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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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令嬢ブレンダ

貴族の令嬢に扮したエレナとブレンダは、廊下の端を門に向かって歩いていた。

すれ違う人がこちらを見ているのが分かる。

エレナは令嬢の服になってもエレナだし、二人の後ろにエレナの護衛がくっついているので、注目を浴びているのは自分しかいない。

見慣れない人間が王宮内にいるのだから当然だ。

時々、自分のことをエレナの護衛を呼び止めて確認しているのも耳に入ってくるが、エレナと一緒に歩いているのがブレンダだと聞くと、やはり皆、驚く。

そこまでが一連のやり取りである。

近衛騎士は諜報もするのでこういう話もしっかりと聞き取れる耳を持っているのだ。

もちろん近衛騎士が引きとめられていようが振り返ることはしない。

最優先はエレナの護衛ということはよく理解しているつもりである。



ブレンダが何度も引きとめられている近衛騎士に対して仕方がないと思いながらも、複雑な表情でエレナの横を歩いていると、偶然執務室から出てきたクリスと出くわした。

エレナは嬉しそうに兄のところに駆け寄っていく。


「あ、お兄様!」

「エレナ、こんなところにどうしたの?」


駆け寄ってきたエレナに小首を傾げてクリスが尋ねると、エレナは嬉しそうに報告した。


「これから二人でお出かけするの!お忍びで街を歩くのは初めてだから楽しみで仕方がないわ!」


そう言ってブレンダに見せたのと同じように、その場でくるっと回ってコーディネートを見せている。


「うん。よく似合ってるよ。侍女たちがそれっぽく見えるように頑張ってくれたんだね」

「ええ!この服は動きやすいしかわいくてとても気に入っているわ!それにブレンダとおそろいなのよ!」


そう言ってエレナは少し離れたところにいたブレンダのところに移動する。

ブレンダはしっかりとエレナを受け止めてから、少し気まずそうにクリスの方を見た。

クリスはいつもと変わらぬ様子で、ブレンダに笑顔で言った。


「そっか。これから出かけるんだよね。ブレンダ、エレナのことお願いね」

「はい、かしこまりました」


いつも通りブレンダは返事をする。

しかし我に返って少し戸惑ったように言った。


「……あの」

「どうしたの?」


クリスは珍しく話を切り出しにくそうにしているブレンダに不思議そうに聞き返した。


「私のこの格好を、何とも思われないのですか?」


クリスのあまりにも普通の反応に、ブレンダは思わず尋ねた。


「とてもよく似合っていると思うよ。貴族の美人姉妹には見えると思うし、特に違和感はないんじゃないかな?ブレンダは帯剣してないと不安かもしれないけど、護衛騎士も離れたとこにつけるし、問題ないと思ってるけど、何か不安なの?」


クリスが小首を傾げると、ブレンダは少し俯いた。


「いえ、周りは皆、似つかわしくないと驚くので……」


ブレンダは何となくクリスにこの姿を見られたことを恥ずかしく感じていた。

騎士として対面している時は普通に話せるが、服装の影響からか令嬢の姿では話しにくい。

ずっと部屋を出てから浴び続けている周囲の目がブレンダを委縮させてしまっているのだ。

クリスはそんなブレンダに言った。


「似つかわしくないということはないと思うよ?騎士になる前は普通にドレスで夜会に出て挨拶に来てくれていたんだし、そもそもブレンダは貴族のご令嬢なんだから……」

「ご挨拶を覚えていらっしゃるのですか?」


ブレンダが令嬢としてクリスの参加するお茶会や夜会に出たのは数回だ。

すぐに騎士団に入団したため、その数回以降は外の警備や護衛などで不参加、もしくは騎士姿でしか会場にはいなかったはずである。

ブレンダの驚く横で、エレナが普通に答えた。


「お兄様は出会った方の顔と名前は全て覚えているわ。私は全員覚えることができていないのだけれど……」


もしかして自分もブレンダの令嬢としての姿を見たことがあったのではないかとエレナは不安に思いながらじっとブレンダを見上げた。

騎士の姿しか知らないエレナの目に、ブレンダの今の姿は斬新なものに映っていた。

そしていつもとは違う美人なブレンダもエレナは気に入っている。

自分の見立ては間違っていなかったと、完成した姿を見て思ったのだ。


「そうですか……」


ブレンダはクリスがまさか自分の令嬢時代を覚えているとは思わず困惑していた。

次期国王は恐ろしい記憶力の持ち主である。


「確かに騎士の時のブレンダと印象は違うから、知らなければ驚くかもしれないね。僕からすれば、久々に令嬢としてのブレンダを見たという感じだけど……」

「……」


黙りこんでしまったブレンダから、今度はエレナに視線を移してクリスが言った。


「あと、エレナはまだ夜会に出ていないから、令嬢としてのブレンダを見たことはないのは仕方ないよ。騎士になってからは警備についてくれていたからね。僕とエレナが一緒に参加したお茶会にもいなかったはずだし」


クリスの言葉を聞いても、まだエレナは不安そうにブレンダを見上げている。


「そうなの?」


エレナにじっと見上げられていることに気がついて、ブレンダは肯定した。


「はい……」

「忘れていたのではなくてよかったわ」


そう言ってエレナは嬉しそうに一度離したブレンダの腕に再びしがみついた。


「エレナ様?」

「今日のブレンダは私のお姉様だもの」


ブレンダの腕に抱きついたままエレナはブレンダを見上げた。


「エレナ、ブレンダとはぐれないようにするんだよ?」


クリスがエレナの頭を撫でながらそう言うと、エレナはブレンダにしがみついている手に力を込めた。


「こうやってくっついているわ。そしたらはぐれないでしょう?」


腕にぶら下がらんばかりのエレナに、ブレンダは言った。


「そうですね。でもそれでは動きにくいですから、手を繋いで歩くようにしましょう」

「はい、お姉様!」


腕から離れたエレナは両手でブレンダの手を握った。

そしてその場でクリスは二人を笑顔で見送る。


「気を付けて、楽しんでおいで」

「はい。行ってまいります」


エレナはそう答えると、ブレンダの手を引っ張って外に向かって歩き出した。


「いってらっしゃい」


クリスはそう言って二人に向かって笑顔で手を振った。

手を引っ張られながらブレンダは振り返ってクリスに頭を下げると、クリスは笑顔でうなずいた。

そして外に向かっていく二人が少し離れた場所まで進んだことを確認すると、二人に背を向けて本来の用事に戻っていくのだった。

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