33.スーパーチャット
「はい、夜はちょっとだけゲームっていうかちょっと雑談っていうか相談っていうか。今日はプレイ動画じゃなくて雑談配信? っていうのをやってみます」
夕食を簡単に終えた後、いつものようにゲームを起動して配信を始める。
「今日はプレイよりも相談というか調べ物というか、まあ詳しい人がいたら教えてほしいなと思って」
だから退屈かも知れない、と見に来てくれた人に伝え、ゲーム内の宿の個室を借りて、そこに腰掛ける。どこかの店でやっても良いのだが、色々と調べ物をするわけだし共有スペースでやらないほうが良い気がしたのだ。
「簡単に言うと、俺も動画上の固定のキャラ作りたいなと思ってさ。ほら、最近だとどんな動画でも、動画作ってる人の代わりになるアバターっていうかキャラみたいなの居るだろ? 俺も、そういうのを作ろうかなと。ただデザインとか正直わからんし、誰に頼んだら良いかとか、どれぐらいかかるのかもわからないし、そもそも作ったほうが良いのかとかも相談してみたいなと思って。まあそんな感じで……」
いつもと違って視聴者の側に意見を求める声をはっきりと投げかけたことで、いつもより多くのコメントが送られてくる。
「あー待って待って、そんな一気に流されても読みきれないって。ちょっと待ってくれよ。じゃあまずは、そういうアバターを作るということ自体についてはどう思う? 一応俺としては、新しいことに挑戦するっていう意味合いも込めてデメリットが無かったら作りたいと思ってるから、ありかなしかっていうのもつけておいてくれると助かる」
そう問いかけると、ただ単純に『あり』といったコメントから、なぜあったほうが良いのか、という理由までついたコメントが送られてくる。
ざっと見てみた限り、『なし』という意見は見当たらない。メリットがあるかどうかはおいておいて、作る分には問題は無いんじゃないかという意見が多数のようだ。
「なるほど、デメリットはそんなにないんだな。あんま考えたこと無かったけど、俺自身の絵姿があると親近感を持ちやすい、んだな。声だけよりは、ってことか」
『あり』の理由の中で多く見受けられるのは、固定の姿があり、それが目に見えているかどうかで俺自身のことを好きになってくれる人が増えやすいという、いわゆる心理的効果だ。どうも声だけよりは、そういった姿があったほうが良いようなのである。
中には、固定の姿を明らかにしてくれていると、FA、聞くとこによるとファンアートという、俺への応援イラストのようなものを書きやすくなる、といった声も寄せられていた。俺は見たことは無いが、Monologer上の機能を使って俺のファンアートもいくらか書かれているらしい。
中には、歴代の俺のキャラクターを並べてかっこよく描いてくれている人もいるそうだ。後で調べてみよう。
「『これまでみたいな個性ある動画ならいらないけど、これから配信を主にしていくなら作っておいたほうが良いと思う』、か。確かに、これまでの動画のスタイルだったら俺の姿が無くても俺ってわかるからな。そういう意味もあるのか」
それは言ってしまえば、これから俺が配信を主にしていくようになれば、ノノやサーヤのように配信をしている人と同じ舞台に上がることになるわけで。その際に個性の1つとして目に見える姿があったほうが良いということのようだ。
「なるほどな。うーんならとりあえず作ってみるかな」
特にデメリットが無いようなら、新しいことへの挑戦の一環としてやってみよう。
「『正直現状でやっていけてる気がするし、わざわざ作らなくても良い気はします』。いやまあ確かにそのとおりなんだよな。今は配信をやってるけど動画は動画でまた少ししたら始めるつもりではあるし、これ以上有名になりたいとも思ってないからそこは別に良いんだけど……。ただまあ、動画投稿者っていう職業に関わらず新しいことしないと人間は腐ってしまうだろうし、せっかく知ったんだから、ってことでな」
俺がコメントの一つに対して答えると、『登録者伸びなくてもいいの?』『配信してる人ってモチベーションは何にしろ動画の視聴回数とか登録者は増えてほしいと思うんだけど』といったコメントが寄せられる。
「普通がどうかは知らんぞ。俺なんか最近まで他の人の動画も配信も全くと言っていいほど見てないし、特に最近の人のは見てなかったからな。そういう一般的な話は知らないけど、俺の場合は動画投稿は半ば趣味というか生きがいというか、そういう感じでやってるから、今ぐらいの人数見てくれる人がいれば大満足って感じだな」
特に数年前と違って金銭的な部分が満たされた現在は、趣味ややりがいといった部分が大きい。
「あー、なんていうか、俺って基本的に贅沢なんてする気が起きないんだよな。その、配信者の人の中には有名になったら高いブランド品買ったりとか良い家に住んだりとかする人もいるんだろうけど、俺は全く興味がわかないんだ。毎日しっかり飯が食えて、眠ることが出来れば良い、ぐらいにしか金の使い道が無いし、美味いものも食べたいけどそんな舌が肥えてるわけじゃないからな。ハンバーガーとか牛丼とかで十分満足できるしで、ほんとに金を使わないんだよ」
そう説明すると、『なんで急にお金の話に?』『いきなり生々しいなww』といったコメントが送られてくる。そうか、そこの部分も俺は他の人とはおそらく違うのだ。
「あー、そこも人と違うんだよな。俺が動画投稿を初めたのは、死なない程度に生きれる何かが自分の好きなことで生み出せないかなってところだから、少なくとも慎ましく生きれば一生困らないぐらいの貯金が出来た今はもうそういう面での執着も無いわけで。だから今はほんとに、楽しいっていう部分が強くてやってる感じだから、あんまり今以上に有名になったりお金を稼げるようなことは考えてないというか……。いや、違うか。やってみたいことがお金になるならそれはありがたく受け取って有効活用させてもらうけど、有名になるために、お金のために、っていうのは違うっていう感じだな」
だからまあ、今回のは、新しいことをやってみたいかなと思って。と、話を締めくくる。すると、俺が今まで利用してこなかったシステムについて尋ねるコメントが来た。
「あーそうそう。スーパーチャットがあるのは知ってるけど、別にそこで稼がなくても見てもらうだけで満足だからな、って感じだな。もしそれでもあったほうが嬉しいっていうなら用意するけど……」
動画投稿サイトの収益の獲得方法にはいくつかあって、1つは俺が普段から利用している動画への広告の貼り付けである。これによって、広告が視聴された回数に応じて利益が生じるようになっている。
そして2つ目となるのが、スーパーチャットというシステムだ。投げ銭とも言われるこれは、要するに動画投稿サイトを介してお金を払う代わりに特別なメッセージを送り、そのお金が配信者に届くというものである。簡単に言えば、好きな人にお金を送ることができるのだ。
「別に無くても良いってのもあるし、そもそも俺があんまり理解出来ない感情だからなんとなく避けてるんだ。プライベートコミュニティの方も一緒だな。そこに出すような情報なら一般向けに公開するだろうし、別に作る理由は無いな」
プライベートコミュニティというのもまた動画投稿によって収益を獲得する方法の1つだ。これは月額制の会員に入会するもので、会員となった人は代わりに特典を得られるようになっていたりする。先程のスーパーチャットが好きなタイミングでの送金なら、このプライベートコミュニティは月ごとの視聴者からのお給料と言った感じだ。
俺は後者2つは使っていない。理由は単純で、広告だけで十分に利益が出て貯金もできたから他で金を稼ごうとする意味がない、からだ。その上俺自身が視聴者だった場合にそれを利用することが全く想像出来なかったため、なんとなく避けてきたのだ。
「えーあったほうが良いのか? ほんとに?」
避けてきたのだが。コメントによると、いろいろな理由でせっかくなら作ってくれという人が多いようだ。作ること自体には全く問題はない。利用したい人が利用すればいいだけだからだ。
「まあ、作る分には特に問題は無いからそれもやっておく。スーパーチャットの方だけな。プライベートコミュニティの方は限定公開? とかの内容が全然思いつかないからしばらくなしで。まあそっちも一応考えとく。それはとりあえずおいといてだな」
と、ずれてしまった話を俺のキャラクター作成の方へと話を戻す。ある程度知らないと自分で考えるのも難しい。
「あーじゃあとりあえず公表されてる有名なキャラクターとか見てみるか」
検索タブから、他の投稿者や配信者の方のキャラクターを見てみることにする。実物を見てみれば、どれぐらいの費用で出来上がるかも想像しやすくなるだろう。
「よし、それじゃあ詳しい人は知ってる情報のコメントくれ。気になったやつから尋ねてくから」