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「マーガレット!」


 ドアンナは、彼女の名を叫び、ベッドのそばに駆け寄った。


「マーガレット!マーガレット!」


 ドアンナは、彼女の肩を揺すり、叫び続けた。しかし、その肩は、すでに氷のように冷たい。ベッドのシーツは、彼女の流したおびただしい血によって、ぐっしょりと赤く濡れていた。


「うそ……うそよ!ょ…起きてよ!……ねえマーガレット起きて!起きて!!起きてよ……」


 ドアンナの双眸から涙が溢れ出した。ドアンナは、震えながら手を離した。そして、何も考えることができず、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。


胸の中に突っ伏し、マーガレットの名を叫び続けた。

 なぜ?どうして?なぜ死んでいるの。

 叫び声を聞いて、レイセンたちが、急いで蔦を上ってきた。部屋に飛びこんだ彼女たちもまた、マーガレットの姿を見て、同様に、何も言えず立ち尽くした。


 ドアンナは、やおら立ち上がり、部屋を飛び出した。そして大声で助けを求めた


「誰か!誰か助けて!誰か!」



 ドアンナは叫び声はがらんとした廊下に響いき渡った。しかし、廊下は変わらずしんと静まり帰り、誰からの返事もなかった。

 おかしい。いくら早朝と言っても、この時間ならだれかしら目を覚ましているはずなのに……

 ドアンナは、隣部屋のドアを叩いた。


「ラウラ!ラウラ!返事をして!お願い!ラウラ……」


彼女は、何度も何度も強くドアを叩いた。しかし、扉からは一向に返事が来ない。



「リン!開けて!どうして返事してくれないの!?開けて!」


彼女はさらに都内


そして反対側の扉も叩く


その時、廊下の窓から中庭の様子が目に入った。

 ここで、中庭に見に行く

 廊下に転がる死体を見る

 そして、人々が囚われている様子を見る



「なに、あいつら……」



 見つかりそうに成った時、口を塞がれて・・・・


 そのとき、ドアンナは目の端に何かを捉えた。彼女が振り向くと、目の前の空間が、なにか光学的な屈折現象を起こしたように、ぐにゃりと曲がり歪んでいた。


「いやっ!」


 ドアンナが、思わず甲高い叫び声を上げた瞬間、歪んだ空間の裂け目から、黒いスリーブに包まれた腕が飛び出した。それはレイセンの顔にまっすぐ伸びると、その口を塞いだ。


「しーーーーっ」


 目の前の空間から、唇の擦過音が静かにしろと命じた。次いで聞き覚えのある声が話しかけた。


【女の声 】「ドアンナ、静かにして。わたしよ」


 宙に浮かぶ右手が見えない何かをひっつかむと、目の前の空間はあたかもカーテンを凪いだようにめくれ、その奥に、見慣れた顔が現れた。


【レイセン】「リン!」


 レイセンは口を抑えられながら、くぐもった声でそう言った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 レイセンたちが部屋から出ると、そこには下半身を透過させ、上半身だけ姿を見せたリンがいた。

 ー不可視の垂簾ー彼女は今、透明なマントに姿を隠す魔法を使っているのだ。

 リンは、黒く長い髪に隠れた半目の向こう側から、レイセンたちを認めた。

 

【レイセン】「リン、なにがあったの」


 声を出したレイセンに対して、リンはもう一度唇に手を当てて、静かにするよう合図した。そして、そのまま皆を廊下の先に連れて行った。

 彼女は、白い壁の前に立った。そこは、三階の階段を上がったすぐ真隣の壁で、本来そこにミランダの部屋に通じる扉があるはずだった。

 リンが壁を指でなぞると、擬装が剥がれ、扉がそこに出現した。

 リンは取っ手を掴み扉を開けた。

 部屋のベッドの上に、寮監が体を横たえていた。彼女の服は血で赤く染まっていた。彼女の脇には、おそらく彼女を刺したものであろう、血塗れのナイフが置かれていた

 ミランダが、寮監の前に立ち、目を伏せて傷口に手を嵩ざしていた。彼女と寮監の姿は、後光のような白い光で覆われていた。

 ー神の恩寵で癒やす魔法ー。聖別を授かった神官のみが使える、神の魔法だ。その白い光は、骨に達するものでなければ、大抵の外傷を塞ぐことができる。

 しかしこの魔法は、流れた血をもとに戻すことは出来ない。寮監の血まみれの服を見るに、たとえ傷が塞がっとしても、余談を許さない状況だろう

 部屋の奥では、ライラが椅子の背にまたがり、ドアンナたちを見つめていた。


【ドアンナ】「ライラ、一体なにがあったの」


 ドアンナは訊いた。しかし、彼女が答える前に、寮監が口を開いた。


【 寮監 】「暗殺者たちに寮が襲撃された。やつらの狙いは、アマンダ、お前だ。」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【ドアンナ】「……暗殺者……?」


【 寮監 】「ああそうだ。それも、並の手練じゃない……おそらく国家に使役された、一流の暗殺者たちだ。なにせ、この私を半殺しにしたのだからな」


 寮監はそこまで言うと、改めて彼女たちを見ると、口をへの字に曲げて言った。


【 寮監 】「お前たち、随分遅い朝帰りだな。いつもならぶっ飛ばしてるところだが……」


 そこまで言うと、寮監は体を折り曲げて咳き込んだ。彼女が口を拭うと、その手のひらに血の痰が見えた


【ドアンナ】「寮監、無理に喋らないでください」


【 寮監 】「いや、話す」寮監が口を開いた。「深夜の二時頃に寮が襲われた。わたしとリドリーで戦ったが、あいつは殺されちまった。王女がここにいないとわかると、奴らは生徒を集めて東棟の地下室に監禁した。私は倒れて死にかけてたところを、こいつらに助けられたんだ」


 寮監は目を動かしてリン達に視線を送った。彼女は顔を歪めながら体を起こすと、ドアンナたちに向き直り、言った。


【 寮監 】「お前たちは、アマンダを連れて王城へ向かって匿ってもらえ。そして、王の側近に裏切り者がいると伝えるんだ。」

【ドアンナ】「裏切り者?」

【 寮監 】「ああそうだ。暗殺者の中に一人、知ってる魔法使いがいた……」寮監は再び咳き込んだ。皆駆け寄ろうとしたが、寮監は手で静止した。そして、続けた。「そいつの名前は、クラウザーだ」

【ドアンナ】「クラウザー」

【 寮監 】「そうだ。クラウザーだ。この話は、王にだけ直接話せ」」

【ドアンナ】「王に直接」

【 寮監 】「ああそうだ・・王と直に会うための符牒がある。『その王命は銀である』、だ」

【ドアンナ】「『その王命は銀である』」


 ドアンナは繰り返した。


【ドアンナ】「ああ、そうだ……お前たち、後は頼んだぞ……」


 そういうと、寮監は目を閉じベッドに横たわった


【 レイ 】「寮監!死なないで!寮監」


 レイは寮監に駆け寄り、彼女の肩を揺らした。しかし、ミランダに止められた。


【ミランダ】「大丈夫、眠っているだけよ。だけど、まだ動かすのは危険。私は、ここからは離れられない」


【 リン 】「私も動けない。わたしの魔法は、距離が離れると効果を失ってしまうから……それに、私はここに残って奴らの動向を探りたい」


【ドアンナ】「わかったわ。必ず助けを呼んでくるから」


 ドアンナはそう言い、廊下に出ると、みなに言った。


【ドアンナ】「みんな、一分以内に装備を整えてきて」


 彼女たちはうなずくと、皆それぞれの部屋に向かった。

 ドアンナは、自分の部屋に戻ると、植木鉢から木を抜き取った。それは、二股の枝を互いによじって作られた、ブナの生きた若木であった。これが、彼女の杖なのだ。彼女が杖の根本の土を払うと、そこに白い根毛のひげが現れた。杖のてっぺんは若々しい緑の葉が飾っていた。

 彼女は杖を抱えると、マーガレットの死体のそばに腰を下ろした。

 彼女はマーガレットの顔を覗き込んだ。彼女は、明るい、気さくな女の子だった。彼女は貴族の家柄であり、卒業後には許嫁との結婚が決まっていた。彼女はその男に惚れていた。彼の金色の髪や青い瞳について、夜中まで滔々と語ったものだった。

 ドアンナは、彼女の顔に手をかざし、遠くを虚ろに見ているその瞳を閉じてやった。

 やがて、皆が支度を終え部屋に集まった。彼女たちは、蔦を伝って地面まで降りた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 彼女たちは、街を走った。ライラは衛兵を呼ぶため、通りに出てすぐに別れた。

 彼女たちは、街を走り続けた。朝の街は、まだ眠りから目覚めたばかりだ。冷たい石畳の上を、ドアンナたちの小さい足が、音を立てて駆けた。そうして彼女たちは、走り続けた。

 やがてドアンナたちの行く先に、ローゼンハイムの外城壁が見えてきた。

 ローゼンハイムは、大きく3つの区域に分けられる。一つは、国王とその親類が住む王城、その王城を囲む旧市街、そしてさらに旧市街を囲う新市街だ。そして、それらを囲う城壁を、それぞれ内城、外城、大外壁を呼んだ。

 いま、旧市街を囲む外城門の前には、普段の朝よりも長い人々の待機列が作られていた。


【レイセン】「なにかあったのかな?」


 レイセンが言った。

  

【セーラ 】「すいません!ここを通してください!緊急の事態なんです!」


 セーラが叫ぶと、列に並ぶ人々は、みな一体なんのことだ振り返り、道を開けた。彼女たちが外城門の手前まで行くと、若い衛兵がその進路を遮った。


【若い衛兵】「止まれ!止まれ!」


 彼はそう言い、両手を広げセーラの前に立った。


【セーラ 】「急いでるんです!ここを通してください!」

【若い衛兵】「駄目だ!並び直せ!」


 衛兵は、断固たる口調でそう言った。


【ドアンナ】「中でなにかあったのですか?」

【若い衛兵】「答える義務はない」


 衛兵は返答を拒否し、怖い顔でドアンナたちを睨みつけた。この衛兵は、態度を変えることはないだろう。

 アマンダが、セーラたちをかき分け、前に進み出た。


【アマンダ】「ここを通してください」

【若い衛兵】「だめだと言っているだろう!」


 アマンダはフードをめくり、素顔と赤い髪を見せた。


【若い衛兵】「あなたは!」


 衛兵は驚いて声を上げた。詰所の奥から中年の兵が進み出ると、アマンダの姿を見て、言った。


【中年の兵】「話は横で聞いていました。ここを通りください」

【アマンダ】「第一魔法学校の寮は分かりますか?」

【中年の兵】「ええ、もちろん」

【アマンダ】「寮は暗殺者の襲撃を受けました」

【中年の兵】「なんと」

【アマンダ】「すでに衛兵を呼んでありますが、貴方達からも応援を出してください」

【中年の兵】「承知しました」


 兵士はそういうと、門を上げ彼女たちを通した。

 彼女たちが門を通過すると、背後で中年の兵が、兵士を集めるよう叫んでいた。

 アマンダたちは、再び街を駆けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 街には、祭りの喧騒の跡が散らばっていた。屋台の食べ残しや紙吹雪やらが散乱し、酔っぱらいがそこかしこでいびきをたてて眠り込んでいた。旧市街には、地位の高い人間も多く住んでいるため、酔っぱらいなどはまっさきに逮捕されるのだが、この日は普段と違って道端に堂々と寝転んでいた。

 道の上空には、家と家の間に吊るされた紐から、いくつもの灯籠が吊るされており、朝になったいまも橙色の灯りをともしていた。

 アマンダたちは坂を駆け上がり、王城の前にたどり着いた。アマンダが門に近づくと、門兵は首を振り、槍を交差させて、ここは通せないと意思表示した。

 アマンダがあたりを見渡すと、城門の上に見知った顔が立っていた。


【アマンダ】「ジークラット様!!」


 アマンダは大声で叫んだ。赤いアゴ髭を蓄えた、銀の甲冑に身を包んだ男が、アマンダの方を向き驚きの声を上げた。

 

【ジークラット】「おお、王女様、ようやくお戻りになられましたか」

【 アマンダ 】「ジークラッド様、ここを通しください」

【ジークラット】「ええ、ええ、それはもちろんですとも」


 ジークラットが指示すると、衛兵は門を開いた。アイルたちは門をくぐり、中に進み出た。一階に降りた兵士たちが、アイルたちの前に進み出た。


【ジークラット】「アマンダ様、一体どうなされたのですか?あなたが城からいなくなって、ちょっとした騒ぎになっていたようですよ」

【 アマンダ 】「その話はあとでしましょう。今は一刻も早く父に会わなければ」

【ジークラット】「わかりましてございます。しかし、ロアンは会議中ですぞ」



 ジークラットはそう言い、アマンダたちの一団を先導した。

 ロアンとは、国王その人の名だ。この男は、王を呼び捨てにするほどの仲なのだろうか。そうドアンナは思った。

 彼らは城に入り、薄暗く湿った螺旋階段を上がった。ジークラットの鉄の具足が石畳の階段をたたく音が、かつんかつんと響き渡った。彼らは廊下を進み、大きな扉の前にたどり着いた。

 分厚い樫でできた観音開きの扉の前に、一人の執事が立っていた。アマンダガ扉に手をかけようとすると、執事はそれを遮った


【アマンダ 】「アルバート!」

【アルバート】「ここをお通しするわけには生きません。世界中の要人が集まっている場です。どうかお控えください」

【アマンダ 】「いますぐここを通して!」

【アルバート】「だめにございます」

【ドアンナ 】「ねえ、アマンダ……」


 ドアンナが、アマンダノ耳元に囁いた。アマンダは頷き、言った。


【アマンダ 】「聞いてアルバート……『その王命は、銀である』、といえば、ここを通してくださるかしら?」

【アルバート】「……!」


 アルバートは目を見開いた。そして、うなずき、言った。


【アルバート】「分かりました。アマンダ様お一人のみ、ここをお通りください」


アルバートはそう言い、扉に手をかけた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

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