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アンドロイドは浮気も賭博も暴力もしないが夜這いはする  作者: うざいあず
青音レコは料理も洗濯も掃除もできないし歌も歌えない
5/28

5曲目 青音レコの性器は追加で買う必要がある

 一方その頃、井ノ中邸。


「これは……まずいですね」


 部屋を一望してレコは呟く。


 鍵の開く音――肩を跳ねさせてあわあわと震える。無駄に左右を見回して、玄関に続く廊下で両手を伸ばし可也の行く手を阻んだ。



 ◇



「……ただいま」


「お、おかえりなさいマスター」


「帰ってきたときに誰かにおかえりと言ってもらえるのは良いな、寂しくない」


「そうでしょうとも!これからは毎日言って差し上げますよ」


 家に帰ると絵に描いた美少女が出迎えてくれた。それはとても嬉しい、嬉しいのだが、

「なんで家に入れさせてくれないんだ?汗かいたからはよ風呂入りたいんだけど」


 鍵を開けて家に入ると、レコが進路妨害してきた。


「お風呂ですか!?え、えっとお、今日は入るの止めてはいかがでしょうか?」


「風呂止めるってなんだよ」


「その方が臭いが濃くなって私的にはありがたいです!!」


「アンドロイドに臭い分かるのか!?というか発言が気持ち悪い!」


 なんとか通り抜けようと身体を入れ込むと、びくともせず彼女の両手は俺の胴を掴む。


「拒否します!あっほんとに汗かいてますね……すんすん……ぐへへ」


「ひえええええ!?やめろ嗅ぐな!!俺を嗅ぐのをやめろおおお!!」


 びくんっ。もみくちゃにしていた彼女の手が唐突に止まり、首筋に突っ込んでいた顔を引き上げた。


「ぐうううう……もっと嗅ぎたいのにい……」


 レコは悔しそうに本能のまま唸り声を上げる。アンドロイドに本能があるのかはさておき。


「そこをどいてくれ」


 表情の豊かさとは相反し、彼女はあっさりと道を譲ってしまった。


「急に素直だな」


 首を傾げていると、


「マスターの命令には背けないよう設定されています。ロボット工学三原則というやつです」


「アンドロイドなのに?」


「シビアなところに噛みつきますね。七十年前の作品の引用ですから」


 作品ということはSF小説なり映像なりが元となっているのか。三原則というやつは聞いたことがあったが、学問として体系化された一節だとばかり。


「右手上げて」

 右手を上げるレコ。


「左手上げないでー右手下げる」

 従順に左手を上げずに右手を下げた。


「どういうおつもりですかマスター」


「いや本当なのかなあって。じゃあ何を隠そうとしてたか全部話して」



 「うぐぐっ……」心底嫌そうに声にもならない声を上げた彼女はキッチンへ案内した。1Kなので廊下に平行な場所に位置するそれは食器の山が二つあった。


 一つは大量の泡に塗れ、もう一つの山は割れた食器たちで出来ている。


「汚れた食器が沢山溜まっていたので洗おうとしました」



 次に風呂。小さな脱衣所に置いた洗濯機からは洗濯物がはみ出て、泡が部屋に埋めて、薄く水が床を満たす。


「食器と同じく溜まっていたので……こ、この子は悪くないんです。私が分量をちょっとばかし間違えただけで」


 この子、洗濯機のことだろうか。


 ごちゃごちゃだったタンスの中身はさらに凄惨と化す。



 最後に部屋の中央に置いたローテーブルに食器が並ぶ。


「あっ!そ、それは……」


 白い平皿の上に白と赤のまだら色となったお米、傍に寄りかかるようにして焦げの目立つスクランブルエッグがあり、ケチャップらしき赤い液体が皿からはみ出し、紋章でも描くように飛び散っている。


「使える食材に卵とウインナーがあったので、どうせならオムライスを作ろうと思ったんです。味見はできませんが、多分、美味しくないと思います」


 消えそうな声。沈んだ表情を隠すために俯いて、スカートの裾の両手で握る。


「すみません。今捨てますね」


「ちょっと待って」


 用意された座布団の上に座り、スプーンを手に取る。


「あ、あのお腹壊しますよ」


「食べられないものは入ってないだろ。いただきます」


 レコは命令に背くことはできない。俺の食事を邪魔することはできない。


 卵とケチャップライスを均等にすくい、口の中に入れた。白米は味にムラがあるし、かっぴかぴに乾いたところやおかゆ気味のところもある。卵の中には殻が入り、全体的に塩味が強い。


「美味い美味い。掃除洗濯は駄目でも飯は作れるんだな、見直したよ」


「そんなはず、ないです。絶対美味しくないですよそんなもの」


「男子大学生ってやつは酷い自炊で飢えをしのぐもんだ、それに比べたらこんなご馳走はないよ」


 水をたらふく飲み、ただ黙々と食べる。それを五分か十分続けると皿の中身は空になった。


「ごちそうさま」


 料理下手だが、俺より美味く作れているから感想に困るな。簡単な料理で済ませず、オムライスに果敢に挑戦するあたり向上心もあると見た。


 アンドロイドに心があるのかは知らないけれど。


 レコはそわそわと何か言葉を待っているようだった。


「『お疲れ様です』って書いてたよね。レコも今日お疲れ様、色々あったけどこれからよろし、」


 笑って見せると目を逸らした。立ち上がって、空の食器をまとめようとすると、



「マスター。私はマスターに尽くす為に造られました」


 床を撫でるほど長い銀髪をかき上げ、頬を上気させる。深海のような瞳は潤んでピンク色に変わり、俺を獲物のように見ている。


「お料理やお洗濯やお掃除だけではなく、お歌だけではなく、もっとマスターの為になるようなことがしたいのです」


 彼女が肩を押すと簡単によろけ、ベッドに押し倒された。行き場を無くす為片足を股に入れられ、両手は肩と顔すれすれに置く。


 衣装の首元を緩ませ、俺の手を無理矢理自分の胸に押し付ける。


 ふに。


 手ごたえのない柔らかい本物そっくりの感覚が伝わる。心臓の音はしない。オーバーヒートしているような熱さだ。


 機械相手なのに頭がくらくらしてきた。


「レコ……駄目だ。俺はレコにそんな気持ちは、」


 押し付けていた手を離し、ゆっくりと俺の身体の下部を撫でて、


「マスターの主張を却下致します。だってここはこんなに――」



「――あれ」


 レコは自分の下半身をまさぐり、白いパンツが見えるのも躊躇わずスカートを降ろした。


 スカートを降ろしたかと思えばパンツに手をかけて、


「ちょっ、なにしてるの!?」


「見てください!」


「見れるわけ無いでしょ!?」


「いえいやらしい意味ではなく、メンテナンス的な意味で見てほしいのです!」


「いやだーっ!誰がお前の言うことなんか信じれるかっ!!」


「ないんですよ!生殖器が!!」


 おそるおそる目を開くとくびれのある女性的な体躯にスク水のような溝が付けられ、その溝の内側は白く、近未来的なモールドがいくつも彫られている。


 その下。女性であれ男性であれ付いていて然るべき凸凹のどちらも存在しなかった。腹部と同じく白いペイントがあるくらいでつるっつるなのだ。毛の有無とかそういうレベルではない、最初から設計されていない。


「なんで!?なんでないんですか!?『全てを尽くす』って最終的に子供を作るって意味じゃないんですか!?」


 俺に跨ったまま酷い動揺を見せるレコ。


「子供!?ま、まあまあ落ち着いて」


「落ち着いてられますか!私の人生プランが台無しですよ!!ちょっとドクターに抗議の電話入れます」


 憤慨しながらベッドから降りる。自分の耳を押さえると、瞳の色が緑色に代わり、文句を垂れ始めた。ドクターとやらと話をしているらしい。


「なんでつけてくれなかったんですか!!ええ!?追加アタッチメント!?お金取るんですか!?」


 ズボンのチャックを上げて、襟を正した。


「あいつ普通に俺の命令却下したな。ロボット工学三原則なんかあるのか?」


 彼女が嘘をついていたか、三原則を避けられる裏ワザがあるか、そのどちらかだろう。


「くっ……分かりました。次会ったときは覚悟しておいてください」


 指を耳から離し、目は青色に戻る。


「マスター、女性器アタッチメントのご購入をご検討して頂きたいのですが」


「絶対買わん」

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