫だ、真琴。お前は全然、太ってなんかないぞ!」
「智史くん。今、私のお腹、見たでしょ?」
「いや見てないから安心しろ。お前の括れたヘソ周りなど決して見ていないぞ!」
「ガッツリ見てるじゃない!」
この場を静めるべくフォローに入る智史であったがかえって火に油を注ぐ結果となってしまった。
「皆さん一旦落ち着いて下さい!」
収拾が付かなくなって来ている中、クロードは混乱状態にいる3人を宥める様に呼び掛けながらも
「(さっきまでの美しい友情の光景は一体、何処へ・・・?)」
と思うのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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