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つい先週のこと  作者: 雪森十三夜
第一巻 中学校編「ちはっ、失礼します!」
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Ⅰ年 「三百二十プラス一」 (4)以後よ・ろ・し・く…

 第一中学校の一年生「駿河轟」。

 入学式で出会った女子の先輩に素直に心を惹かれるが、学校の男女比は3対1。

 風紀・生活指導にも厳しい中で、初めて目にする「応援団」の姿に興味を持つ。

 其の後のクラブ紹介でも最後を飾った姿と、先日の練習での話術に、僕は徐々に応援団に興味を抱いていた。(くだん)の友人など目を丸くして「其様(そん)なの絶対()しといた方が良いよ」と本気丸出しで言っていたが、怖い物()らずの僕の頭の中では、三日(ばか)り考えてみてもまだ気になっていた。

 どちらかと言えば、というよりどう見ても小柄で、お世辞にも屈強とは言えない僕に務まるのだろうか。当然自分でも其処(そこ)は気になった。

 その上(すで)に、担任の小沢先生からの指名で《生徒会放送局》に所属している。加えての活動は出来るものだろうか。


*    *    *


 『困った時は相談に来い』という言葉通り、職員室に小沢先生を訪ねた。


「失礼します。一年二組、駿河です。小沢先生にご相談です。」


 職員室に入る際は、大きな声で用務を申告する。用務先の先生が居れば応じてくれ、居なければ他の先生が何某(なにがし)か良きに計らってくれる。


「あ…何ぃ? 応援団?」

「はい。」

「お前、放送局に入っているだろう?」

「両方は駄目でしょうか。」

「活動がかち合うのは運動会くらいだから、駄目ということはないだろうが…、聞いたことないな。そもそもお前に出来るのか? 従いていけるのか?」

「頑張っても出来ないようなものでしょうか?」

「そう言ったら身も蓋もないがなぁ…。何だってまた応援団なんだ…。」


 (一体、何を言い出すのやら…)と、小沢先生が椅子の背凭れに寄り掛かって(しま)った時、横から飄々とした声が入った。


「良いじゃないですか。やってみたら。」


 それが応援団の顧問、片淵先生(ブッサン)だった。

 ブッサンは数学の担当。まだ三十代後半だというのに、どういう理由か殆ど白髪で、入学式当初から目立っていた。毎日、日替わりのスリーピース・スーツ、日本人離れした高い鼻に細い弦の小さな丸眼鏡、生徒以上にピンと伸びた背筋で、ベストから懐中時計を出して時間を確認する姿がトレードマークだった。


「やってみ()いんだろ?」

「はい。」

「頑張ってみ()いんだろ?」

「はい。」

「じゃあ、やってみれば良い。辞めるのは何時(いつ)でも出来る。最初の信念貫いてみるってことも今のうちだ。」

「でも、先生、此奴は通学に一時間以上かかるんですよ。」

「其様な奴は他にも大勢居ますよ。それでも奴らは立派にやってます。」

「そうですか。…じゃあ、お預けしましょうか。」

「ええ、お預かりします。」


 人身売買ではないが、担任と顧問の間で契約が成立した。逆に言えば、もう逃げられない状態になった。


「じゃあ、君、…駿河君だな。団長の八幡には僕から話をしておくから、先ず二年責任者をやっている五組の末長の所に行きなさい。彼が入団のとりまとめ役だから。」

「はい、有り難う御座居ました。」

「おぅ、頑張りなさいよ。」


 心配そうな担任とは対照的な笑顔の顧問に見送られ、職員室を後にした僕は、その足で言われた通り二年五組に向かった。


「すみません…。末長さんはいらっしゃいますか。」


 呼び出して貰って出て来たのは、(失礼な言い方だが)意外と理知的な顔立ちの、しかし、此の時期で既に真っ黒に日焼けした背のひょろ高い先輩だった。


「僕に用かな?」

「あの…、応援団に入団し()くて。」


 おずおずと口にした言葉に、周囲の雑談がピタリと止んだのが気になった。


「入団? そう、分かった。じゃあ、鳥渡(ちょっと)待って呉れ。」


 上擦った声で確認をしてから、席に戻った末長さんは、真新しい入団届けを持って来て呉れた。


「此処に自分とご両親と双方が書くところがあるから記入して。それから、担任の先生に出して。」

「出した後はどうすれば良いんですか?」

「後で、集まる日を此方から連絡するから、それまで待っていて。」

「はい、分かりました。有り難う御座居ました。」

「よし、頑張ろうな。」


 両手で肩をガシッと掴んで励まして呉れた末長さんの手は、真っ黒に日焼けして、そして彼方此方(あちこち)絆創膏だらけだった。


*    *    *


 一週間後の学活の最後、担任を通して応援団の一年生に招集連絡があった。

 体育館に行くと、上級生は末長さんだけで、一年生に今後の予定などの伝達事項があった。その席で、一年二組からは僕の他に、女の子が一人入団していることを知った。


《三条・ベルナデート・亜惟(あい)》。

挿絵(By みてみん)

 本人の自己紹介では、お父さんが日本人、お母さんがスペイン人と日本人のハーフという、つまりはクォーターだ。大きめながらも切れ長の目。鼻筋が通っていて高く、きっちりと結び(まと)めた長い黒髪に透き通るような白い肌が映えていた。深い緑の瞳が印象的な、所謂美形の、当時流行だった『軽井沢でテニス』でも似合いそうな顔だなぁと思った。けれども、入学式以来、一体全体何が気に入らないのか、というくらい兎に角笑わない娘だった。


 それからというもの。授業、宿題、学力テストの毎日が続く御蔭で、日々の生活に退屈している暇なんか無かった。あっという間にやってくる五月の運動会は、臙脂と白の二軍に分かれて勝敗を競うが、応援指導は二年生と三年生だけで行うから一年生の出番はない。新人は、それを只管(ひたすら)見て勉強する。僕は応援よりも寧ろ放送局の仕事に引っ張られた。御蔭で上級生の応援指導方法は間接的に本部席から垣間見るだけで、其の後、暫く苦労することになった。


*    *    *

挿絵(By みてみん)

 運動会が終わり、愈々本格的に練習が始まった。応援団は三部で構成されていて、男子のみで構成されるリーダー部。女子のみで構成される女子部、そして男女混成の吹奏楽部が夫々(それぞれ)活動していた。

 放課後、吹奏楽部だけは別集合ということで、応援の指揮をとる役目のリーダー部と、其の女子版の女子部の新人二十七人(男子十五人、女子十二人)が集められた。迎える二年生は男子十二人、女子十六人の計二十八人。幹部と呼ばれる三年生は男子六人、女子八人の計十四人。吹奏楽部を除いても六十九人の大所帯だった。

 講堂で新人と上級生が向かい合い、自己紹介が始まった。事前に教えて貰った通りの作法で、自己紹介が進んでいく。定型的な文句の他に、一言個人的なこと、ということで将来()()い職業について付け加えることになっていた。間違えたり、つかえたりすれば、上級生から野次が飛び、やり直しになった。

 自分の番が来る。対面式で見たように大きく手と足を広げてから気をつけをし、大声で叫ぶ。というより怒鳴る。人は意識して大きな声を出そうとするとどうしても仰け反って目も瞑りたくなるものなのだが、挨拶や自己紹介、伝達は決して身体を仰け反らせたり、天を仰いでしまっては不可ない。寧ろ、相手の方に身体を寄せるほど顔を正面に向け、目を見開いてせよと教えられた。


「ちはっ、失礼します。私、第一中学校応援団リーダー部新人、駿河轟と申します。以後、よ・ろ・し・く・お願い致します。失礼します。失礼します。私の将来就き度い職業は外交官で御座居ます。失礼します。」


 外交官というところで、「おおっ」と上級生から失笑が漏れた。次は同じ二組の三条さんだ。


「ちはっ、失礼します。私、第一中学校応援団女子部新人、三条・ベルナデート・亜惟と申します。以後、よ・ろ・し・く・お願い致します。失礼します。失礼します。私の将来就き度い職業は国際弁護士で御座居ます。失礼します。」


(へえ、三条さんて、此様(こん)な声してたんだ。)


挿絵(By みてみん)


 彼女はどうかすると、僕よりもよく通る、一言で表すのは難しいが、薄いガラスなら割って(しま)うのではないかと思うくらい、パンと張りのある声だった。

 其様な彼女の腹の据わった自己紹介、そして見た目以上に特徴的な名前の上に、「国際弁護士」が効いて、上級生がザワッとなった。

 一通り自己紹介が終わったところで、練習かと思いきや、二年生と幹部は屋上に上がり練習、新人は、二年責任者の末長さんの先導で校外に連れ出された。


*    *    *


 学校の傍には、大通りと商店街が交差しているスクランブル交差点がある。末長さんは其処(そこ)まで来ると、角の交番の中に入って行って、何かお巡りさんに説明をしている。お巡りさんが笑顔で分かった分かったという顔をして、入口まで出てきた。末長さんは戻るや僕らに伝えた。


「良いか、此の交差点のスクランブル時間、つまり歩行者用信号が全て青になっている時間は一分三十秒だ。其の間に、一人ずつ交差点の真ん中まで行って、先刻の自己紹介をやって来い。将来就き度い職業まで全部だ。先刻(さっき)、俺が計ったところでは、一番長い奴でも一分は越えていなかった。赤になる前に戻って来られる筈だ。一回の青信号で一人だ。もし終わりそうになかったら、一旦戻ってこい、次の青信号で続きをしろ。戻ってきたら、他の人の妨げにならないように此処で待機。良いな?」


 つまり、もう夕方も近く、買い物客でごった返している信号のど真ん中で自己紹介をせよという度胸試しだ。「出来ません」という人間は居なかったが、流石に女子の一部では、少し恥ずかし気な娘も見られ、野次馬の地元商店街の親父さんや末長さんに交差点の此方側から野次られていた。


*    *    *


 初日の練習はそれだけで終わり、最後に、三部合同で集合があり、初めてリーダー部、女子部、吹奏楽部の全員が大講堂に集合した。


「集合ーっ!」


 末長さんの声で、三部の幹部が僕らの前に並んだ。


「団長挨拶!」


 入学式で目にしたあの八幡さんが一歩前に出た。


「お疲れ様。」

「っしたーっ。」

「今年も多くの新人が入団して呉れて(とて)も嬉しい。最初は大変だけれど、これから一緒に怪我の無いように頑張っていこう。」

「はいーっ!」


 八幡さんの挨拶は至極簡単なものだった。其の後、リーダー部責任者、女子部責任者、吹奏楽部責任者と挨拶が続き、三部としての解散。さらに各部ごとの集合があり、初めて家に帰れる本当の解散となった。


*    *    *


 最後の解散の後、漸く緊張感が解けて、さあ帰ろうと歩き始めた時、後ろから大きな声を掛けられた。


 「駿河君!」

 自らの第一印象を信じて「応援団」の門戸を叩いた駿河君。

 級友が「止した方が良い」と言った言葉の裏には何があったのか。

 一緒に入団した同級生の「三条さん」共々、これからどうなるのか。

 そして声を掛けて来た相手は?

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[一言] 私の作品も読んでみてね
[良い点] 次回予告はいいと思う [気になる点] タイトル長ない?
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