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服屋と帽子屋は新婚夫婦  作者: 彩ぺん


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(なっ……あれってルイスさんの打ち合わせ相手の、八百屋のデイジーさん……)


 執事と挨拶を終え、馬車を見送ったセレナが目撃したのは夫と可愛くて若い女性が微笑み合う姿。

 当然、不愉快。セレナは唇を尖らせて目を細めた。


(何を話している……あっ……!)


 ルイスが屈み、デイジーの右足を確認。彼女を見上げて困り顔。その後、ルイスはデイジーをおんぶして歩き出した。

 その時、パチン、とセレナとデイジーの目が合った。


(年増おばさんになんて負けないんだから。誠実なルイスさんなら私に惚れたら離婚してくれて、それで結婚よ!)

(何、あの勝ち誇った顔!)


 バチバチッと火花が炸裂。しかし中心人物のルイスは何も気がつかない。

 彼の心の中は(勝手に怪我をしたのに送り返すとか面倒臭い。セレナ……。ラングドゥ夫人と打ち合わせのはずなのに男とデートだったとは……。しかもあんなに堂々と……)である。

 

「ルイスさん、すみません」

「いえ」


 デイジーは自慢の巨乳をこれでもか、とルイスの背中に押しつけて首に回している腕にも力を入れた。

(誰だあの男……。俺が勝てる要素はなさそうだった……)とルイスはデイジーの魅惑的な胸には無関心。デイジーには残念なことに彼は胸より尻派な上に、胸なら掌サイズがお好みだった。まあ、ようはセレナ派である。新婚デレデレ期なのでなおさら。

 そんなことは知らないセレナは、2人の後をつけて「むきーっ!」とイライラを募らせた。

 ルイスは元来た道を戻り八百屋の店先までデイジーを送り届けると、おざなりな挨拶を残してその場を去った。


「あら、ジュベール服屋の若女将さん。今日もご贔屓にしてくださってありがとうございます」

「えっ? あ、はい」


 影から盗み見していたが、今日のセレナの格好はポート商店通りでは目立つ。八百屋の女将に声を掛けられ、セレナは慌てふためいた。


「他の店に行かれる途中でした? 買い物には見えない素敵な装いですし」

「単に商談帰りでして。八百屋の女将さんは……パンを買いに? 今日の店番は娘さんです?」


 セレナは軽いジャブを打った。とりあえず八百屋の女将の買い物籠からパンがのぞいているのでそれを話題に使用。


「ええ、店は旦那に任せて少し買い物に。娘はそちらの若旦那さんと喫茶店で服の打ち合わせです。すみませんね、服を作ってもらったら諦めると言って聞かなくて」


 おほほ、と笑う八百屋の女将の目の奥にはトゲトゲしい光が含まれている。と、セレナは愛想笑いを返しながら内心訝しんだ。


(そうよね、ルイスさんは良い方だもの。娘を応援したくなるわよね。明日から八百屋を変えないと。いや、逃げるみたいでしゃくね。負けてたまるもんですか)

 セレナもおほほほほ、と少々引きつった笑みを返した。


「夕食に使う食材を少し買っていきます」

「あらあ、ありがとうございます」


 どうぞどうぞと促されてセレナは八百屋まで移動した。当然、デイジーと鉢合わせである。


(なっ⁉︎ 綺麗な貴婦人と思ったらセレナさんじゃない。しかもこのワンピース、今日盗み見たルイスさんのスケッチブックに描いてあった!)

(頬を染めて……ルイスさんは私の夫なのに……。まあそうよね。ルイスはさんは照れ屋なだけで良い男だもの。それよりルイスさんよ! デレデレしちゃって! 確かにデイジーさんは若くて可愛いけど!)


 再び火花炸裂。2人とも笑顔が引き立っていて、目もジト目である。


「いらっしゃいませセレナさん」

「デイジーさん、今日は夫と打ち合わせでしたよね? デイジーさんがこちらで店番をしているということは、打ち合わせがもう終わって帰宅したのでは? と思って夕食の支度を急ごうかと」


 うふふ、と笑いながらセレナは「夫」という言葉と「夕食の支度」という台詞に力を入れた。牽制である。


「ええ、今日()終わました。お願いしたデザインから少し変えたくなったので、また近いうちに打ち合わせをお願いするつもりです」

「まあそうなのですか? それなら都合の良い日時を伝えておきますけど。店の応接室も開けますわ」


 セレナは決意した。どうにかやりくりして、今は無い応接室を用意しようと。


「店のこともあるので後日()()お伝えしますので大丈夫です」


 再びバチバチッと火花が飛び散る。


(何よ! 既婚者を堂々と誘うつもりなの⁈)

「そうですか。あの、キャベツとトマトをいただけます?」


(ルイスさんがトマトが大嫌いだって知らない女が妻なんて認めないんだから!※)

「かしこまりました」


 ※ルイスはトマト嫌いではなく、好きでも嫌いでも無いから自分では買わなかっただけ。それで他の日に母親が買っていた。


 バチバチ、バチバチ火花を散らしながら会計終了。セレナは「夫が待っているので早く帰らないと」という作り笑いを残して八百屋から遠ざかった。


(何よ。何よ何よ何よ! ちょっと若くて可愛くて胸も大きくてスタイルも……)


 全部だ、とセレナは足を止めた。1番近いお店の窓に映る自分の姿を確かめる。

 そして、うーん、悪くない? と首を捻った。私はそこそこ美人で評判だしルイスも照れを乗り越えて「可愛い」と言ってくれているしと考える。

 彼女はルイスと違ってこの国の多くの者と同じくらいの自尊心を有している。


(髪……私も伸ばしたら可愛げが出るかしら……)


 セレナはブンブンと顔を振り、歩き出した。


(可愛いって……。ルイスさんはこの髪型を可愛いって褒めてくれたもの)


 正確にはルイスは髪型ではなくてセレナを褒めただけ。ショートヘアーになれば可愛い、ロングヘアになれば可愛い、まとめれば可愛い、何でも可愛いと思うくらい人生初の両想いに浮かれに浮かれている。


 セレナの歩く速度は徐々に増した。最後には小走り状態。息を切らして店横の母屋出入口から母屋へと入る。そしてそのまま離れへ向かった。

 ミニキッチンでルイスと遭遇。パチンッと2人の目が合う。


(こんなに可愛く着飾って男とデート……)


 ルイスは相変わらず不機嫌顔。


(なんでデイジーさんにはあんなに優しい微笑みで私は……比べた? 私には可愛らしいデザイン過ぎるから、このワンピースが似合わないとか?)


 セレナは眉間にしわを作り、眉尻を下げた。


「ただいま帰りました」

「ええ」


 ルイスはプイッとセレナから顔を背け、足早に横を通り過ぎた。


「お出掛けです?」

「ええ。ああ、夕飯は要りません」


 ルイスはそう言い残し、セレナを置いて去ってしまった。

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