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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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仮縫いのドレス

ブレンダが実家に滞在している間もエレナのすることは変わらない。

ブレンダの母親は、家のことをするため一時不参加になっているが、式典の話が進められている。

本人不在の間はブレンダの話よりエレナとケインの話がメインだ。

どうしてもクリスの方が立場が上なので、その話になりがちだが、エレナたちのこともきちんとしなければならない。

もちろんケインの母親はそのあたりの状況を理解しているので何も言わなかったし、自分たちは受け入れる側だからとそちらの準備に勤しんでくれていた。



ブレンダの帰国の翌日、朝食後にエレナが部屋で待機していると、母親から連絡が来た。

それを受けて所定の場所に向かうと、そこには母親だけではなく、ケインの母親がすでに到着していた。


「エレナ、来たわね」

「ええ。お母様、参りました。おばさまもようこそ」


エレナの姿を見て立ち上がったケインの母親にエレナが挨拶の言葉をかけると、彼女はきれいに礼を返した。

互いの挨拶が終わったのを見計らって、王妃がすぐに言う。


「こうして気軽に話せる場は久しぶりね。二人とも楽にしてちょうだい」

「ええ。そうできたら嬉しいわ」

「私も、お言葉に甘えますね」


そう言うとケインの母親は着席し、エレナも用意されていた席に着いた。


「今日からプレンダはご実家なのよね」

「ええ、ですから、今日は三人だけよ」


ブレンダが実家に戻っているのに話兄のために母親だけを呼び出すのは矛盾している。

それでは何のためにプレンダを里帰りさせたのかわからなくなってしまうので、プレンダが向こうにいる間は実家から出ず、家族で過ごすよう伝えてあるのだという。

だから人が来ることを気にすることはないわと王妃が言うと、二人は少し力を抜いた。


「そうだわ。エレナのドレスはまだ仮縫いなの。今日は刺繍のデザインを考える参考に持ち込ませてあるけれど、工房に持ち帰らせてしまうから、明日からはここに置けないの。大丈夫かしら?」

「ええ、ドレスの形を覚えておけばいいだけだもの。問題ないわ。それでドレスは……」


エレナが呼ばれたのは他でもない。

ドレスに刺繍をするためだ。

さすがに実物を見ていない状態で図案を決めることは難しいし、そもそもどこに何を刺すのか決められない。

だから今日は図案を考えるためにドレスを見せてもらえることは分かっていた。

なのでてっきり目に付くところに置かれているかと思ったけれど、見当たらない。

エレナが部屋を見回していると、王妃が合図を出した。

すると部屋の奥のドアが開かれた。

そしてそこにはトルソーに着せられた真っ白なドレスが飾られている。


「あれよ」


王妃がドアの向こうを指すと、エレナは思わず立ち上がってドレスに駆け寄った。

そしてドレスを崩さないよう、近づきすぎないよう気を付けながら、トルソーの周りを一回りして、感嘆の声を上げた。


「まあ。本当に素晴らしいわ。これだけでも充分華やかだけれど」


ドレスに刺繍はされていないが、レースがたくさんあしらわれている。

白一色だが、レースがよいアクセントになっていて、ふんわりとしていながらも品の良いドレスになっている。

仮縫いというが、修正など必要ない。

このまま本縫いに入って問題ないだろう。

そう思うのと同時に、エレナはこれのどこに刺繍をするのだろうかと首を傾げた。

下手なものを刺したらせっかくのドレスが台無しになってしまいそうだ。

エレナがその疑問を素直に伝えると、母親はエレナの隣に立って、アドバイスを送る。


「ここにアクセサリーも身に着けるから、普通であればそれだけでも充分だけれど、でもアクセサリーでごまかしていると言われても困るでしょう。だから胸元や、裾に刺繍を施そうと思ったのだけれど、せっかくだからエレナに腕を存分に振るってもらって、刺繍は自分のデザインだとアピールしてもらおうと思うのよ。エレナも好きなデザインを身に着けられるし、見た人に実物を見せつけることができるでしょう。最近は孤児院のことや事件のことがあったし、大判のハンカチのデザイン以降、特にその才能を周囲に見せる機会がなかったから、ちょうどいいと思うの」


エレナの新作というだけで、皆が注目するのは間違いない。

もし今回のデザインが流行するようになれば、降嫁して社交界に出る際の一助になるはずだ。


「才能があるかはわからないけれど、晴れの舞台で自分が決めたデザインのものを見に着けられるというのは、とても魅力的な話だわ」

「そう思ってもらえるならよかったわ。ハンカチより明らかに大きいから、時間はかかるでしょうけれど、エレナならやり遂げられると思うわ」


エレナはとにかく黙々と作業をする者に強い。

刺繍のスピードも技術も職人並みかそれ以上ということは世間的にも有名な話だ。

そしてそれを目の当たりにしたことのある身内なら誰もが理解できるのは、この程度の量の刺繍なら、エレナが完成できないわけがないということだ。

だから当日に間に合わないという心配はない。

下手な職人に頼むより信用できるくらいだ。


「もちろんよ。楽しみだから進みも早いと思うわ」


腕はともかく、間に合わないことはないし、自分で自由にしていいのなら、間に合うよう途中でデザインを変更してもいいということだ。

そんなことにはならないよう全力で挑むつもりだが、自由にしていいのなら何も問題はない。


「じゃあさっそく、浮かんだことを描いておくといいわ」

「そうね。描きとめておいて、どれを使うかは後で決めればいいのよね」


使わなかったもので、気に入ったものは、ハンカチにでも刺して残しておけばいい。

そうでなくても描いたものは残るのだ。

今後別のデザインを考える時の参考にすることもできるのだから、アイデアが多く出てきたところで、無駄にならないはずだ。

エレナは母親に促されてテーブルに戻ると、早速ペンを片手に紙へと向かい始めた。

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