Ⅲ年 「定期戦Ⅲ」 (1)出陣
主人公「駿河轟」は「応援団」に所属する中学三年生。
団長就任で、新方針で早くも直面した難局も乗り越え、特別練習も無事に終了した。
そんな中、二年団員の中核的存在「ロコ」の退団届を契機に、下級生の信念に思いを新たにする駿河だったが、年間の最大イベントは目前に迫っていた。
最後の定期戦、其の日がやって来た。
一昨年の乱闘騒ぎを契機として、昨年、応援団連合の当番校だった一中の発案で始まった団長・副団長会議もあったため、事前も比較的和気藹々とした感じで調整が進んでいた。
但し、それは応援団の幹部、然も、代表たる団長・副団長だけに限られた話であって、全団員という訳ではない。学校によっては、血の気の多い団員を多数抱えている学校も正直言って、存在した。
「まあ、万が一の事にならないように、約束だけは守るようにしようや。」
「あと、『慣例』な。あまり突飛なことすると、一触即発ってこともあるし。」
「何かあれば、当日でも直ぐに渉外会議を招集するってことで。」
応援団にとっての『慣例』というものほど、曖昧だが大事にされているものはない。
何かを変えるということには必ず、衝突が伴う。
* * *
今年の連合の当番校は四中だ。会議後に四中の校門を出た途端、コーコが寄ってきた。
「ね、ね、みんな駿河君より二回りくらい大きかったねぇ。二中の副団長なんか一八五センチはありそうだったよー。」
「体格じゃないって選任会議の時に言ったのはお前だろ。」
僕は真っ直ぐ前を見ながら言った。
「そうだけどさ、いやぁ、私なんか『ビビッてなんかないぞ』って、力入っちゃって、肩凝っちゃったよー。」
「でも、話は分かる連中だったな。理解が早いっつうか。敢えて対決姿勢でもなかったし。やっぱ、下級生っていう重荷を抱えている奴らは顔が一緒だわ。」
ヤーサンがほっとしている。それには僕も同感だった。
一昨年の乱闘事件以来、各校ともにリーダーの人選には学校側も気をつけているという噂だった。
「デンを見習えよ。他校の渉外責任者は全員男だぞ。それでも、愚痴一つこぼしてない。」
「だって、デンはデッカイじゃん。それに弁も立つしさ。其の辺の男子より身体も態度もデカイぞ、あれは。新人のときなんか、容積でゴーチンの倍くらいあったんじゃない?」
コーコが妙にデカさに拘っている。
「三部合わせて総勢百名を越える連合内最大の応援団の副団長をやっている、そういうお前の自信は何だよ?」
コーコに尋ねた。
「おぉ、そう来るか…。」
彼女は少し考えてから答えた。
「細やかさ、明るさ、撓やかさかな。それは、きっと副団長としてヤーサンも一緒だと思う。」
「おう、意義なし。」
ヤーサンは即答した。
「じゃあ、夫々に自信もって行こうや。『選任』つうのはそういう意味なんだろ。」
「そうだねぇ。」
コーコも前を向きながら頷いていた。
* * *
そうは言いながらも、事前会議で口にはしなかった《少し頭に引っ掛かること》があった。
それは、ケーテンとカーサマが提案してきた『チャンス・メドレー』での相手校名のコールのことだった。
これまで慣例として、自校を励ますコールはあっても、他校を「倒す」という主旨のコールは行われてこなかった。
それが、過去に乱闘につながったからなのか否か、背景はわからないが、八幡さんに訊ねてみても分からなかった。
しかし、高校、大学では、それは一般的に行われている。相手を倒してこそ、自らの勝利があるのであって、僕らは応援行為としては至極当然と考えていた。練習後の幹部会でも、幾度となく其のことについて話し合った。
「構わないんじゃないの? 学生注目や、ブロック応援では既に他校名使っているだろ。」
タイサンが問題無しという立場をとる。
「でも、これまで無かったってことは、それなりの理由があるんじゃないの? 渉外会議に出しておいた方が良いんじゃない?」
デンが用心すべきだと釘を刺す。
「やるなら、一発ハプニングで行き度いんだよね。勢いっていう点から考えると。」
ケーテンとしては当日本番まで黙って居度いらしい。
「兎にも角にも、一昨年みたいな乱闘は御免よ。今度は一中が当事者だなんて洒落にならない。」
コーコも慎重論だ。
「先生は何て言ってんだ? これまで全校練習でも見せてきただろ?」
セージュンが僕に話を振った。
「相変わらず『任せる』だよ。」
結論は、『何かあれば当日、事が大きくなる前に渉外責任者を通して、更に団長が対処する』、ということで決まった。全責任を負うのは団長だ。
其の団長として、落としどころを持たずに企画を通すことがあってはならない。他校からクレームがついた時に、それをどう処理するのか。間違っても二年前の乱闘のようなことに発展させてはならない。ましてや昨年から団長・副団長会議まで開催して、其の再発防止に努めている最中だ。各校間の調整を行っているのは渉外責任者だとしても、応援団としての最終意思決定権者は団長だ。各校の団長を納得させられるだけの理屈を用意して臨まなければならない。
然も、抜き打ち承知の実施ととられるだけに、交渉が穏便に始まることも考え難い。団長同士とはいえ、熱くなった頭を冷やすに足る、納得させられる理屈と落としどころが必要だった。
そして、もう定期戦も明日となった夜、奇しくも三島さんから借りたレコードを聴いている最中に、其の理屈は頭に浮かび上がってきた。
* * *
幹部にとって、当日の緊張感というのは、予想を遙かに超えたものになる。集合場所や練習開始を間違えれば、渉外会議違反で後々問題になる。幸運にも、今年は其様なこともなく、各校応援団が、夫々スタンド外側の入口に待機が終了した。
各校の二年責任者が全員、合図の片手を上げて集合の時間となり、各校独自に、幹部からの挨拶が始まり、夫々気合の入った返事が返っている。
一中は、基本的に幹部は団長とリーダー等の男子責任者が学生服、副団長は男女ともに着物に袴、女子の各責任者はチア・ユニフォームか半袖のセーラー服にジャケットを羽織ること、が正装と決まっていた。
コーコの着物に袴姿は、流石呉服屋の娘と感心するだけのものがあった。また、チアユニフォームやセーラー服の上に、男子が学生服に付けている校章入りの金ボタンを付けたダブルのジャケットを羽織り、臙脂に白線・校章と應援團の文字、そして役職名と自分の名の刺繍の入った腕章に團バッヂ姿のベーデやデン、ショコ、カーチャン、ヨーサンの姿も凜として勇ましいものだった。
三部総勢で百名を超える四校最大の団員数を誇る一中の集合は、例年の如く他を圧倒した。特に今年は、声での体当たり練習が功を奏し、応援開始前にして、既に他校に勝つ勢いを感じさせて呉れた。
団内のゴタゴタは一先ず落ち着いて迎えた定期戦。
しかし、今度は「自らが仕掛けて発端」となるゴタゴタが起こりそうな予感。
そうそう中学生が考えているようにうまくいくものなのか。
そんなゴタゴタもあっての思春期なのでしょうけれど、
見ている「大人」は気が気ではないものでしょう。
顧問の「任せる」の一言。言葉は簡単ですが、相当の度胸と、日頃の見守りあってのことと思われます。




