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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お土産の試食と炊飯

細く裂いて火を通された鶏肉を目の前に、エレナはもらった一つの果肉をつぶして皿に盛った。


「とても塩が強いの。ひとさじでも一度で口に入れるのは多いくらいだから、その覚悟で口に入れてみてちょうだい」


エレナがそう言うと、騎士が念のためとその場で毒見する。

騎士がその塩辛さと酸っぱさに顔をしかめたので、エレナが水を差し出すと、申し訳なさそうにそれを飲んだ。


「失礼いたしました。前にもいただいたことがあるのですが、より強い味わいで」


割いた鶏肉に盛るには多かっただけで、特に問題があったわけではないと伝えると、調理場の皆がそれらに手を付けた。

そして表情が最初に食べた騎士と似たようなものになる。

しかしそこは多くの食材を口にしている彼らだ。

それらをじっくりと咀嚼し、味の感想を口にしている。


「確かにこれは、なかなか刺激の強い味と香りですな」

「調味料の一つと考えて使うのはありでしょう」

「今回は茹でましたが焼いた鶏にも合うかもしれません」


出てきた感想を聞く限り、手ごたえがありそうだ。

エレナは満足そうに自分もそれらに手を出した。



そうしているうちに米の浸水は進み、それらの感触を皆が確認したところで、再びエレナによるレクチャーが再開した。


「この後は蓋をしたまま弱火にしばらくかけるの。これ以降、吹きこぼれても完成の時間まで蓋を取ってはいけないと言われたわ。見えない中で引か剣を調整するのは難しいと思うのだけれど、わからなければずっと弱火で長くかけておけばいいそうよ」


つまりまたここで弱火にかけて同じくらいの時間、火の番以外することなく待つことになる。

エレナのここまでの説明を受けて、調理長が言った。


「なかなか特殊な調理法ですね」

「ええ。だから煮るのではなく炊くという別の言葉があるのかもしれないわ。これは彼の国ではパンを焼くのと似たようなもので、子供でも、どの家庭でも、騎士団でも皆が調理法を知っているものなのだそうよ」


これができなければ主食にありつけない。

そうなれば老若男女覚えるしかないということだろう。


「パンも発酵させて待つ時間と焼く時間がありますから、発酵させている時間がこの水に付けている時間、焼く時間を火にかける時間と考えれば、似たようなものでしょう。このような空き時間のできることが分かっているのなら、その時間で別のものを調理したり、片付けをしたりもできますからね」


とりあえずこのまましばらく置くということで火の番をしているもの以外が動き出した。

洗えるものは洗って、次の調理のために調理台を開けるため動いている。

エレナと料理長はその中で会話を続ける。


「違いは、米を炊いたものはパンのように日持ちがしないという点ね。パンは乾燥した状態ならすぐ食べられる状態で持ち歩くことができるけれど、食べられる状態にしたお米は水分が多いから腐ってしまうということよ。冬でも翌日くらいまでにした方がいいということだったわ。だから形を作って持ち歩くことはできるものなのだけれど、数日かかる行程では持って帰ってくることができなかったの。だから騎士団の遠征などでも基本的には調理前のものを持ち歩いているのだそうよ」


エレナが彼の国の調理場で教わった内容を共有している間も、料理長はちらちらと鍋の方を見ていた。

たまに吹きこぼれるような音がするので気になるのだろう。

ただ最初にエレナが注意したので、その音に困惑しながら、誰も蓋を開けようとはしない。

ただそのたびに不安そうな顔をしている。

実はエレナもその音を聞いたら普段ならすぐに蓋を開けてしまったと思う。

だから彼らの気持ちはよくわかるのだが、そこは炊くという作業を成功させるため我慢が必要だ。


「もしかしたら、鍋の高さに余裕を持たせた方がいいのかもしれませんね」


料理長はつぶやいた。

確かにそうすれば少なくとも吹きこぼれの心配はない。

調理の際、米と水の割合などは最適なものがあると言っていたけれど、鍋の深さについては言及されなかった。

それはどんな鍋でも作ることができるからというのが理由だろうが、よく考えたらあの釜と呼ばれる米を炊くのに使っていたものも随分と大きく、深いものだった。

あれは大人数の分を作るからあの大きさかと思っていたけれど、それだけではないのかもしれない。

料理長の視点を聞いたエレナが感心していると、徐々に鍋の方から嗅いだことのある匂いが漂ってきた。

そして吹きこぼれの音もいつの間にかしなくなったので、おそらく水分が飛びきったのだろう。

時間は火の番をしている料理人が見てくれているので任せているが、どうやらもう少しで時間になるらしい。

慣れない匂いで他の料理人たちも気が付いたようだ。

手を動かしながら鍋の方を気にかけている。

そうしているうちに時間になり、鍋は火からおろされた。

後は余熱で蒸らせばいい。

エレナがそう言うと、火の番を担当した料理人が鍋を調理台の敷物の上に移した。



そこから数分置いたところで、いよいよ蓋を取る瞬間が来た。

これまでは彼の国の料理人や殿下がこのくらいだろうと言って、感覚で蓋を取って見事に完成させていたが、エレナだけで作ったのは初めてだ。

向こうのレシピ通り作ったし、多少時間や分量が違ってもさほど問題はないと皆が言っていた。


「緊張するわね」


エレナが思わずつぶやくと、料理長が笑った。


「これまで米をよりよく食べる研究をするため、食べにくいものも口にしてきました。ですがこれは今までと明らかに違うものですから、きっと成功しているでしょう」


見ていないが匂いでわかる、失敗したとしても問題ないと言われたエレナは、思い切って蓋を開けた。

蓋を開けると前に釜を開けた時と似た匂いが調理場に広がった。

そして湯気が落ち着くと、米はちゃんと炊けたようで、白く艶のある状態で平らになっている。

後は食べて芯が残っていないかなのだが、こればかりは食べてみないとわからない。

とりあえず蓋を取った状態を料理人の皆が物珍しげに見ている。


「これで完成した、と思うわ。あとはきちんと仲間で柔らかくなっていれば成功なのだけれど……」


エレナがそう言うと、一人の騎士が先に一口貰いますと手を上げる。

自分はあちらで食したので味の違いも分かると思うという。


「小皿にこれを入れるからそれをお願いできる?」

「かしこまりました」


エレナが言うと、一人がスプーンと小皿を持ってきた。

ここにはしゃもじのような専用の道具はないので、とりあえず代用したものだ。

小皿に盛られたお米はそこからもしっかりと湯気を立てている。


「では失礼します」


彼が口にして咀嚼するのをじっと見ながら、エレナは彼の言葉を待つのだった。

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