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結婚経緯


 春。北西の地、黄昏国の王都クレプスクルムにある市民層の商業地域メディウム。

 その地域で3番目に大きい通りに、青いとんがり屋根のこじんまりとした店がある。ジュベール服屋はメディウム地域で暮らす人々の普段着を売り、繕い物もしてくれるそこそこ大きな服屋だ。

 ルイス・ラングウィンはそこの若店主。仕事で少々手を悪くした父親ジュベールと、お喋りで元気な母親ターニャ、母親似の弟ロイズと暮らす、まもなく32歳になる男。


 室内仕事のため肌は白いが、体格は良くて背も高い。

 短い髪の毛は金糸のように細くて柔らかく、顔立ちも穏やか。しかし、凛々しい一文字の眉と、やや大きい鷲鼻が力強い男らしさを醸し出している。

 自分から女性を口説きに行けば、決して苦労しない見た目、育ち、職業だ。

 しかしルイスは他人よりも口数が少なく、1日の大半を仕事場で誰とも喋らずに過ごすことが多い。

 弟を医師の学校へ通わす為に、酒、ギャンブルなども自発的には行わない、趣味が貯金や仕事という人種。

 奥手故に自ら女性に話しかけたり、デートに誘えるタイプではない。友人から紹介されても上手くいかない。

 かといって自ら男性を落としにいくような女性からは「そこまで金持ちではない」「真面目だがつまらなそうな男」と評されて敬遠される。

 金目当ての悪女に引っかかるような浅はかさも持ち合わせておらず、女と遊びまわる性格でもない。

 親しい友人達からは「誘うと基本的に断らない便利な男」と呼ばれつつ「普段はあまり喋らないが、相談となると真摯に向き合ってくれる良い奴」や「未婚の知人女性も減ってきたしどうしたものか。皆と相談するか」と慕われているが、女性と無縁の人生を歩んでいた。


 さて、メディウム大通りの裏の裏の裏にある通りに母娘で営んでいる帽子屋がある。

 前店主の父親オリバーが健在の時は、別の場所にあった、貴族もわざわざ通った繁盛店だったが、10年前にオリバーが流行病で亡くなり、看病で妻の腰も悪くなり、経営は徐々に悪化。

 母娘は従業員達の退職金のために1度店を売り、家賃の安いメディウム地域へ引っ越し、借りた自宅を少々改装して「オーダーメイド専用の帽子屋」として店を蘇らせた。

 娘セレナは元お得意様に自分と母親が作った作品を営業して回り、生活出来るだけの注文をなんとかこなす日々だった。

 生活が軌道に乗って余裕が出てきた頃には、黄昏国の結婚適齢期を少し過ぎた25歳。

 更にそこから、たまに友人とお茶をする程度以外は懸命に働き続けてもう29歳。この国だと同年代の友人知人は軒並み結婚している年齢。

 しかしセレナは毎日楽しくて仕方なかった。

 大好きな父が残した店を細々とだが続けられ、両親から教わった技術で、大好きな母親と共に働いて、仲良く暮らしている。

 帽子を完成させて売った時の顧客の反応は素晴らしく、セレナとしては大変満ち足りた幸せな日々。恋愛より仕事という気持ちが強かった。

 しかし、ある晩のこと、夕食中に母リルが「嫁にも行かせられずに済まないね」と微笑みながら愚痴をこぼしたので、彼女は急に仕事以外のことも考えた。


(お母さん、私に結婚して欲しいのね。ああ、孫の顔を見たいというのもあるかもしれない)


 セレナはすぐに行動を起こした。隣近所の母親世代やお得意様に、このことを相談したのだ。

 自分の希望は仕事を続けることと、母親と同居すること。

 おおよその経営状況、貯金額など、包み隠さずに伝えて、妻として出来ることも話し、相手に望む条件も語り、その上で「この条件で妻に望む方や家があれば教えて欲しいです」と。


 この話は一部の貴族層と、メディウム地域でそこそこ噂になった。

 セレナは人並みにはモテる。ただ、本人が家族と仕事第一で誰も恋人になれなかっただけ。

 現在のセレナは、かつて長かった艶やかな青みがかった金髪を肩の上で切り揃えていて、気が強そうな顔立ちに拍車をかけてしまっている。

 しかし、今も昔も溌剌として生き生きとした笑顔は可憐で愛嬌たっぷり。まだまだ女性としての魅力には溢れている。

 なので結婚していなかったら俺がなんて言う男や、かつて彼女に惚れた男は「彼女が幸せになれる男と結ばれて欲しい」と願い、友人知人に話を広めた。

 近所の親世代の者達も同じ、既婚者のセレナの友人達も同様。

 さらっと口説いて相手にされてなくてすぐ諦めた男達に、少し粘ろうと思っていた男は「チャンスがきた」と燃えた。


 そうして服屋のターニャもこのセレナの婚活話を入手。寝る前に夫ジュベールへセレナの話をした。

 

「あんた、ルイスはこのまま放っておくと一生独身だ。セレナさんを見てきたけど、可愛らしいお嬢さんでね、誰に聞いても評判が良い。もちろん、人だから欠点もあるよ。勝気で男勝りだって」


 ターニャはジュベールに「セレナさんは今の自宅の改装を自分でしたそうだ」とか「今の店を軌道に乗せるため、貴族相手に体を使ったという噂があるらしい」という話をした。


「あんたが手を悪くした時、ルイスが娘だったらどうだったか? そう考えるとねえ。母親想いの気丈な娘さんという評判は逆にしっくりくる。綺麗事じゃ生きていけない。でもさ、こっそり見たが、真っ直ぐな瞳をした娘さんだった。帽子がとても素敵なんだ。似たような仕事だし、職人として感じるものがある」

「私も客から言われた。ほら、よく来てくださるバーリーさんだ。あの方が働く貴族のお屋敷の奥様が、彼女のお得意様らしい。それで、まわりまわってルイスと見合いさせたらどうか? と。服屋に帽子屋とはお似合い。あのような娘が売れ残っていたのはなかなか奇跡だぞってな」


 ジュベール、ターニャ夫妻は話し合いの結果、息子ルイスをセレナと見合いさせようと決意。

 この時、セレナの元には、彼女を悩ませるくらいの、幾つかの縁談話が舞い込む寸前だったがルイスが1番乗り。

 そのようにして服屋のルイスと帽子屋のセレナは見合いをし、特に条件の問題がなく、同職種で互いの親が意気投合したのもあり、1週間で婚約に至った。

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