ブリスコーの最初の日
アイルは、死の淵の闇から、ゆっくりと意識を取り戻した。
アイルは自分の顔に水の飛沫がかかるのを感じ、ゆっくりと目を見開いた。見ると、目の前には噴水の泉があった。どうやら彼は、噴水の縁に寝かされているらしい。
彼が空を見上げると、ギラつく太陽の直射日光が彼の眼を刺した。彼は、おもわず顔をそむけた。もう昼間なのか。自分は、一体どれぐらいの時間寝ていたのか。
だんだんと意識がはっきりしてくると、アイルの耳に周囲の雑踏や人の話し声が入ってくるようになった。
どうやらここは、どこかの広場らしい。
彼は身体を起こそうとした。すると、急に腹部に痛みが走った。
彼は思わず腹を手で抑えた。途端、腹から内臓がこぼれ落ちる生々しい感覚が蘇り、彼は口の端から息を漏らした。
しかし、服こそ破けていたものの、あるはずの傷はなかった。彼が腹をなでても、そこにあるのは、つるりとした白い肌だけった。
【アマンダ】───「アイル、大丈夫?」
アイルの顔のすぐそばで、女の子の声が聞こえた。彼が目を向けると、そこにはアマンダがいた。アイルは、自分がの膝の上に寝かされているのだと気付いた。彼女は、心配げな顔つきで、アイルの顔を上から覗き込んでいた。
【アイル 】───「ここは、一体どこだなんだ……?」
【アマンダ】───「ここはブリスコーの中ですよ。門をくぐってすぐの場所です」
そう言ってアマンダは門を指さした。門のそばは、けが人でごった返していた。何人もの重傷者が、石畳の上に広げられたござの上に寝かされており、神官や修道女たちが、僧服をひじの上まで真っ赤に染めて、怪我人の傷口を縫合し、そして回復の祈りを捧げていた。
城壁の際には、たくさんの死者が寝かされていた。ある兜を脱がされた兵士の死者を、たくさんの兵たちが囲み、手を合わせ、祈りをささげていた。死者は、彼らの友人なのだろうか。兵たちは、目を赤くし、涙を流しながら祈っていた。
ほかにも、腕や脚をなくすなど、悲惨なけが人たちもたくさんいた。しかし、全体として、広場の多くの人は笑顔だった。どこか遠くの方からは、明るい口調の話声や、笑い声なども聞こえてきた。
【アイル 】───「俺達は、勝ったのか……」
【アマンダ】───「もちろんっ、勝ちましたよっ(*゜▽゜)ノ」
【アイル 】───「そっか、よかった……」
アマンダの満面の笑みに、アイルは安心した。アイルは、自分の腹部を指さしながら尋ねた。
「これ、お前が治療してくれたんだな」
「うん」
彼女はコクリと頷くと、笑顔を見せた。アイルもその笑顔につられて、思わず顔をほころばせてしまった。
【アイル 】───「そっか……ありがとな」
【アマンダ】───「お礼を言うのは私の方です。あなたは命の恩人です。ありがとう」
彼女はそう言うと、突然、アイルの顔に手を伸ばした。そして、その頬を柔らかくなでた。
アイルは、力を抜き、再びアマンダの膝枕に頭を預けた。アマンダは痩せ身で、そのふとももは細かったが、それでも女の子らしく柔らかかった。彼女の体は何日も身を清めていないから、垢のすえた匂いがした。しかしそれは、ことさらいやな匂いではなかった。垢の匂いと、汗の匂い。そして年頃の女の子の匂いが混じり合い、彼女からはとても、とてもすばらしい香りがした。
太ももの感触を頬で感じながら、アイルは彼女の目を真っ直ぐ見つめた。アマンダもまた、アイルのことを見つめ返した。彼女の潤んだ瞳は美しかった。女性らしい長いまつげの下で、大きな瞳の中に、自身の姿が写っていることを感じた。二人の目線が混じり合い、何かの導線に火が灯されかけた。
彼女は、アイルに唇を近づけた。
【ペトラ 】───「目が冷めたのなら、はやく王女のひざからどいてください(ᓀ‸ᓂ)」
突然、アイルの視界にペトラがぬっと顔を出すと、アイルの下半身をげしと蹴飛ばした。アマンダは、慌ててアイルから身を離した。
【アイル 】───「いたた(><;)」
【ペトラ 】───「はやく起きてください。みなさんがふたりのこと見てますよ(ᓀ‸ᓂ)」
アイルはそう言われて、改めて周囲を見渡した。さっきまで談笑していた避難民達は、今は皆が二人のことを見ていた。アマンダはひきつった顔で固まっていた。
一人の兵士がアイルに近づいた。アイルは、何を言われるのかと思ったが、くと、彼の肩をぽんとたたいた。
【 兵士 】───「よ、兄ちゃんかっこよかったぜ。あんたのおかげで我らが王女様は助かったんだ」
彼がそう言うと、ほかの住人たちもアイルに近づき、それぞれ声をかけた。
【 町人 】───「その通り、王女が助かったのはきみのおかげだよ(๑ˊ͈ ꇴ ˋ͈)」
【おばさん】───「若いのにすごいわね~(*˘︶˘人)」
【お姉さん】───「よかっこよかったわ~( ᴗ̤ .̮ ᴗ̤人) 」
【兄ちゃん】───「兄ちゃん、よくやったぜ(*ゝω・)ノ」
みなが口々にアイルのことを褒め称えた。
そうして騒ぎになっていると、団長が、人々をかき分けて挨拶にきた。
【 団長 】───「アイルと言ったな。よくぞ女王を守り抜いた。騎士団長として、そして何よりこいつの姉として。礼をいう。ありがとう」
団長はそう言って、アイルの肩を叩いた。そして、皆の方を振り返って、言った。
【 団長 】───「みんな、すまんがこいつらを、二人きりにしてやってくれないか」
団長はそれだけいうと、教会の方向へ去っていった。住人たちも、まだ名残惜しそうにしつつも、みなアイルたちとは距離を取って、それぞれに談笑を始めた。
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【ドアンナ】───「あ、起きたんだ」
聞き覚えのある声が、どこかから聞こえた。アイルが顔を上げて声の主を探すと、ドアンナたちが、人混みの中から現れた。
【レイセン】───「アイル大丈夫?怪我ちゃんと治ってる?」
レイセンはそう言うと、勝手に彼のシャツをめくり、お腹をジロジロと検分した。アマンダは、レイセンの手をぱしりと払いのけると、シャツを引っ張ってお腹を再び隠した。
【アマンダ】───「わたしがきちんと治しましたからご心配なさらずに」
【レイセン】───「でもさ、内蔵全部転げ落ちてたし、ほんとに大丈夫かなって」
【アイル 】───「うっ」
アイルは、こぼれ落ちる内臓の感触を再び思い出し、顔色が悪くなった。レイセンは、慰めるようにアイルの肩をぽんぽんと叩いた。
【レイセン】───「あはは、ごめんごめん、変なこと思い出させちゃった?」
【アンナ 】───「傷、本当に大丈夫なの?」
【アイル 】───「……ああ、もう大丈夫だ」
【ドアンナ】───「まあ、しっかり休養して治しなよ。」
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【ミレー 】───「アイル!」
再び、人混みの中から、知った声が聞こえた。見ると、ミレーが、人混みをかき分けて、アイルのもとに走ってきた。
【ミレー 】───「よかったああ、生きててよかったあ(((p´Д)゜o。」
ミレーはそう言いながら、アイルに飛びつき、強く抱きしめた。そして、アイルの首に腕を回し、頬ずりをして離れなかった。
【アイル 】───「痛い痛い、離せ(>_<。)」
【アマンダ】───「……ぐぬぬ( ;`・~・)」
アイルは彼女を振りほどいた。眼の前で繰り広げられた抱擁に、アマンダはむすっとした顔を浮かべた。
彼女に続いて、トグマとアベル、そしてゼクターが、人混みの中から現れた。彼らは、その両手いっぱいに何本もの肉の串焼きを抱え、むしゃむしゃと肉を頬張りながら歩いてきた。
腹の減る香ばしい香りが漂ってきて、あいるのお腹はぐうと鳴った。
【トグマ 】───「よーアイル、ようやく起きたみたいだな (* ̄0 ̄*)ノ」
【アイル 】───「なんかさ、俺は死にかけてたっていうのに、自分たちは串焼き食ってるとか……冷たくない?( ̄^ ̄*)」
【アベル 】───「あはは、ごめんごめん。まあ、命に別状はなかったっぽかったいし(´▽`*)」
【ゼクター】───「アイル、ごくろーさま!あたしの串焼き一本あげるね (○´ω`○)っ」
そう言って、ゼクターは焼鳥の串を差し出した。アイルは串二本を彼女からもぎ取ると、焼き鳥を二本とも口に咥えた。
【アイル 】───「うまー(๑´ڡ`๑)」
【ゼクター】───「ぎゃー!∑(゜Д゜; )あたしの串焼きが……(꒪⌓꒪)」
【トグマ 】───「お前、全然元気じゃねえかよ( ゜∀゜)っ))」
【アベル 】───「あはは(^~^;)」
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そうしてみんなで笑い合っていると、突然、広場がざわついた。見ると、広場の奥、斜面の上へと続く道から、巨大な白い狼がのそり現れた。
狼は、口輪をつけられ、その手綱は二人のエルフに握られていた。
それはあ、ネーヴェで合流したエルフ、アリアとテオだった。
【アリア 】───「おいっす~☆アイル君起きたんだ~★」
アリアは軽い口調でそう言うと、小走りで彼らの下へ近づいてきた。
【アリア 】───「アマンダのこと、助けてくれてありがとね。お礼にあめちゃんあげる~」
【アマンダ】───「んな!」
そういうと、アリアは舐めていたアメをくちからだすと、アイルの口に突っ込んだ
アマンダは怒る
【 テオ 】───「なにはともあれ、無事でよかったよ。君のおかげで世界は救われたといっても過言じゃない」
【アイル 】───「うん」
【アリア 】───「じゃあねアマンダ、うちらはわたしたちは、狩りに行ってくるから。でっかい獲物取ってくるから、期待しててね♡」
こうして彼女たちも去った
どしんどしnという足音
難民たちはビビっていた。
彼らを見送ると、ペトラが、そろりと立ち上がった。
【ペトラ 】───「アマンダ様、そろそろ」
【アマンダ】───「うん……アイル君、私教会に隠れなきゃいけないの。冒険者の人たちが、保護してくれるんだって」
【アイル 】───「ああ、わかった」
【アマンダ】───「アイル、またすぐ会いましょう」
そすてい起き上がると、アマンダも立ち上がった。
彼女はアイルたちに手を振ると、教会の中へ消えていった。
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アイルたちは広場を離れ、城壁の上に登った。彼らは、そこから町並みを眺めた。
広場は、たくさんの避難民で溢れかえっていた。川を見ると、ちょうど対岸から船が渡ってくるところだった。避難民は、これからまだまだ増えるのだろう。
【アイル 】───「このブリスコーは、安全なのか?」
【ドアンナ】───「もちろんよ。ここは迷宮探索の前線基地だったからね」
【アイル 】───「迷宮?」
【ドアンナ】───「ザラの迷宮よ。知らないの?」
【アイル 】───「なにそれ?」
アイルがそう答えると、ドアンナは怪訝な顔をした。そして川の上流にある、中洲の島を指さした。
【ドアンナ】───「あそこの中洲にある大きな神殿の柱が見える?あそこが迷宮の入口になってるのよ。冒険者はあそこから、そこからお持ち帰ったものを加工したりあるいは知識もね。ガラスの加工技術はあそこから持ち帰ったものよ……あなた、そんなことも知らないの?」@
【アイル 】───「ああ、ごめん……俺、スラムから出たことないんだ」
【ドアンナ】───「……ねえ、前から気になってたんだけど、あなたって本当にローゼンハイム出身なの?訛があるし、どこか別の国から来たんじゃ……」
【アイル 】───「なあ、あれ、お前たちの友達じゃないか?」
アイルは、ドアンナの言葉を遮って、川の方を指さした。見ると、船がこちらの岸に向かってゆっくりと近づいているところだった。
船の甲板は避難民で満載になっていた。彼らはブリスコーに向かって手を降っていた。
そうした避難民の中に、目立つ人影があった。この地域では珍しい薄紫色の髪を、長いツーテールに分けた。すらりとした女性だ。その隣には、高貴な青い色の服に身を包み、大きな樫の杖を握った、金髪の魔法使いがいた。
【ドアンナ】───「レイ!セーラ!」
ドアンナが叫びながら手を振ると、彼女たちもドアンナに気づいたのだろう、より強く手を振り返した。
ドアンナ達は、城壁を駆け下りた。そして、門を出て、船に向かって走っていった。レイたちが船を降りると、おたがいに長い時間抱擁し合っていた。
そうして、アイルたちが遠くからその様子を眺めているとき、地面から声をかけられた。
【 兵士 】───「おーいそこの若者!元気が余ってるなら、すまんが手伝ってくれんか!」
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アイルたちは、兵士たちに頼まれて、天幕の設営をすることになった。
彼らは市街地を出て、草むらの斜面をのぼった。道の途中、彼らは他の避難民から、ブリスコーについて話を聞いた。
このブリスコーは、2つの小さな山の峰の合間に作られた砦だ。街の中央には山裾からはじまる小川が流れており、その水源は山奥の豊富な湧き水だった。したがって、この砦に水の心配は不要だった。
ラインベルクの豊穣な流れに面したこの自然の要塞には、太古の昔に街が開かれた。しかし、およそ千年前に、ここから南の山脈に火竜が住み着いた。街は火竜討伐の前線基地となり、防御のための改造を施されたが、火竜の襲撃を完全に退けることはできず、結果として多くの人間がこの街を去った。
火竜はおよそ三百年前に討伐されたが、結局、人々がこの地に戻ることはなかった。それから二百年の間、この土地は打ち捨てられていた。
しかし、今から百年ほど前、ここからほど近い中州の島に、迷宮が発見されたのだ。
その中州には、崩壊した神殿の遺跡があることは以前から知られていた。地元の人間には、そこは火竜との戦いの時代に打ち捨てられた、ブリスコーの街の一部だと考えられていた。ただ、やたらと魔物が出現することは、漁師などには知られてはいた。時々、魔物は川を泳ぎきり、農作物を荒らした。
ある日、土地の人間の依頼を受けた冒険者が、この島に降り立った。彼らは魔物を駆除し、遺跡の中を探索した。そして、その遺跡が、異空間とつながる迷宮の一種であると気づいた。
彼らは迷宮からいくつもの宝物を持ち帰った。その中には、幾重もの時を重ねても決して輝きを失わない、巨大な金貨もあった。金貨は一枚一枚がおよそ重量1オンスもある巨大なもので、故知らぬ人物の彫像と誰もわからない文字によって美しく彩られていた。
そして調査の結果、その金貨の肖像の主がわかった。それは、いまからおよそ五千年前、天使ザリエルと同時代にこのロードラン地方を治めた、皇帝ザラのものであると判明したのだ。
この知らせは瞬く間に近隣諸国を駆け巡った。数多くの冒険者が、海をわたり山を超え、この地に押し寄せた。その迷宮はザラの迷宮と呼ばれるようになった。そして、ブリスコーは迷宮の前線基地として栄えはじめた。
そして、まちが作られた。しかし、もんだいがあった。
あまりにも、迷宮が難しすぎるのだ
視認がたくさん出た
そして、選ばれた人間だけがこの迷宮を探索した
そうして、山裾の平地は栄えたのだけれども、山裾の遺跡は、そのまま捨て置かれているのだ。そんなわけで、
山の斜面にはかつて栄えた時代の石造りの町並みが残っていた。しかし時を経て多くの家々が崩れ去っていた。
アイルは、ためしに一つの家に入ってみた。しかし、壁の漆喰は剥げ、中のレンガは丸出しになっており、触ると土がポロポロと崩れた。穴の開いた天井から陽の光が差し込み、小さな飛虫が出たり入ったりしていた。
【トグマ 】───「がっつり補修しないと、この家にはとても住めそうにないな」
彼らは結局家から出て、天幕の設営を始めた。
まず長い鉄の杭を二本、地面に打ち込む。その長い杭を、今度は別に打ち込んだ小さな鉄杭と紐で連結し、それぞれに引っ張って固定する。そして杭の間に紐を通し、布を被せる。そして、その下の地面に布を敷く。
こうして、もっとも簡易的なテントが出来上がる。アイルたちは作業を続けて、それをいくつも設営していった。
これは、テントとしては最も簡素なものなので、雨は遮ることはできるが、風が通り夜中は冷える。しかし、今はちょうど晩夏なので、夏でも凍えるほどではないだろう。
アイルたちの他にもたくさんの避難民、そして住人たちが、がテントの設営を手伝った。そして、あっというまに百を超える天幕が、空き地に斜面に作られた。
やがて日が沈み始め、山の斜面は赤い夕日に包まれた。街のほうから役人がやってきて、食事の配給ができたと告げた。避難民たちは、みな街の方へ降りていった。
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アイルたちがちょうど広場に降り立った時、門のあたりからどよりと歓声が湧いた。見ると、狩人たちが、なにやら巨大な獲物を狩ってきたようだった。
それは、バイカルボアだった。それは魔物かと見紛うほどの巨大な猪で、もともとは別の大陸に繁殖していたものだが、家畜化のために輸入され、そして逃げ出し野生化したものだ。
この地域には、魔物以外には天敵らしいものはなく、バイカルボアはひたすらに巨大化した。いつしか、それは漁師にとってのカジキのように、狩りを成功させることが、猟師にとって誉になった。
しかし、それにしても、アイルはいまだかつてこれほど大きなボアは見たことがなかった。
猟師たちのリーダーらしき、体格のいい男が皆に言った。
「今夜はこれが主菜だ!みんな遠慮なく食べて、英気を養ってくれ!」
広場のみなは歓声を上げた。
ボアは、その場で解体された。猟師が、慣れた手つきで皮をはぎ、大きなあばら骨を飲みで砕いて、肉のブロックを切り出していった。
アイルたち男が、そわそわしながら解体の様子を眺めていると、いつの間にか、アリアがすぐそばに立っていた。
【アリア 】───「すごいでしょ。私がトドメをさしたんだよん」
【アイル 】───「ほんとに?すごいじゃん」
【アリア 】───「でしょ。もっと褒めてええで?」
アリアはそう言って胸を張った。アイルは、この子は何やら不思議な子だなと思った。彼女は、エルフなのに、地に足がついているというか、普通の人間より気さくだった。大概のエルフは、格式張っているとまでは言わないまでも、普通の人間よりどこか大人びたような印象を持つ人物が多い。
しかしそれは、あくまで人間の視点からエルフを見るからそう感じるのだ。エルフは長命種であり、人間よりはるかに若さを保つ。逆に言うと、見た目よりも実際にはかなり年をとっている者が多いのだ。アベルはアイルと同い年なので、彼が特に大人びていると感じたことはない。アリアもまた、王女とクラスメートのようなので、彼女と年齢は同じ、おそらく17歳だろう。彼女は、普通の若者と喋り方も感じ方も同じなのだ。
間近で見て思うのだが、アリアは美人だった。実際、アイルがいままで見た中で、彼女は一番美しいかもしれない。白磁のように美しい肌は、キャンプファイアーの光に照らされて紅が差し、金糸のように細いマリーゴールドの長髪は、炎に照らされた黄金のように怪しい赤い輝きを放っていた。
アリアは、ある一点を凝視していた。アイルは視線の先を追った。彼女が見ていたのは、ゼクターだった。
【アリア 】───「あの子、黒い髪のエルフって、珍しいよね……」
彼女は、ミレーと一緒に給仕の手伝いをしていた。実際、彼女はメイド服を来ているので、その仕事は似合っていた。
彼女は、不思議な子だった。
ゼアルの話を聞いた限り、彼女はこの時代の人間ではない……もし禁書庫が一度も開かれていないのなら、彼女は五千年以上も前に、あの禁書庫に囚われたことになる。にも関わらず、彼女は現代の世界にはすっかり適応しているようだ。
やがて、アイルにも串にさした肉が配られた。肉は表面を焼いて ピリ辛のタレをかけた油が浮き出たおいしい食べると油がにじみ出た
アイルはものの三口でそれを食べてしまった
【 騎士 】───「みな、聞いてくれ。今ローゼンハイムは大変な状況じゃ。
王たちは悪魔と戦っている
しかし、我々は勝つ
ここにはたくさんの腕のたつ冒険者がおる。そして、彼らは協力してくれる。
必ず報復は完遂する。以上だ」
みな、歓声で応えた。
【 王女 】───「みなさん、
今は体を休めて、次の戦いに備えてください。銃後の備えが必要なのです。-
未避難民たちの安全を守ってください
我々は必ずローゼンハイムを取り戻し、平和を取り戻します」
人々は、歓声に沸いた。
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こうして、宴は終わり、アイル達は天幕に入った。
寝床に入ると、いままでの疲れがどっと押し寄せてきた。トグマは、テントの薄い敷物にドカンと倒れ込むと、うつ伏せになったまま、うなるように言った。
【トグマ 】───「は~ぁ、今日はなんか、すんげー疲れたなぁ」
【アベル 】───「ほんとにね。今まで、今日ぐらい疲れた日ってないよ。昨日もほとんど寝れなかったし……」
【アイル 】───「だな……」
アイルも、また疲れ切って、倒れるように地面に身を投げ出した。徹夜続きの疲れが急にぶり返し、頭がガンガンと痛みだした。
彼は、一刻も早く眠りたかったが、一方ではどうしても心に気にかかることがあった。
【アイル 】───「……今更だけどさ、ゼクターって一体、何者なんだろうな」
アイルの問いには、もちろん誰も答えは持ってはいなかった。彼ら三人は、禁書庫を出てからというもの動きっぱなしで、ほとんどものを考える余裕などなかった。
彼らは、禁書庫を出たあとは、スラム街の奥に潜伏した。彼らは、この街に二ヶ月間住んでいる間に、すっかり住人たちと仲良くなり、情が移ってしまっていた。
そして、都は悪魔に襲われた。彼らは、スラムの子どもたちを年から逃がす手伝いをする一方で、彼らの生活費を工面するため、どうせ悪魔に奪われるならと、金目のものを盗みに入ったのだ。そして、王女と再び出会ってしまったのだ。
【アイル 】───「あいつ、女の子なのに、明らかに俺らより強かった」
【アイル 】───「まあでも、実際に子供なのかはわかんないよ。なにせずーっと禁書庫で生きてたんだから」
【トグマ 】───「そうだな、もしかしたらすんげー年寄りなのかもな。なんせこいつの知り合いらしいし」
トグマは右手の包帯を解きながら、言った。包帯の中の手は、腕の中ほどまで、黒い痣にまみれていた。手の甲には深いキズが二本、横に走っている……それこそが、トグマに寄生する謎の悪魔、ゼアルの目と口だ。
ゼアルは、今の会話が聞こえてて、反応しないだけなのだろうか。それとも本当に眠りについているのだろうか。アイルは、できれば、後者であってほしかった。。
【アベル 】───「ゼアルは、あれからなんか喋ったりした?」
【トグマ 】───「いんや。こいつ、禁書庫を出てから一度も目を覚まさねえ……」
【アイル 】───「あのさ、おれ、ひとつ疑問なことがあるんだけど、いいか……」
アイルが真剣な口調で話し始めた。トグマとアベルは、彼の言葉に耳を傾けた。
【アイル 】───「親父は悪魔の襲撃のこと、知ってたと思う?」
【アベル 】───「なんで?」
【アイル 】───「だってさ、あまりにもタイミングが良すぎるでしょ。もし俺達が捕まって、禁書庫に入ってのがバレたら、極刑でしょ。でも悪魔が街を破壊したあとだったら、そもそも誰かがが盗みに入った事自体、まだわかってないかもしれないし」
【トグマ 】───「いやいやいや、でも俺達は悪魔に何度も殺されかけただろ。いくら親父さんでも、お前をそんな危険な目に合わさせるか?」
【アイル 】───「そうだけどさ、俺達にはゼアルがついてるんだから、本当の意味で危険はないんじゃないか?」
【トグマ 】───「こいつがいると、なんで危険がないんだ?」
トグマはアイルに右手のてのひらを見せながら言った。彼の掌には、閉じられたままの目と口があった。それらは、相変わらず沈黙したままだった。
【アイル 】───「いや……まあなんとなく。だっていつも助けてくれるじゃん」
【トグマ 】───「だけど、こいつはもう起きねえって言ったろ。多分それはホントの事なんだ。いつもなら、目を閉じた時コイツの気配を身近に感じることがあるんだけど、今はさっぱり何も感じやしねえ。多分、コイツが言ったとおり、もう俺達を助ける気はないんだ」
【アイル 】───「そっか」
アイルは押し黙った。アベルも、この問答に口を挟まず、沈黙したままだった。
自分たちは、かなり危険な領域に首を突っ込んでいる───アイルもアベルも、三日前からそう思っていた。それも、禁書庫に侵入するよりも、さらに危険なことに。
彼らは見てしまったのだ。
トグマの意識を乗っ取ったゼアルに、悪魔たちが跪くのを。それはまるで、王にかしずく家臣のようだった。
悪魔たちは、なにかゼアルの怒りを買ったらしい。彼が腕をひとふりすると、悪魔たちは、ひとつの抵抗もすることなく、バラバラに切り刻まれ、一瞬のうちに死んだ。
やがてゼアルはアイルたちを呼んだ。彼らが外に出ると、廊下は血の海だった。床には、サイコロステーキのように細かく切り刻まれた悪魔の肉片が、一面に散らばっていた。
その血の海の中で、トグマは意識を失い倒れていた。それ以来、ゼアルが現れることはなかった。
ミレーは、兄が行った蛮行をうまく飲み込むことができず、震えていた。。しかし、ゼクターは、それがなんでもないかのように、裸足でその血溜まりの廊下を歩いていった。
あそこで見たものは異常だった。ゼアルは、悪魔の手先なのか。それとも、悪魔を臣下に置く、なにかの上位存在なのか。そして、そのゼアルが仕えるゼクターとは、一体何者なのか……。
【トグマ】───「もう寝ようぜ。いくら考えたってしゃーねーや。そのうち親父さんにも会えるだろうし、その時に色々聞こうぜ」
トグマはそう言うと、目を閉じた。アイルも、彼にならって目を閉じた。そして、深い眠りの中へと潜っていった。
【トグマ】───「おうよ、城門では兵士に色々文句垂れられちまったがな。まだ外は危険だから出るなってな。」
ナマズはぶつ切りにして煮炊きにされた。薄い塩味の煮汁はナマズの脂がぽつぽつと浮いていて、香ばしい出汁が効いてうまかった。ナマズのやわらかい脂身は胃袋に染み渡った。
ふと気づくと、一人のエルフの小さな少年が指を皿に入れて魚の身をいじっていた。彼は箸がうまく使えないようだった。年の頃は5歳ぐらいだろうか、綿毛のように細い金髪が風にそよそよと揺れていた。
【ネネ】───「ちょっと貸して」ネネがそう言うと、彼女は少年の皿を取った。そして箸で身を骨から外すと、少年の口に運んだ。
【ネネ】───「おいしい?」彼女は訊いた。少年はうなずいた。
【】「あんたらあの家で寝るのはまだ危ないから、今夜はテントで寝なさいよ」村長の奥方がそういった。彼らは男女に別れ、四つのテントにすし詰めになって眠




