握られる米
「その食べ物はきっと屋台に出るものと同じ感覚で考えればいいのでしょう」
かぶりつく食べ方、立っても座ってもいい、そんな説明からブレンダが結論を導き出すと、ケインが、ああ、と言い、クリスもなるほどとうなずいた。
確かに屋台で売っている食べ物は皿に盛られたものではなく、手を汚さずその場で食べられるよう、串に刺さっていたり、紙にまかれていたりする。
手が汚れないように巻かれたらしき黒いものも食べられるところは少し違うかもしれないが、ブレンダの言う通り見方を変えれば理解も納得できた。
エレナは彼らの会話を適度に聞きながらも、殿下の食べているものが、小さな粒の集合体なのに、パンのようにかぶりついても崩れないことが気になって、じっと観察していて無言だ。
そして、おにぎりをじっと見ているエレナを見た殿下は、その形に興味があることを察して、殿下は別の指示を出した。
「ああ、そうだ。今度は少し小さめに握って、焼いたものを作ってくれ」
「焼きおにぎりですね。かしこまりました」
そう言うと先ほどまで釜を乗せていたところに手早く網を乗せた。
そしてそこに何も入れずに握った米を乗せた。
「お米をさらに焼くの?」
網に乗せられた三角形の塊を見ながらエレナが言うと、殿下はこれはこれでうまいんだと自慢げに言う。
「米のままではなく、握ったものに調味料を表面に塗って焼く。ひっくり返して同じことをするが、表面が香ばしくてよい」
網の面が焦げてきたところで、塊をひっくり返し、少し焦げた部分に刷毛で何かが塗られた。
それが熱を放っている米の上で音を立てると、調理場に良い香りが広がった。
嗅ぎ慣れない香りだが、食欲をそそる香ばしい匂いだ。
「とても食欲をそそる香りがするわ。そんな食べ方もあるのね!」
握られた形のまま網に乗せられ、そのままひっくり返されて、焼きながら味を付けられ行くのは斬新だ。
固められた米の色は、焼かれていることに加えて色のついたものを塗られたことで、茶色くなっている。
これまで白いものに見目の良い盛り付けがなされたものを見てきたため、ただの茶色い塊になっていくのはどうかと思うが、殿下はこれもおいしい食べ方だというので、きっとそうなのだろう。
見た目はともかく匂いはそう主張している。
「だが最初は炊く。これが我が国の基本だ」
殿下が出来上がったものを指したので、エレナは網の上と釜の中を見比べる。
殿下と話している間に米は
「炊いたお米なら、そのままでも、煮ても焼いてもいいということね。さすが名産国だわ!あの、今行われている、握るという作業を近くで見てもいかしら?」
「かまいません。どうぞ」
話をしている間に釜の量は減っており、木のトレイの上にはすでに網で焼き始めているのと同じくらいの大きさで作られた三角の塊がいくつもできていた。
殿下が食べていた時にまかれていた黒いものはまだ巻かれていないものの、並べられている者は形が揃っている。
エレナにはこれが完成品なのか、これから追加で焼くための準備なのかはわからないが、数人で同じものをたくさん量産しているのだから基本工程の一つに違いない。
そのまま器に入れて、他の料理と一緒に食べるという話は聞いたけれど、殿下のように手軽に食べることを考えたらこの形を作れる方がいいだろうと考えたのだ。
観察の許可を得たエレナは、作っている人の手や、動作をしっかりと頭に叩き込む。
米を炊く工程については分量を含め紙に書き出してもらえれば再現できるだろうが、これについては表現が難しい。
せいぜい手に乗せて丸めていた、くらいにしか説明できないだろう。
だからこそ再現ができるように、その形にできなくても、その動作を頭に入れて帰ろうと真剣だ。
「形を作る前に水を手につけているようだけれどなぜかしら?熱いから?」
釜から木の入れ物に移され、少し混ぜられたとはいえまだまだ湯気が立っている。
だから熱いのは間違いない。
それを黙々と握っていられるのは冷やしているからなのかと思っての質問だったが、答えは少し違っていた。
「それもありますが、米が手にくっつかないようにしています。あと、おにぎりや味のついていない米の場合は、手に塩をまぶして握ることが多いので、それを程よく付けるためにもちょうどいいのです」
濡らした手を軽く振って水を落とすと、近くに用意していた塩をその掌に塗り付け、その手に米を乗せて、説明しながら完成させて見せる。
「もし熱いのなら冷ましてしまえばいいと思うのだけれど、それではためなのかしら?」
「完全に冷めてしまいますと、粘りがなくなってくっつきにくくなりますし、バラバラになりやすいのです」
「でも粘りがありすぎるから手にくっついてしまうのよね?」
乾燥したら粘りはなくなる。
確かにその通りだ。
それなら手にくっつくことはなくなるだろう。
しかしそれではコメ同士もくっつかない。
適度な温度や硬さにまで冷ましてということもできるが、その状態が維持できる時間は短いし、それより温度が下がれば形にできなくなる。
だから握れる程度で熱いくらいの温度になったら握り始め、最後の米が握って崩れない温度までしか下がらないようにしなければならない。
作っている側からすると当たり前すぎて、それをどう説明すべきか悩ましい。
「そうですが、握る……形を作るならこの粘りはあった方が作りやすいですね。まったくできないわけではないですが」
「そう……」
エレナはとりあえず説明を聞きながらそういうもので、それが基本なのだと頭に叩き込む。
「釜から少しずつ移しているのは、冷ましすぎないようにするためということかしら?」
「その通りです。手を付けなければ、これ以外でも食べる方法はありますし……」
「確かにそうね」
味が付いていないシンプルなものなら、他の料理に加工することができるというのは、エレナも理解できる。
ドロドロになってしまったら元に戻すのは難しいが、そうなる前なら状態のものをドロドロにすることはできると言っていた。
この形にならなくてもきっと彼らは余すことなくこれらを平らげる調理方法を持っているのだろう。
全て作るのなら一度に木の器に移してしまえばいいはずなのに、あえて非効率でもそうしていることには理由があるだろうと思っての質問だったが、やはりこの手間にも意味があったらしい。
エレナはその回答に満足しながら、手の中で形を変える米の観察を再開するのだった。




