6話 バッタル村での日常
翌朝、リーファは父親に起こされて、畑仕事の手伝いに出た。
やらなければいけない仕事はいくつもある。水やりに雑草抜き、小さな積み重ねが美味しい作物の出来に関わる。
リーファは、台車で土を運びながら、ボーッと考えていた。
生まれた時から畑仕事をしてきた。
そんな生活になんの疑問も持ったことはなかった。
しかし、祭りの日にフレアの将来の夢を聞いて、リーファはこの先の生き方に目を向けるようになった。
農民を続けるなら、父親の管理するこの畑を継ぐことになるのだろうか。
あるいは結婚して嫁入りするなら、バッタル村を出ることとあるのだろうか。
5歳のころ、近所に住んでいたお姉さんが、嫁入りで出て行ったのを思い出す。嫁入り衣装は綺麗で、リーファにとって憧れだった。
「私もお嫁さんになるのかな……」
独り言をつぶやくリーファ。
自分が誰かと結婚するなんて、まだ彼女には想像できなかった。
人の少ない村なので、周りには同じくらいの年の男の子もあまりいない。
リーファにとって異性は未知の存在と言っても過言ではなかった。
もし結婚するなら、許されるなら、フレアのような女の子がいいとすら思っていた。
そんなふうに考えごとをしながら畑仕事をしていたら、父親から撤収の合図があった。
昼ごはんの時間である。
この村では小麦を育ててる家もあるため、質の良い小麦で作られた美味しいパンも食べられる。
リーファはごはんの時間がなによりも好きだった。
「はーいっ」
元気に返事をして、リーファは土を払って畦道に出た。
将来のことなんてまだわからない。いまはただこの永遠とも思える充足した日々を楽しもうと、リーファは無自覚ながら達観した考えに辿り着いた。