↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つい先週のこと  作者: 雪森十三夜
第一巻 中学校編「ちはっ、失礼します!」
PR
49/508

Ⅲ年 「女の子たち」 (5)気づくか否か

 主人公「駿河轟」は、かなり天然な中学三年生。

 目下、応援団の同期「ベーデ」と追いコンでペアとしてダンス披露するために特訓中。

 一方で、駿河には一筋縄ではいかない様々な特長があり、それ故、ベーデにも心配と世話を焼かれる日々。ちらちらと本音を漏らす彼女の意図にも全く気付かないまま、月日は徒に過ぎていく。

 二学期の終業式まであと一週間となった日、二学期の期末というか、凡(およ)そ「成績」というものに対して真剣に取り組まざるを得ないであろう中学校最後の試験の結果が戻ってきた。

 朝の学活で、担任のブッサンが普段のように澄ました顔で教室に現れ、全員が礼を済ませて着席する。


「では、期末試験の採点答案と成績票(イエローカード)を渡します。其の前に、恒例の十傑入り。」

「おぉ…。」

 教室にどよめきが洩れる。


 朝の学活はホームルーム。成績順のクラス編成ではない。一番から三百二十一番まで、ほぼ均等の成績でホームルームの級友は構成されている。

 八クラスあるので、《十傑入り》は一クラスから一~二名出るのがほぼ確率的・統計的には順当なところだった。《十傑入り》とは、だからといって表彰されたりする手合いのものではなかったけれど、相撲で言えば、まあ《幕内上位》入りのようなもので、一つの『よくできました』の桜ハンコのようなものだった。勿論、普段の成績以外で、何らかの大会等で入賞した際も同様に発表される。


「前回は、三島だけでしたが、今回はもう一人。」

「おぉ…。」


 ブッサンは、黒板に向かって数字の羅列を二行書いた。

 94 98 92 90 94 98 94 88 92 840 93.3 ①

 98 52 98 100 96 98 96 94 90 822 91.3 ⑨

 ブッサン担当の数学を表す「52」の部分で失笑と拍手が洩れた。


「よくもまあ…、数学が52点なんかで十傑に入れたと思うんですが、他の八教科のうち七教科で第一位、総合で第九位ということで、目をつぶりましょう。二人のうち、一人は三島。」

「はい。」

 ヨーサンは、二年生の頃から十傑から出たことがない。というか、総合順位はいつでも一位か二位だった。


「もう一人は、駿河。」

「はいぃ。」

「どちらがどちらの成績か、ということは言わないとしても、まあよく頑張った。ただ、数学52点は、もう少し何とかしなさい。」

「はいぃ!」

 僕が大きな声で返事をしたことで、教室が沸いた。


「折角武士の情けで言わないでおいてやったのに…。」

「失礼致しましたぁ!」

「はい。それでは出席番号順に取りに来る。…」


*    *    *


 昼休み、珍しくベーデもコーコも来ず、静かに過ごしていたら、ヨーサンが声を掛けてきた。


「ねえ駿河君(ゴーチン)?」

「三島さん(ヨーサン)、平均93.3って凄いね。」

「駿河君(ゴーチン)も、数学が他と同じ91点をとってたら、ダントツの一位でしょ。私なんか足下にも及ばないよ。860点なんかになったら。平均95点超えなんて、迚(とて)も常人じゃないわ。」

「実際、52点だもの。」

「何(ど)うして、常時(いつも)数学だけ点が取れないの? ていうより、其の点数で何で常時(いつも)数学が一組なの?」

「ん~…。」

「よかったら答案見せて?」

「ほい…。」

 渡した藁半紙の52点をヨーサンはじっと見ている。


「矢っ張りだ…。」

「何?」

「出来るのに出来てない。ケアレスばっかりじゃないの?」

「ん。あぁ、そうだね。よく言われる。」

「他の教科でケアレスが無いのに、数学だけっていうのは、数字の扱い方の所為だよ。」

「ん?」

「ほら、此処の1と7とか、1と4とか、2と3とか、小さく、彼方此方(あちこち)に書きすぎ。」

「まあ、結果は結果だから。」

「治す努力もしないで結果を受け入れちゃあ駄目なんだよ!」

「…はい…ごめんなさい…。」


「これ、意外と簡単に治るから、今日の放課後に特訓してあげる。」

「良いよ、三島さん(ヨーサン)、忙しいだろ?」

「少し遅いけれど、定期戦を充実して終えられたことのお礼よ。それにちゃんと今度の選抜に通らないと一緒の高校に上がれないでしょ?」

「そうだねぇ…。」

「ブッサンに居残りをことわっておくから、逃げちゃ駄目よ!」

 ヨーサンには珍しく強硬に決めつけ、さっさと出て行って了った。

挿絵(By みてみん)

放課後、ベーデとコーコが覗きに来たけれども、

「今日は、三島さん(ヨーサン)に絞られるから一緒には帰れません!」

と追い払った。コーコは、なおも、

「何? 何のお勉強よ?」

と食い下がっていたけれど、ベーデが不機嫌そうに、

「駿河は私達なんかと遊んでる暇は無いんですって、行きましょ。」

とコーコの腕を掴んで連れて行って了った。


 静かになった教室で、

「じゃ、これを五分で解いて。」

「此様(こん)な簡単な計算で良いの?」

 入試によくある四則計算の問題がずらりと並んでいる。


「駿河君(ゴーチン)の悪いクセを治して、点数に直結させるためにはこれが一番なのよ。はい、スタート。」

 ヨーサンの合図で解き始める。二人一緒に解き始めた筈が、彼女はアッという間に終わっている。


「はい、終わり。」

 答案に直ぐに○つけをするヨーサン。


「よく、其様なに早く出来るね?」

「私、算盤をやっていたから、これくらいなら暗算。」

「へぇ…。」

「それより、此処の1、7、4、全部置き間違い、見間違い! ちゃんと書くなら書く、置き数字なら置き数字で分かるように書く。ごちゃごちゃゴマつぶみたいな数字を書かないの!」

「はい…。」

「じゃあ、次、スタート!」

 それを五回くらい繰り返すうちに、点数は確かに満点に近付いてきた。


「ほら、直ぐに変わった。こうして自分で書き方を工夫して、下書きなのか清書なのかはっきりさせることに気をつけさえすれば、30~40点くらいじきに上がるわよ。」

「おぉ!」

「証明問題に強いんだから、左程配点の変わらない計算問題で得点を失っていたら勿体ないじゃない。」

「そうだな、でも何故先生は、今迄其処を教えて呉れなかったんだ?」

 彼女は目を丸くして、其の後、椅子に座り直した。

挿絵(By みてみん)

「駿河君(ゴーチン)さぁ。」

「…はい。」

「二年生のとき、ジージョさんの数学、一番前の席だったよねぇ?」

「そうそう。」

「それも、皆と同じ向きじゃなくて、一人だけ、皆よりも前で、然も教卓の方に向かって。机の向きがみんなと九十度。直角。」

「そうそう。よく覚えてるね?」

「駿河君(ゴーチン)は、なんでああいうことになったのか、覚えてない訳?」

「何でだったかな? でも特別席だったんで嬉しかったのは覚えてる。」

「…。」

 無言で考え込んだ僕の目の前で、彼女は額に手を当てて俯いている。

 駿河君の「天然」ぶりに、同期生達はそれぞれの方法で助け舟を出している模様。

 今度は、ヨーサンがとんでもない「谷間」を示している数学の問題について言及。

 こうした「気付き」というのは思春期にとって、とても大事。

 大事なのだけれど、わかっちゃいるけどやめられない、どころか、どうやら駿河君はわかってもいない様子。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。