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服屋と帽子屋は新婚夫婦  作者: 彩ぺん


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「あれ、セレナの旦那さんじゃない? ルイスさん」と指差したのはナンシー。

 セレナは目を細め、小さく頷いた。頬が小さく痙攣する。


「嬉しい。ありがとうございます」

「ありがとうございまーす。ねえ、あの人格好良くない?」

「そう? あーいう人がタイプなんだ。確かに悪くないよね。呼んじゃおうよ」


 と2人組の若い女性は黄色い声を出した。慌てたノイマンとチャックがルイスに近寄る。


「おいルイス、妬かせたいって作戦か? 流石にまずいぞ。お前なんかに駆け引きとか無理。無理無理無理」

「ルイス、俺達は経緯を見ていた。とっとと奥さんに謝れ。平謝りしろ。ほらっ、ヤキモチ妬いてくれてるみたいだからチャンスだ」


 俺、ナンパさせられた? と呆然としていたルイスの背中を、駆け寄ってきたノイマンとチャックが叩く。


「ヤキモチ? セレナが……?」


 ルイスは恐る恐るセレナの表情を確認。確かに、誰がどう見ても不機嫌そう。


「おー、ルイスの奥さん! 偶然ですね」

「いやあ、素敵な旦那さんが勘違いで後押しを。本当、勘違いで。あちらの2人ではなくて、そちらのルイスの奥様とご友人にです。マスター! 先程の注文、夫から妻へです!」


 愚痴を聞いてもらっていたりするから日頃の礼だ、とノイマとチャックはルイスのために素早く動いた。

 そうしてセレナとルイスは、ナンシーやルイスの友人であるチャック、ノイマンに「帰ったら?」と促されて共に帰宅。

 まるで入籍当初に戻ったみたい、とセレナはルイスの無反応さに一抹の不安を抱いた。

 話しかけても「はい」か「そうですか」という返事しかなかったからだ。しかも明らかに不機嫌顔。

 セレナとルイスは交代で湯浴みすることになった。寝室に戻ってきたルイスは会釈だけで無言。

 

(あのデイジーって子と何かあったのかしら? 何かって何? 酒場でナンパしてるし……)


 ナンパは誤解らしい、とは顔見知りの常連客から説明されて納得も信用もしたが、モヤモヤする。一度気になると止まらない。妄想が捗る。

 脱衣所で服を脱ぎながら、セレナは唇を尖らせた。


『ルイスさん。ずっと慕っていたんです』

『デイジーさん、悪いが俺はもう結婚……』

『そんなことで忘れられません! お願い……』

「お願いじゃないわよ!」


 湯浴みどころか湯船に浸かってしまったセレナは独り言を漏らした。自分の胸を見て、両掌で覆い、足りないと呟く。

 デイジーの胸は服の上からでも小玉のメロン大だと分かる。セレナの胸はというと掌サイズ。

 湯浴みするのは自分が最後な上に、余ったお湯が今日は多いぞ、と湯船に入ったのだが、出るに出られない。

 ルイスの顔を見るのが怖い、とセレナはお湯の中に肩まで沈んだ。


(明日のオペラ、楽しみにしていたのに)


 セレナは身を縮めた。彼女は明日のオペラの後、ルイスと2人でのディナーまで画策し、根回ししていた。

 母親にそれとなく「せっかくお洒落したんだから2人で食事でもしてきたら」と言ってもらう作戦だ。母から義両親にも伝わっていて、自分達以外のディナーの手配も済んでいる。

 何が食べたいか話し合ってレストランを決める。そう考えていた。

 そんな風にウキウキしていたのに、谷に突き落とされた気分だと、セレナはうじうじ湯船から出なかった。

 かなり時間が経って、真夜中を告げる鐘が鳴ると流石に慌てて湯船から出て支度。

 明日も着る、今日着たワンピースを予め避けておいたお湯と石鹸で手洗いして庭に干す作業まで終わらせる。

 セレナはそろそろと廊下を歩き、おずおずと寝室のドアノブに手を掛けた。


「遅くなりました……」


 ドアを開けると部屋は真っ暗。


(ルイスさん、遅いから寝たみたいね)


 何となく、日にちの間隔的に今日は抱かれるかもしれない、と心の準備をしていたセレナはより不信感を募らせた。

 暗い部屋の中、手探りで肌の手入れをしてから布団に潜り込む。


「きゃっ」


 いきなり背後から抱きつかれ、セレナは小さな悲鳴を上げた。しかし、嬉しかったのでルイスの腕に両手を添える。

 更には体の向きを変えて、キスをねだるように首を伸ばした。


(良かった。寝てなかった……っ⁈)


 その瞬間、ルイスの唇がセレナの唇を強襲。噛みつくようなキス。


(今夜のルイスさん、いつもと違う? 名前も呼ばれなかった……)


「ル、ルイ……っ⁈」


 その夜のルイスは嫉妬でセレナを攻めに攻めた。そうして途中で「「好きだセレナ……。他の男に触らせたくない……」とその嫉妬心を爆発。


「そっ。自分は酒場で若い娘をナンパしておいて自分勝手ですね」とセレナは今夜の抱かれ方の不満とヤキモチで不機嫌な声を出した。


「ナンパなんてまさか。あれは勝手に……」

「若くて可愛いかったですからね」


 セレナはプイッと顔を背けた。


「若くて可愛いのは君もで……。むしろこんなに可愛い君の方が魅力的で……。俺には君がいる……セレナ……。誰にも触れさせたくない……」


 あれっ?

 俺も妬いてるけど嫉妬されてる?

 誤解を解かないと嫌われる? とルイスは必死に声を出した。

 セレナはこのルイスの態度にころっと機嫌を直した。


(酒場で私を誰かナンパしようとしていたのを見たとか? なんだ。私と同じヤキモチ)

 

「私も……好き……好きです……」


 セレナの唇がルイスの唇にそっと重なる。


(す……き……? 今そう聞こえた。私()? 私()?)


 キスに夢中になったルイスは残念なことに「好きだ」と返事をするのを忘れた。

 しかしセレナは特に気にしなかった。その前のやり取りでもう十分だったので。

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