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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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レクチャーとお土産

調理場で約束をした翌日、分量を書いたレシピを片手にエレナが調理場を訪ねていた。

時間については決めていなかったし、先ぶれもなかったが、エレナは調理場の状況をよく理解しているし、調理場もエレナがどの時間を見計らってくるのか概ね理解していたのでそのための準備を整えて待っていた。

それを見たエレナは早速米のある調理台に寄っていくと説明を始めた。


「始めるのだけれど、まずかなり時間がかかるわ。炊くという作業だけで一時間は必要になると思うのだけれど、いいかしら」


火にかけている時間は半時間程度だが、洗って浸しておく時間を考慮するとそのくらいになる。

間が空いてしまうが、洗うのも浸すのも火にかけるのも一連の工程なのだから省略するわけにはいかない。

それを見越して一時間と伝えたのだが、料理長は問題ないとうなずいた。


「問題ありません。次の食事の用意で火を使うまでは時間がありますし、使っていたところから起こせば準備の手間も省けますから」

「わかったわ」


一度消化してから再び起こし直すより、使った火をそのまま使えた方が無駄がない。

そういう意味では一時間より後ろ倒しになっても問題ないだろう。

エレナはそんなことを考えながら準備された道具を見る。

米は袋に入ったまま、それ以外に一通りの調理器具はいつもの位置に置かれている。

とりあえずエレナは分量の書かれた紙を共有し、それを見せながらカップを手に米をボウルに入れた。


「さすがに一人で初めて挑戦するのに大量に使うのは怖いから、少量にしましょう。蓋のできる片手鍋を使うことにするわ。そこに八割くらいの量で完成することを目標に作ってみるわね」

「ではこちらを」


片手鍋という言葉を聞いて一人がすかさず鍋を出す。

しかしエレナはその前にやることがあると説明を始めた。


「私たちが調理をする時、前はいきなり鍋に入れていたけれど、まずは洗ってつけておくことが必要ということだったわ」

「これを洗うのですか。ザルは」


ボウルに米を入れたエレナに、洗いやすいようにと網目の細かいザルを用意すると、エレナは困ったような顔をした。


「使っていなかったわね。硬いものがぶつかるとお米が割れてしまうから使わないと言っていたわ。彼らは慣れているからお釜という炊くための容器の中で直接洗っていたのだけれど、落とさないようにするのに使うのは問題ないと思うの。あと、この量を作るならお鍋を使うことになるけれど、お鍋だと浅いから、洗う時だけ水のたくさん入るボウルを使って、洗い終わったら移すことで対応するわね」


せっかく用意してくれたものというのもあるが、エレナ自身も米を洗うことに慣れているわけではない。

洗ったものを誤って零してしまうこともあるかもしれないので慎重に作業した方がいいだろう。

彼らは使っていなかったと説明しつつ、自分は使わせてもらうと言うと、エレナはザルを受け取った。

基本を教えると言いながら随分とやり方を変えてしまっているが、うまくできない場合、補助具を使うのは普通だ。

レシピは複写して持ってきているので、基本に忠実に再現したいのなら、これをそのまま調理場に預けていくので時間のある時に再現してくれたらいい。



調理場は次の支度が後ろに控えているので、その前までに子のレクチャーを終わらせなければならない。

まずは効率化を優先するとエレナは伝えて次に進むことにした。


「こうして手で洗う、あちらではたしか、研ぐという言葉を使っていたわ。こうして洗うと白く濁るでしょう。これを何度角繰り返すの。完全に透明にはならないけれど半透明になるまで洗うわね」


ボウルに移した米に水を足し、そこに手を突っ込んで米を洗う。

その動作を料理人たちはしっかりと観察する。

何度か水を変えて手で混ぜていき、水の色が透けてきたところでエレナは水の分量を伝えて、次の工程を説明した。


「それから、このお米の高さの少し上のところまで水を入れて、しばらくこのままね。半時間くらいは置いておいた方がいいそうよ」


ここで時間を使うがそうしなければうまくいかない。

水の量を調整すればそのまま火にかけてもいいようだけれど、それではこれまで煮込んできて失敗したのと変わらないし、より成功率の高い正しい作り方を教えるのがエレナの役割だ。

そのため誇りが入らないよう米と水を入れた鍋に蓋をして火のついていないコンロの上にそれを置いて手を離すと、一人がつぶやいた。


「すぐに煮込むのではなく柔らかくしてからということですね」


豆の中にもそういう調理をするものはあった。

米は煮込むものという概念があったので長く火にかけておけば柔らかくなるだろうと思っていたが、事前にした処理をすれば何時間も火の前に張り付く必要はないらしい。

彼らが必死に学んでいるところにエレナが不思議に思っていることを伝えた。


「私もそうだと思ったのだけれど、この後の炊くという作業をしないと水は吸うけれど、柔らかくはならないのよ。不思議よね。とりあえず置いた後の、炊く前の米を皆が一度触ってみるといいわ。硬いままなのにこの水嵩がすごく減っていて驚くわよ」


とりあえず火にかける前に一度皆に触ってみるといいと伝えると料理長をはじめ皆の表情が緩んだ。



「お待ちになっている間はどういたしますか?」


半時間というと結構長い時間になる。

そこでエレナはもう一つ持ち込んでいたものを出した。


「好みがとても分かれると思うのだけれど、実は少しだけあちらからいただいた食べ物のお土産があるの」


そこには何かの実がシワを深くした状態で数粒入っている。


「珍味でしょうか?」


料理長が言うと、エレナは首を傾げつつも肯定した。


「そういう感じね。このお米の炊いたもので包んで一緒に食べたり、器に入れたお米と一緒に交互に食べたりすることが多いけれど、お肉やお野菜のアクセントにもいいし、塩分を強くしてあるものだから、年単位で長持ちするという保存食のようなものと聞いたの。せっかくだからできたお米と一緒に食べてみようと思っていただいたのよ」


ここでは使わないがそういう食材に心当たりがある。

おそらくその一つだろうとあたりを付けた料理長が話を聞いてうなずいた。


「なるほど、実を長期間塩漬けにしたものですね。これは確かに保存食と言えます」


少なくとも塩や砂糖を大量に使って水分を抜いたものの大半は保存食だ。

彼の国は食料難になったり、戦地で長く生活する人間が多いから必然的にそういったものが発達したのだろう。


「残っている塩は使わなくていいそうだけれど、こちらにも味はうつっているようなの。果肉は塩が強くて酸っぱい感じだから、鶏肉をさっぱりとさせたり、風味を変えるのにも使えると思うわ。でも独特な味だから、好みが分かれると思うの。だから厨房で味見する分くらいしかいただいてないわ。あちらの食文化が広まった時に使えるよう準備しておくのもいいと思うのだけれど、お米を炊く前に何か別の食材と一緒に試してみない?」


また殿下は来るだろうし、これらを取り入れた料理を披露してもいい。

意見を聞ければ改良もできるだろうとエレナが言うと、その間に一人が肉の塊を取り出して盛ってきた。


「鶏肉なら、細かくすればすぐに火は通るんじゃないですか?まだこれを乗せないとはいえ、この後火を起こすんでしたら先に使っても無駄にはなりませんよね?」


切ってお湯にくぐらせるだけでいいだろうしと一人が提案すると料理長が許可を出す。


「そうだな。それで少しいただいてみよう。エレナ様もそれでよろしいでしょうか?」

「ええ。そうしましょう!」


エレナがそう答えると、これまで見ているか記録をしていただけの料理人が一斉に動き出す。

そしてあっという間に細く裂かれた鶏が火の通された状態でエレナの前に出されたのだった。

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