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友人が殿方とどうにかなるたびになぜかタイムリープして学園生活を繰り返してきた私は、どうやら乙女ゲームの親友ポジというものだったらしい

作者: 月乃服屋

ただただ、導入部分のところが書きたかっただけの、起と結だけのお粗末な内容です!申し訳ありません。あと、これも申し訳ないんですがこの中では男性は出てきません…ただ女の子の友情みたいなのが書きたかっただけ! 一応、なんでも大丈夫!って方のみよろしくお願いします。

 



 ──ドン──ドン──と祝砲がどこかで上がっていた。


 その日は朝から見事な快晴だった。

 天井の高い協会の正面の壁を彩るステンドグラスから差し込む光がとても美しかった。

 そして、それが、祭壇の前に立ち永遠の愛を今まさに誓って夫婦となった一組の男女を包む光景は、まるでふたりが神から直接、祝福を受けているかのように荘厳だった。

 純白の衣装に身を包んだふたりは、参列席を振り返ると、静かにお辞儀をしたあと、そっと腕を組んで歩き始めた。

 教会の大きな扉に向かって進んでいくはにかんだ横顔に、多くの参列者が温かい拍手や熱い声援をかける。

 中には時折茶々も飛んだが、全体の和やかな雰囲気を見れば、ここにいる全員が今日のこの催しを喜んで見ているのは間違いなかった。


 ──ただひとり、切実に祈るような気持ちで両手を胸の前で組んでいた私を除いては。


 新郎新婦が扉の前で立ち止まった。

 その背中を参列者の隙間から見ながら、友人として招待を受けてこの場にいた私は、新婦の結い上げられた桜色の後ろ頭に向けて、周りの誰にも聞こえないような小さな声で言った。


「どうか──どうか、これからも幸せでいてね。ソフィア」


 ゆっくりと扉が外に向けて開かれる。

 その瞬間──そっと目を細めた直後に、扉の向こうから溢れてきた白く眩ゆいばかりの光によって、私の意識は飲み込まれた──









 ──「またか」と思う気にもならなかった。



 それが始まったのは、いつだったか。

 途中から刻を数えるのをやめてしまって正確にはわからないが、もはや何十年も前だった気もするしつい先日のことだったような気もしている。

 だけど、何故そうなったのかは未だにわからない……。












 真っ白になった視界がひらけた次の瞬間──ぱちりと、ぼやけた目の焦点を合わせるように一度ゆっくりとまばたきをした私が立っていたのは、”聖アドリフィス学園”と刻まれたアーチ型の校門の前だった。


 天井のない空はただ青く、足下は先ほどまでいた教会の木の板の床ではなく明るい色のレンガ道になっていることを確認して、私は、それまで胸の前で強く組んでいた両手の指をそっと解いた。


 すると、ちょうど、その開いた手のひらの上に、小さな花びらがひとひら舞いながら落ちてきてちょこんと収まった。


 それは、狙い通りのタイミングで。


「やっぱり」


 私はため息をついた。


「今度も同じ」


 そう言うと、日に透けるほどの薄く色づいただけの花びらをまた風へと乗せた。


 花びらがふわりと飛んでいく。

 その先すら、目で追わずともすでに知っている私は歩き出した。

 その時、ぶわりと一際強い風が横に吹きぬけると、それに煽られて、上空の枝から、地面から、離れた多くの花びらが一斉に勢いよく飛び散った。

 舞い上がり吹きつける花びらの向こう、門をくぐり抜けたすぐそこで、花びらと同じ色の長い髪をなびかせていた人物の背中を私は視界に入れ、だけど、声はかけずにその横をただ通りすぎた。


 彼女とはまた後でどうせ出会うことになるし、ここで話しかけると、ふたりしてこの後の入学式に遅刻してしまうことも、何度も体験して知っているから……。





 ”タイムリープ”

 始まりは学園に入学するこの日。

 終わりは定まっていない。

 二十メートルはあるかという高さの門を見上げ、かつ周囲の圧巻の塀の長さに慄きながらも中の世界への期待に胸を膨らませた十五歳の時から、十八歳で卒業を間近に控えたいずれかの日…もしくは卒業後三日と経たずに早い結婚式を友人があげる瞬間までの約三年の学園生活を、私はもう幾度となく繰り返している。

 原因は未だにわからない。

 最初のきっかけだけは覚えているけれど、繰り返しているうちによくわからなくなっていった。

 だから、最近はもう、よく考えることは諦めていた。

 これが、私の運命なのだろう。そんなふうに思いでもしなければやってられなかった。



 この学園で学友となるソフィア・テレーゼ。桜色の髪と瞳が特徴的な、心の優しい女の子。


 その彼女が死んでも


 彼女に恋をした男性が死んでも


 ただすれ違ったまま彼女の恋が結ばれない結果に終わっても


 果ては彼女が恋した男性と結婚にまで至るという幸せな結末を迎えたとしても……




 なぜか私が巻き戻るのには意味があるのか……ずっと考えて、ずっと何かを変えようと努力をしてみても、結局、私が学生時代のこのループから抜け出せたことはこうして今日まで一度もなかったのだから。



 そして、きっとそれはこれからも続くのだろう──








 そんなふうに考えていた矢先のことだった。

 今回はいいやと入学式に出るのをやめて、その時間、人が来ないことがわかっていた校舎の陰にあった湿ったベンチに腰掛けて涼んでいた私。

 ぼんやりと、でも少し真面目に次の三年間の身の振り方を考えながら過ごしているうちにいつの間にか影の傾きが変わっていたことに気が付いて、さすがにそろそろ動こうと立ち上がると、スカートのおしりについたすすとベンチの上の小枝を軽く手で掃っていたその時だった。


「やっと見つけたわ──アンジェリク・マークス!」


 突然、背後から名前を呼ばれて、私は驚いて振り返った。


「やっぱり、アン! あなた、入学式で私の隣にいないと思ったら……こんなところで何やってるの!?」


「──え?」


 ぜえぜえと肩で息をしながら怒ったような顔で私を見ながら近づいてくる桜色の少女──ソフィア・テレーゼを見て、私は目を見開いた。


「あなたが案内してくれるはずでしょ! 寮の場所!」


 カッカッと茶色のローファーの踵を鳴らして私の前までくると、腰に手を当ててそう言い放った彼女に、私は、めまいを覚えた。


 ──この子は、なにを言っているのかと、ぐわんと大きく回る頭で、そう思った。


 いつも穏やかだった彼女にしては珍しい、強めの語気で話しかけてくる様子にも混乱するが、それ以前に…


「ソフィア……あなた、私を知ってるの?」


 ──この時間軸では、私はまだ、彼女と出会ってもいないはずなのに。


「え?…あっ…そうか……」


 私が尋ねると、ソフィアは、はっとしたように口を押えて、下を向いた。


「つい焦っててトチった……えー、なんて説明しよう……前世とか…ムの世界とか…伝わるわけないし…。……あれ?でも、いま……向こうも、私の名前、呼ばなかったっけ。あれ?これってもしかして……可能性ある?」


 何か、もごもごとつぶやいているのが聞こえてきたけど、いまいちよく聞き取れない。

 ただ、そうして悩まし気に眉をひそめていた彼女を呆然と見ていた私は、その時ふと、彼女が私のことを知っている理由に一つ思い至った。


「もしかして」 


 と私が言いかけた時、向こうもはっとしたように顔を上げて私の目を見た。


 それに、期待を覚えた。


 これまで、いつも、誰も、何も知らない中、たったひとりきりで時間を駆けてきた私の世界の、何かが変わる予感がした。




 私たちは、互いにはやる胸を押さえて、舌を嚙まないように気を付けながらゆっくりと、呼吸を合わせるようにして口を開いた。


「あなたも……刻を戻ったの?」


「あなたも……転生したの?」


 ──……お互いにお互いの台詞を聞き取り、頭で処理するまで、少しの間を必要として……


「……どういう意味?」


「……そっちこそ。」


 結局、お互い理解できず、もう一度尋ねあうことになった。




 




 聖アドリフィス学園。魔法と精霊に守られたアドリフィス国で最高の教育機関と謳われるこの学園では、様々な魔法の素養や稀有な才能をもつ優秀な若者が在籍し、日夜、勉学やそれぞれの研究に励んでいる。

 この物語は、そんな学園に、ある年、少し珍しい魔法を持った女子生徒が入学するところから始まる──


 ──乙女ゲームだ。


 そして、前世での自分はそのゲームをやり込んでいる途中で死んでしまい、今世にそのヒロインとして転生したようなのだと、彼女──ソフィア・テレーズは言った。


 ついでに、私──アンジェリク・マークスはソフィアの恋を応援し、攻略キャラの好感度を教えてくれたり様々な場面で的確な助言や魔道具などを差し入れてくれる“親友ポジション”という枠のキャラクターであったと。








 そんな説明を聞いた私はしばらく頭を抱えていた。

 一方、私のタイムリープ歴について余さず伝えた彼女の方も「噓でしょ…」と言って地面にしゃがみこんだまま遠い目をしていた。


「ここがつくりものの世界だなんて…」


「タイムリープって……たぶん、話聞いた限り、ヒロインのソフィアが、バッドエンドとノーマルエンドとハッピーエンドと…って全部の攻略対象とのエンディングにたどり着いた瞬間に起きていたように思うんだけど…まるっきり、私が前世でプレイしてきた順番と同じだわ……」


「じゃあ、私がこの学園生活を終えられないのは……私に原因があるからとか、ソフィアの人生を何かしらから救う必要があるからとかじゃなくて……単に、この世界が恋愛をシミュレーションして楽しむげーむの中で……卒業した後の未来なんて元から用意されていなかったからということ…?」


 私たちはそれぞれ呆然とつぶやいた。


 私は、これまで疑うことのなかった自分を構成するすべてのものが足下から崩れ去っていくような感覚を覚え、脱力してまたベンチに座り込んでいた。

 なにも私にあるのは今まで何度も学園生活を繰り返してきた記憶ばかりではない。幼い頃から入学前までの家族との思い出も確かにあるのに、この世界がすべて虚構だなんて、信じられなかったし、信じたくなかった。

 でも、目の前にいる彼女は、私のタイムリープの話を聞くと、毎回それが起きる直前にソフィアに何が起きたのかを途中から全て言い当ててしまった。

 私のプロフィールも知っていたし、攻略者だったという過去の時間軸での恋人たちとのストーリーも寮で恋バナと称して少しだけ聞いていた話と同じだった。


 もう信じる他になかった。


「……」


 どちらも何も言葉を発さず、ただ沈黙がその場に流れた。


 どうしたらいいのかと思って、私はただ途方に暮れた。未来も終わりもないと知って、これからどう生きていけばいいのかと。

 無意識に震えだす体を抱きしめて俯いた……その時だった。


「……ああ、もう!!」


 突然、そう叫んで、勢いよく顔を上げたソフィアを、私は驚いて見た。


「いつまでも、こうしてうじうじ考えていても仕方ないわ」


 そう言うと、ため息をつきながら立ち上がった彼女は、何か吹っ切れたような顔をしていた。


「ここが、本当に私がしていたゲームの中の世界だったとして……それなら、私が目指すことはひとつだわ」


「…目指すこと?」


 私は、自分の体を抱きしめたままの姿勢で、彼女を見上げた。


「ええ!」


 ソフィア──中身はもはや私が知っている友人とは違うのだろう──ストレートの長い桜色の髪を肩から払いのけながら自信たっぷりの表情を浮かべた彼女は、ハッキリとした動きで私の問い返しに頷くと、髪よりは少し濃い淡紅色の目を輝かせてこう言った。


「このゲームの隠しルート──ハーレムルートをクリアするのよ!!」


 その言葉に、私はぽかんと口を開いた。


「そうよ! 私、決めた! 絶対に、卒業までにこの学園でハーレムを作ってやる!」


 天高く向けて拳を突き出した彼女の大声で、近くの木にいた鴉が飛んでいった。


「……ばかなんですか」


 思いもよらなかった、ソフィアの口から飛び出した単語に、おかげでこちらの崩壊間近だったアイデンティティの危機感はどっかへ飛んでいった。


「すみません…よく聞こえなかったんですが、今、なんて言いました?」


 思わず尋ねた私に対して、ソフィアはあっけらかんとした態度で、もう一度さっきと同じ言葉を、今度は極めてゆっくりと口にした。


「ハーレムルートをクリアしてやる〜って、この学園でハーレムを作ってやる! って言ったのよ」


 ……私は頭を押さえた。


「あの、認識が間違ってたらすみませんが…ハーレムって、あのハーレムですか?一人が複数人の異性を侍らせる…あの?」


「そうよ!普通はあまり乙女ゲームでハーレムルートエンドって無いんだけど、このゲームでは、隠しルートとして、全キャラの全ルートをクリアした後に、解放される仕様になってたの!」


「へーえ、ソウナンデスカ…」


 意味を聞いた途端、興奮気味にまくしたてるソフィアの説明を聞きながら、若干引き気味に、私は相槌を打った。


「私はどうしてもそれが見たくて…!だから必死で遊んだわ。寝ても覚めてもとにかくやってやって……ようやく、ある日の夜中に最後の一人の最後のルートが解放できて。よし明日だ。明日の夜からしっかり楽しもう!って決めて、その日は、改めてオープニングと学園の門のところにいるエピローグまで見たところで眠って」


「はあ」


「で、その次の日の朝に、事故に遭って死んだの」


「……」


 ふっと急に火が消えたように静まりかえった。


「それは……きっと無念でしたね」


「ええ。すごくね」


 さきほどまでのはしゃぎ様から打って変わって沈痛な面持ちをしたソフィアに、同情するように私がそう言葉をかけると、彼女は少し渇いた笑いを浮かべながら頷いた。


 だけど、次の瞬間には、また自信たっぷりの表情をして言った。


「だからね、絶対にクリアしたいのよ」


「……え。でももう…」


「そう、私は死んだ。前世のようにゲームをすることはもうできないわ……だけど、ソフィア・テレーズとして生まれ変わった私なら」


「……」


「可能性はあるでしょ?」


「本気でわかっていて言ってますか?」


 努めて静かにそう聞き返すと、ソフィアは少しムッとしたように腰に手を当てて、心外だとばかりに顔を背けた。


「私はいたって本気よ。この世界が私がプレイしていたゲームとリンクしているのなら、なおさら、ハーレムルートが開いている可能性はあるし」


「荊の道ですよ。その、あなたが言うげーむのように、虚構の物語として楽しんでいるだけでは済まないんですよ?」


「一応わかってるつもりよ」


「あなたの身に、本当に、いろいろと降りかかるんですよ? この世界で、あなたがどんな目に遭ってきたのか、知ってますよね?」


「もちろん、知ってるわ。ひどい時は、恋敵に刺されたり暴漢に拐われたり病んだ恋人に殺されたりもしてたわね」


「っ……わかっているのに、どうして…っ」


 気がつくと私は、無意識のうちに膝の上においた両手で制服のスカートを皺ができるくらいに強く握りしめていた。


「絶対に、やめておいたほうが……!」


「あのねえ!言っておくけど!」


 私が語気を強めたその時、向こうも対抗するように強めに言葉を挟んできた。


「これは、アンジェリク──あなたのためでもあるのよ」


「えっ……」


 その言葉に、固まった。


「どういうこと? 私のためって…」


「いい?よく聞いて。あなたは今日も巻き戻ったばかりだと言っていたわよね。その結婚式はね……私が最後の夜にゲームで迎えたエンディングと同じなの」


「えっと、それは……」


「つまり、個別のエンディング回収は前回のループで全てコンプしたってこと。だから、もう、あとはこのハーレムルート…それをクリアすれば、もしかすると、ゲームのシナリオは終わって、そのあなたの身に起きているタイムリープっていうのからも解放されるかもしれないってことが言いたいの。

 ──もうクリアしたところで最初に戻すプレイヤー(だれか)誰かもいないわけだし」


「嘘…」


「嘘じゃないわ。まあ、これはただの予想だからもちろん外れるかもしれないけど。でもそう考えたら、あなたにもこのハーレムエンドに向けて賭けてみる価値はあると思わない?」


「……」


 私は黙りこんだ。

 急に投げ込まれたその話題に、なんと返せばいいか分からなかった。


 そんな、ベンチに座ったまま動けない私に、元のソフィアのものとは思えない様な冷たい声が降ってきた。


「……まあ、別に、無理に納得してくれなくてもいいわよ。ただ、私は、前世で見れなかったハーレムエンディングがどうしても知りたいから頑張ってみるだけだし。でも、一応、あえて聞くわ」


 その時、ドン!と突然、音を立てて座っていたベンチが揺れた。

 驚いて顔を上げると、私の座っているおしりの横すれすれに片足を乗せながら、こちらを鋭く見据えていた彼女の目と、目がバチリとあった。


「アン──あなたは、この後も、ずっとこの学園生活を繰り返すだけで終わりのない時間を、運命だなんて受け入れて生きていけるの?」


「……あ」


 その瞬間、つい、涙がこぼれたのは悲しかったからじゃない。

 怖かったからでもなかった。

 むしろ今日までのほうがずっと怖かった。

 何度も嫌なものを見ては巻き戻って、今度はそうならないようにと努力して、何事もなく幸せに大団円を迎えたと思いきや、また戻って。

 もう何がダメなのか、どうしたらいいのかもわからなかった。

 ただ、いつもひとりきりで出口のないトンネルを走ってきたようなものだ。


 孤独だった。


 だけど今度は、彼女が、きっと自分と闘ってくれるのだと、そう思った瞬間、涙が出た。


「いいえ──いいえ、そんなの、御免よ」


 慌てて涙を拭って、私は言い切った。


「だから、ソフィア──あなたが無事にすむエンディングを目指すのに、私も協力させて」


「当然よ」


 すると、ソフィアはベンチに乗せていた足をそっと下ろすと、にっこりとこちらが驚くほどに美しく笑った。

 目立たないけど端正な顔つきをしている彼女は、元々は笑えば美人なのだったと思い出した。


 だけど、その直後──


「親友ポジのあなたの協力がなきゃ、このゲームは、攻略なんてできないんだから」


 そう言ったかと思うと、何故かにんまりと悪どい感じで笑って、私の鼻先に向かって鋭めに指をさしてきた


「いいわね? あなたは私のためのキューピッドとして存分に働くの。もうバシバシ、学園のイケメン達の好きなものとか誕生日とか今いる場所とか町のデートスポットとか好感度やら私に教えなさい!」


「え…」


「ちなみに、しんどいからやっぱりやめるっていうのは無しよ! あなたが『協力させて』っていったんだからね!」


 つまり言質はとった、とでも言いたいのだろうか。

 必死な形相でまくしたてるそのお顔はヒロインらしさ皆無で、一瞬、答えるの早まったかなと私はちょっとだけ後悔した。





 でもまあ──これはこれで、今まで過ごしてきたどの時間よりも、退屈はしないかもしれない──



 そう思うと、つい、くすりと笑みが溢れた。











































 ──それから月日がたち。




 ──卒業式を迎えた日。






 攻略者全員からそれぞれに呼ばれていたソフィアを、私は、アーチ型の正門の下で待っていた。

 式典は昼過ぎには終わったはずなのに、彼女が返ってきたのはもう日も暮れかかった頃だった。


「エンディングはどうなったの?」と笑いながら聞くと、ソフィアは少し眉を下げて微笑みながら答えた。


「全員、断ってきた」


 私は、あまり驚かなかった。


「ふーん、どうして?」


「……全員のこと好きだったけど、やっぱりハーレムは現実的に無理だって気づいた」


「今更ね」


「ええ本当にね。私、ずっとわかってなかったの。ここがゲームの世界だって思ってたから、ハーレムだって別にいいじゃんって。でも、国の王子様だとか騎士になる人だとかすごい魔術師になるようなみんなをずっと独占なんて、普通に考えたらできるわけないって気づいた。そんなことしたら、この国、おかしくなっちゃうわ」


「……」


「私、この世界に生きているの。あなたも、彼らも、生きている人間だったの。このまえの事件で、あなたがさらわれたときそれを強く思った。いなくなったらどうしようって怖かった。ようやく気付いたの。遅いけど」


「……まあ遅いとは思うけど、遅すぎるってことはないと思うよ。まあ、いいんじゃない。誰しもそういう時期ってあるものでしょ」


 涼しい風が吹いた。

 桜の蕾はまだ硬くて吹かなかった。


「……エンディング、迎えられなかったけど、卒業できるかな」


「……わからない」


「卒業できたら、何になる?」


「……とりあえず、家業を手伝うわね」


「家業って?」


「商会。だから、色々なグッズをあなたにあげられてたのよ」


「ほえー、なるほどねえ……あ、じゃあ、商売のコツとか知ってるほう?」


「急に何言うの」


「いや、ちょっと考えついたの、いま」


「何を」


「私、私の前世にあったものでこっちの世界にないような便利なものを作れたら、売れる気がするのよね」


「また新しい話をしはじめたわね」


「うん。あ、なんかできるような気がしてきた。アイデアわいてきたわ」


「はあ……本当に、あなたといると退屈しないわ」


「そう? まあ、私も、女友達って面倒って思ってたけど、あなたといるのは楽しいわ!」


 にこっと笑うソフィアに、私もため息をつきながら笑い返した。


 そして、ふと校舎の向こうに沈みかけていた途中の夕日を見て、つぶやいた。


「──もし、あの夕日が沈む瞬間、また時間が戻ったらどうしようかしら」


 それを考えると、体の底から冷える様な恐怖を感じて俯いた。

 しかし、その瞬間、間髪いれずに答えたソフィアの言葉に私は目を見開いた。


「そうね、そのときは魔道具か、魔法をこめるお菓子の作り方とかを真面目に学びなおすわ!」


「一緒に来てくれるの?」


 思わず、驚いて、ソフィアを見つめ返した。


「そりゃあそうでしょ。ひとりにしないわよ、こんな意味わかんない世界で」


「そ……っか」


 そのあっけらかんとした答えに、呆然としながらも、嬉しいと純粋に思った。


「すごく心強いわね」


「でしょ──ほら」


 そして、まるで何でもないことのように、普通に差し出してきた彼女の手を見て、私は笑って自分の手を伸ばした。













 赤く染まる遠くの空。


 その前を、黒い二人分の影が楽しそうに未来の話をしながら、長い三年間を過ごした学園を背に歩き出す。


 日が沈んで、あたりが暗くなっても、ふたりの足は、この世界をしっかりと踏んで歩いていた。






 






 

連載用に書こうとちまちまこの1ヶ月頑張ってたんですが、ちょっと行き詰まりましたので、短編で少しだけでも、と


頭をスムーズに切り替えて仕事も書くのも同時並行でできればいいのに…。



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