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18.花の迷宮

「よーし今日も、やろうかな」


 朝食と朝の運動を終え、いつもどおり配信できる準備をする。その際、先日視聴者から言われたとおりに『今日は午前九時あたりから配信をやります』というモノローグをしておく。

 

 俺からしてみれば、動画投稿サイトを見ていれば俺が配信を始めたことぐらいわかるだろうと思っていたのだが、どうやらSNSで発信した方が気づきやすいらしい。

 

 動画投稿サイトを常に監視している人はいなくても、SNSの通知なら気づくことが出来るということだろうか。ひとまずアカウントは昨日プロフィールや名前を整えて見つけやすくなっているので、その効果に期待しておくことにする。

 

「んーで、有馬さんの返信は……」


 返信を返してくれているのに無視してしまうと申し訳ないので、一応先日お礼を送っていたモノローグを確認する。

 

「うん、来てないな。まあ規模が違うしそんなものか」


 他のフォロワーにも反応していないようだし、俺にだけ反応するということもないだろう。

 


******



 ログインしてキャラクターを選択し、いつもどおり配信を動かし始める。するとすぐに人が集まってきた。先日からコメントを見ていると、『仕事前にちょっとだけ来ました』という人や『昼休憩にだけ』という人もいるようだった。空いている時間にわざわざ俺の動画を見に来てくれているのだ。感謝しか無い。

 

「はい、じゃあ今日もいつもどおりやっていきます。えーと今日はカメラは……豆チン○くんと黒夜叉くんにお願いしようかな。で、二日酔いさんは出来たらコメントの管理お願いします。それと豆チン○くん、そこがコからポに変わった所で声に出せないからね。もうちょっと読みやすい名前にしといてくれ」


 いつもどおり遊び始める前に、先日色々と勧めてくれたお礼を改めて述べておく。

 

「昨日は皆色々とありがとう。まずは今日からプラモデルを作ってみようと思ってる。色々ネットで調べたりしながらね。ただ最初に断っておきたいんだけど」


 昨日寝る前に考えたことを、ちゃんと説明しておくことにする。

 

「俺は今までずっとしたことを全部動画にしてきたのよ。失敗したことも成功したこともね。だから、多分今から趣味を新しく増やしても、それもとりあえず動画にしようかな、ってなると思う。その作ってる段階を撮っておいて後で動画にしたりとか、本とかアニメを見て後で感想をまとめたりとかね。あくまで『やりたくてやったことをとりあえずまとめる』っていう形を取るから、あんまり心配しないでくれよ。もう職業病みたいなものだからさ」


 『投稿者の鑑だな』『ストイックだなあ。もう少し休んでもいいと思いますけど』『気疲れしないなら良いと思いますけど……無理はしないでくださいよ』といったコメントが送られてくる。

 

「まあとりあえず色々やってみながら考えるよ」


 実際、俺にとっては動画のため以外に何かをするのは久しぶりのことなのだ。子供の頃はしていたと思うのだが、あまり思い出せない。

 

「じゃあとりあえず、今日は花の迷宮って所に行ってみたいと思います。多分ダンジョンだよな? まあこの周りにはモンスターがいないみたいだし、ダンジョンにいるんだろうなと思ってるけど」


 後は村から更に奥にいくとモンスターが出現するくらいだろうか。これだけ綺麗な花畑だから、あえてモンスターを配置せずに風景を楽しめる場所を用意したのだろう。

 

 実際、俺が主にゲームをしている昼間はあまり人がいないが、他のプレイヤーが多くログインしてくる夕方から夜間になると、花畑をただ見に来ている、といった様子の人が多いように感じた。

 

「まあとりあえず行ってみようかね」


 NPCから聞いた場所へと向かう。一〇分程度歩くと、花の迷宮の場所へとついた。膝から高くても腰辺りの花畑の中に、一箇所だけ植物の蔓で出来たアーチが立っている。高さは三メートル程度、アーチにもところどころに花の蕾が見える。

 

 ガブちゃんは俺には見えない何かを警戒しているようで、腰が妙にひけている。

 

「これだな」


 周りにモンスターの気配は無いので、警戒するガブちゃんの背中を撫でてなだめながら近づく。すると、ある程度近づいた所で体が勝手に動き始めた。

 

 このゲームでは、イベントムービーが入るときにはプレイヤーは自由に動けなくなり、システムに定められた動きを取るようになる。わずかに動く視界を下に向けると、先程までいたガブちゃんもいなくなっている。

 

 俺の足が蔓のアーチに向かい、目の前まで来た所でゆっくりと手を伸ばす。すると、シャーン、と高い音が響いた後、アーチについていた蕾が一斉に開き始めた。

 

 それを見た俺が一歩後ずさる中、満開になった大輪の白い花は光を放ち始め、それに合わせて風が吹き始める。背中の側から吹いていた風は次第に強くなり、俺の後方から大量の花びらを運んできた。

 

 飛んできた花びらは、俺の周囲を渦を巻くように飛んだ後、花のアーチの中へと全て吸い込まれるように消える。そして花を吸い込んだ後のアーチは、先程までの向こう側が普通に見えていた状態とは違い、光が溜まって向こう側が見えない状態になっている。

 

(光の扉、か)


 声の出ない俺が心の中で呟いた直後、イベントムービーに動かされた俺の体は花びらを追うように光の扉に飛び込んだ。

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