食べたかったアイス 【月夜譚No.240】
目の前のアイスが溶けかけているが、食べる気にはなれなかった。何かを口に入れるどころか、溜め息ばかりが出てしまう。
アイスなんて注文した数十分前の自分を恨みたい。しかしその時の自分は心からアイスを食べたいと思っていたし、短い時間でその気持ちが萎えてしまうなど予想できたはずもない。これも運命と受け入れるしかないのだろうか。
徐々に形を崩していく半球の下に、ドロリとした元の姿が溜まっていく。まるで自身の心の中を体現しているように見えて視線を外すと、対面の席に残された飲みかけの水のグラスがぽつんと見えた。氷が崩れてカランと高い音を奏でる。
頬杖をついたら、喉の奥が苦しくなった。何かが込み上げそうになって、思わずスプーンを手に取る。
一口含んだアイスは冷たくて、きっと今は感じないだろうと思っていた美味しさが思いの外心地良くて、続けざまにもう一口食べる。
込み上げそうになったものは抑えられたが、今度は別の何かが胸を支配する。
昼下がりのファミリーレストランに一人――暫くはここには来られないだろうな、とふと思った。