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 妻セレナが上機嫌でキラキラ眩しい。と、ルイスは向かいの席に座るセレナの笑顔に始終ドキドキしている。

 オペラのチケットを買うために並んでいたら妻が現れ、あれよあれよという間に2人でレストランの店内。

 正確にはセレナが「昼食を食べに行こうとしていたのですが、先に仕事を片付けてくるので2人で行きません?」と誘ったからだ。

 ルイスは当然のように、2つ返事で了承した。

 レストラン・ラピスはセレナの友人夫婦が営んでいる異国料理店。

 調理場が見えるカウンター席6席に、テーブル席が5つというこじんまりとした店だ。


「こんにちは、ご来店ありがとうございます」とセレナの友人ジェシーが水を運ぶ。

 キッチンから笑顔で「サービスするので、好きなだけ頼んでください」と声を掛けたのは夫のビリーだ。


「遅い昼食でお腹ペコペコだけど、好きなだけってそんなには食べられないわよ」

「そう? セレナって見かけによらずよく食べるじゃない?」

「そうそう、セレナさんって食いっぷりが良いよな」

「いつだっけ、ほら」

「もうっ、やめてよ2人とも」


 昼の営業が終わった後なので、現在店内には店主夫婦とラングウィン夫婦しかいない。なので、かなり砕けた雰囲気だ。ルイス以外は。


(結婚式にも参加してくれたが、こんなに親しかったのか)

 

 ルイスは少々疎外感を抱いた。妻が機嫌が良いのは友人達に会えたからだと落胆する。

 その前の機嫌の良さはオペラを観られるからだと思い込んでいる。経験の無さからくる自信の無さ。


「ルイスさん、好きなだけって言いましたけど、夫にお任せでも良いですか? 夜の仕込み中なんで昼のメニューは用意出来なくて。苦手なものはあります?」

「いえ特に。お任せします」

「ルイスさんは何でも食べるわ。食事を残したことがないもの。ああ、お肉よりも魚の方が嬉しいかな」

「へえ、ルイスさんはセレナと同じで魚派なんですね」

「魚ならもう少ししたら届くからちょうど良い。生が大丈夫ならカルパッチョにします」


 カルパッチョ? とルイスが首を傾げる。更に心の中で(俺、肉より魚の方が好きだって言ったことないよな)と呟く。

 セレナはルイスが魚の時は食事が早く、ソースをパンにつけて綺麗に食べきるので魚派だと結論付けていただけ。

 嫌われていると勘違いしたり女性に対する観察力の乏しいルイスと違い、セレナはきちんと相手を見て的確な考察を出来ている。

 セレナはすかさずカルパッチョがどういう料理なのか説明した。


「ああ、先週食べた」

「何を作ったか覚えてくれてるんですね」


 ニコニコと笑うセレナにルイスはおさまっていた動悸を激しくさせた。ソワソワするのでコップを掴み、グイッと水を飲む。

 気を利かせたジェシーがキッチンへ引っ込む。


「そういえばルイスさんは甘いものは好きです?」

「いえ」

「そうですか、残念。近くに美味しいケーキ屋があるので帰りに買っていくのはどうかなって思ったんですけど」


 セレナはシュンと項垂れた。レストランデートの次はカフェデートはどうかな? と思ったからだ。


「ねえジェシー、前に行ったあのカフェ、ほら食器がうんと可愛くてタルトの美味しいあの。今度また行かない?」


 サッパリしているセレナはカフェデート案をとっとと放り投げ、友人と出掛けようと思考を切り替えた。

 セレナとキッチンから出てきたジェシーの会話に花が咲く。ポンポン飛び交う話を、どちらかというと口下手なルイスは聞くことしか出来ない。


(この先の5番地にあるカフェの食器が好みか……。今度見ておこう。あと最近流行の甘いものの話を誰かに聞いておこう)


 ルイスは心の中でそう呟いた。


「たまにはのんびり紅茶を飲みたいから、おすすめのそのカフェに連れてって欲しいな」と言えば妻とデート出来るのに残念な思考回路である。


 ☆★


 このようにして2人は初めての外出を終えて帰宅。お互い作りかけの服や帽子があると解散。

 ルイスには青天の霹靂だった初デートは終了。しかし、デートが終わったからそれで終わりではなかった。

 これまで自宅での食事中に会話をしたことのなかった2人。しかし今日はもう違う。ダイニングテーブルに向かい合って座り、軽い夕食を摂る時に、セレナはルイスへごくごく自然に話しかけていた。


「オペラとても楽しみです。ありがとうございますルイスさん」


 セレナに愛らしい満面の笑顔を投げられ、ルイスはサラダのブロッコリーをフォークごと落としそうになった。


「いえ。そんなに喜んでもらえるならいくらでも買います」

「いくらでも? まさか。ふふっ、ルイスさんも冗談言うんですね」


 機嫌の良いセレナが肩を揺らす。


「そういえば青薔薇の冠姫と伯爵の元になったお姫様、ミラ姫と親しいそうで今月来国するそうなんです。まさかとは思いますけど同じ日に観劇だったりして」

「そうなんですか?」

「どんな話でそのお姫様もどんな方なのかしら? 楽しみですね」


 ニコニコ笑いながら喋り、時折サラダを口に運ぶセレナをルイスはぼんやり眺め続けた。

 昼間のレストランでの食事を除けば、今日が結婚してから1番長い食事時間。セレナはくるくる、くるくる話題を変えていく。ルイスは相槌しか打てない。


(オペラの元になったお姫様に興味があるなら、城門前の場所取りをしてセレナが見られるようにしよう)などとは考えている。

 その想定に「2人で」とか「提案してみる」という発想はない。ルイスが改善するべきなのはこの「自己完結してしまうところ」である。


 不意にセレナは気がついた。


「あー、すみません。ペラペラとお喋りで。それにつまらない話をして」


 言葉のキャッチボールではなく、浮かれてひたすらボールを投げているだけだと気がついたセレナは苦笑いを浮かべ、最後の一口の青菜のソテーを口にした。


「つまらないなんてまさか」

「そうですか?」


 セレナが寂しげに微笑んだので、「楽しそうで可愛いですし」と、ついポロリ。ルイスは己の口にした台詞に少々目を大きくして、顔を真っ赤にしたセレナを見て更に目を見開いた。

 ルイスは(照れてくれた? つまないなんて誤解を何でされたんだ?)とグルグル、グルグル、頭を働かせて考えた。

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