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32.アバター

「結構遊んだね―」


 結局、ダンジョンでは3時間ほど遊んでしまった。有馬さんも神代さんも、本当は配信をしなければいけないところを時間を作って会いに来てくれたらしい。そのためこれ以上遊び続けることは出来ないようだ。

 

「今日はありがとな。2人とも」


「こちらこそ! アマツさん戦うのうまいね」


「私も楽しかったです。また、一緒に遊びましょうね」


「こちらこそよろしく。ノノとサーヤが時間が出来たときならいつでも」


 今日一日遊んだことで俺の中でも彼女らとの距離が縮まり、2人の許可を得て呼び捨てすることにした。ノノちゃん、サーヤちゃんと呼ぶことも考えたのだが、なぜかちゃん付けの方が気恥ずかしくなってしまったのだ。


「アマツさんとなら、他のゲームやっても楽しそうだけどね。そういうのはしないの?」


「遊びでやる分には考えるけど、配信はどうなんだろうな。俺の見てくれてる人はあんまりそんなの求めてない気もするし」


「って言ってるけど?」


 俺の言葉に、サーヤが俺の動画、最近では配信まで見てくれてるノノの方を尋ねるように見る。

 

「あ、えと、私はそういうのも見てみたいなって思います。多分、アマツさんが思っている以上に『アマツさんの動画スタイル』じゃなくて『アマツさん』が好きな人は多いと思いますよ」


「なるほど。まあそのうち用意してやってみる、かな。その時は俺も何かしらの決まったキャクターを使わないといけないのか?」


「その方が固定で見てくれる人が増えやすいらしいです。詳しいことはよくわからないですけど」


「アマツさん知らないの? 最近の動画って、どんな分野の動画でもとりあえず動画主さんの代わりになるキャラクターがいるんだよ。配信もVRだし、簡単なんだよ」


「なるほど。なら俺も考えてみるか。2人はその衣装のデザインとかは自分たちで考えたのか? 俺考えられる気がしないんだけど」


 2人の着ている衣装はファッション的に可愛いらしく、2人のそれぞれのイメージ、活発さと女性らしい可愛らしさを兼ね備えたサーヤと、これぞ可愛らしい女の子と言った感じのノノのイメージに合致し、それを適度に強調するような見た目をしている。自分で言うのはなんだが、俺には絵のセンスなんかかけらも無い。練習を真面目にしたことがあるわけでもないので、かなりひどい自信がある。

 

「あ、それならイラストレーターさんに依頼してデザインしてもらってるよ。私にそんなことできるわけないじゃん」


「サーヤちゃん、すごいもんね」


「いや、別にそういうわけじゃなくて! ってノノちゃんわかって言ってるでしょ」


「つまり、どういうことなんだ?」


「ちょっと絵が描ける、ぐらいじゃ私達の服のデザインは出来ないんだよ。私達の身内にそこそこうまい人とかイラストの仕事もしてる人もいてイベントとか配布用のイラスト描いてもらったりしてるけど、アバターの見た目は私達にとっては一番大事なところだからそこだけは全部外部のめちゃくちゃうまい人にお願いしてるんだよ」


「なるほど。まあ俺はそんなめちゃくちゃうまい人じゃなくても良いんだけどな。とりあえずそういうのも探してみるよ。そういうのってMonologerで検索したら見つかるか?」


「うん。それでDMで連絡して、どんな見た目とか、どれぐらいの時間をかけていいかとか、どれぐらいの値段かとか相談するの。アマツさん相場とか疎そうだから、慎重にやらないとぼったくられるよ。ていうかさ」


 助言をくれたサーヤさんが、ノノの肩をツンツンとつついて何かを促している。


「うえっ!? で、でも……」


「まあ言わないなら良いけどね」


「ううっ……」


 何かを躊躇うようなノノを俺も促す。すると恥ずかしそうにしながらも教えてくれた。

 

「あの、その、私もイラストの仕事してるんです」


「ほんとに? すごいな。俺全く絵が描けないから描ける人すごいと思うんだよな」


「な、なので、私の絵も見てみてもらえると嬉しいです」


 恥ずかしそうにノノが言うのを聞いて、彼女が俺のアバターを考えることに前向きでいてくれていることに気づく。


「わかった。あんまり絵のことがわかってないから色々勉強するのにしばらく時間がかかると思うけど、そのときはよろしく」


 俺がそう言うと、ノノは笑顔でうなずいてくれた。そして、別れの時間がやってくる。

 

「アマツさん、今日はありがとうございました」


「ばいばいアマツさん。また遊んでね」


「じゃあ、またな」


 ログアウトしていく彼女らを見送り、俺もまたログアウトする。今日は随分と遊んでしまった。いや、遊んだ。しまった、などと考えては彼女らに失礼だ。俺の中で配信が生活の一部になっているとはいえ、当然それ以外の時間をとっても良いのである。

 

「飯食ってちょっとイラストとか調べてみて、配信して……。いや、それも配信で相談してみるか。あれだけいれば詳しい人もいてくれそうだし」


 最近の俺のチャンネルの生放送は、最高で5万人ほどで安定している。その中にはノノのモノローグから来てくれた人もかなりいるわけで。そういう業界の話に詳しい人もいるのではないだろうか。もしそれでわからなかったら改めて自分で調べてみればいい。

 

「よし、そうしよう。それじゃあまずは飯だな。確か鶏肉があったから……」

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