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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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研究結果

「見学だけだと思っていたのに、まさか実際に挑戦させてもらえるなんて思わなかったわ」


調理場も下積みをしながら学び、少しずつ成長していく場所という認識が強い。

最初はお菓子を作らせてもらっていたエレナでも、料理に関しては下積みの過程をある程度踏んで、ようやく関われるようになっていた。

本人が趣味で作って自分で口にするものだけを作るのなら問題ないので、本人と手伝った調理場の人たち、そしてエレナが個人的に配りたい人に限定して渡すことは容認されていたけれど、不特定多数の人に出しても問題ないとお墨付きをもらえるようになるまで数年かかっている。

最初は包丁の扱いすらおぼつかなかったのだから当然だ。

そしてそういった下積みはどこでも必要になるものだということをエレナは知っている。



学校に入っていないが騎士団の訓練場で、下地を作るための訓練をしたけれどまだ足りなくて、体力測定の内容をどうにかこなせる程度だけれど、彼らがそれを軽々とこなせるからこそ次のステップに進むことを許されている。

いくら自国の調理場でそれなりのことをしてきたとはいえ、エレナは本職の調理人ではない。

調理に関してはそれなりの腕を持っていると自負しているけれど、それを証明するものはないのだから、調理場でいきなり指導をしてもらえるなどとは思っていなかったのだ。



エレナが喜んで感謝を伝えると、殿下は小さく息を吐いた。


「エレナ殿下の腕は私のお墨付きだからな」


過去エレナが作った菓子を口にしていたこともあり、調理に抵抗がないことは間違いない。

趣味として答えるくらいだし、かなりレベルの高いものを出されたから、抵抗どころか好きなのだろう。

実際彼らに伝えていたのはそのくらいだ。


「もしかして私が作れるよう口利きをしてくれたの?」


見学だけと聞いていたのに作業ができるよう準備が整っていた。

最初からそのつもりで用意させてしまったのではないかとエレナが言うと、殿下は首を横に振る。


「まあ、許可は出した。だが、判断は調理場に任せてあったから、エレナ殿下の熱意に、皆が一緒にやってみたいと、やらせてみたらどうなのかと申し出てきたのが先だ。つまりエレナ殿下の熱意が人を動かしたということだな」


そう言って殿下は口角を上げた。


「そうだったら嬉しいわ。お兄様たちも長い時間付き合わせてしまってごめんなさい。でもついていてもらえなかったら、いつもの調子で居着いてしまうところだったわ」

「そうだね。とても楽しそうだったし、居てよかったと思ったよ」


もし練習に集中してしまったらそれを止められる人がいない。

ケインがエレナから離れることはないだろうが、ケインだけだったら見守るだけで止めることはしないかもしれない。

作業をすることになったとはいえ、結果的にあの集中力を発揮することはなかったので何も問題はなかったけれど、うまくできるようになって、大量生産となったら、その時は大いにその集中力を発揮してしまったことだろう。

さすがにエレナもそうなってたらまずいと理解していた。

だからいてくれてよかったとは思っているが、自分のお守りのために休憩できる時間を費やさせてしまったし、自分の作ったものを食べてもらうことになってしまった。

しかも自分は慣れているからともかく、クリスたちはそうではないだろう調理場の片隅でだ。


「でも、あのような形で食事をさせることになってしまったわ」


エレナが申し訳なさそうに言うと、クリスは微笑む。


「それもいい経験だよ」


そんなクリスの横でプレンダは肩をすくめた。


「私はああいったことにも慣れていますので気にしませんよ」


エレナがケインを見ると、ケインはいつものことでしょうと言わんばかりに黙ってエレナを見下ろしていた。



「趣味というか得意とは最初に紹介を受けた時から知っていたし、孤児院で一緒に作業をしたこともあったが、こうして改めて見ると、随分と手際がいいのだなと感心したぞ。野菜などの食材に触り慣れているようだが、米のことは詳しくなかったのだよな」


初めての割に随分と扱い慣れた様子だった。

他の食材とは扱いも形も違うのによく対応できたものだと殿下は感心したのだ。


「お米を炊くというのは分からなくて、でも煮込めば柔らかくなって食べられるという話があったから、孤児院で食べられないかと思って、煮込んでどう味をつければいいかを研究したくらいね。でもスープに入れて煮込んで、どのくらいの濃さにすればいいのかとか食べやすい硬さになるのはどのくらい煮込めばいいのかとか、そういうことばかりしていたから、調理というより研究になってしまったと思うの」


何度も煮てやわらかくしては味をつけ、味を変えてはまた食べる。

あの時はそれを繰り返していたなとエレナは調理場でのことを思い出しながら言う。


「研究か。結果はどうだった?」


参考までに聞きたいと殿下が言うので、エレナは簡潔に答えた。


「そうね、濃いめに味付けをして豆のスープの豆の代わりに使うといいかもしれないという判断になったわ」


殿下はエレナに言われて完成品を想像し、米の量を減らした雑炊のようなものが完成したのだと推測した。


「そうか。捨てずに食べてもらえるのなら何よりだ」


実験というので失敗したら捨てられていたのではないかと思っていたが、きちんとそれらは食されていたらしい。

エレナ達はそもそも大量に作っていなかったし、孤児院でも時間がかかるので滅多にふるまえるようなものではないが、食べられるものだし、調理方法が一つでも分かっていれば、孤児院が食料に困った際、自分たちでお米を調理して食べることができる。

そのための研究でもあったので、そもそも味見をすれば捨てるほど残らなかったのだが、大人数の分をまとめて用意する彼らに、それは想像できないことだった。

殿下とエレナの話を黙って聞いていた調理場のメンバーは、自分たちで食べる方法を模索したと聞いて顔を見合わせていた。

今回エレナが見学を申し出たのは、手元にある米をこちらの手法で食べられるようにしたいということだったが、その前にそこまでの努力をしていたことに驚いたのだ。

そして自分たちの国で作られた食材が無碍に扱われなかったことを好意的に受け止めたのだった。

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