35.キャラクター発表
「それじゃあアマツさん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
キャラクターの作成について勉強し始めてから二月ほど。今日は、ノノやサーヤの所属している『虹の館』という事務所のプライベートスペースにやってきた。ここはとあるVRライフの特殊サーバー内であり、『虹の館』という団体が自由にカスタマイズ可能なVR空間として利用している場所だ。
基本的には無料で利用できるものが多いVRライフだが、それはあくまで現実に近い建築物や町並みの中を自由に行動できる、という程度のものだ。だが、そこはVR空間である以上、物理法則を無視した建築物や壮大な宮殿を立てたり、人間が空を飛んだりできる場所に変えることもできる。それを有料のプランとしてVRライフの開発会社が提供しているのが、個人所有の可能な特殊サーバーだ。
虹の館はその中でも、最大クラスのサーバーを利用しているらしい。相当に有名な配信者やVRアイドルが数十人規模で所属しているらしいので、当然ともいえるかもしれない。
「えーと、使っていいのはこのあたりかな」
「はい。そこは自由にカスタマイズしていいらしいですよ」
「カスタマイズかあ。後ろ真っ白とかじゃだめ?」
俺が軽く言うと、ノノがくすりと笑う。
「後ろを綺麗な部屋にしてる人もいますけど、配信画面では自分の体だけ切り抜いて背景は綺麗な模様にしてる人もいるんですよ。ほら」
見せてくれた動画の中では、たしかにサーヤの背景が綺麗な水玉模様になっていた。
「真っ白にするぐらいならなにか模様をつけたほうが良いと思います」
「なるほど。そうだな、そんな感じの模様つけてみるか。ありがとう」
ノノの手を借りながら、配信できる空間を用意していく。
今日ここに来たのは、ようやく完成した俺の固定キャラクターを発表するためである。キャラクターの作成は、結局ノノに依頼して行ってもらった。彼女は様々なイラストやデザインに長けているようで、可愛らしくデフォルメされたキャラクターからリアルなキャラクターまで様々なものを描いていた。
せっかく彼女にデザインしてもらったのだから、キャラクターの発表の際には彼女に来てもらうことにした。すでに彼女とは配信も複数回一緒にやっているので、来てもらう分には問題ない。いつもは『鋼の大地』の中で集合し、そこからあのスタイルを自由に変えれるダンジョンを主として遊んでいるが、今回は俺の姿を自由に変える必要があったのでVRゲームは利用できなかった。
そこでVRライフのレンタル空間を利用しようと考えたいたのだが、せっかくならと、虹の館のサーバーを利用させてもらえることになった。本来なら外部の人間が利用することは出来ないのだが、ノノの配信の一環ということで貸してもらえたのだ。
「よし、モノローグもよし、と」
20:00から配信を始めることをMonologerで視聴者に告げる。今日新しい俺のキャラクターを発表するということは前々から言っているので、興味のある人が見に来てくれるだろう。
「緊張してますか?」
「んー、そんなに、かな。まあノノに出てもらうからそのあたりはちゃんとしないとなとは思ってるけど」
「そんな気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「気を遣うというか決まった流れがあるときはちゃんとしないといけない気がしてくるんだよな。普段は適当に好き勝手できるけど、今日は順序を忘れないようにしないとな、とか。まあなるべくいつもどおりに、だな」
ノノと言葉を交わす中で自分の気持ちを落ち着けていく。
「それじゃあ、そろそろ……」
「はい。私は呼ばれたタイミングで入ります」
「ありがとう」
情けなくも、歳下のノノの方が俺よりもしっかりしているようだ。今はそれが非常にありがたいのだが。
時間になったので、ぴったりに配信を始める。後は流れのままに突っ切るだけだ。
「はい、どうもこんにち、こんばんはか。こんばんは、アマツです。今回は前々から言っていたとおり……」
お久しぶりです。しばらく精神的にまいっていてろくに活動できていませんでした。またこちらともう一方も徐々に上げつつ、新作もやっていきたいと思います。