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4.周囲による断罪

程なくしてアードルング伯爵家に、健やかな女児が誕生した。

結婚から8カ月後の出来事であった為公にはしなかった。1ヶ月程経つと先代に報告した。実際の出産は予定日通りで夫人の体調回復は順調であったにも関わらず、表向きは肥立ちが良くないと赤子と夫人の披露は避けた。

そして、ベルンバッハー伯爵家には手紙のみで報告した。




伯爵夫妻は娘の結婚後初めて手紙を受け取った。裕福ではなく病により床に伏せていた伯爵は、アードルングからの支援金により手厚い医師の治療を受けることが可能となり、今では見違えるように回復した。政略結婚をさせてしまった娘の様子がわかると夫婦揃って封を開け読み上げると、2人は顔色を変えた。


「これは、どういうことだ…」


2人は手紙の内容から直ぐに事態を把握し、とある場所へと出発した。



◇◇◇


1ヶ月後、王都のある場所でパーティーが行われていた。こちらに招待されている者は王国騎士団に縁のある者たちだった。


「ご無沙汰しております、団長」


「これは、アロイス。おっと、今はシュテーデル辺境伯とお呼びしなければならないな」


「いえ、アロイスのままで構いませんよ」


「そうか。父君が亡くなられ爵位を継がねばならぬと騎士団を去ったのは非常に残念であったな」


「そう言っていただけるとは…、ありがとうございます。団長は伯爵位をご子息に譲渡したとお聞きしましたが?」


「ああ。私は騎士団の職務があり王都の中心部にある別邸で生活しているため、王都の外れにある本邸での執務が難しくてな。幸い嫡男がいたから執務を任せるために爵位も譲渡したのだ」


「そういうことでしたか。実はアードルング伯爵がご結婚されて、その夫人が王都で噂になっているとお聞きしまして…」


「ああ、それか。お恥ずかしい限りで。あまり良い噂ではないだろう」


「内容はそうですが、実はその夫人がユリアーネ・ベルンバッハー伯爵令嬢だというものですから、本当ですか?」


「ああ、そうだが?」


「クルマン地方の?」


「そのように聞いてるが?」


「それはおかしな話なんです。我が領地もクルマン地方ですが、ユリアーネ・ベルンバッハー伯爵令嬢はお一人しかおりませんし、ユリアーネ嬢はまだどちらにも嫁いでおりません」


「は?」


「なぜならば、ユリアーネ嬢は私の婚約者ですから」


「は?なんと?」


「ご紹介したい方がおります。そのユリアーネ嬢のご両親でいらっしゃいます、ベルンバッハー伯爵夫妻です」


アロイスは領地から連れてきたベルンバッハー伯爵夫妻を紹介した。


「お初にお目にかかります、ベルンバッハー伯爵です。娘が王都でアードルング伯爵夫人として噂されているとお聞きしました。ですが、娘ユリアーネはクルマン地方の我が邸で生活しておりまして、王都などには来ていないのです。どういうことか確認したいのですが…」


その事実にアードルング先代伯爵夫妻は唖然とした。




時を同じくして、第一小隊アードルング団長の息子であるカミルも夫人と共に招待を受け、パーティーに参加していた。


(騎士団関係者というのも範囲がずいぶんと広いな…)


その二人の前に1組の夫婦が現れた。


「アードルング伯爵、ご無沙汰しております。ご支援いただきありがとうございました。そして、この度は令嬢の誕生おめでとうございます」


声をかけられ、二人の顔を見たカミルは固まった。そこには身分を貰うために婚姻を結んだ彼女の両親がいたからだ。


「…ご無沙汰してます。あ、ありがとうございます…」


「ところで、貴方がお連れになっている女性はどなたですか?」


説明が出来ずに固まったままのカミルを見かねた愛人が事もあろうに自己紹介を始めた。


「私はアードルング伯爵夫人のユリアーネですわぁ」


「は?」


隣の女性から返ってきた言葉に理解が出来なかった伯爵は間抜けな声を出した。そんなことには構わず愛人は会話を続けようとした。


「ところでおたくはどちら様ですの?」


とんちんかんな質問に、カミルは慌てて横にいた愛人の口を抑えた。


「バッ、バカモノ!自分の両親にどちら様と聞く娘があるか!?」


「「「両親?」」」


これには愛人も伯爵夫妻も疑問しかなかった。


青ざめるカミルに追い討ちをかけるように、先代伯爵がアロイスとベルンバッハー伯爵夫妻を連れやって来た。


「カミル!!一体どういうことか説明しなさい!」


アードルング先代伯爵の声に、一堂は何事かと静まり返った。人が集まっている様子に、更に注目を集めた。


「こちらにベルンバッハー伯爵夫妻がおられる。ユリアーネ嬢はお前に嫁いでなんかおらず、クルマン地方の伯爵邸で生活されているそうだが?」


「え?」


これにはカミルは頭が働かなかった。なぜ父と共に現れた夫妻がベルンバッハー伯爵夫妻なのか。


「いや、父上。こちらにおられるご夫妻がベルンバッハー伯爵夫妻ですが?」


カミルは先程まで自分達と会話していた夫妻を紹介したのだが…、


「は?いえ、私はベルムバッハ伯爵です」


と返ってきた。


「え?ベルムバッハ伯爵?…あ、いや、では、あの、お嬢様はユリアーネ様では?」


「いえいえ、私たちの娘はユリアーナです。ユリアーナ・ベルムバッハです」


名前が違う。カミルは自分の間違えに漸く気付き、冷や汗が止まらなかった。


「カミル…。まさか…、違うご令嬢と婚姻を?では、そこの女性はユリアーナ様ですか?」


アードルング先代伯爵の問いにベルムバッハ伯爵は答えた。


「いえ、私達の娘ではございませんよ?ですので先程、アードルング伯爵にこちらの女性はどなたですか?とお聞きしていたところです」


それを聞くや否やアードルング先代伯爵はワナワナと拳を震わせ怒りを露にした。


「カミル!!説明しなさい!!!」


そこでカミルは白状した。パーティーという公の場で、自分の浅はかな計画を全て打ち明けることになった。このおかげで無礼を働いていた女性は平民ロッテだと知れ渡り、ユリアーネ・ベルンバッハー伯爵令嬢の汚名は返上された。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。



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