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 就寝前、セレナは色々と戸惑っているし疑問を抱いている。

 寝室の机に向かい、スケッチブックにひたすらコスモスを描きながら考え中。


(恥ずかしくてはぐらかして逃げるように洗い物を始めてしまったけど、食事中にいきなり褒められるなんて思っていなかったわ)


 コスモスの花びらを描写しながら、セレナは甘ったるい息を吐いた。


(昼間のあれもそうよ。私の服を考えてくれていたり、飲みに行ったら私の料理が食べられないって、美味しいって……)


 鉛筆を放り投げて考える。


(私に興味が無いって思っていたけど逆かも? ずっと照れていたのかしら? よく考えたらそうよね。ルイスさん、わざわざお見合い結婚を選んだってことは女性と接するのが苦手とか、シャイとか、そうよね)


 セレナはルイスと違って仕事優先にしてきただけで男性との会話が苦手とかではないので、ルイスのように的外れな誤解はしない。

 両手を頬に当てて、机に肘をつくとセレナはまた「ふうっ」と息を吐いた。


(どうしよう。顔が熱い。絶対顔が赤くなってる。ルイスさんが湯浴みから戻ってきても顔を見られないかも)


 でも、と意気込む。セレナはルイスを好んでいるので親しくなれるのなら親しくなりたいと常日頃願っていた。チャンスをうかがっていた。

 今日までは親しげに話しかけられたらそこがチャンス! と思っていたがもう違う。

 話しかけられないのなら、こちらから話しかければ良かったのだ、と気がついたのである。

 それは確かにセレナの欠点。そこそこ美人のセレナは口説かれる側、会話を振られる側だった。特にこの国の男性達は積極的に女性に話しかけるからなおさら。


 机の上に置いたクリームケースを眺めて「ちゃんと顔を見る。日焼けに対する労りをする」と自身に言い聞かせる。

 程なくしてルイスが部屋へと戻ってきた。セレナはすかさず立ち上がった。


「あのルイスさん、日焼けのケアにクリームを使います?」


 セレナは先制攻撃をしかけた。赤らんだ顔で少々眉尻を下げたその表情は、はにかみ笑いに近い。ルイスは今日何度目かの衝撃に襲われた。


(か、可愛い。また話しかけられた)


 ルイスから返事がないのでセレナはクリームケースを両手で差し出したまま停止。首を斜めに傾けてルイスの目をジッと見つめる。ルイスの視線が泳いだ。


(顔が赤いのは湯浴み後だからだけど、この表情に目が泳いでいるのは照れ? やっぱり照れ屋? 早く気がつけば良かった。そうよね、お喋り苦手そうだし)

「あの、ルイスさん?」

「えっ? ああ、ありがとうございます」


 クリームケースを受け取ろうとしたルイスの手がセレナの手に触れる。


「いえ、別にこのくらい当たり前です。夫婦ですもの」


 セレナは更に攻撃を仕掛けた。


「ふう……ふ? ああ、夫婦。そうですね」

「今日は良かったです。私はルイスさんに嫌われているのか悩んでいたので。その、違そうで」

「嫌う? まさか」


 困り顔で俯いたセレナに対し、ルイスは即座に、食い気味で声を発した。

 食事中の誤解に続いてこの事実。彼は目を白黒させた。


(どうしてそんな誤解をさせてしまったんだ?)


 手を出さないどころか話しかけないからだ、と今のルイスの心の声を友人が聞いていたらそう突っ込むところ。


「見えちゃったんですけど、私のために服を考えてくれているんですね。楽しみにしています」


 セレナはまたしても攻撃を仕掛けた。勇気を出して伝えないと相手に何も伝わらない、と。

 そんなに勇気はいらない。痛そうな日焼けをしてまでオペラのチケットを入手してくれて、彼のスケッチブックには妻へ作る服かデザインされていた。

 こんなの歩み寄れば確実に良いことが起こるとセレナは前向き。

 ルイスに笑いかけて「もう恥ずかしい」と彼に背を向ける。彼女は少し期待していた。ここまで言えば何か言われるのではないか? 何か言ってくれるかも、と。


「いやあの、それなら、それなら好みとか教えてもらえますか?」


 ルイスが声を発した瞬間、セレナは食い気味で振り返った。もちろん笑顔で。


「好み?」

「ええ。ああ、少し待っていて下さい。ひとまずクリームを塗るので」


 ルイスはセレナに近寄りかけたが、照れたので近寄るのはやめてむしろ離れた。

 慌てた様子だったので、勢い余ってベッドの脚に小指の角をぶつける。


「っ痛」

「大丈夫です?」

「あっ、はい」


 うずくまるルイスにセレナが駆け寄る。立ち上がったルイスはセレナとの距離が予想より近くて動揺。ぶつかりそうになり、思わず彼女の両腕を掴んだ。

 互いの視線が交差。しばし見つめ合う。


(えっ? 何? 嘘)


 セレナは期待で咄嗟に目を瞑った。


(えっ? えっ?)


 ルイスは瞼を閉じた妻に驚き、息を飲んだ。その後セレナの腕を掴む自らの手に力を入れる。


(嘘みたいな日だな……)


 2人の唇が約1ヶ月ぶりに触れ合った。2人ともずっと我慢していたので、1度触れれば止まらない。

 ルイスの理性はパチンッとはじけてしまい、何度もキスを繰り返した。

 セレナの頬は薔薇の花のように赤く染まっていて、悩ましげな表情と共にルイスの熱をさらに上げた。


「セレナ……」


 耳元で囁かれてセレナはピクリと体を小さく震わせた。

 ふと彼女の顔を見たルイスは、セレナが真っ赤な顔で涙目なので全ての動作を停止。ぼんやりと彼女の顔を眺めた。


(最悪だ。キスしてなんて見えたのは俺の願望だよな……)

「ルイスさ……ん……。そんなに見られると恥ずかしい……」


 セレナはルイスのシャツをギュッと掴んで彼に寄り添うと小さな声を出した。


(恥ずかしいと泣くのか?)


「その、それに暗くしましょう……」


 お願い、なんて惚れた女性に上目遣いで懇願されたら返事はイエス一択。ルイスはセレナから離れて光苔のランプにカバーをかけた。

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