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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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型通りの振り

訓練場内を歩いて人の少ないところまで移動すると、この辺でいいだろうと殿下が立ち止まった。


「私はエレナ殿下を見る。クリス殿下は参加しないようだからこちらでいいだろう。騎士の二人はここで問題ないか?」


移動したことで少し広く場所を取れそうだが、もともと人が多いためここが限界のようだ。

周囲を見回し他に良い場所がなさそうなことを確認して、ブレンダとケインが顔を見合わせる。

そしてブレンダが口を開いた。


「一人ずつお相手いただければ問題ないかと思います。二人同時では場所も取りますし、確認広がってしまいますので護衛が面倒ですから」


それを受けてクリスがすぐ、騎士たちへと指示を出す。


「そうだね。皆、プレンダの言う通りにしてくれるかな」

「はっ!」


クリスの言葉を受けて、同行している護衛たちはブレンダたちが動きやすいよう空間を開け、他の元たちが侵入できない程度に広がって位置についた。

配置の確認を終えた騎士団長はクリスとエレナの側に移動する。

殿下はそれを見て、エレナの指導を行う場所を決めた。


「では、我々は壁側によって、内側が見える位置で見せてもらうとしよう。エレナ殿下が気になるなら、手を止めて模擬戦の観戦としてもいいだろう」


彼らが模擬戦をしている間、ずっと基礎の確認を行う必要はない。

良い戦いをしていればそれを見るのも勉強だ。

殿下が言うとそれでもとエレナは言った。


「そうね。でもせっかくだから殿下に私の成果を評価してもらいたいと思うわ。途中で止めるのはいいけれど最初からやらないなんてもったいないもの」


騎士団長に見てもらうことはこれまでもあった。

確かに騎士団長はとても優秀だが、それ以外の人に学ぶ機会はほとんどなかった。

図らずも前に庭で教えてもらったことがあるが、殿下の説明はわかりやすかったし、違うアプローチを知ることができて楽しかった。

だからこの機会を逃すつもりはない。

エレナが喰らいつくと殿下はうなずいた。


「そうか。では早速やってみてもらえるか」

「わかったわ」


エレナは殿下やクリスと距離を空けると、無言で客席のある壁に背を向けて立った。

そして両手で構えて振り上げると、まっすぐ振り下ろして、地面を叩かない位置で止めた。

体力測定ではこれを何度も繰り返すので、二度目をと振り上げたところで、殿下が止める。


「型は崩れていないようだな。むしろ手本のような動きだ」


適当な訓練をしたり、訓練を怠ると崩れてくるものだがエレナにはそれがない。

本当に基本に忠実に同じ動作を繰り返してきたのだろう。

動きがスムーズになっているし、これだけでまじめに取り組んできたことがわかる。


「振り下ろす筋力はむしろ前より上がっているように見えるな。しかしやはりその剣を振るうのは実用的ではなさそうだ。そもそも、それを使って訓練を行っていたのは違う理由からではないのか?」


殿下がそう言うと、エレナは首を傾げた。


「確かに緊急時で咄嗟なら手にするかもしれないけれど、持ち歩いてと言われると違うように思うわ。それに型は教えてもらえたけれど、実践で使えるような動きは何も教わっていないの。まだ振る力が足りないからだとは思うのだけれど……」


いざ緊急事態が起きた時、一番手に入りやすい武器はおそらく剣だろう。

皆が帯剣しているし、複数を所持しているなら彼らから借りることもできる。

弓などは弓と矢がセットでなければ使えないし、片方だけでは使い道がない。

護身術は接近されて逃げられなくなった際の最終手段と言われているから、消去法ではとエレナが答えると、騎士団長が首を横に振った。


「いえ、それは、バランスよく筋肉を鍛えるためにそうしているだけです。必要な筋肉に正しく負荷をかけることを重点としているためなので、戦闘のためではありません」


戦う術を教えるつもりは今のところない。

だからきれいな型を、正しくできるよう、繰り返しやらせている。

そう言う騎士団長の言葉に殿下はうなずいた。


「やはりそうか」


エレナの動きはとても型通りで美しいが、それだけだ。

本当に実践に使いたいのなら、多少崩れてももっと動けるように別の動作を加えながら訓練をするはずなのに、エレナの動きにそれがない。

だから戦うことを教えていないのだなと殿下はすぐに見抜いたのだ。

ここで自分に教えを乞うエレナに、騎士団長やクリスの方針に背く形になっても、実戦的なことを教えていいものかと様子を伺う。

騎士団長はともかく、クリスとの関係はなんだかんだで壊したくない。

彼らと友好関係でいるためのかなめだからだ。

殿下がクリスの方を見れば、クリスは微笑んでいる。

そこから察せられるのは余計なことはするなという圧だ。

クリスがエレナに対して過保護なのは知っているし、騎士団長はそんなクリスの意図を反映した訓練をしているはずだ。

そう考えた殿下は騎士団長の話を聞くことにした。


「ですが基礎は変わりません。それが身についていれば武器が変わっても扱えると私は考えております」


エレナ本人ではないが、まず戦いに必要な最小限の筋力が足りない。

もちろん剣を使わず筋力を鍛える方法はある。

けれど剣を振るという動作は、持ち上げるだけでエレナにとって負荷がかかっている状態なら、その基本動作を忠実に行う方が、バランスよく鍛えることができる。

そもそも普通の筋力トレーニングですら飽きずに淡々と集中して繰り返してしまうエレナだ。

その特性を生かすなら、剣の重さを調整して振らせておいた方がいい。

腹筋や背筋は体に目立つ形で筋肉がついてしまい、王妃が苦言を呈していた。

けれど剣を振る動作で筋力をつけるのなら、剣を重くしすぎなければその筋力を維持するだけに留めることができる。

形を正確に覚えてくれていれば、その先、本当に使い方や戦い方を教える際にも役に立つ。

全ての周囲の意見を加味した結果がこれなのだ。



皆まで語らずとも半分くらいは察したのだろう。


「さすが騎士団長、意見が合いそうだな」


殿下は笑いながら騎士団長の肩を叩く。

顔を合わせる機会を重ねたこともあり、すっかり気安くなったようで、その光景だけ見れば、上司が部下に、仕事が終わったら酒でも飲みに行こうと誘っているようにも見える。

もちろんそんな気やすい関係ではないので、騎士団長は笑みを浮かべて返事をしながら、エレナと、二人の騎士の方に目を向けることで、殿下から視線を外したのだった。

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