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5.ユリアーネと断罪計画

そう、このパーティーはカミルの悪行を知らしめる為にアロイスをはじめとするクルマン地方の両家による計画であった。




時は1ヶ月前。




「ちょっと何があったのよ!?」


ベルンバッハー伯爵邸に、当主の姉のルイーザ・トラウト伯爵夫人が訪ねてきた。


「姉上!?先触れも無しにいかがなさったのですか?」


「何を呑気に…?今、私のいる王都ではベルンバッハー伯爵の評判が下がってるわよ?とんでもない令嬢の生家だと。でもおかしいわよね?ユリアーネはここにいるわよね?」


「ユリアーネですか?ユリアーネはここから外へは出てないですが?王都?尚更おかしな話ですが…」


このクルマン地方から王都までは日帰り出来る距離ではない。ほとんど社交をさせていないユリアーネが訪れることは不可能だ。

ベルンバッハー伯爵は横にいる夫人と顔を見合わせると、慌てて娘たちをこの場に呼んだ。


呼ばれた娘たちは突然の叔母の訪問に驚きを隠せなかった。


「フィリーネ!貴女、何か仕出かしてない!?王都に知り合いはいるかしら?何かしらのパーティーにお呼ばれでもしたかしら?」


姉妹の妹フィリーネに、母であるベルンバッハー伯爵夫人は声を荒げた。


「え!?何もしてません。王都になど出掛けるはずありませんわ。それに何かあったのですか?」


フィリーネは巻き上げた髪とピンクのドレスに身を包み、薄く化粧を施し美しく磨き上げられていた。


「社交でやらかすなら貴女しかありえないでしょ?」


「それとも、ユリアーネの名前を語って羽目を外しでもしたか?」


両親から責め立てられているフィリーネに、ルイーザも状況を把握した。確かに、ユリアーネの筈がない。ユリアーネはこの家で令嬢としてではなく当主代理として執務をやらされ、さらに小間使いのように働かされていた。その証拠にこの日も傷んだ髪を1つにまとめお仕着せを着て、化粧を施すこともなく荒れた指先を前に重ね、フィリーネの後方に立っていた。


「そんなことしてません!なぜ私がお姉さまの名前を語って羽目を外すようなことをする必要があるのです!?私がお姉さまを貶めることは絶対致しません!」


「だからって、ユリアーネはこの家で働き続けているのだぞ?ユリアーネ自身が社交に出向ける筈がない、そんな時間などないのだから!見目が醜いユリアーネよりも、麗しいフィリーネを可愛がってはいたが、貴族教育の出来は言わずもがなだからな。お前は教えても教えても身に付かん。それなのに少しの教育だけでユリアーネは難なくやってのけた。万が一数少ない社交の機会があったとしても、美しくない令嬢がいたと噂になることはあってもユリアーネならばベルンバッハーの名に傷がつくような行いなどせん!」


ベルンバッハー伯爵夫妻は、姉妹の扱いに差をつけている。見目の美しくない姉ユリアーネは邸に隠すようにし、貴族令嬢ではなく使用人の1人であるかのように置いている。片や妹フィリーネは両親の良いとこどりをした美しい見目を持ち、その美貌で人々を虜にしているためか努力を好まず、不器用なことが相まって令嬢としての品位や知性、所作が身に付かないでいた。着飾るばかりで金のかかるフィリーネと夫人のおかげで伯爵家は経済状況が芳しくない。当初伯爵の跡継ぎには姉ユリアーネを考えていた為貴族教育は一通りさせたが、見目が邪魔をし縁談は組めずにいた。元々仕事嫌いの伯爵は執務をユリアーネにさせて自堕落な生活を送っている。妹フィリーネは美しさを武器に裕福な貴族に嫁がせ伯爵家に支援をと考えていたが、中身の伴わないお飾りな女性を夫人にしたいと考える貴族はいなかった。クルマン地方ではフィリーネの評判が芳しくなく、心機一転姉ルイーザのいる王都で相手を探そうと考えていた矢先の出来事にベルンバッハー伯爵は焦るしかなかった。



「お父様、お母様。私たちではないと思います。お二人が考えているよりも、私たちは互いを想い合っていてこう見えて仲が良いのですよ。互いの評判を貶めることは自分の首を絞めることに繋がりますから、ベルンバッハーの名に傷がつくようなことは互いに致しません」


「お姉さま!!」


よくみると姉妹は手を繋いで互いを支え合っている。

互いに自分が娘というよりは伯爵家存続の道具として扱われていることに嫌気がさしており、慰め合いながら生活していた。


「では、一体誰が?」



そこへまた一人来客があった。


「お取り込み中すまないね。私も緊急に話があって、先触れもなく来させてもらったよ」


「!?これはシュテーデル辺境伯様!!いったいどうなさったのですか?」


「どうもこうもない。婚姻を結ぼうと届けを出したらユリアーネ・ベルンバッハーは独身ではないと返された。どういうことか?」




「「「「「え!?」」」」」



その言葉に一同は驚愕した。



アロイス・シュテーデル辺境伯は、クルマン地方の最北に領地を持つ。冷徹将軍と呼ばれており誰も近づこうとしない。それに目を付けたベルンバッハー伯爵はアロイスにユリアーネとの婚姻を持ちかけた。ユリアーネを時期当主に考えていたベルンバッハー伯爵は計画を変更した。醜いユリアーネは嫡子であることを武器に縁談を組もうとしていたが、中身の伴わないフィリーネにその武器を与え縁談を組もう。優秀な子息を迎えることが出来れば執務は上手いこといくだろう。そして美しさはないが品位と知識を備え堅実に仕事もできることを武器にユリアーネをシュテーデル辺境伯に嫁がせ、それを引き換えに辺境伯から支援金を賜ろうと考えた。跡継ぎ問題が生じていたシュテーデル辺境伯はこの条件を受け入れ、この度ユリアーネの輿入れ予定であった。


ルイーザといいアロイスといい、この二人の話を踏まえると、ユリアーネはどちらかの貴族と結婚し王都のどちらかのパーティーでやらかしていることになる。


「どういうことだ…?」



そこにまたまた来客があった。


「旦那様、あの先触れは無かったのですが今急を要する可能性があると一組のご夫婦がお見えになっております。お通ししてよろしいでしょうか?」


その夫婦の名前を聞くなりベルンバッハー伯爵は直ぐ様ここへ通すように指示した。



通された夫婦は一堂に会している状況に驚きが隠せなかった。しかしそこにいた姉妹を見つけると間違いないだろうと確信した。


「先触れもなく失礼します。この度は確認したいことがございましてこちらに急遽訪問させていただきました」


「いや、こちらこそ。こんな状況で迎えてしまって申し訳ない。おそらくその確認したいことというのが私達の混乱と同じことだと考えます。娘の婚約者である辺境伯様と王都に住まう私の姉も同席して構いませんか?」


「なるほど、もちろんでございます」



この夫婦の話を聞くと一同は納得すると共に、この一連の騒動の落とし前を付けるべく計画を立てた。


「アードルング現伯爵か…。トラウト伯爵夫人は接点はございますか?」


「先代夫人とは共通する友人がおりますわ。その友人に夜会を開いて貰いましょうか?」


「ああ!そのお方でしたら私も縁のある方の奥様だ。私の名前も出して依頼してください。費用はこちらも負担させていただくとお伝えください。王都でのベルンバッハー伯爵家の汚名を返上するためには多くの目撃者が必要です。王都でのパーティーだ。クルマン地方の貴族が参加するなど考えもしないだろう。ベルンバッハー伯爵にはその場に居合わせていただくだけで十分効果はありましょう。ユリアーネ嬢、君は何も心配いらないよ、私が守ると約束しよう。フィリーネ嬢、ついでに将来有望そうな男を捕まえようじゃないか、それまでに貴族教育に勤しみなさい。お二方もご安心を、必ずやお嬢様を取り返します」


冷徹将軍の指揮は的確で、この場に居合わせたことは精神的にも物理的にも幸運であった。冷徹将軍のイメージは変わり、ユリアーネは嫁ぐことへの不安が払拭され、今では生まれた温かい気持ちに困惑するばかりであった。



結果、パーティーを主催してくれた友人は、王国騎士団出身という共通点で参加者を招待してくれたのだ。ベルンバッハーとベルムバッハ両家はアロイスが帯同させた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。



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